ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~焔の子~   作:早起き三文

9 / 13
第9話 アゼルの未熟さ

「海賊だ!!」

 

船員のだれかがそう叫んだ。

 

「くそ!!」

 

レックスがスワンチカを片手に船室から飛び出す。

 

「こちらには通行料を払う意思がある!!」

 

船長が必死に海賊船団に大声で訴えているが、海賊達の船が速度を落とす気配はない。

 

「何が話が分かる海賊だよ!!」

 

ティルテュがアグストリアで会った吟遊詩人達の事を罵る。

 

「あれは見たことのない海賊の旗だ……!!」

 

船員が呻くように呟く。

 

「海賊が他の海賊に乗っ取られたのですか?」

 

「かもしれん」

 

船員がクロードに答える。

船室からは旅の傭兵や魔道士などが飛び出してくる。

 

「こちらもかなりの戦力はあるみたいだが……」

 

明らかに上質の武器とおもしき剣を構えている隣の傭兵の姿をみながらレックスは呟く。

 

「こっちは二隻で向こうはその倍はあるぞ!!」

 

旅の魔道士が叫ぶ。海賊船団は全部で四隻。

 

「一隻でも接近前に沈められれば……!!」

 

アゼルはファラの炎を懐から二枚取りだし、術を唱え始める。

 

「くっ!!」

 

アゼルは激しい頭痛を感じた。

聖遺物は神の血を引くと言われている、いわば「直系」と呼ばれている者にしかまともに扱えない。

 

ファラの炎で言えば、アゼルの兄、当主のアルヴィスのみが本来ならまともに扱えるのだ。

 

「炎の守護の者である……」

 

アゼルは必死に頭痛を押さえながらファラの炎の詠唱を続ける。

一枚でも負担であるのに二枚では明らかに無理をし過ぎている。

 

「だめだ!! アゼル」

 

レックスがアゼルからファラの炎を取り上げる。

 

「レックス……」

 

アゼルは船に膝をつき、必死で息を整える。

クロードが杖をアゼルにかざす。

 

「俺のスワンチカとは違い、魔法の聖遺物は持ち主の事を気遣ってくれない」

 

レックスに抱えられながら、アゼルはよろめきながら立ち上がる。

 

「しかし……」

 

「見ろ、アゼル」

 

レックスが自分達の船から相当量の攻撃が海賊船団に向けて始まっていることを指差す。

 

「少しは状況をよく見ろ」

 

「ああ……」

 

クロードが戦女神の杖を使い、ティルテュの雷撃の魔法を強化している姿も見える。

 

「俺もオトリになるか……」

 

「スワンチカで?」

 

「七割程度の弓矢なら跳ね返せる」

 

レックスはニカッと笑う。

 

「親父が使えば、ほとんど無敵なんだかな」

 

レックスは近くの修道士に頼み、自分に明かりの魔法をかけるように頼む。

 

「良い的になっちまうぞ?」

 

「大丈夫だ」

 

「しらねえからな……」

 

ぶつぶつ言いながら、修道士は杖でレックスに明かりの魔法をかけた。

レックスはその足で海賊達を挑発する。海賊達から弓矢が飛んでくる。

 

「おっと!!」

 

レックスは巧妙にスワンチカで守りきれなかった海賊の矢を盾や鎧の頑丈な部分に当てている。

 

ザア……!!

 

敵味方ともに矢や魔法の応酬が激しくなってくる。

 

「戦況を見極めろか……」

 

アゼルも火球を海賊船に投げつけながら、レックスの言った言葉を脳裏に思い浮かべる。

 

「僕にはファラの炎は一枚が限度ということか」

 

懐のファラの炎を触りながら、呟く。

 

ガシャア!!

 

もう一隻の船が海賊船に接舷されてしまった。

 

「フェザァツ!!」

 

クロードが戦女神の杖を使い、広範囲に癒しの魔法をかけていく。

 

「聖遺物をもっている奴がいるのか!!」

 

味方から大きな歓声が上がった。

アゼル達が乗っている船から、様々な魔法が海賊船団に乱れ飛ぶ。

接舷されたもう一隻の船の抵抗が激しく、海賊達は船に乗り込めない。聖遺物を持つ者がいるとわかって、味方の側の士気が上がっているようだ。

 

「戦況を見極める……!!」

 

アゼルは再びファラの炎を取り出す。

 

「猛き炎のファラよ……」

 

アゼルは頭痛を押さえながら、ファラの炎の火球を頭上に生み出す。

 

「アゼル!?」

 

レックスが怒鳴る。

アゼルはその声を無視して離れている海賊船へ巨大な火球を投げつける。

 

ボグァ!!

 

巨大な火球が海賊船のマストを吹き飛ばす。

 

「ファラの炎!? 聖戦士が味方にいるのか!?」

 

熟練の魔道士らしき女が叫ぶ。

ファラの炎を浴びた船の海賊達は明らかに狼狽えている。

 

「ファラよ……」

 

アゼルはファラを再び唱え始める。

 

「やめて!! アゼル!!」

 

ティルテュが叫ぶ。

その脇にいる傭兵達がクロスボウを海賊に向かって放っている姿が見える。

 

「僕は戦況を見ている!!」

 

アゼルは叫び、再び巨大な火球を作り出す。

 

「……!!」

 

火球が消散された。

 

「何だ……!?」

 

見るとクロードが険しい顔で戦女神の杖をアゼルに構えていた。

 

「クロード様……」

 

「図に乗るな、アゼル」

 

クロードは冷たく言い放つ。

 

「見なさい」

 

クロードが杖で海賊船団を指す。

 

「撤退……!?」

 

「船の方々の奮戦のお陰です」

 

クロードがアゼルの側に近寄る。

 

「戦いは一人の力で勝てるほど、甘くはない」

 

「しかし、僕がここでもう一発放てば……」

 

バシィ!!

 

クロードの平手がアゼルを張る。

 

「レックスを見なさい」

 

船首のレックスは最初から最期までオトリとしての役割を全うしていた。

 

「彼は自分の分を解っている」

 

クロードは氷のような顔で言う。

 

「あなたのような半端者とはちがう」

 

「司祭様……!!」

 

強気なティルテュがオロオロしている。

 

「アルヴィスが何故あなたを旅に出したのか、そして何故ファラの炎を渡したか、その理由を考えろ」

 

「やめてください!! 司祭様!!」

 

見かねたティルテュがアゼルを庇う。

 

「司祭様……」

 

多少の怪我をしたレックスがクロードに話しかける。

 

「厳しすぎます」

 

「……」

 

「アゼルは俺たちのような訓練を積んだ戦士ではないのです」

 

クロードは無言で頷く。

 

「アゼル、以後気を付けなさい」

 

クロードはそう言ったきり、船員達の怪我を治すために立ち去った。

 

「……」

 

アゼルはうなだれたまま、悔し涙を流している。

 

「僕は戦士ではない……?」

 

「アゼル……」

 

ティルテュは時が止まったかのように、アゼルの傍に佇んでいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。