"要塞空母デスピナ" スターティングオペレーション! 作:SAIFA
地球防衛軍4.1はプレイしましたが、艦これは初心者のSAIFAと申します。
今回、上記二つを原作とした艦これの二次小説「要塞空母デスピナ出撃す。」のリメイクを執筆させて頂ける事になりました。
主人公の裕一君の心情や思考の部分を重点的に描き、彼の魅力を引き出せたらと思います。
第1話:憧れのシチュエーション
「行ってきます!」
6月下旬のある朝。
スズメが鳴いている曇り空の中、いつも通りに俺は自宅を飛び出し、最寄り駅に走る。
指定制服のブレザーのボタンも締めず、ネクタイをぶらつかせながら通学路を駆けていく俺は山本裕一。
裕一「何で毎度毎度、夜更かししちゃうかなぁ……」
走りながらぼやく。
高校3年生で、大学受験を控えた俺の生活といったら、相変わらずだらしがないと自分でも思う。
昨夜は艦これを少し遊んで、さらに夜遅くまで
ちなみに、艦これにおける嫁艦は翔鶴で、EDF4.1でよく使う兵科はエアレイダーである。
裕一(空爆万歳だ! 学校も空爆で消し飛んだらいいのに……)
学校や仕事に行きたくないEDF隊員なら誰だって思うよね。
裕一(「150mm砲、ファイヤ!」でズガーン!! ……やめよう、虚しくなるだけだ)
普通の受験生なら、1日の活動時間の内に勉強時間を長めに取って趣味や娯楽は控えると言うのに、俺は勉強を頑張った分趣味の時間も多く欲しいと言うワガママな性格ゆえ、つい睡眠時間を削ってしまう事が多い。
家での宿題や勉強は頑張っているから内申点に影響は無いが、授業中の居眠りは偶にやらかすので、1学期の成績通知表は授業態度の項目に悪い点を付けられていないか少し不安である。
裕一(うぅ…EDFならまだしも、艦これのほうはそろそろ夏イベに備えて色々やらなきゃだからなぁ……)
艦これに限らず、ソーシャルゲームか何かのイベント開催時間が授業中だったり、数量限定のグッズの発売開始日が平日だったりと、何かと学校や会社と言うのは現在人達に厳しい気がする。
裕一「ん……?」
あの猫、何故車道で
ブォォーーン!
急いでいるのだろうか。ごく一般的なワンボックスカーが猫のいる車線を結構なスピードで走っていた。
上手い事トレッド――タイヤとタイヤの距離――の間をすり抜けてくれないかと猫と乗用車のタイヤの位置関係を予想するが…。
裕一(ダメだ、直撃コースだこれは)
やばいこのままじゃ朝からゲロ必至のグロ映像を見る事になる。それは出来れば避けたい。
そもそも猫は生きている状態だからこそテレビ局がしょっちゅう放送するくらいに心が癒されるのであって車に轢かれる映像とか誰得だよってかホントやばいやばいやばい!
このままじゃ「猫の日向ぼっこ→猫フルボッコ」になっちまう!
大声を出して驚かして逃がす方法も一瞬考えたが、ただでさえ警戒心の強いと言われるあの猫様が、朝っぱらから道路の真ん中で雑魚寝である。
よほどの事がない限り動くことはまずないだろう。
もっともその「よっぽど」が、おそらく猫の反応速度を上回る形で迫ってきているのだが。
裕一(全国のネコ好きのため、ここは山本裕一が命を賭けて体を張ろうではないか!)
――なんて事を思ったときには、もう車が迫る車道に飛び出していた。
本音はまぁ俺の胃袋のためである。だがいずれにせよ猫を見捨てる理由にはならない。
寝ている猫を両手で拾い、反対側に飛び出す。乗用車は回避出来た。
裕一(カッコつけた甲斐があったモンだぜ!)
なんて思ったのもつかの間。
――ブロロォォォオオ!!!
反対車線から、運送用の大型トラックが猛スピードでやってきていた。
裕一(カッコつけるモンじゃないな)
おかげで二車線道路の構造どころか、近所の道は交通量が多いって事すら忘れる始末である。
小さい頃母親にしつこく言われた言いつけを思い出すが、今となっては手遅れ。
せめて、今抱えている猫だけでもと、ぶつかった衝撃から守るために懐に抱き締め、衝撃に備える。
備えると言っても、大型トラックの質量と運動エネルギーに人体が耐えられるはずもないため、死への覚悟を決めると言ったほうが良いだろうか。
トラックの吸気口とヘッドライトが迫る中、短くも楽しかった人生の思い出に浸り、成人すら出来ずに旅立ってしまう事を心の中で両親に謝罪し、同時に17年以上も育ててくれた事への感謝の念を抱きつつ、俺は目を閉じ、来るべき衝撃にその運命を委ねた。
裕一(――ッ!! ……あれ?)
