"要塞空母デスピナ" スターティングオペレーション!   作:SAIFA

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もはや、何も言うまい……。

遅れて申し訳ありませんでした。
なんとか横須賀には形だけ到着させる事が出来ました。
あまりにも長く引っ張りすぎて話が浮かばなくなったため、クオリティーが過去最低のものとなっているかも知れませんが、SAIFAも裕一君も寝不足なのだと割り切ってくださいませ(殴

……別に何となく始めたアズールレーンが思いのほか楽しかったとかそう言う訳ではありませんよ。断じて。


第16話:早起きは三文の得、早寝は一命の取り留め

――side 要塞空母【デスピナ】――

 

 

 

現在時刻、6月18日の夕刻6時。漢字を使わない表示方法では18:00(ヒトハチマルマル)

 

今日一日、幸い眠気で意識を飛ばす事は無く、転生してから太平洋を渡ってきたのと同様に航海を続けている。

同様に、と言うのはあくまで第三者視点で見える事実であり、ぶっちゃけすごく…だるいです、体が。あと頭も痛い。

それでもこうして周囲を警戒しながらずっと起きていられたのは、6月のそれとは思えない日差しによって目が冴えてしまった事と、チラリと前方を見れば視界に入る彼女達の存在が大きな理由である。

 

艦娘。前世ではどれだけ触れようと手を伸ばしても――あるいは実際に伸ばしてみたとしても、液晶画面や紙面と言う形で具体化された"現実と空想の境界"に阻まれ、実物に触れる事は決して不可能だった。

研究途上にあったVR(ヴァーチャル・リアリティ)なら、将来的には艦これ世界をより深く楽しむための手段と成り得たかも知れないが、それでも彼女達の手触りや香り等、視覚と聴覚以外の五感を表現するのは、いくらサブカルチャー大国たる日本でもそうそう出来た事ではあるまい。

 

しかし、俺は紛れも無く"空想が現実となった世界"にいる。それを再認識させたのは、翔鶴さん達と合流し横須賀に向けて出発した後、少し経ってからデスピナ航空隊の妖精達を翔鶴艦隊の話し相手として預けた時だ。

その次は1時間後の今朝7時ごろ、預けていた航空隊の面々を回収した時。それぞれ一回ずつ、特に、翔鶴さんと瑞鶴の肩で遊んでいた航空妖精を回収する際には、俺の腕の長さと人間と同じ骨格の都合で二人のほぼ真後ろに自分の位置を移動させたのだが……。

 

デスピナ (いい匂いだった……)

 

乗って来るんだよ、潮風に混じって彼女達の香りが!

時速20km弱の低速で移動していても、前に進んでいる以上空気の流れは後方に向かって伸びていく。丁度、潮風で形作られたそのゾーンに意図せず突入してしまった俺は、目の前で風に揺られていた瑞鶴のツインテールから発せられる香気(こうき)に、見事に当てられてしまったのだ。

 

デスピナ (……ちょっとススみたいな臭いも混じってたけど、まぁ戦場で撃ち合いしているんだから当然か)

 

だいぶ話――相変わらず誰に話しているんだか――が逸れてしまったが、要するに、

"二次元の女の子の香りを体験できたぜ。イヤッホー!(定型文)"

な状態になり、5日分の疲労が軽減され眠気が吹っ飛んだのである。変態か俺は。

 

この勢いで残り2日間の航海を乗り切ってしまいたいが、コマンドの海図画面にいつでも表示されている時刻を表す数値と、左斜め前方――つまり西の空――に浮かぶ赤色の玉とオレンジ色の空気によるグラデーションが、()()()()()()()忘れかけていた最大の"敵"の到来を告げていた。

 

翔鶴「18:00(ヒトハチマルマル)……もうすぐ日没ですね」

 

そう、夜である。俺は翔鶴さん達と合流する前の、東の空に日が昇るよりも前の早朝真っ暗闇の中で眠りかけてしまったのだ。

 

デスピナ(ちくしょう! 眠気と戦うなんて想像したこともなかったぜ! 経験はいくらでもあるけどな!)

