ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~焔の子~ 作:早起き三文
グランベルの王都バーハラの郊外に数本のロプトの柱がそびえ立っていた。
柱に括りつけられている者は力なくうなだれている。
その柱を簡素でありながらも造りの良い椅子に座っている若い男が無表情で見つめている。
「火を放て」
グランベル王国の王子であり、次期国王の座を約束されているクルト王子は配下の兵に冷たく命じる。
兵が柱の元に積み上げられている藁に火を付け始めた。
「ん?」
兵の一人が何かを見上げている。
「どうした?」
兵達の隊長がその声を上げた兵に歩き寄ってきたその時。
バッバ……!!
バーハラの兵達の身体に巨大な黒い蛇が突き刺さる。
「ガッ!?」
兵は血を吐きながら、次々と倒れる。
致命傷を負わなかった兵も顔を紫色にして苦しみ始める。
「何事だ!!」
クルト王子は椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。
ブァッサァ……!!
翼を生やした若い女がその郊外の高台の上空を舞っている。
「おやおや……!!」
女は笑いながら、地上近くへと舞い降りる。
「王子様自らが火あぶりを眺めるとは」
女は口に手を当てて笑う。
「ご趣味がわるぅい!!」
甲高く笑う。
「竜人か」
クルトはその女を冷厳に見ながら、指先を上げる。
「お前だな?」
「何が?」
「ロプトを成している者を襲っているロプトゥスと言うマムクートは」
「当たりぃ!!」
ロプトゥスは甲高く笑いながら、再び上空へ舞う。そのまま、クルトへ暗黒の術を放つ。
「ふん……」
クルトの唇から旋律が走ったかと思うと、ロプトゥスの術で生み出された漆黒の獣の姿が消えた。
「降りて来てもらおうか?」
「やなこったよ!!」
「これでもか?」
クルトはロプトの柱に括り付けられた人間に光の矢を放つ。光の矢はそのままその者達の胸を貫く。
「あんた……!!」
ロプトゥスは怒りに震えながら、術で両手に大鎌を出現させ、それをクルトに投げつける。
「おっと!!」
クルトはその大鎌を避けながらも、光の矢でロプトの柱の者を射ぬいていく。
「もう、残りは一人だぞ!?」
「貴様!!」
ロプトゥスが長い鉤爪を生やしながら急降下してクルトを襲おうとする。
クルトは最後の一人に光の矢を放ちながら、その振るわれた鉤爪をかわした。
「ナーガよ……」
クルト王子の指先から白い光がロプトゥスに伸びる。
「あたるか!!」
その高速で迫る光線をかわしながら、ロプトゥスは身体を大きく膨らませる。
「ほう……」
クルトはそのロプトゥスの姿を見て感嘆の声を上げる。宙には黄金の鱗を持つ竜へと変化したロプトゥスが浮いている。
「地竜族か」
「そうだよぉ!!」
その巨大な体躯からは想像が出来ないような若い娘の声で答えた地竜は口から灰色の雲のようなブレスを吐きかける。
「ふん!!」
クルトはそのブレスを光を纏った手で振り払うだけで消し去り、術を唱え始める。
「はぁん? この姿になったあたしに術だってえ!?」
竜はけたたましく笑いながら、クルトの術をその身で受けようとする。
シュアア!!
「う、うわ!?」
黄金の竜は身体のバランスを崩して、地上に落下する。
「光の力の前には暗黒の加護など無力であるよ」
クルトは薄く笑いながら、人の姿に戻ったロプトゥスに止めを刺そうとする。
「くっ!! ナーガをリザイアに変換……!!」
生命を吸収する光の魔法を受けたロプトゥスは身体に力が入らない。
クルトが腰から剣を抜く。
ギャーン……!!
