"要塞空母デスピナ" スターティングオペレーション!   作:SAIFA

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申し訳ございません。例によって裕一君の長旅が続く羽目に……orz

知人に読んでもらった所、「テンポが悪い」と言うごもっともな評価を頂きましたので、あんまり長々と話を展開するのは、裕一君が横須賀に到着するまでに終わらせようと思います。
……などと宣言しておきながら、今まで何回宣言を果たせなかったのやら……。

今回は、初めて艦娘視点の一人称の話を書いてみました。
極力キャラクター性は損なわないように気をつけたつもりではありますが、口調や性格、思考などがおかしいようでしたら、是非是非ご指摘下さいませ。

12月17日(日)、あるキャラクターの挙動に少し修正。
(詳細は後書きに)

1月10日(水)、噴式機の運用に、鋼材が必要な事を追記。

3月19日(月)、今回登場するデスピナ航空隊の所属機の飛行時間を修正。詳細は後書きに。


第10話:墳式の救済者

「棚から牡丹餅」と言う言葉がある。

思いがけない幸運に遇う事と言う意味のことわざだ。

 

では不利な戦況が、何処からとも無く現れた国籍不明機によって次々と覆される目の前の現象は、果たして「思いがけない()()」の範疇に収まるのだろうか?

 

戦闘を開始して自艦隊の不利に気付いた旗艦翔鶴が、いち早く撤退を決断した事もあって何とか逃げ続ける事が出来てはいるものの、途中で力尽きてしまっては決断の遅速(ちそく)も意味は無い。しかし、現実は正直な所母港まで辿り着けるかどうかも怪しい。

いや、()()()()()

 

瑞鶴「――ほんともう、意味わかんない!!」

 

離島棲鬼攻略を断念し、撤退を続ける翔鶴艦隊の一員である空母艦娘瑞鶴は、かの大戦を経験した実艦時代はもちろん、艦娘に転生した現代でもこれ以上に無いくらいの混乱に喜んでいた。

 

数刻前までは深海棲艦の艦載機と艦砲射撃にあれほど苦しめられていたと言うのに、突然大挙して現れた戦闘機と爆撃機合わせて百数十機の大航空団が、翔鶴艦隊を危険な状態に追いやった脅威を次々と排除していく。

 

例えば離島棲鬼から遥々(はるばる)飛び続けてきた70機の敵の艦攻と艦爆は、翔鶴達を左右から挟み討とうと試みて二手に分かれた所を、後ろから迫ってきたジェット戦闘機の群れに次々と撃墜された。

気がついたらこちらの偵察機の後ろに食らいついてきた敵の戦闘機も、彼らの一員であろう中隊規模の戦闘機達に逆に背中を取られ、あえなく誘導墳進弾(対空ミサイル)の餌食となる。

 

それらの70km程後方では全翼機型の不可思議な形をした飛行機が、離島棲鬼の周辺海域からいつの間にかやってきていた戦艦棲姫を中心とする水上打撃艦隊を、()()()()()()()()()粉砕してしまった。

 

翔鶴「味方の攻撃機かしら? 深海棲艦を攻撃しているのなら、多少は足止めになりそうね」

 

航空隊を殆ど撃墜されてしまった翔鶴には、瑞鶴が偵察機を通じて見ている光景の凄さが伝わりきらないらしい。

 

瑞鶴「足止めどころじゃないよ! あの航空隊(ひとたち)、もう戦艦棲姫沈めちゃったよ! 随伴艦も、全部!!」

翔鶴「何ですって…!?」

比叡「えっ!? あんな"怪物(オバケ)"を航空機だけで!?」

 

金剛の耳元で比叡が騒ぐ。

 

比叡が怪物と表現した戦艦棲姫は、火力・装甲・耐久の全てが艦娘側の戦艦を大きく上回る。

一応、対空能力は戦艦娘と同等のため、航空機による攻撃は()()()届き易くはあるが、厚過ぎる装甲のお陰でなかなかダメージが通らないので、大規模な航空隊でゴリ押すか、こちらも砲撃を食らうリスクを背負いながら戦艦娘の強力な主砲や水雷戦隊の魚雷(そして時の運)で対処するしかない。