 

人間をはじめとして、お天道様の加護の下にある生物は皆、周囲の環境が昼と夜を繰り返すのに合わせて活動と睡眠を繰り返すのが本来の有り方である。

人間もその数ある生き物の内の一種族であるため、昼起きていれば夜眠たくなるのは当然である。

 

俺も――艦息に生まれ変わった身と言えど――身体構造は人間のそれと多分変わりは無いため、夜通し起きていたとしてもいずれ睡眠は必須となる。さっきからコマンドの通知のために現れる別ウインドウがピコンピコン五月蝿いからCDCに頼んでオフにしてもらったが、エラー画面を消したからと言ってエラーが無くなった訳ではないように、今の俺は栄養失調気味プラス超睡眠不足な事はこれまで通り蓄積している。夜が来るともなれば、再び目蓋が激重くなりかねない。しかし――。

 

翔鶴「神通さん、今夜も停船したほうが良さそうですか?」

神通「ここまで来れば、組織立った敵との遭遇は考えにくいですから、今の所はこのまま進んでも大丈夫だと思います。速度が出せませんので、潜水艦への対策が唯一の懸念ではありますが…」

 

――今の俺は、日本国防海軍・横須賀鎮守府所属の艦隊に随伴する要塞空母デスピナである。

随伴させてくれと頼み込み、艦隊の足を夜通し止めさせてしまった事に対するせめてもの見返りにと、周辺の哨戒をやると言い出した一隻の艦息だ。その責任は、己の健康に多少換えても取らねばなるまい。

俺は無意識の内に陥ってしまった極限状態の頭で、残り約970kmの旅路を乗り切る算段を立てた。

 

デスピナ「神通さん、差し支えなければ、当艦が前に出て対潜警戒を実施したいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

 

まず今夜は、自分へプレッシャーを掛ける事も兼ねて艦娘(女の子)達の前で格好をつけ、そのテンションで眠気をふっ飛ばして明日の朝まで持たせる。明日の夜明け以降は、まず太陽の恵みを全身で浴び、時折日差しを目薬代わりにして目を冴えさせる。明後日も同様にして過ごし、横須賀まで気合で持たせる。

 

――本気でそんな事を"算段"と考えていたあたり、不眠による俺の思考力低下は、この時点で相当に深刻なものだったらしい事を、俺は上陸直後に知る事になる。

 

デスピナ(と言うか、艦娘の皆どれだけ長く起きてられるんだ? 俺はだいぶキツいよパトラッシュ……)

 

一つだけ自己弁護を付けておくとすれば、「無理をするな!」と定型文でもう一人の自分に突っ込まれる事が想像出来るくらいには、ギリギリ脳は動いていた。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

神通さんの許可を貰って艦隊先頭に立ち、前方の広い範囲をレーダーとソナーを駆使して警戒し続ける。

ぶっちゃけこの後は眠気との戦いが本格化したこともあって、特に印象的なエピソードも思い出せず記憶がダイジェスト状態だった。

 

6月18日、日没時刻である18時半以降は、デスピナ艤装の妖精達に見張ってもらいつつ、緑系の縁と青色に輝くコマンド画面を弄って起き続けていた。

転生してからも何度か越えた洋上での晴天の日の夜と言うものは、天然のプラネタリウムと言うべき――逆か、プラネタリウムが紛い物の夜空なのか――巨大な点描画が、空いっぱいに描かれる時間帯でもある。

 

日付が変わって19日も、いつものデスピナ妖精3匹とちょっとした天体観測をしたり、「異邦人(フォーリナー)の母船が集結しちゃいないか」なんて事を考えながら月を眺めたりして時間を潰し、脳を活性化させる。

この時点ではレーダー/ソナー画面には敵影無し。

13万㎞離れた所から確認する限りでは、月の表側にも物陰は無し。

 

 

 

同日の明け方から午前中、北西に進路を取っている関係で右斜め後ろの方向となる東の水平線から昇った太陽が最も高い位置に来るまでは、正面の海原とコマンド画面を眉間に皺寄せたりしながら眺めて瞼を支える。

前世でたまに飲んでいた、カフェイン多めのエナジードリンクが恋しい。

 

デスピナ(取り敢えずは昼まで持ち堪えよう。そうすれば俺の"秘策"でお目覚めだ)

 

 

 

正午過ぎに太陽が左手に来るのを見計らい、一瞬だけ注視する秘策(笑)でもって目を覚まそうとしたが、それが大誤算であった。

眩しすぎてかえって目を細めてしまい、そのまま意識がっ…意識がっ……!!

