"要塞空母デスピナ" スターティングオペレーション!   作:SAIFA

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最後の投稿から早3週間……。

やっと裕一君と艦娘達を出会わせる事が出来ました!
ただし最後の数行だけ。

今回は終始、母港へ帰投中の艦娘がわのみの描写となります。
そうです、デスピナこと裕一君目線の話も今書いています。
まだまだ遊べるゾ!

また、今回は他の二次小説作者様方がよくなさっているように、キャラクターのセリフと地の文の間に一行空白を挟むようにしてみました。
後に今までの話もこの構成にするかもです。


第11話:邂逅【艦娘視点】

時は少し巻き戻り、昼下がり。

 

神通たちと合流した後には、彼女達の所属する横須賀鎮守府の提督に"作戦失敗"の旨を報告した。

両腕が()()()()いる翔鶴に代わり、無線機を持って彼女の口元にあてがっているのは妹の瑞鶴だ。

 

提督は一言、「そうか……」とだけ呟く。

たまらず翔鶴は、自分達に懸けてもらった期待に応えられなかった事を謝罪したが、

 

提督《気にするな。全員生きているのなら、それで良い》

 

後は、翔鶴たちが受けた被害の確認と現在の状況を確認したのみで、特に作戦に関する追及は無かった。

提督が一通り話し終え、翔鶴は気になっていることを訊いてみる事にした。

 

翔鶴「…あの、提督、一つお聞きしたい事が」

提督《ん、どうした?》

翔鶴「今回の作戦、参加予定の艦娘は本当に私たち以外にいなかったのでしょうか?」

提督《その筈だが、それがどうかしたのか?》

 

翔鶴(やっぱり、本当に"あの人たち"は……)

 

いずれ、遅くとも鎮守府に帰れば報告はしなければならない。

どう説明したものかと悩んでいたが、結局見たままの事実を話すことにしたようだ。

 

翔鶴「……実は、攻略を断念し撤退中、私たちを追撃しに向かってきた深海棲艦に、大規模な見たこともない形の墳式の航空機たちが奇襲をかけ、すべて撃沈してしまったんです」

提督《何? そんなまさか…》

 

提督はほんの2秒だけ思案するが、すぐに先ほどまでの調子に戻る。

 

提督《…その墳式の航空機は、すべて艦娘(きみ)達が使う艦載機(それ)と同じ大きさだったか?》

翔鶴「私たちの扱うものよりは大きかったのですが、とても人が搭乗できるくらいに大きなものではありませんでした」

提督《ふむ……とりあえずは、そのまま帰って来てくれ。詳しい話は、報告のときにゆっくり聞こう》

翔鶴「了解です」

 

通信を終え、瑞鶴に無線機を適当な所に引っ掛けてもらう。

 

神通ら水雷戦隊は、周囲の警戒をしつつ翔鶴たちを護衛しながら、提督と話す翔鶴の報告を黙って聞いていた。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

時は再び現在、デスピナ航空隊所属の"大型攻撃機ホエール"が艦娘達の上空に到達する少し前。

 

翔鶴「はぁ……

 

翔鶴は、自身を支えてもらっている瑞鶴の耳に入らないくらいの音量で、人知れず溜息を吐いた。

 

傾きつつある夕日に比例して、彼女の心は沈んでいくばかりである。

翔鶴と作戦を共にした妹の瑞鶴と、いつも賑やかで艦隊のムードメーカーとして大きな役割を担っている金剛型の長女も、ずっと黙りこくったままだ。

 

無理もない。

戦略上重要な離島であった南鳥島は、一度取られてしまえばおのずと敵が集中し、深海棲艦の太平洋側の活動拠点として機能してしまう。

故に、今回攻略に失敗した事によって敵は戦力を大幅に強化する事は必至。太平洋側に出没する深海棲艦の掃討と、小笠原諸島近海の哨戒活動が主な任務である横須賀鎮守府の負担は大きく増す事になる。

 

翔鶴(このままの状況が続いたら、どうなってしまうのかしら……)

 

深海棲艦によって陥落させられた島は、南鳥島以外にもいくつかある。

特に、日本列島の西から南西方向にある海域の攻略と哨戒、そして東南アジアからの海上輸送ルートの護衛が主な任務である"呉"と"佐世保"の2鎮守府、そして日本海側の哨戒に重点を置いている"舞鶴"鎮守府にとって、豊富な資源の入手先であった沖ノ島海域周辺は、圧倒的な物量で迫る深海棲艦達によって占領されてしまった。

