"要塞空母デスピナ" スターティングオペレーション!   作:SAIFA

5 / 21
第4話もそうですが、サブタイトルはあえてメタくなるようにつけております。
「蛇の足」とある通り、今回は殆ど蛇足回です。肝心な艦娘との会遇すらまだなのに……。

強いて言えば、デスピナ艤装の便利機能の紹介回と見るべきか、私の思い描く「艦これ」世界を垣間見せる回と言うべきか……。


第5話:~太平洋横断記~「蛇の足」編

こちらの世界に転生して1日目の夕方頃。

 

気絶していた航空参謀が復活し、いよいよ待ちに待った航空機運用の講義の時間である。

はずが……

 

 ザアァァァァァァーーーーー

 

生憎の悪天候である。どうやら熱帯低気圧(=ハリケーン)が発生しているらしく、空一面を濃い灰色の雲が覆っている。嫌な予感的中だよ畜生。

 

積まれている航空機は輸送ヘリを除くとジェット機のみなので、雨天でも飛ばせない事は無いとは思うのだが、航空参謀曰く、

 

航空参謀「せっかくだし、晴れてるときにやった方がいいすよ。ド素人がいきなり視界不良の中でヒコーキ飛ばすのはやめたほうがいいっす」

 

との事である。

変に五月蝿かったりウザかったりする事が玉に瑕の航空参謀だが、艦息としての俺が素人である事は確かだし、彼女はこれでもデスピナ艤装の航空機搭乗員の総括役であり、空のプロでもある。言う事は素直に聞いておいたほうが良いだろう。

五月蝿い時もあるしウザい時もあるが。

つーかコイツら妖精って、本当に女なのか? 声は女の子のそれに近いけど。

 

それはそうとして……

 

 バゴオオォォォォーーン!!

 

デスピナ「!!?」

副長「きゃぁ!!」

砲雷長「ひッ……!」

航空参謀「うわぁっ!?」

 

さっきから(かみなり)が凄い。裕一として日本で良く経験した「ピカっと光ってから何秒後にゴロゴロー」なんて生易しいものではない。「光った瞬間に即ズドーン」である。

 

デスピナ(落雷地点は大分近いな。どうか俺に直撃しませんように……)

 

さっきのはマジでビビッたぞ……全く心臓に悪い。

サンダーボウとかイズナーとか持っていたウイングダイバーのそばで戦っていたエアレイダー達も、こんな思いしながら戦場に居たのだろうか。

 

この艤装に避雷針あったっけ? あるなら立てておきたい。何せこの真っ平らな大海原で一番高いモノと言えば、俺の背中の艤装から伸びるバラムの頭部みたいな形の艦橋だけだ。雷の気持ちになって考えれば絶対にここに落ちるはずだ。

 

デスピナ「副長! この艤装に避雷針は無いのか!?」

副長「今立てます! 艦橋、避雷針よーい!」

 

頭上からわちゃわちゃと声と物音が聞こえた。

やっぱりそこ艦橋だったのね。妖精もちゃんと居るし。

 

今更だが服もグショ濡れで気持ち悪い。着替えるのは叶わなくても、せめて乾かしたい。

横須賀に着く1日前くらいまでには天候回復していると良いのだが。

 

 ピシャァァーーー!!

 

デスピナ「…!! ええい、さっきから鬱陶しい」

副長「裕一さん、右手の指輪を」

デスピナ「ん?」

副長「上に掲げて、「遮音フィールド展開」みたいな事を念じてみてください」

 

雷が来たから金属物の装飾具は捨てろとでも言うのかと思ったが、違った。

 

デスピナ「そんなのもあるのか」(遮音フィールド展開)

 

言われたとおりに右手を掲げ、心の中で念じてみると、自分の身体と艤装をすっぽり包むように半透明な半球状のバリアのようなものが形成された。

EDF4に登場した、「シールドベアラー」が発生させる防御スクリーンに似ていた。デスピナにとっては、自慢の巡航ミサイルの全てが無効化されてしまう、忌々しく憎きアイツだ。