「何!?」
突如として光の塊がクルトに激突した。
「何奴!?」
誰何するクルトの前で光の塊は老人の姿をとった。
「マンフロイじいちゃん!!」
「無事か? ロプトゥス?」
マンフロイと呼ばれた老人は両手でくるくると謎の構えを取りながら、クルトをじっと見やる。
「引け、ロプトゥス」
「でも……」
「ナーガの光の魔法にはロプトゥスの闇はかなわない」
マンフロイは気合いの奇声を上げながら、ロプトゥスに声をかけ続ける。
「特に、地竜族とは言え幼体のお主では」
「……わかったよ、じいちゃん」
ロプトゥスは悔しげに呟きながら、背中の翼を羽ばたかせた。
「貴様がマンフロイか」
飛び去っていくロプトゥスの姿を目のはしに捉えながら、クルトは憎しみを込めて老人に話しかける。
「ロプトの血を引く者達をかくまっている教団の長だな」
「いかにも」
「良い機会だ」
クルトの両の手から光が迸る。
「この場で悪しきロプトの長を始末しよう」
クルトの手から幾多の光が放たれる。
放たれた光は竜の形を取りマンフロイに襲いかかる。
「はいやぁ!!」
マンフロイの手から何か紙の用な物が放たれる。
「何!?」
光の竜達と放たれた紙が閃光を発しながら消滅した。
「ナーガの光だと!?」
クルトはマンフロイを睨み付ける。
「貴様、どこでナーガの書を!?」
「たまたま拾った紙を尻拭き用に挟んでいたまでのことよ!!」
「ほざくなぁ!!」
激怒したクルトから再び光の竜の魔法であるナーガが放たれる。
今度はかなり複数に分散されている。
それを先ほどと同じ紙で相殺しながら、マンフロイは叫ぶ。
「暗黒の劫渦!!」
身体を玉のように丸めたマンフロイが漆黒の闇に包まれ、回転しながらクルトにぶつかる。
「うおっ!?」
不意をつかれたクルトは激しく吹き飛ばされる。
「クルト様!!」
バーハラの兵がクルトに駆け寄ってくる。
「寄るな!!」
クルトは兵を退けながら、凄まじい目付きでマンフロイを睨む。
「よくも、おいぼれがぁ!!」
「フフ……」
マンフロイは不敵に笑った。
手持ちのナーガの光で防ぎ切れなかったクルトからの術による怪我があちこちに見える。
「……」
不意にクルトの怒りの形相が無くなる。
グランベルの王子は首を一回しする。
「いかん、いかん」
笑いながらクルトは呟く。
「我ともあろうものが、死に損ないの老いぼれにムキになってしもうたわ」
「ホウ……」
マンフロイが両手で複雑な円を描きながら、感心したように声を上げる。
「あのまま、猪のごとく突進してくればワシにも勝機があったものを……」
「老人は大切にしなくてはならんよ……」
クルトは肩をすくめながら、笑いかける。
「惜しいのう、惜しいのう」
マンフロイは面白そうに笑う。
「王者の器量がありながら、真の善悪を見分けられぬとはなあ……」
「ロプトの者は根絶やしにするのがバーハラ王家の使命であるよ」
「まっことに惜しいのう」
マンフロイは再び呟く。
「どうする? 老人?」
クルトは処刑済みのロプトの柱をちらりと見ながら訊ねる。
「そのまま拳法とやらで我と戦うか?」
「知識もある」
マンフロイは哀しげに首を振る。
「誠に惜しい」
「答えになっていないな、老人」
クルト王子がマンフロイに答えを促す。
「我には死んだロプトの者になど興味はない」
「ワシにも死んでしまったロプトの者は救えぬ……」
ロプトの柱に括り付けられた死者を哀しげに見ながらも、マンフロイの身体が光に包まれる。
「さらばである!!」
光の塊はそのまま飛び去っていった。
「フン……」
クルト王子はその光の塊を見ながら、呟く。
「あのジジイ、ただのロプトの暗黒司祭ではないな……」
そのままクルトは周囲で見守っていた兵に告げる。
「ロプトの後始末をしろ」
「はっ!!」
バーハラの兵は柱を片付け始めた。
砂漠の近くのヴェルトマーの屋敷の近くでアルヴィスは剣の稽古をしていた。
「アルヴィス様」
稽古相手のアイーダが声を上げる。
「ん?」
アルヴィスはアイーダの指差す方向を見つめる。
「マンフロイ……?」
高速で屋敷の庭へ接近してきた光の塊を見たアルヴィスは呟く。
光の塊が庭へ降り立つ。
「お久しぶりです、アルヴィス卿」