 

一方南鳥島については、呉鎮守府と佐世保鎮守府から「戦力の回復と念を入れた威力偵察実施による空き時間の有効活用」と言う名目で、主力級の艦娘を数隻、燃料と弾薬を満載した状態で横須賀に回航させて貰える事にはなっていた。

しかし、一刻も早く南鳥島に巣食う離島棲鬼と、その周辺海域に終結しつつある深海棲艦に対して打撃を与える必要有りと判断した横須賀の提督の一声により、派遣艦娘の到着も待たないまま、横須賀の正式な所属である翔鶴以下6名を、"南鳥島海域奪還艦隊"と言う位置づけで出撃させてしまったのだった。

 

翔鶴(「私たちは損傷を負って撤退した上に所属不明機達に助けてもらいました」なんて…()()()に何て言われるか……)

 

実は、佐世保鎮守府からの派遣艦隊の中には、翔鶴と瑞鶴――通称"五航戦"――の先輩空母にあたる"一航戦"こと空母「赤城」と「加賀」の名前もあった。

 

出来る事なら今回の出撃と成果を機に、日本列島の周囲に形成しつつある深海棲艦達の包囲網突破の先陣を切って皆に希望を与え、未だに手厳しく指導の目を向けてくれる一航戦(特に加賀)に見直して貰えればと言う個人的な希望もあって、翔鶴は今回の作戦を二つ返事で了承。姉妹艦の瑞鶴と、横須賀きっての水上打撃戦力である金剛四姉妹を従え、南鳥島に舵を取ったのだった。

 

だが現実には、先刻の有り様である。

 

翔鶴(何の成果も得られなかったわね……)

 

妹の耳に入らないよう、彼女は幾度目かの溜息をついた。

 

 

 

瑞鶴「あっ、ねぇ! アレ!」

翔鶴「……? ――!」

金剛「Oh my god! また来てくれましたカ!」

神通「…どうしました?…え――!?」

 

神通率いる水雷戦隊6隻が周囲を囲む輪形陣の中心で、翔鶴に肩を4時間近く肩を貸し続けている瑞鶴が、上空に陣取っている大型機"ホエール"に向けて左手で指差す。

他の艦娘達も、周囲の警戒にあたる神通や駆逐艦ら含め、一様に瑞鶴の指に釣られて空を見る。

 

流石に、空母系の艦娘達が扱う艦載機の6倍ほどの全長を誇る巨体は、150m程度の高さを飛んでいても十分視認出来た。

瑞鶴の脳裏では、巨体に追従するEJ24の形が、昼間に自身の航空隊と共闘していた"墳式戦闘機"の形と一致していた。現在神通の水雷戦隊に守られている翔鶴艦隊の面々には、飛行している航空機たちの投影面積が高度の割には小さく見える事から、"彼ら"が再び飛来したという事がすぐに分かったようだ。

 

霧島「でも、もう周囲に敵は見当たりませんし……哨戒機、にしては結構大きいような……」

金剛「どっちでも良いデース! きっと最後まで私たちをエスコートするために来てくれたに違いないネ!」

 

霧島と金剛が推測していると、大回りでゆっくり旋回するホエールから発光信号が通達される。

 

内容は以下の事を意味する一文のみ。

 

『デスピナ航空隊より、撤退中の艦隊へ。信じろ。1-3-0より、味方艦接近中。停船し、回線開け』

 

榛名「1-3-0って、昼間の戦闘機達が帰っていった方向と同じよね。――! ということは、味方艦って!?」

翔鶴「()()()()()を指揮する"艦娘(ひと)達"が、近づいてきてるの……?」

 

彼らの名前は、どうやら「デスピナ航空隊」と言うらしい。

「デスピナ」とは恐らく、彼らを発艦させた母艦か、それを含む艦隊の名前と言うことになるのだろう。

 

神通「すみません、お話についていけないのですが、"また来た、あの人"たち…? 先ほど、翔鶴さんが話していた事と今飛んでいる大型機について、なにかご存知なのですか?」

 