裕一にとっても、空爆を含めたあらゆる攻撃を防がれ、ミッション攻略を難しくしたウザったいアイツである。

フィールドを展開すると、さっきから鬱陶しかった雷鳴に、絶え間なく降り続いているせいで最早すっかり耳に慣れてきた雨音が嘘のように、あたりはシーンと静まり返った。

 

デスピナ「おー、すっかり静かだ」

副長「外側の音は内側に、内側の音は外側にもれないようにするフィールドです。まぁ、百パーセント遮断出来る訳ではないんですけどね」

 

確かに、耳を済ませたらまだ雨音が聞こえる。でも、建物の中で大雨を聞いている時の音よりもずっと小さい。

しかも、ある程度は本当にバリアとしての機能もあるようで、幾何学模様の描かれた半球状のフィールドを雨が伝っている。

先に教えてくれよこういう事は。

 

これなら、航海しながらある程度は服も乾燥させる事が出来そうだ。

湿度が高いなんてもんじゃないから、すごく生乾き臭くなるだろうが、ずぶ濡れで鎮守府の門を叩くよりはマシである。

 

デスピナ「こう言うバリアみたいな物って、他にも何かあるのか?」

副長「ええ、ありますよ。防御スクリーンとか、電磁フィールドとか、色々」

デスピナ「マジかい……」

 

右手の指輪のデザイン、遮音フィールドを展開したときにも思ったが、「赤い宝石に青みがかった銀色」って、明らかにシールドベアラーの特徴的な外見を表したものじゃないか。

 

デスピナ(おいおい、便利すぎだろ幾らなんでも……)

 

まぁ、最大限利用させて頂きますけどね。便利だし。

フォーリナーの卑怯な技術も、味方につけてしまえば非常に頼もしいものだ。感謝してやる。

……まさか本当にフォーリナーの技術な訳無いよな。

 

暫く雨が続くとなると、偶にある深海棲艦の襲撃に対処する以外は、とたんにやる事が無くなる。

え? 晴れの時でも特になにもしてないじゃないかって?

逆に訊くが、何かすることあると思うのか?

相変わらず俺は誰に質問しているんだ……。

 

と、今度は、

 

航空参謀「いよぉっし! んじゃ暇つぶしにしりとりでもしよーぜ!」

 

唐突に、航空参謀がそんな事を言い出した。

今更だが、航空参謀の服装は副長や砲雷長の着ているような白い略服とは大分違い、カーキ色のジャケットを着ていて、頭には帽子ではなくヘッドセットを付けている。

 

副長「んー…まぁ、暇ですし、敵襲が無い間は良いですよ」

デスピナ「そうだな。特に話し合わないといけないような事も無さそうだし」

 

航海をする船の上とは、戦闘や訓練が無いときには途端に暇になるものだ。

裕一が前に居た世界の事を話しても良いのだが、そうしたら平和な一般市民の生活に未練が出てきそうな気がするのでやめておく。

デスピナとしては……覚えていない事も多いし、機会があったら、な。

 

デスピナ「ところで、さっきから砲雷長の声が聞こえないけど、誰か知らない?」

副長「艤装の中でガタガタ震えてます」

 

砲雷長、(かみなり)怖いのね。

そんな事で大丈夫なのか? この先悪天候の中航海する事も多くなるだろうと言うのに。

 

副長が砲雷長を慰め再び兵装の指揮を執らせつつ、しりとりが開始される。

 

 

 

さて、しりとりをしながら航海をしつつ、敵の反応がレーダーに映る度にライオニックで沈めてを繰り返しているのだが、いい加減面倒くさくなってきた。

その内、

 

航空参謀「『ジャギュア』」

デスピナ「『アクィラ』」

砲雷長「『ライオニック』」

CDC妖精「……」ポチ

 

 バシュゥゥーー

 

ライオニックが発射され、敵に向かっていく。

 