実際に対峙した事がある者達にとっては、非常に厄介な相手なのだ。

 

実は、比叡を始め戦艦娘の殆どは戦艦棲姫との戦闘を過去に経験しており、既に何隻か撃沈している。

しかし、それはこちら側の艦娘達の性能や錬度、そしてそれらの艦種と頭数を十分に揃え、全艦が万全の状態かつ彼女達がその戦力を存分に発揮出来る状況が作れてこその話である。

 

過去に挙げた戦果は兎も角、現在の戦力は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()空母二隻に戦艦四隻しかいない。内空母一隻が大破・もう一隻は小破、戦艦は中破二隻・小破二隻。航空は劣勢…どころか、()()()()()()多数の敵機によって喪失寸前、戦艦の観測機も亡くし、彼我の戦力差は水上艦の数だけ単純に見ても3倍以上開いていたのだ。

 

その"圧倒的不利な状況"を、数が多いとはいえ航空機だけで覆してしまった「彼ら」は、一体何者なのだろうか?

 

金剛「……たぶんですケド、その航空機(プレーン)達は艦娘(私達)のニューフェイスの所属かも知れないネー」

榛名「でも、味方艦隊の支援は今回は見込めないって、提督が……」

 

突拍子も無い姉からの予想に、榛名は反論(?)した。金剛の無線機のスピーカーからは、三番艦榛名から今作戦の事前報告にあった要項が聞こえてくる。

 

空母系の艦娘は自身の艤装はもちろん、搭載する艦載機の製造・運用・維持にも資源を多量に消費する。

どうにか正規空母翔鶴と瑞鶴に航空機を満載し、金剛四姉妹を動かすだけの弾薬燃料を確保する事は出来たが、後続の"南鳥島海域奪還艦隊"の本隊メンバー選出が()()()()()()()()()()()()()思うようにいかず、実質的に翔鶴艦隊の6名が南鳥島(≠離島棲鬼)の攻略も担うことになってしまったのだ。

 

日本の鎮守府各地がその様な状態だと言うのに何故、ただでさえ製造には価値が高い"ボーキサイト"を消費し、運用する際には艦娘の入渠時にも必要な"鋼材"も大量に消費する上、飛ばすだけでも航空機用の燃料をレシプロ機以上に浪費する墳式(ジェット)戦闘機・攻撃機を多数投入出来るのか、少なくとも榛名には全く分からなかった。

 

金剛「このあたりに航空基地(エアベース)を建設できる島はナッシング。一応西の方に硫黄島があるケド、味方の増援がスケジュールされていたならブリーフィングで通達されるハズ。何より……」

 

ここで一度言葉を切り、肩を貸している比叡を抱えなおしてから、後方を見やる。

人間と同じ身長でありながら、実艦時代の艦橋の観測室と同じくらいに遠くの海を見る事が出来る艦娘の目には、先ほど戦艦棲姫を撃沈せしめた全翼機と護衛の戦闘機達が、今だ自分達の追撃を諦めていない深海棲艦達の上空に陣取っているのが小さく見えた。

 

金剛「…あの航空機(プレーン)達の大きさ、どう見ても艦娘が使うものと同じくらいしかないネ」

 

同じタイミングで、偵察機を通じて状況を通達している瑞鶴が再び口を開いた。

 

瑞鶴「ねぇ! 今度は"墳式攻撃機"がこっちに来て……あっ、やっぱりだ! 本当に味方なんだわ、あの航空隊(人たち)!!」

翔鶴「瑞鶴、報告は正確に――いっ……!」

瑞鶴「翔鶴姉ぇ本当に大丈夫なの!?」

 

自身は情報収集に夢中になっており、姉も「大丈夫」と言っていたためあまり気にしていなかったが、どうにも様子が変だ。いや、既に大破して衣服(≠装甲)がかなり破れてしまい、体中には生傷が多く見えるため既に大"変"な状態ではあるのだが。

 

翔鶴「……さっき攻撃を受けた所が痛むだけ。それより、今度は何があったの?」

 