デスピナ航空隊と行き違いになる形で翔鶴艦隊の護衛についた神通たちにとって、デスピナ航空隊に接触するのはこれが初めての事だ。翔鶴艦隊が神通率いる水雷戦隊と合流してから、不明機達について直接話せないまま早5時間ほども経ってしまっている。

昼間の作戦に失敗し撤退している所に突如現れ、敵を蹴散らす様を終始偵察機越しに見ていた瑞鶴が、詳しく説明を始めた。

 

瑞鶴「うん。実はね――」

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

――side 空母艦娘【翔鶴】――

 

 

 

神通「そんな事が……」

 

瑞鶴が見た"例の航空隊"の話を聞き終えた神通さんは、周囲への警戒を緩める事なく返答した。

 

金剛「私たちも、最初は目を疑ったネ。でも、敵艦(エネミー)を全部沈めた後は、私たちに危害を加えてくる事は無かったデース。少なくとも、シーマンシップを持ち合わせた航空大隊(スコードロン)な事は間違いないヨー」

 

私たちの上空を飛んでいる大型機1機と戦闘機2機の小隊はいつのまにか3機と6機に増え、周囲5kmほどのあたりで、最初に来た小隊と同じようにゆるやかな旋回を続けている。

 

翔鶴(さっきの発光信号、『回線開け』って、どういう意味かしら…?)

 

少なくとも、昼間の撤退を助けてくれた航空隊の()()()()が接近している事、()()()は私たちとコミュニケーションを取ろうとしている意思は分かった。けれど……

 

霧島「でもさっきの信号、何か変よね。停船しろって言うのは、向こうが私たちに追いつきたいって事なんでしょうけど、回線開けって言われても向こうの無線機の周波数が分からないし……」

 

そう。私が先ほどから懸念している事は、"艦隊の頭脳"霧島さんが代弁してくれた。

 

話に集中していたからか、私は突然目の前に現れた"それ"に驚いた。

 

 ――ピコーンッ

 

翔鶴「っ――! ……?」

瑞鶴「えっ、何コレ?」

 

私の目の前には、全体的に明るい緑色をした……何かしら、画面のようなものが現れた。

 

榛名「何か書いてありますね」

金剛「えーと、何々……」

 

金剛さん達が何事かと寄ってきた。

駆逐艦の子達も一度集まりかけたけれど、神通さんに注意され再び周囲の警戒に専念しだした。

 

目の前の緑色の画面には以下の一文と、その下に【はい】と【いいえ】の二つの選択肢のみが映っている。

 

『-艤装システムリンク- CVF-DESPINAによるシステム周波数へのアクセスを許可しますか?』

『 from"CVF-DESPINA" to"CV-SHOKAKU" 』

 

瑞鶴「CV…"F"?」

 

何かしら、F……艦隊(fleet)

 

比叡「艤装しすてむ…何ですって?」

金剛「つまり、あの航空機(プレーン)達を使ってる味方艦娘(friend ship)が、callingしてるって事カナー?」

 

画面を見ているメンバーで文の意味を翻訳していると、上空の大型機達から再び発光信号が。

 

大型機『こちらデスピナ航空隊。母艦デスピナと貴艦隊の通話許可を願う』

 

翔鶴(……)

 

翔鶴「瑞鶴、無線機、また取ってくれる?」

瑞鶴「うん…でも、いいの? 別に疑ってるわけじゃないけど、本当に出ちゃって大丈夫かな」

翔鶴「もし仮に敵だとしたら、あの時私たちも沈められていたわ。敵意がないことが確かなら、ここは、言う通りにしてみましょう」

瑞鶴「わかった。翔鶴姉ぇがそう言うんなら、出てみようか」

翔鶴「ええ…神通さん、しばらくの間停船願います」

神通「分かりました。全艦、停止!」

 

神通さんの掛け声に合わせて、私と瑞鶴に金剛さんたち、神通さんと周囲の駆逐艦の子たちは、機関の出力を落とし、停船する。

私たちの動きに合わせて少しずつ旋回円の中心をずらしながら飛び続けていた大型機達も、飛び方を調節しているのが分かった。

 

神通「周囲の警戒は怠らないように!」

 

改めて、私は目の前の空中に留まり続けている画面を見つめ、

【はい】

と書かれている所に軽く触れた。

 

 

 

 ――ザザザザザッキュゥィィーーッ!