――はずなのだが。
そっと目を開けてみる。
目の前にはトラックのフロント部がドアップで映っている。
周りを見渡すと、自動車や通行人など、周りにあるすべての物体の動きが止まっていた。
あれだけ元気に鳴いていたスズメの声も聞こえない。
あたりは静止した時間と同じく静まり返っていた。
裕一「なんだ? 何が起きて――」
???「少し時間を止めたのですよ」
裕一「えっ」
声のした方に振り向くと、帽子を被った女の子が歩道にいた。
女の子「はじめまして。まずは、その
テク、テクと、ゆったりとした足取りでこちらに歩いてくる。
すると俺の懐からミャーと一声、抱きかかえていた猫が腕をすり抜け女の子の方へスタスタと向かっていった。
女の子は一度屈んで猫を抱き上げ、再び背を伸ばして俺に向かって一言。
女の子「山本裕一さん。ふふっ」
小さく笑うときに目を細め、首をかしげて愛嬌を振ってきた。
服装からして、中学生だろうか。
淡黄色の生地に青竹色の襟という配色のセーラー服を着ていて、服と似たようなデザインの帽子を被っている。
前からでもチラリチラリと見える二つのお下げが年相応で可愛らしい。
裕一「なんで、俺の名前知ってるの? と言うか、これは君がやったの?」
女の子「はい。単刀直入に言いますと、私はある世界で神様の補佐を務めている者です。訳あってこちらの世界に来ていたのですが、この子が迷子になっちゃって。ようやく見つけたと思ったら車に轢かれそうになっていて、それを貴方に助けていだだいた所、今度はあなたがトラックに轢かれそうになっていたので、時間を止めた。と言う訳です」
女の子は下半身がぶら下がるように猫を抱きながらそう答えた。
女の子が神様に仕える存在なら、その猫も神聖なお方なんだろうか。尻尾割れてないし、どこにでも居る雑種猫にしか見えんが。
裕一(あれ、この子どっかで見た事あるような……)
少し記憶の海を泳いでいると、また声がかかった。
女の子「さて、改めて裕一さん。良いお知らせと悪いお知らせがありますが、どちらからお聞きになりますか?」
裕一「じゃあ、良いお知らせから」
どっちも聞いて良いのなら、良い知らせを聞いてテンション上げてから、悪い知らせへの対策を考えるのが俺流。
裕一(助けてくれるんだろうか)
俺は立ち上がりつつ、彼女が天国からの使者でもなく、地獄からの死神でもない事を期待した。
しかし、女の子の口からは俺の予想を超える言葉が出た。
女の子「裕一さん、異世界転生に興味はありますか?」
裕一「……ん?」
俺の聞き間違いだろうか、なんて事を思うのはそこいらのラノベや二次小説だけで十分だ。
聞き間違えたんじゃなくて「ナニ言ってんだこの娘」と言う感じに近い。これも良く見るか…。
裕一「えーとじゃあ、悪い方の知らせは?」
女の子「残念ながら、山本裕一と言う男性はこちらの世界では死ぬ事になってしまいました」
裕一「はい!?」
異なる切り口から女の子の意図を掴もうとしたが、ダメだった。
女の子「裕一さんの魂を、記憶を引き継いだまま生を伸ばすには、もはや魂をこの世界から移動させ、異世界の住人として第二の生を送るほかありません」
裕一「このまま助けてはくれないの? 時間は止めてる訳だし、俺がここから動いてから時間を進めれば……て、あれ!?」
俺は移動して歩道に向かおうとするが、どうしてもトラックの前以外の場所に向かう事が出来ない。
トラックの直撃コースから大きくずれようとしたが、透明な壁のようなものに阻まれて動けなかった。
女の子「"走っているトラックに衝突する"と言う未来は、裕一さんに私の猫を助けていただいた時点で確定してしまったのです。多少衝突位置を調節することは出来るかも知れませんが、このまま時間を再開しても多分あなたは死ぬか、運が良くても重症を負ってしまうでしょうね。なにせトラックはあのスピードで走っていたわけですから、いずれにせよ悲しい結末にしかならないでしょう」
話を聞きつつ、俺は女の子の話を冷静にまとめた。
今ここで重要なのは、「異世界で生きる」か「この世界で死ぬか」を天秤にかけて、どちらが俺にとって得かを勘定する事である。