姉を心配する物言いのまま、瑞鶴は現状を旗艦に伝えた。

 

瑞鶴「駄目そうなら無理しないですぐに言ってよ? ……何だろう、尾翼が無い変な形の攻撃機…いや爆撃機が、敵の空母たちに爆弾を落としてるの。数は、爆撃機が12機、護衛機が20機くらい。性能もそうだけど、錬度もかなり高いみたい。水平に爆撃してるのに爆弾は一発も外してないし、飛び上がる敵機も全部墜としてる。これなら……!」

 

報告を続けるにつれて、瑞鶴の表情は再び明るい物に変わっていった。

翔鶴も、少しだけ顔を綻ばせる事が出来た。

 

翔鶴「…そうね。なんとか振り切れそうだわ。誰かは分からないけれど、私達を()()()()()()()()()には、感謝してもしきれないわね」

 

"あれだけの数の航空隊を率いるのだから、大型の空母艦娘が数隻、どこかに居るのだろう"

助けた理由や発見した方法は兎も角として、危機に陥っていた自分達を援護してくれたのは名前も所属も分からない()()の筈だと、翔鶴艦隊の面々は思っていた。

少なくとも、この時は。

 

 

 

――彼女達は、この救援に駆けつけてくれた大規模航空隊が、後に仲間となる"彼"一隻から放たれた、その名も「デスピナ航空隊」に所属するほんの半数にも満たない規模の部隊であった事を、後に知ることになる。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

アタッカー13《堅そうな見た目の割には、随分と柔らかい奴らだ》

 

 ドォン! ドォーン!! ドドォン!

 

対空射撃をしつつ、艦娘達の追撃を諦めていない深海棲艦達に連続で爆撃しながら思った。

空母系の者を中心に攻撃し、航空機の追加発艦を完全に防ぐ事に成功した。

 

60~70km程後方で、本来の役目を放棄し艦娘達を追撃しだした戦艦棲姫達「離島棲鬼防衛艦隊」を瞬殺した第3爆撃大隊(ミッドナイト隊)隷下、アタッカーC中隊(チーム)12機は、Bチームから《出る幕無し》との通信を受けた。

つい先ほどまで空域制圧に徹していた第1・2戦闘大隊(ファイター1・2)所属の72機も、燃料の不安と制空確保の完了した事による役不足のため、共に帰路につき始めた。

 

ファイター1-1《なら、俺達も早めに帰らせてもらおう》

ファイター2-1《無茶して怪我すんなよ!》

アタッカー25《では、これより帰投する。後は任せたぞ》

 

計84機のミッドナイトとファイターは、南東数百キロの所を航行しているはずのデスピナの方向に機首を向け、来た時同様に大挙して帰っていった。

 

ジェット戦闘機の航続力は――燃費や搭載量にもよるが――レシプロ戦闘機のそれよりも遥かに長い。

ただし、それは圧倒的なエンジン性能で無理矢理稼いでいるようなもので、燃料が空になるまでの時間は意外と短い。戦場に長く滞空したりドッグファイトを繰り返そうものなら割と早く燃料が心もとなくなる。アフターバーナーも使用したら尚更だ。

 

今後はアタッカーBチームと、彼らの護衛としてついて来た第4戦闘大隊(ファイター4)が任務を引き継ぐ事になる。

 

と言っても、もう深海棲艦は殆ど片付き、空母ヲ級elite二隻と軽母ヌ級elite二隻は少なくとも無力化し発艦能力は奪ったため航空機も飛んでいない。

駆逐ハ級elite五隻には1~2発精密爆撃をお見舞いしたら魚雷が爆発して撃沈。

軽巡ト級elite二隻にも同様に攻撃したら意外とあっさり沈んでくれた。

重巡リ級のelite一隻とflagship二隻は意外とてこずったが、結局は大破し撤退を開始。

最後に戦艦ル級elite二隻は、堅さが他より1枚上であり中々沈んでくれなかったが、空母と軽母が無力化され随伴艦達が次々とやられているのを確認すると、こちらも撤退を開始した。

 

 

 