 

画面に触れると、表示されている内容が次々と変わりだし、瑞鶴の左手にある無線機から雑音が聞こえてきた。

 

『接続中…』

 

『接続完了』

 

次に画面に映っている内容が替わる頃には、無線機のスピーカーから声が聞こえてきた。

 

『-通話中- -DESPINA-』

 

《――ぁーあー。マイクテスマイクテス…こちら、要塞空母デスピナ。撤退中の艦隊へ、応答願います》

 

この時の私は、少し困惑していた。

何故なら、無線機越しに聞こえてくる声が、聞き間違いようがない男性の声だったからだ。

"救済者の主"こと「幸運の女神」の正体は、艦娘と同じく女性だと言う先入観を、私は今の今まで捨て切れていなかった。

すぐ隣で聞いている瑞鶴や金剛さん達も、概ね似たような気持ちだったと思う。

 

もしかしたら、扱っている航空機の大きさから"艦娘"だと勘違いしているだけで、本当は従来型の空母が無人機でも飛ばしていただけなのかしら?

けれど、深海棲艦に対してあの巨大な船体は()()()()()()()()()()()()()でしょうし、何故かこの辺りにいることも含めて考えにくい事ではあるけれど…。

 

翔鶴「こちら日本国国防海軍、横須賀鎮守府所属機動艦隊旗艦、空母翔鶴。聞こえています。初めまして」

 

艦隊旗艦として、接触を図ってきた"彼"が本当に信用できる者か確かめるのも兼ねて、私も口を開く。

 

《え――あ、はい、えー…突然すみません。こちらこそ、初めまして。私は、連合地球海軍日本支部、太平洋方面郡所属、デスピナ級要塞空母一番艦、デスピナと申します。現在、訳あってどこの鎮守府にも所属しておりません。急なお願いを聞いて頂き、ありがとうございます》

 

翔鶴(ようさい…空母? デスピナ?)

 

艦種といい名前といい、それに所属…連合、ちきゅう軍? 全く聞いた事がない。

けれど、落ち着いた声色と丁寧な口調から、若い好青年を思わせた。第一印象としては、全く信用出来ない事はなさそう。

 

――いやそれより、こうも早くに"命の恩人"と話す機会を頂けたのだから、まずはきちんとお礼を申し上げないと…。

 

翔鶴「あのっ…あなたは昼間、墳式の戦闘機と爆撃機を派遣して頂いた方でお間違いはないでしょうか?」

デスピナ《ええ、一応。南鳥島から、敵の航空機が発進して行くのが見えたので、味方が接近していると思って念のため出撃させましたが……もしかして、ご迷惑でしたか?》

翔鶴「いえ、そんな――! とんでもありません!」

 

私は、つい先ほどの自身の思考を恥じた。

 

一体"彼"を「信用できる者か確かめる」必要がどこにあるのか。いつから私は、「信用出来ない事はなさそう」などと、情けを掛けて頂いた相手を上から見下ろせる立場になったのか。

今私と話している"彼"――要塞空母「デスピナ」さんは、瑞鶴の幸運がもたらした"女神様"でも無ければ、"信憑性に欠ける男"でも無い。

 

今私と話している"彼"は、私と、私の大切な妹の瑞鶴、そして金剛さんに比叡さん、榛名さんと霧島さんの命を、自らが離島棲鬼に補足される危険も省みずに、何の躊躇もなく救援を駆けつけさせて救って頂いた本当の"救済者"だという確かな事実を、私は忘れてしまっていた。

 

翔鶴「むしろ、非常に助かりました。おかげで一人も撃沈されず、無事に撤退を続けております。その節は、本当にありがとうございました」

瑞鶴「うんっ! 私も、大事な艦載機を全滅させずに済んだし、いろいろと助かったわ! あっ私、正規空母瑞鶴です。よろしく!」

 

私と瑞鶴は、今出せる限りの言葉を並べ、心から感謝の気持ちを伝える。

金剛さん達も、無線機に顔を近づけ、それぞれお礼の言葉を話し出した。

 

金剛「Hey! 私は金剛型戦艦一番艦の金剛デース! エスコート、サンキューベリィマーッチ!」

比叡「えぇと、二番艦の比叡ですー。ホント、助かりました。どうもありがとうございます!」

榛名「三番艦、榛名です。あなたが、あの戦闘機達の母艦なのですね。見事な飛行、感激しました!」

霧島「四番艦の霧島です。正直かなり危なかったの。わざわざ()()()まで飛ばして頂いて…何から何までありがとうございます」

 

デスピナ《!――そ、そうですか…「いやそれ哨戒機じゃなくて攻撃機っす!」それは、「やってることは対潜哨戒なんだから良いでしょ!」…どういたしまして》

 

近くにいる随伴艦かしら?