(ここまでの時点で相当な無茶をしている事は、夜寝ずに次の日通勤や登校をした経験がある人なら少しは理解して頂けるだろう。なんせ俺は、転生した日からもう一週間ぶっ通しで活動し続けている事になるからだ)

 

お天道様特製の目薬は目覚めの効果が壊滅的に無い事が発覚したため、眉間の皺をより一層深くする事で瞼の意識を持ち上げ、日没までコマンド画面を永久に見続けたが、やはり敵の気配は現れない。いっそ軽く襲撃(矛盾)でもあってくれた方がギンギンに目は冴えるだろうから、それはそれで有難いのだがなぁ……。

 

 

 

19日の終わりから20日の始まりにかけての夜。今夜も天候は晴れだと思われたのだが、梅雨前線に近づいているのか段々と雲が出てきてしまい、夜に見える星空は所々虫食い状態になってしまった。月も隠れ、自分達の主機の駆動音が鳴り続ける海上はより一層夜の闇に溶け込んだ。

 

俺は再び重くなり始めた目蓋を持ち上げ、眠気と戦う際の精神的なプレッシャーを和らげるためにも、数時間ぶりに右肩の副長妖精に小さく声を掛けた。

 

デスピナ「なぁ副長」ヒソヒソ

副長「……? はい、なんでしょう」ヒソヒソ

デスピナ「悪いんだけど、またクゥとライと交代しながらで良いからさ、俺が居眠りしそうになったら、こっそり起こしてくれないか?」ヒソヒソ

副長「了解です」ヒソヒソ

 

この永久に続くかに思われる旅にも、じきに終わりは来る。そう思えば少しは気が楽になると言うものだ。

もう一度だけ太陽を東から西に受け流して夜を迎えれば、もうそこは日本近海。

日付が変わる前には、横須賀に着ける。

大丈夫、必ず休める。そしたらコーヒー飲みたい。

いや、まずは寝たい。

 

 

 

20日、午前6時。

俺の目覚まし要員が副長→航空参謀(クゥ)砲雷長(ライ)と順繰りに巡る中、俺はこの"太平洋横断航海"における最後の朝を迎えた。

久方ぶりに海図を見る。

 

デスピナ(おお! 日本列島まであと残り300kmくらいじゃないか!)

 

コマンドの海図画面は開きっ放しではあったが、進んでいるのかどうか分からない自分達の矢印を永遠に見続けるのは睡魔との戦いが本格化している現状では苦痛以外の何ものでも無いため、適当な別の画面で中途半端に隠していたのだ。

これが精神的に功を成したようで、周回マラソンの「もう半分は走り切ったからあともう半分で終わる!」と言うアレにより、俺の目蓋は一時的に軽くなった。

 

しかし、やはり眠いモノは眠い。今日のお昼ごろには初めて目蓋を落としきってしまい、ライちゃんに首筋の下のほうを思いっきり蹴られてしまった。やっぱり寝ておけばよかったぜ。

 

道中、翔鶴さんがどこかに連絡を入れているのが聞こえてきた。断片的に聞こえてきた内容から、恐らく相手は横須賀鎮守府の提督と推測できる。だとしたら大方定時連絡あたりだろうか。俺にも時報ボイス下さい(懇願)

 

デスピナ(良かった。あんまりにも静かなもんだからてっきり俺だけあらぬ方向に行って一人になったかと思った……)

 

実際そんな事になったらデスピナ艤装妖精が方向修正してくれるだろう。もしかしたらもうお世話になってるのかもだけどね。自動運転万歳。

そう言えば、俺が睡魔と闘いだしてから主機のほうに全く意識が向いていなかったが、俺に着いて来る形になっている艦娘達との距離がブレていないことから、機関出力のほうも頑張って制御してくれているようだ。

日本に着いたら――副長たちにはもちろん――、デスピナ艤装の機関長にもお礼と共にお菓子でもあげよう。と言うか俺が食べたい。

 

デスピナ「……Zzz

 

――せっかく艦これの世界に転生したんだし、間宮アイスとか伊良子最中とか食べてキラキラ状態になってみたいな。あ、でも居るかどうかが分かr

 

砲雷長「えいっ!」ゲシッ

デスピナ「いてっ……」

 

あぶねー……。

自動運転中でも、居眠りダメ、ゼッタイ。実現出来るかは兎も角。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

昼……。

【脳内BGM:EDF4.1「エンディング(仮)」】

 

デスピナ(『勇敢に戦え! 俺達が勝つ! 行くぞ!! 分かったか!? EDFッEDF!!』)

 

なんとか頭の中で、前世でさんざん聞いてきた歌や音楽、印象的な台詞等をひたすら脳内再生しては、一時的に軽い興奮状態に持ち込んで眠気を紛わせ――

 

副長「……」ゲシッ

デスピナ「――!」ビクッ

 

――られませんでした。

くっそ頭痛い……本格的に、もう眠気なんてレベルじゃないぞ…これは。

疲労の限界どころか、そろそろ命の危険まで感じてきた。前世でネットサーフィンしていた時に何かの記事で読んだが、人間が睡眠を取らずにマトモに活動できる限界の時間は、せいぜい2日程度なのだそう……Zzz。

 

――チョイチョイ

 

やべぇ本格的に頭ガクンてなるとこだった。で、俺の耳たぶ引っ張ってどうした副長?