仕上げとばかりに、目標の頭上を何度も通過しながら残っている爆弾を投下して、ようやく弾薬庫に誘爆させる事が出来たようだ。

最後の戦艦ル級eliteが海中に没した事で、今回の作戦――デスピナ曰くイベント戦――の山場は越えた。

 

結果デスピナ航空隊は爆撃機と戦闘機だけで、艦娘達の援護だけでなく離島棲鬼も撃破し、護衛艦隊も全滅させた事で制海権を確保してしまった事になる。

 

もう敵と呼べるものも居ないが、念のためその場で旋回し警戒にあたる。

 

アタッカー13《海域オールクリア。敵影無しだ》

ファイター4-1《周辺に敵影無し。作戦成功だ!》

 

 

 

MISSION CLEARED

【BGM:EDF4「ミッションクリア」】

 

 

 

各隊の隊長が宣言すると、随伴機から勝ちどきの声が上がった。

 

ファイター4-7《やったぞー!!》

ファイター4-13《EDFッ! EDFッ!》

アタッカー19《大勝利だ! イヤッホー!!》

 

ひとしきり叫び終え、ファイター4の長機がある事を思いついた。

 

ファイター4-1《みんな良くやった。ついでに艦娘(レディ)達を()()()()()やろうぜ》

アタッカー13《おいおい、俺達も混ぜてくれよ》

ファイター4-1《当然だ。あ、でも()()()()()()()()()()のは流石にビビらせるかも知れんから、1小隊ずつだけ向かおう。ファイター2から6、ついて来い。残りは先に帰ってろ》

4-2~6《《イエッサーッ!》》

ファイター4-7《ちぇー、りょーかい。ファイター4-7から36、帰投するぞ》

 

まずはファイター4が、4-1から6を残し、30機が帰路につく。

 

アタッカー13《19から24、お前ら参加して良いぜ。俺らはちょっくら無茶しすぎたらしい。燃料が不味くなってきた》

アタッカー19《やったぜ! んじゃ、後で母艦で会いましょう!》

 

次にアタッカーB中隊12機の内6機も、ファイター30機の後を追った。

 

ファイター4-1《良し、彼女らの右後方から並行に侵入、反時計回りに旋回しながら、少しの間護衛するぞ》

アタッカー19《OKだ》

 

戦闘機ファイター6機と爆撃機ミッドナイト6機は編隊を組み、艦娘達の上空に向かった。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

――side 空母艦娘【翔鶴】――

 

 

 

命の恩人――のほんの一部の12機は今、私たちを中心に周囲300mくらいの所を、墳式戦闘機特有の風切り音を立てながら旋回している。

 

私たち「南鳥島海域攻略艦隊」は、20ノット前後で少しずつ北西――"横須賀鎮守府"への帰路についていた。無線機で鎮守府と連絡を取る事が出来る距離になるまでもう少しかかる。

さっきまでの戦闘で被弾した箇所がズキズキと痛む。

 

旋回を続ける"彼ら"に釣られて周囲を見渡してみる。

 

翔鶴「……艦影、機影、見受けられません」

瑞鶴「本当に、本当に助かった……! きっと幸運の女神が助けてくれたんだわ!」

比叡「あぁ……よかったぁー……」

 

瑞鶴は墳式の航空機たちに大きく手を振っている。比叡さんは金剛さんに支えられながら安堵の息を漏らした。

 

翔鶴「……い――ッ!! つぅ……!」

 

私も敬礼くらいはしなければと思ったけれど、持ち上げようとした右腕に鈍く激しい痛みが走った。

 

翔鶴(折れてるかも知れないわね……飛行甲板もズタズタ)

 

右腕に軽く左手を添えながら、もう一度辺りを確認する。

――何も、居なかった。居なくなっていた。

 

ついさっきまで敵の追撃から必死に逃げていたと言うのに、今は深海棲艦が沈んでいった所に黒煙が昇っているくらいしか、ここが戦場だった事を示すものは何も無い。

"彼ら"の持つ火力(ちから)は、終始私達を呆然とさせ続けた。

 