副長「えと…えっと…あっ、『クルージング』!」

航空参謀「『グラインドバスター』」

デスピナ「『高雄』」

砲雷長「『オート・メラーラ』」

副長「うーん……『ラッコ』!」

航空参謀「『コマンチ』」

デスピナ「『鳥海』」

砲雷長「『イージスシステム』」

副長「む!? むー、『麦めし』!」

 

ライオニックが敵に着弾する。

 

こんな具合で、しりとりしながらコマンドを操作して敵を沈めている。CDCには暫くの間艤装の管理をまかせっきりだ。俺も怠け者になったものだ。

 

雨と(かみなり)は静まるどころか勢力を増している。まだまだ抜けられなさそうだ。

 

航空参謀「『シーホーク』」

デスピナ「『駆逐イ級』」

砲雷長「『ウェポンベイ』」

副長「い…いー……」

CDC妖精「……」ポチ

 

 バシュゥゥゥーー

 

N5ミサイル発射。もう敵を見つけた瞬間に独断で発射しちゃってるよCDC妖精たち。

後で労いつつ、もう任せっきりになる事が無いようにしないとな。

ところで、N5系列のミサイルってトマホークミサイルに似てるよな。それをベースにしたのだろうか。

 

 

 

副長「『(くち)』!」

デスピナ「『千歳』」

 

もうかれこれ30分くらい続いている。一回、砲雷長の『レールガン』で終わってしまった。

別に誰が決めたというわけでもなく、副長以外は各々一定のジャンルに沿って答えているため、流れによってはそろそろ他のジャンルの単語も使わないとかもしれない。

 

砲雷長「せ……、せ……」

おや? 砲雷長の様子が……。

 

砲雷長「セントリー…ガン……キャノン……、…砲」

デスピナ「流石に無理ありすぎ」

副長「またライちゃんの負けだね」

砲雷長「うぅ……」

 

砲雷長の"(らい)"で「ライちゃん」か。仲良いのね君ら。

副長は何だろう。フクちゃん? 安直すぎか。

 

その内、誰が宣言する事も無く不毛なしりとりは終わり、艤装の(あるじ)はCDCから俺に戻った。

いやね、いい加減飽きるのよ。しりとりみたいな単調すぎる遊びって。

ネタは尽きるしだるくなるし。更に言えば飽きるし。

 

あ、N5ミサイルが着弾した。

重巡3隻と雷巡3隻をワンパンで沈めたらしい。それも全てeliteクラスを。

やはり、それなりに威力は高いな。

にしても、この辺りの海域でeliteとは随分弱いな。さては(はぐ)れ艦隊か?

 

 

 

――――――――・・・・・・・・――――――――

 

 

 

転生3日目の終わり頃。

この世界に転生してから、もうかれこれ2日と半日ほどの時間が経過した。

かれこれと言えるような日数では無いかもしれないが、とにかく暇なのだ。そのせいで時間の流れが非常に長く感じるのだから、もうかれこれと言っても良いじゃないか。

 

そう言えば、俺が転生した辺りの時間が昼間と言う事から時差を計算すると、その時の日本の時刻は朝。裕一として過ごしていた世界との時刻は大体合っているようだ。

CDCに年月日を確認した所、西暦は2024年。裕一として生きていた世界の2017年から7年進んでいて、デスピナとして存在していた世界からは、覚えている限りでは1年ほど早い。

月日は、本日6月15日。つまり中旬か。

何とも中途半端に、元いた世界からは暦がズレている。

 

相変わらず、雨粒が遮音フィールドにたたきつけられては、それを伝い海面に流れ落ちていく。

今日も太陽を見ることなく日が暮れ、時折鳴る(かみなり)と手元のコマンド画面以外に、辺りには明るい物がすっかり無くなった。

濃い灰色をしていた雲もすっかり夜陰に紛れ、水平線の彼方まで暗く沈ませていた。

 