訊いた限りでは二人ほど女性の声も小さく聞こえてきた。

 

デスピナ《あ、でも、(うち)の航空隊からは、空母1隻が大破と戦艦3隻が中破していると報告を受けたのですが、皆さん航行に問題は無さそうですか?》

 

 ズキズキッ――

 

……二重の意味で痛い事を訊かれてしまった。

左膝と右腕からじんわりと痛みがぶり返してくる。

 

翔鶴「実は複数名、機関を損傷して速度を落としてしまって……。すみません、少し失礼します――」

 

一言断りを入れて無線機から意識を離し、目の前で水上と水中の変化に目と聴音機()を凝らしている神通さんに声をかける。

私から見て、彼女の左手の方角には、夕日が水平線に沈んでいく様子が良く見える。デスピナさんから放たれた航空機達が夕日の上を通り過ぎて行き、時間は確かに流れている事を思い出させた。

 

もうそろそろで、日が沈んでしまう。

 

翔鶴「――神通さん、夜の間も、移動を続けたほうが良いでしょうか?」

神通「まだ危険海域からは抜け出せていませんから本当はそうしたい所ですが、今の状況では難しそうですね。あまり無理して動いても、今出せる最大船速では万一潜水艦の襲撃に遭った時対処出来るか分かりません。母港まではまだまだ掛かりますから、私たちでかばい続けるのも難しいです…」

翔鶴「そうですか……」

 

この場所で留まり続けて夜を明かすのか、それとも近くに岩礁が無いか探してそこに向かうのか。

後者の場合、一番近いのは小笠原諸島の何処かになるけれど、今から急いでも何時間かかるかしら……。

 

少しの間黙っていると、通信相手のデスピナさんから提案があった。

 

デスピナ《あの、もし夜通しの航海が難しいようでしたら、そのまま明日の夜明けまで機関を止めて、停船し続けることは出来ますでしょうか? 私の艤装には、高性能な音探(ソナー)と長射程の対潜兵装を多数備えておりますので、ある程度距離を縮めれば、当艦の兵装による援護が可能です。現在、最大船速30ノット。対潜水艦用の(デコイ)を、そちらの周辺20km圏に飛ばしつつ航行しています。皆さんに留まって頂ければ、明日の午前5時過ぎには、そちらに合流出来る筈です。実は私、訳あって横須賀を目指しているんです。ご迷惑で無ければ、同行させて頂けませんでしょうか?》

 

神通「…相手の方は何と?」

 

長々と無線機から声が聞こえ続けている事に、神通さんは何事かと思ったみたい。

 

翔鶴「…私達と合流して、横須賀に行きたいそうです。あちらの音探と対潜兵装を使用した支援が可能になるまで、全員の機関を止めて停船して欲しい、と言っています」

神通「合流予定時刻はいつごろになるか、聞いていただいてもよろしいですか?」

翔鶴「明日の0500(マルゴーマルマル)にはこちらに着けるとのことです」

神通「分かりました。艦隊、機関停止! この付近で夜を明かします。水雷戦隊各艦は、爆雷を投射可能状態にして待機、敵艦と遭遇次第即座に機関を再始動、回避運動に移ります。改めて対水上・対潜警戒を厳にせよ!」

 

駆逐艦の子5隻の内、何人か納得いかない様子だったけれど、他ならぬ神通さんがあっさりと通信相手の要求を呑んでしまった事もあって、特に不満を言ってくるような事は無かった。

 

翔鶴(……そうだわ、提督に簡単な報告だけでもしておかないと)

 