数十分前に突如として現れた航空隊は、私たちが危険な状態に晒されている所に駆けつけ、どうやら空中の敵に向かって誘導してくれるらしい墳進弾で、こちらに襲い掛かろうとした敵の航空隊を全滅させた。私たちが苦戦していた深海棲艦たちも水平爆撃のみであっけなく沈め、更にその前には最も危険な脅威であった、戦艦棲姫たち離島棲鬼防衛艦隊ですら一瞬で撃沈してしまったのだ。

 

霧島「何とかなったわね。でも、本当に誰が…」

金剛「分からないことで悩んでも仕方ないネー。今は助かったことを喜びまショウ」

 

"彼ら"をどこかから指揮している筈の正体不明の"艦娘"は、何故か私達が危険な状況を知っていた。

そして何も言わずに艦載機を駆けつけさせ、助けてくれた。

私達には"彼ら"や、まだ知らない"艦娘(かのじょ)たち"の正体も、所属や国籍すらも分からない。

 

確かな事は、少なくとも私達に対して敵意は無いこと。

――何より、妹の瑞鶴と金剛さん達四人の命を、艦隊旗艦である私に代わって救って頂いた恩人であること。

 

もしかしたら、相手は私達の事を知っているのかしら?

だとしたら、友軍を救援すると言う意味で航空支援くらいは――失礼、航空支援を実施して頂ける事はあるかも知れない。

それでも今だけは、艦隊旗艦としての現実的な視点を忘れていたいと思った。

 

編隊を組み、綺麗な円を描く12機の航空隊の主は、瑞鶴の言う通り本当に「幸運の女神様」なのかも知れない。

あの"墳式戦闘機たち"はきっと、瑞鶴が前世から持っている()()が呼んだ「救済者」に違いない。

――私は、この時はそう思って疑わなかった。

 

 

 

榛名「あ、あの戦闘機たち、帰っちゃうみたいです」

 

5分ほど旋回し続けた12機の戦闘機と爆撃機は、私たちの撤退する進路とは逆の方向に向けて、再び直進していった。

 

金剛「ヘーーイ!! 助けてくれて、センキューベリーマァァーッチ!! バァーニング……ラァァーーーブ!!! ほら比叡も、ちゃんとお礼言うんデスよ」

比叡「は、はい! ええと…ま、またどこかでお会いしましょーー!!」

 

金剛さんと比叡さんは、思い思いの言葉を彼らに向けて、感謝の気持ちを叫んで()を振る。

 

榛名「見事な飛行でした! 榛名、感激です!!」

霧島「支援に感謝します! 道中お気をつけてーー!!」

 

もう2人も同様みたい。それに釣られて瑞鶴も口を開く。

 

瑞鶴「さーんきゅーっ!! そっちの母艦の人たちによろしくねーー!!」

 

元気に腕を振り、航空隊(彼ら)の後姿を見送る。

 

私たち艦娘の声が空の飛行機に聞こえるはずは無い。

けれど、彼らには私たちが何かを言っていることは分かったのかしら。

最後に12機の"彼ら"は、素早く編隊を組みなおしてから機体を左右に大きく揺らし、けたたましく発動機(エンジン)の音をたてながら一斉に急上昇する。

 

沢山の細長い飛行機雲が、6月の晴天に昇っていた。

 

 

 

――これで、"思いがけない幸運"は終わり。

結局、本来の目的である離島棲鬼の破壊は叶わず、旗艦である私は大破し、比叡さんと榛名さん、霧島さんが中破。

離島棲鬼と交戦状態になる前からこの被害状況のため、進撃は不可能と判断せざるを得なかった。

せめて随伴艦のみんなを母港に帰して、提督に任務を達成できなかった事を叱責して頂くまで、私は旗艦としての責務を果たさねばならない。

 

いつ敵に増援を呼ばれていてもおかしくないため、改めて私たち6人は周囲の警戒を強めるために陣形を整え――

 

 ズキィィッ!

 

翔鶴「――ッ!! ぁああ!!」

瑞鶴「っ!? 翔鶴姉ぇ!」

 

思わず機関を止め、そのまま前のめりに倒れそうになる。

 

位置取りを決めるために主機を履いている脚を少し動かしたら、先の戦闘で被雷した左脚の膝関節から激痛が走った。

すぐに瑞鶴が私の所に駆け寄り、上体を支えてくれた。

 

翔鶴(…本当に、少し無茶しすぎたかも知れないわね…。結構……痛い…!)