一目見ただけでは本当に雲なのか判らないが、時折落ちる稲光によって影の正体が映し出される。少し綺麗だ。

コマンドから時間を確認した所、この場所はそろそろ深夜0時を廻るらしい。

ずっとレーダーを眺めっぱなしだと変な風に眼が慣れてしまい、肩にある探照灯の存在を忘れてしまっていた。

電気を消した部屋でPCやスマホの画面を見続けたり、夕方ごろから携帯ゲームを始めたらいつの間にか日が沈んで部屋の中が真っ暗になってたとか、そんな感じである。

 

海図にある程度航路と現在地が示されているとは言え、真っ暗闇の大海原を進み続けるのは少し怖いので、いい加減後ろの艤装の肩辺りに位置している探照灯を付ける事にする。

 

デスピナ「副長、探照灯つけてくれるか?」

副長「了解です」

 

よじよじと艤装の連絡通路の右側を登り、反対側に声を掛ける。

ちなみに、現在砲雷長と航空参謀は艤装の中で仮眠をとっている。妖精さんにも睡眠が必要らしいので、交代で見張りをさせる事にしたからだ。

 

副長「誰かー、 そっちの探照灯つけてー」

 

連絡通路左ドアから誰かが出てきた。

 

妖精「探照灯つけるよー」

 

妖精さんだ。羅針盤まわすよーみたいなノリで言葉を発したコイツは、さしずめ照明係だろう。

 

 カチッ ブォォーーン――

 

左右二基ずつ、計4基の探照灯が自動車のヘッドライトのように海面を遠くまで照らす。

心理的に不安を煽ると言われる暗闇の中で、その光は一種の安らぎをもたらしてくれた。安らぐには少々眩し過ぎる気もするが。

 

警戒のためレーダー/ソナーを全画面表示で開きっぱなしだったコマンド画面を切り替え、海図を使い現在地を確認する。

現在地は、まだまだ日本列島から遠い。

 

途中、またまた教えてもらった便利機能の一つ、コマンドメニューの"システムリンク"から

「衛星軌道兵器ノートゥング」による画像を傍受し、ハリケーンの位置と海図を照らし合わせる。偵察衛星としての役割もあるのかソレは。

一体何時の間にあんな戦略兵器を打ち上げたんだ? すぐにバレて撃ち落とされそうなものだが……。

後で副長から聞いておかねば。

 

夜通しで西に向けて2日半も航海し続けたので、経度180度線は越えたようだ。当のハリケーンは俺が目指す方向とは逆の東に移動していたようで、いつのまにか大分外側の辺りにいる。

日本に辿り着くよりもずっと早くに、太陽と再開出来るはずだ。未だに乾ききっていない服を乾燥させるためにも、晴れてくれたほうが都合が良い。

 

デスピナ(それにしても、本当に艦これの世界なのか? ここは)

 

今更ながら、疑い半分にふと考える。

艦これでは確か、戦艦娘アイオワがいた場所が、俺が転生した場所から一番近いハワイだったはずだ。

 

デスピナ(こっちの時系列はどうなっているやら)

 

ゲームと同じ進み方をしているのなら、ハワイはまだ敵の手中に落ちたままだよな。

 

デスピナ(いや待てよ? ハワイにアイオワを助けに行ったあのイベント戦では、作戦の前段階で近くの島に航空基地を建設したんだった。そっちには寄ってみても良かったかも知れないな……今更だけど)

 

だが遭遇した深海棲艦隊の中に、艦これファンの間で改flagshipクラスと呼ばれていたであろう固体が見当たらないあたり、時系列はいくらか前とも考えられる。

いずれにせよ、初めから横須賀に航海を開始して正解だったかも知れない。

 

そう言えば、転生した直後に遭った戦闘以外、深海棲艦の大規模な襲撃は無い。

散発的なのが1時間に1回か2回あるくらいである。ただし全部flagshipかeliteだけど。

案外、深海棲艦の数はそこまで多くないのではないか? いや、今そんな事を考えたって正確な答えが得られるわけないけどな。散発的とはいえ、さっきから襲撃自体はあるんだし。

 

 

 