 

副長「デスピナさん、さすがに艤装のCDCでも、脳波コントロールがむずかしくなって来ました。ここはほんの少し、ばれないように仮眠をとってください。索敵と哨戒はわれわれ乗組員妖精が行いますから」コショコショ

デスピナ「りょーかい。敵が来たら起こして」ヒソヒソ

 

俺は寝不足なんだ! ぶっ倒れたらどうしてくれる! いや自分のせいだけど。

これは有り難い。本当に死んでしまったら元も子も無いので、副長の提案に従う事にしよう。

 

一昨日神通さんが言っていた限りでは、このあたりの海域はもう安全らしいから、多少は……ね。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

夜8時くらい。残り距離……何キロだ?

もう同じ画面がいくつもズレて重なって見えるから何がなんやら……。

 

航空参謀「ヨーロッパだ! ヨーロッパの()だ!」

砲雷長「あれは房総半島。欧州じゃなくて日本」

副長「ついでにいえば大西洋じゃなくて太平洋っと……いよいよ、この長旅も終わりですね。デスピナさん、あとちょっとですから、がんばってください

デスピナ「うん、がんばる……

 

短い睡眠を何度も繰り返した結果、前世における重度の寝不足程度の眠気でなんとか持ちこたえて……いないか。

しかし流石は艦息と言うべきか、今のところは死なずに持ちこたえてはいる。どっちだ。

 

久しぶりに後ろから聞こえた声も、誰のものだったかを思い出すのに数秒を要した。

 

瑞鶴「やっと鎮守府ね。はぁ…よかったー」

神通「この辺りは鎮守府所属の駆逐隊の哨戒区域内ですから、ほぼ安全ですね。デスピナさん、あと3時間ほどで横須賀に到着しますので、もう少しだけ、お願い致します」

デスピナ「…了解です」

 

なけなしの意識で、どうにか返事を済ませる。声が少しだけ高くなってしまったような気がするのは、寝ぼけているときの"起きていますよアピール"のアレだ。

 

――ダメだ、寝なさ過ぎて思考内の語彙力が破綻し始めてるなこれ。

しかし、あと3時間。あと3時間だけだ。

カップ麺があと60個作れる時間で陸に上がれる、すなわち休めるのだ!

 

《あきらめたら終わりだぞ!》定型文

《こらえろ! 起き続けるんだ!》定型文?

《気を確かに持て!》定型文

 

俺の脳内レンジャー達からも、定型文の「挨拶などの会話」の中の「励ます」から色々な言葉を貰った。

 

デスピナ(行くぞ!)

《《オオォォォーーーーーッ!》》

 

俺も定型文の「作戦→移動」の中から適当な返事を返し(重複)、脳内レンジャー達の士気を高める。もう安心だ(定型文)。

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

3時間後。ついに長きに渡る回航を終え、横須賀に到着――したのは大変良かったのだが、

 

《撤回する》定型文

《今のはナシだ》定型文

《なかったことにしろ》定型文

 

デスピナ(こんなはずでは……)定型文

 

翔鶴さんが鎮守府と連絡を取る声を聞き流してから埠頭に上がり、神通さんの指示の下艤装を解除した途端、視界が歪みゆがみ……

 

――ドサッ

――ガゴォーン! ガシャーンッ!!

 

「!? デスピナさん!」

 

視界が夜闇に呑まれる中で最後に聞いたのは、誰のものかも忘れてしまった艦娘の声。

この世界に転生してからのファーストキスは、日本有数の港である横須賀のコンクリート。

 

6月20日、23時3分。

累計8日に及んだ生まれ変わってから最初の無茶は、目的地到着と同時に、過労による昏倒と言う案の条な結果になってしまった。

 

デスピナ(Zzz……)タヒーン

 

散々カッコつけておいてひっじょーにみっともないが、ある意味では、俺は任務を果たしてからようやく休息に入ったのだった。

合流した艦娘達にも轟沈者は出なかったし、初めての無茶振りにしては上手くやったんじゃ無かろうか。いや絶対良くやったよ俺。

 

なにはともあれ、お疲れ様、俺。おやすみ(定型文)。




駆け足で終わらせてしまいましたが、むしろ今までが引っ張りすぎましたので、今後は無理に描写し過ぎず、省ける所は省いて執筆していこうと思います。

また、次話から設定の練り直しと確立を兼ねて、所謂"書き溜め"と言うモノをやってみようと思います。出来ませんでした……orz
また投稿が遅れるかも知れませんてしまっておりますが、何卒ご容赦くださいませ。<(_ _)>

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