瑞鶴「膝を挫いたのね…。もうっ、無理ならすぐに言ってって言ったのに! ほら、私の肩に腕まわして…右腕も痛むの?」

翔鶴「うん、少し……」

 

私のさっきまでの状態から、すぐに症状を見抜いてくれたみたい。

 

私は無事な左腕を、瑞鶴の首の後ろから左肩に回して体重を半分預ける。瑞鶴も私の背中から腰に右腕を回して、自分の腰を前にしながら、私の左足を海面から少し上げた。

 

翔鶴「ありがとう…瑞鶴、ごめんね……」

瑞鶴「気にしないで。ゆっくり、ゆっくりで良いから、少しずつ帰ろう」

 

本当は捻挫や骨折の時には背負ってもらうほうが良いけれど、お互い艤装を背負っているためそうもいかない。

いずれ鎮守府に着いたらすぐに入渠して治療に入る事になると思うし、すぐに治る筈。

 

金剛「ショーカク! 大丈夫デスか?」

 

金剛さんたちも、何事かとこちらに寄って来ていた。

 

翔鶴「すみません、脚を怪我してしまって……遅くなってしまいますね。本当にすみません……」

金剛「No problem! 榛名と霧島は、ショーカクとズイカクの左側で周囲をアテンションしてくだサーイ! 私と比叡は反対側につくネ!」

榛名「はい、お姉様!」

霧島「了解です!」

翔鶴「皆さん…本当にすみません、お願いします……」

 

翔鶴(こんなところを敵に、それも潜水艦にでも補足されたら……!)

 

瑞鶴に支えられながら、私の頭の中は不安で一杯になった。鼓動が早くなり、全身の感覚が張り詰める。

が、しばらく使っていなかった無線機から聞こえた通信で、私は少しだけ久しぶりに安心できた。

 

《こちら水雷戦隊旗艦、神通。機動艦隊、応答してください》

瑞鶴「! 提督さん、護衛艦隊ちゃんと編成してくれたんだ……!」

 

私は無線機の通話スイッチを押そうとしたけれど、左手は瑞鶴の肩に回しているし、右腕も痛むので動かせない。

それに気づいた瑞鶴は私の無線機を左手で取り、私の代わりに通話スイッチを押して口元に近づけてくれた。

 

翔鶴「こちら機動艦隊、翔鶴。救援感謝します。現在、離島棲鬼攻略を断念し、撤退中。……作戦は、失敗しました」

神通《そうですか……。被害状況はどうなっていますか?》

翔鶴「比叡さんと榛名さん、霧島さんが中破。瑞鶴、金剛さんが小破。私は大破しました。私は瑞鶴に曳航してもらっています。比叡さんも主機の損傷が酷く、金剛さんに曳航されています」

神通《了解。急いで向かいます》

 

通信を終えて、瑞鶴にお礼を言った。

 

少し経つと、水平線の向こうから人影が見え始めた。

 

翔鶴(助けに来てくれた"あの航空隊"のこと、何て説明しようかしら……)

 

 

 

――side out――

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

――side 要塞空母【デスピナ】――

 

 

 

他の部隊と比べて少し遅れて帰ってきた、アタッカーBチーム所属機6機とファイター4所属の6機を全速力状態で収容して4時間ほど。

 

デスピナ「急げ急げ急げー……!」

 

西の空がオレンジ色に染まる中、俺は主機を動かし続け海面を航行し続けていた。

 

南鳥島からの距離は220kmを切った。

30ノットよりも更に1ノット程速く、本当の全開出力でひたすら突っ走りながら時間を確認する。もう夕方の5時だ。

何か知らないけど夕方って、なんとなく急いでやらなきゃいけない衝動に駆られるよね、遊びでも仕事でも。

俺も今そんな気分だ。

 