少し考え事をしては中断してを繰り返して数十分。突然コマンド画面に小さい別ウィンドウが出現した。

それにはこう書かれている。

 

【注意:着用者の身体より過度の空腹状態を検知。食事などの栄養摂取を推奨】

 

との事。

 

副長「ん…デスピナさん、おなかすきませんか?」

デスピナ「別に、ハラ減った感じはしないんだけどなぁ……」

副長「艦娘は、艤装の燃料と弾薬の減りぐあいで空腹感が起きるんですよ。もちろん、それらの有無に関わらず身体のほうに栄養補給が必要なので、頃合いを見て軽く食事は必要なんですけどね。まぁ、このデスピナ艤装に搭載されている機関は燃料いらずの核融合炉ですし、弾薬も自分で生産出来るので空腹感はそう起きない筈です」

デスピナ「なるほ……ん? じゃ何で今お腹空いてるか訊いたんだ?」

 

これくらいの矛盾に気づかないほど、俺はバカではない。

 

副長「それは――ぅ……」キュゥゥ

 

右肩から、なにやら可愛らしい音が聞こえる。

 

デスピナ「……腹、減ったのね」

副長「はい……」

 

睡眠だけでなく食事まで必要らしい。

まぁ、それは俺も一緒らしいので、食べられるものの有無を確認する。

 

デスピナ「何か携帯食料みたいな、軽く食べられる物とか積んで無いのか?」

副長「確認してきます」

 

艤装の中に入り、後ろから小さくガチャガチャゴソゴソと物音が聞こえた。

背負ってる艤装の中全体から物音が聞こえたので、おそらく起きている妖精を総動員して食料在庫の有無を確認しているらしい。

 

デスピナ(何もそこまでしなくても…と言うか、流石にこの大きさの艤装でも食料庫は無いのか)

 

そう言えば、この2日間何も飲んでいないが、水分の方は大丈夫だろうか……。

1分とかからずに、副長が再び俺の右肩に戻ってきた。

 

副長「すみません、艤装の隅々まで確認したのですが、米粒一つありませんでした」

デスピナ「マジですかい……」

 

横須賀に着くころにガリガリになってたりしないだろうか。

 

副長「でもご安心ください! 航空機格納庫の中から、こんな物を発見しました。 航空参謀!」

 

艤装左の格納庫へと続くエレベーター入り口のシャッターが開く。

 

航空参謀「あいよー。ふわぁ~……」

 

欠伸を垂れた航空参謀がシャッターを上げて出てきた。

妖精――航空兵だろうか――を1名引き連れて、ある物を引きずって入り口から少し覗かせる。

 

デスピナ「……釣り竿?」

 

リール付きの釣り竿が短く縮められたものを受け取る。

 

航空参謀「んじゃ、ウチはまた寝るzグェ!」

副長「だーめですよ。もう4時間経ったんだから、私と交代です」

航空参謀「えー……」

副長「えーじゃないです。私だって眠い中仕事してたんですから、次はクゥちゃんの番ですよ」

 

格納庫エレベーター入り口から中央連絡通路を通り、俺の左肩に航空参謀が放り出される。

 

副長「では、頑張ってくださいねー…くぁ~……」

 

そう言って副長は、欠伸と共に中央ブロックの居住スペースに入っていった。

航空参謀のあだ名はクゥちゃんね。覚えた。

 

デスピナ(なんかいいな。こう言うの)

 

彼女達のやりとりを聞き流し、素直にそう思った。

思い返せばたった一人、裕一の世界で転生した初の人間となって以来、誰かと会話しなかった事が全く無い。

俺はこの小さくもやかましく、そして頼りになるデスピナ艤装の乗組員たちに、早くも家族のような温かみを感じ始めていた。

 

 

 

この2日間を、まるで昔のことのように回想する。

もし副長がいなかったら、砲雷長がいなかったら、ついでに航空参謀もいなかったら、要するに会話の出来る妖精、やるべき事をはっきりと指し示してくれたり話し相手となってくれたりする存在が、誰一人としていなかったら……。