マンフロイはうやうやしく礼をする。
「あまり、ここへは来ないで欲しいな」
アルヴィスはしかめ面をしながらも、満更でもない顔をして微笑む。
「アイーダ」
「はい」
「少し何か軽い食事をディアドラに頼んでくれ」
「わかりました」
アイーダと呼ばれた女は剣を腰に戻しながら、屋敷へと入っていく。
「いやはや……」
マンフロイは豪快に笑いながら、腹を手で押さえる。
「少し、若いのとやりあいましてな……」
「全く……」
アルヴィスは傍らのテーブルにあったジュースを手渡してやる。
「誰とだ?」
「クルト王子です」
その言葉にアルヴィスは低く唸る。
「無茶をするなよ? マンフロイ?」
「ロプトゥスの小娘が突っかかりましてな……」
「ロプトの柱にか?」
「うむ……」
ディアドラとアイーダが微笑みながら食事を持ってきた。
「旨そうよのう……」
マンフロイは肉料理をガツガツと食べ始めた。
「良い顔の殿方であること……」
「お前は節操がない……」
「私は貴方一筋でありましてよ?」
「シグルドにもそう言ったのであろう……」
ディアドラにアルヴィスはそう言い、ニヤリと笑う。
「お人が悪い……」
ディアドラが歳にも関わらず旺盛な食欲を見せているマンフロイを熱っぽい顔で見やる。
「うっまいのう、うっまいのう!!」
マンフロイは嬉しそうに食事を続けていた。
「マンフロイ」
「ん~」
満腹になって昼寝をしているマンフロイにアルヴィスは少し硬い顔をして話をする。
「やはり、今はまだ表舞台に出るなよ」
「わかってるよ……」
マンフロイは尻から屁をしながら答える。
「このお爺様……!!」
ディアドラもアイーダも笑うしかない。
「いかにランゴバルトやレプトールが賢明であろうとも、我らロプトの者を許容はしまい」
「うむ」
マンフロイの言葉にアルヴィスは重々しく頷く。
「さて……」
マンフロイは大きく伸びをしながら、肩を鳴らす。
「イードに戻る」
「メシを食いに来ただけかよ……」
アルヴィスが苦笑しながら、マンフロイの肩を揉んでやる。
「すまんのう……」
「我は聖戦士マイラの末裔であるよ……」
アルヴィスは笑いながら、マンフロイの腰も揉んでやる。
「魔王ロプトゥスの弟であった闇の聖戦士マイラか……」
「魔王を討つ先駆けとなった人物でありますよ」
「うむ」
アルヴィスの言葉にマンフロイは目を閉じながら頷く。
「それでもマイラ自身はロプト教を捨てはしなかったらしいのう」
「ゆえに」
アルヴィスは少し顔を綻ばせる。
「あなたに粗相はできようか……」
「ふふ……」
マンフロイは笑いながら、一つ訪ねた。
「アゼルとか言う坊主はいないのか?」
「あいつは今旅に出ている」
「善きかな……」
「ファラの炎を少し渡した」
アルヴィスはそう言い、少し顔をしかめる。
「あいつには最強の魔法という物の使い方を実際に学んでほしい」
「ファラの炎は聖遺物の中でも最強の破壊力の魔法ぞ?」
「その使い方では力に溺れているだけなのだ」
その言葉にマンフロイは鼻を鳴らす。
「クルト王子もナーガをなかなか巧く使っていたな……」
「そう、巧く、だ」
「なるほどな……」
マンフロイは合点がいったようだ。アルヴィスは軽く頷く。
起き上がったマンフロイは背筋を伸ばして、アルヴィスに一礼をする。
「世話になったな」
「またいらしてください、マンフロイさん」
ディアドラはマンフロイが気に入ったようだ。
「ふふ……」
マンフロイはディアドラの顔をしげしげと見る。
「何か?」
ディアドラは首を傾げる。
「私は人妻ですわよ?」
「いや、そうではない」
首を振るマンフロイは何か思い出そうとしているようだ。
「何処かであったことがなかったか?」
「はて……?」
ディアドラは謎めいた微笑を浮かべる。
「そうか……」
マンフロイは少し考えながら、光の塊のなってヴェルトマーの東にあるイードの砂漠に飛んでいった。
「全く……」
アルヴィスは呆れながらマンフロイが飛んでいった方向を見つめる。
「素敵なお爺様」
ディアドラはそう言いながらクスクスと笑う。
「聖者であるよ」
「ロプトの?」
「そうでもあるがね……」
アルヴィスはそう言いながら、イードの方向へ一礼をした。