翔鶴「あの、デスピナさん」

デスピナ《はい、なんでしょうか?》

翔鶴「艦隊旗艦として、あなたのご希望を受諾いたします」

デスピナ《本当ですか!?》

翔鶴「鎮守府に連絡を取りたいと思いますので、一度無線を遮断していただいてもよろしいでしょうか?」

デスピナ《了解しました。では、また何かあり次第発信しますね。交信終了》

 

 プツンッ――

 

音を立てて、私の目の前に浮いていた画面が消えた。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

昨日の作戦失敗の後、デスピナさんとその航空隊に助けられた日を越し、6月18日。

 

夜の間、幸いにも敵に遭遇することは一度も無かった。

強いて挙げるなら、夜空の低い所に赤と青の光――おそらく衝突防止灯――が移動しているのが見えたことと、遠くの方でプロペラの音が聞こえたけれど、すぐに入ったデスピナさんからの入電で、対潜水艦用の欺瞞装置を投下しにきた彼の持つ回転翼機(=ヘリコプター)だと判明した。

 

0130(マルヒトサンマル)には再びデスピナさんから通信が入り、昨日の夕刻よりもずっと離れた所で旋回を続けていた大型機と護衛戦闘機達が南東――つまり、デスピナさんが居る方向へと帰っていった。

流石に、燃料が尽きたのだと思うけれど、夜間に飛び続ける意味はあったのかしら?

 

0300(マルサンマルマル)になると、デスピナさんから《対潜警戒開始》の入電。距離を訊いたところ、なんと100kmもの遠方から音探で対潜警戒を開始し、対潜水艦用魚雷の発射準備を整えたとの事。

昨日の昼間にやってきた墳式戦闘機たちを指揮するくらいだから、相当に高度な技術で"建造"された艦娘(≠艦息)らしい事は想像がついたけれど……何故空母にそこまで強力な対潜艤装を施すのかは、今まで建造されてきた数ある"()()()()"の一隻でしかない私には、この時は分からなかった。

 

 

 

そして現在、海の真ん中、皆で主機を止めてからもう10時間半が経過しようとしている。

時刻は0430(マルヨンサンマル)

東の空が白み始める。

 

榛名「……」

霧島「……」

金剛「……」

比叡「…クシュンッ…」

金剛「……」サスサス

 

機関を止め、息を殺し、波の音だけがささやかに鳴り続けている海上でも、種類が違う音は良く聞こえる。

6月とは言え、流石に明け方の海上は少し冷え込む。中破している比叡さんは小さくくしゃみをし、彼女の主機が故障したために軽く肩を貸している金剛さんが、背中を擦ってあげていた。

 

 

 

翔鶴「……」

瑞鶴「……」

 

流石に瑞鶴も少し疲れたようで、小声で私に断りを入れてから身を屈めて、時々肩を貸すのを中断して休憩しては、また私の怪我をした左膝を労わって肩を貸してくれている。

逆算して、もう半日以上もこうしている事になる。

 

翔鶴(本当に、ごめんね…。ありがとう、瑞鶴…)

 

もし「今回の作戦で一番の功労者は誰か」と訊かれれば、迷わず私は「瑞鶴」の名前を口にするだろう。

もちろん、戦果だけを見るなら、突然とは言え私たちの撤退を支援しに駆けつけて頂いたデスピナさんの活躍は無視できない。

けれど瑞鶴は、私が中破しても艦載機で索敵しながら、空からの敵を防ぎ続けてくれた。

 

いざと言う時に発揮してくれる頼もしさに、私は何度も助けられているのだ。

これまでも、そして今回も。

 

 

 

艦娘は、元気な子は本当に賑やかで、落ち着いた子はどこまでも大人しかったりするけれど、一度「静かに」と命令されると、まるでそこには居ないかのように静かになる事が出来る。

 

神通「……」

駆逐艦達「「……」」

 

水雷戦隊率いる神通さんと、彼女の随伴艦であり門下生でもある駆逐艦達には、文字通り夜通しで水上の見張りと対潜警戒を徹底して頂いた。

 

 

 

現在時刻、0500(マルゴーマルマル)。朝日が昇り、真っ黒だった海面は青い色に戻る。

ついに、デスピナさんが私たちと合流する予定の時刻になった。

 

私たちの短くて、とても長い夜がついに終わった。

 

神通「……そろそろ、合流予定時刻ですね」

 