いや、衝動と言うよりかは、"責任感"と言ったほうが近いか。

一度首を突っ込んで助けてしまった手前、艦娘たちをこの危険海域で放って置く訳にも行くまい。

横須賀に限らす日本のどこかの鎮守府に入港させて貰うためにも、最後まできっちりと出来る事をしなければ。

 

デスピナ(まぁ、女の子を助けてカッコつけたいってのも、あるんだけどね)

 

転生する前に格好つけた事と言えば、例の"大妖精"さんの猫――しかも仕込まれたやつ――のために命を投げ出した事が唯一だ。

 

帰ってきた第零戦闘中隊(ファイターゼロ)から第1・2戦闘大隊(ファイター1・2)と、第4戦闘大隊(ファイター4)第3爆撃大隊(ミッドナイト・アタッカーズ)第2中隊(Bチーム)からの報告では、艦娘達は空母系二隻・戦艦系四隻の、全部でたったの六隻しかおらず、しかも大破者まで出ていると言う。

しかし、そのおかげで速力が大分落ちているらしいので、今の内に一気に距離を詰めてしまいたい。

 

まさかもう轟沈者が…とも考えたが、艦娘六隻と言えば、前世で遊んだゲーム内で言う"一個艦隊"相当数である。連合艦隊――あるいは支援艦隊――の内の六隻がもう沈んでしまったと言う事でもない限り、まだ轟沈者は出ていない筈だ。

いや、「筈だ」ってのはおかしいか。この世界における1艦隊の隻数なんて不明なんだし、彼女達がいつから戦闘状態なんだかは分からないんだから。

 

まぁ何はともあれ、結局は急いで合流する事が最優先って事だわな。

 

副長「デスピナさん、例の艦娘たち、速度が落ちているなら、夜の間は潜水艦対策に小笠原諸島のどこかに上陸してじっとしているとおもうんです。わたしたちは高性能なソナーと対潜兵装(アスロック)がありますから、夜通しすすみつづけて早く合流しちゃいましょう」

デスピナ「そうだな。小笠原諸島が西に来る頃になるまで、このまま直進して様子を見よう」

 

そこへ、今度はクゥちゃんこと航空参謀が再び口を開いた。

 

航空参謀「旦那、こっから先、方角の分からない目標を漠然と探しても時間の無駄っす。航続距離の長い"大型攻撃機ホエール"を2・3機、角度をかえて発進させて捜索したほうがいいと思いまさぁ」

 

なるほど。

 

デスピナ「ホエールって夜間飛行は大丈夫なのか?」

航空参謀「いまどき夜がニガテなヒコーキなんざおりませんってw」

デスピナ「それもそうか」

 

EJ24・戦闘機ファイター・爆撃機カロン・爆撃機ミッドナイトに、次は大型攻撃機ホエールと来た。巨大空母(スーパーキャリア)もビックリの搭載量である。さすがはEDFの要塞空母だ。

 

それにしても、今日一日の戦闘だけで数ヶ月分の時間を浪費した気がするのは気のせいだろうか。

この世に神様が本当にいるのであれば、俺はこうお願いしたい。

デスピナ(そろそろ、艦娘達に会わせて貰っても、いいですか?(切実))

 

あまりにもゆっくりと進んでいる(気がする)時間の流れに辟易としながら、俺はお世話になるのが何度目になるかも忘れてしまったコマンド画面を開いた。

 

 

 

――side out――




大破した翔鶴さんには、ちょっと大怪我(矛盾)して頂きました。
流石に、轟沈寸前の状態で"服が破れるだけ"と言うのは変だと思いましたので。
(練り始めの段階では骨折でしたが、残酷すぎる気がして変更しました)

そろそろ、用語集なり設定集なり作ろうかと思う今日この頃です。
その内章分けもしないと……。

12月17日(日)、翔鶴さんが無線機を使うシーンで、右腕を負傷し左腕を瑞鶴の肩にやっている状況で無線スイッチを押すのは(手元に押しボタンがあるのでもない限り)難しいと思い、瑞鶴に無線機を持ってもらう形に修正しました。

3月19日(月)、流石に、作戦行動をを終えた後に1時間も艦娘達を護衛するのは無理がありそうなので、5分に修正しました。
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