どこぞの転生ものSSの主人公たちみたく呆然とする暇はない。
俺は現実主義者なのだ。目の前でペラペラ喋っている女の子は、現実の論理では到底証明出来ない悪魔そのものだが。
だって、この娘の言っている事をまとめると
「猫助けてくれてありがとう♪ お礼に異世界に生まれ変わらせてあ・げ・るっ。あ、断ったらあの世へお陀仏よ~うふふ~」
て事じゃないか。
少し考え込み、
裕一「……一つ確認させてくれ」
女の子「なんですか?」
だが、悪魔っ娘と言う女の子の属性が一定の人気を集めている理由も、今となっては分からなくもない。
裕一「本当に、異世界に転生したら記憶も引き継がれるのか? 赤ん坊になって産まれたら、脳の発達具合の影響で記憶どころじゃないと思うんだけど」
何故なら、俺は今
女の子「そこはご心配なく。裕一さんに転生していただくのは、体だけすでに裕一さんと同じくらいまで育ちきってますので、記憶の引継ぎに関しては問題ありませんよ。なにより、私神様の御使いですから、そこら辺の調整は朝飯前です」
悪魔とは本来、契約を交わして願いを叶えてあげるかわりに契約者から大切な物を奪ってしまう存在で、人間の敵とされている。
裕一「転生したら俺は何か、能力的なものとか貰えたりする?」
これでも一応二次元ファンの男として、これは是非確認しておきたいものである。
女の子「はい! もちろん用意してありますよ! 裕一さんにピッタリの代物です!」
何か都合の良いと言うか、ハナから俺を転生させる気だったと言うかそれしか考えられないが、今の俺にとっては些細な問題である。
この女の子のやり方は悪魔じみているが、一人の夢見る少年である俺からして見れば、彼女はまたとないビッグチャンスを与えてくれている幸運の女神様なのではないか。
裕一「なら……」
戦隊モノベルトを買ってもらい、ヒーローになった気分でカッコつけていた幼稚園時代。
射撃系ゲームの主人公に憧れて、なけなしの小遣いで安いエアソフトガンを買い、ポケットに忍ばせて遊びまわった小学生時代。
ラノベやアニメにハマり、邪気眼を発動させては痛々しい事をひたすらノートに綴り、拙い知識で作られた異世界に思いを馳せた中学生時代。
そして――
裕一「是非、転生させてくれ。俺はまだ死にたくは無い」
――ついにやってきたこの時。
夢にまで見た異世界転生。
一生一度の覚悟を決め、俺はこの時、神様がくれた最高の贈り物……第二の人生への片道切符を手にしたのだ。
女の子「――! 分かりました。では、これよりあなたの魂を、ある世界に送ります。そこは、こちらの世界で"艦これ"と言うものが現実となった世界です」
女の子の表情が一瞬だけパァっと明るくなった。
やはり俺を転生させる必要があったと言う事か。
だが、悪い気分ではない。むしろ最高だ。
ん? 今艦これって言った? 言ったよね、確実にいったよね!? KANKOREって!
ヤッター!! それってあの翔鶴さんに会えるってことじゃないですか!
神様マジでありがとう!
誰か知らん女の子ありがとう!
今までの俺よ、夢を捨てないでくれてありがとう!
お陰で俺は最高の第二の人生を送れそうだよ!
いや、転生者は俺の知る限り俺一人だけだから、仮に上手くいったとしても本当に最高の人生になりえるのかは確かめようがないのだが。
女の子「では、いってらっしゃい」
女の子は、パチンッと指を鳴らした。
女の子「裕一さん――」
周りの景色が、女の子が、自分の体が、白く、淡く、霞んでいく。
やがて視界が完全に真っ白になり、自分の体も見えなくなる中最後に聞いたのは――
女の子「――どうか、私達の世界を、救ってください……」
――悪魔のような邪気など全く無い、一人の
10/16(月)現在、第6話まで書き溜めがありますが、一話書けるまでどれだけかかるか分からないため、ひとまずは1話だけ投稿しました。
1話を含め、今後まはまは様の本家「要塞空母デスピナ出撃す。」内の話をベースにした話も書いていくと思いますので、是非読み比べてみたりしてみてください。