沈黙を先に終わらせたのは神通さんだった。

 

私は首だけ後ろに向け、南東の水平線に目を凝らす。

瑞鶴と金剛さんたち、そして神通さんや駆逐艦の子たちも、東の方角から斜めに降り注ぐ日光に目を細めながら、"彼"――"要塞空母デスピナ"さんの到着を待つ。

 

榛名「あ、あちらに!」

金剛「Oh! ヒーローのご到着デース!」

瑞鶴「え、どこ!?」

 

先に"彼"を見つけたのは榛名さんと金剛さんだった。

"彼"を見つけた誰もが、長い沈黙から開放された反動でつい大きな声を上げる。

 

朝日に照らされ、光を反射して輝く境界線の向こうから、いつの間にか黒い影が昇って来ていた。

 

神通「あの方が…?」

 

艦娘は、実艦だった頃の艦橋部と同じくらいの視力を持つから、どうしても主砲の射程に合わせて艦橋部が高く設計されていた戦艦系の艦娘が、目視での水上の見通しは良い。

榛名さんと金剛さんが先に見つけたのはそのためだ。

 

金剛さんが遠くからやってくるデスピナさんに大きく手を振っている間、やはり流石は神通さんと言うべきか、水中の音に聴音器()を済ましている様子だった。

 

2分、3分と経つごとに、"彼"の影は大きくなる。

それにつれて、不自然な点が一つ。

 

翔鶴「あら…一隻(ひとり)だけ?」

瑞鶴「ん、どしたの? 翔鶴姉ぇ」

翔鶴「昨日、敵の艦隊に奇襲を掛けた航空隊は、確か100機以上は確実にいたのよね?」

瑞鶴「うん。本当はもっと沢山いたけど、多すぎて数え切れなかった」

翔鶴「それだけの数の墳式機を扱うのに、空母一隻は少なすぎると思わない? 昨日の夕方ごろに来た、あの大型の"哨戒機"も収容できるのなら、なお更」

瑞鶴「あ、そう言えばそうだよね。相当大きい艦なのかな、その、"デスピナ"さんって」

 

翔鶴(昨日の通信で無線機越しに聞こえた限りでは、あと二隻(ふたり)はいる筈だけれど…)

 

少しずつ大きくなるデスピナさんの影は、距離の割には大きく見えていた。

 

 

 

そして、時刻にして0523(マルゴーフタサン)

 

「長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません」

 

私たち機動艦隊の撤退を支援した"墳式の航空隊"の主が、その姿を現した。

 

「改めまして、私は、デスピナ級要塞航空母艦――」

 

 

 

 

デスピナ「――1番艦の、デスピナと申します」

 

これが私と……いや、"艦娘(私たち)"と"要塞空母デスピナ"さんとの邂逅だった。

 

――この時の私は、デスピナさんの()()()()と言う艦種の強大さを、全くもって分かっていなかった。

 

 

 

――side out――




実際の戦闘や海戦、航海などについてあまり詳しくはありませんので、「ここおかしいぞ」なんて言う物がありましたら、寛大なお心でスルーして頂くか、感想欄にてご批判いただければと思います。
(後でどうにか辻褄を合わせます)

それから、毎度毎度しつこいようではありますが、艦娘たちのキャラクターの口調や性格に違和感が感じられるようでしたら、遠慮なくご指摘ください。頂き次第、修正いたしますので。
(私は金剛さんの口調が一番不安です……)

2018年1月2日(火)、今思えば、翔鶴さん達は無理してでも小笠原に行かせた方が良かったかも知れない。
海原のど真ん中で機関停止って、万一急襲された時すぐに動けませんやん……。
あれ? でもそれだと夜間に音出してノロノロと航行する訳だから結局危険だし…??

5月1日(火)、裕一君からの通話の対応中、翔鶴さんと会話している神通さんのセリフに追記。

9月21日(金)、やっぱ艦娘達停めない方が良かった気がしてきました。最悪一隻でも帰還しなければいけない状況で、海のど真ん中で機関止めるとか狙って下さいと言ってるようなモノじゃないか(´д`|||)
動かし続けて最低限の回避だけでも出来るようにすれば良かった……。

9月23日(日)、上記の事を踏まえ、神通さんのセリフを少し加筆修正。
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