俺は転生したばかりで、右も左も分からぬまま深海棲艦に殺されたかも知れない。

上手い事コマンドを扱えて、海図の表示の仕方も分かり、己の英語力の無さを嘆きながら横須賀に向かっていったとしても、何時止むか分からない雨を鬱陶しがり、突然の落雷と何時あるか分からない敵襲に脅えながら、遮音フィールドの張り方も分からずに風邪を拗らせ、そのまま飢えと体温低下で衰弱死したかも知れない。

 

この広い広い太平洋に抱かれながら、己の無力さに嘆き苦しみながら、せっかく転生させてくれたあの女の子の願いを叶えてやる事も出来ないまま、念願だった艦娘に会うことさえ叶わないまま、むざむざと死を受け入れていたかもしれない。

 

……ん? ちょっと待て。そもそもコイツら妖精って、いつから俺の艤装にいたんだ?

まぁ良い。後で詳しく訊いておこう。

 

たとえ俺と副長たちが出会うのが必然だったとしても、彼女達には本当に感謝している。

 

あいも変わらず降り続けている雨は、いつの間にか若干弱まっていた。(かみなり)もすっかり鳴らなくなっている。

どうかこれが、俺の不安を一気に吹き飛ばす、希望の朝日(ひかり)へと繋がってくれますように。

あ、方角真逆だわ。

 

 

 

――で、だ。

 

デスピナ「この釣り竿は……」

航空参謀「魚釣って食えって事じゃないっすか?」

デスピナ「だろうな……ておい。生で食えってか」

 

急に冷たい仕打ちである。現在気温9℃だけに。

 

航空参謀「艤装の中に、簡易的だけど厨房があるんで、そこで加熱すれば良いっすよ」

デスピナ「おぉ、何だかんだで設備は充実してるのな。中途半端だけど」

 

厨房はあるのに食料庫が無いとか、とんだ欠陥空母だよ。そんな艦じゃねーからって? じゃあ何のために厨房あるのかって話だよこの野郎。

でも良かった。腹下せとでも言い出すのかと思った。あ、魚の餌が無い。

 

デスピナ「とりあえず、ダメ元でなんか釣るか」

航空参謀「そうした方が良さそうっす…と言うかしてください腹へりました…」

デスピナ「まぁ待て。それより餌か疑似餌は?」

航空参謀「あー忘れてました。取って来やす」

デスピナ「……」

 

段取りの悪いことで。

本当にこんなのがデスピナの航空参謀で大丈夫なのだろうか。

艤装内に戻ったクゥちゃんこと航空参謀は、両手で魚の玩具みたいな疑似餌を抱えてすぐに戻ってきた。

 

デスピナ「ところで、クゥ。そろそろハリケーンは抜けられそうか?」

航空参謀「お、あだ名で呼んでくれるたぁ嬉しいっすねぇ。…そうだなぁ」

 

再びコマンドでノートゥングからの画像を呼び出し、海図と照らし合わせる。思ったよりも早く抜けられそうだ。

 

航空参謀「あと3~4時間もすれば、お月様も見えてくると思いまっせ」

デスピナ「んじゃ、その時になったら釣り始めるか」

航空参謀「夜の釣りデートと洒落込みましょうや旦那!」

デスピナ「デートって……新しいジョークだな。まぁ良い。小魚の一匹や二匹、すぐに釣ってやるよ」

 

ちょっと言い回しに格好をつけてみる。

 

航空参謀「楽しみに待ってまっすよーっ。て、まだ気は早いっすね」

 

彼女は軽く聞き流す。

 

コマンドから時間を確認すれば、そろそろ深夜1時を廻る頃だ。ハリケーンを抜けたら、遮音フィールドを解除するか。今夜の月は綺麗な事を祈ろう。

 

転生4日目のスタートだ。




以前投稿した話を読み返してみると、私の書き方って最後の締めくくりが毎回、
「さぁ物語はこれからだ」
て感じに無理矢理終わらせちゃっている事に気付きましたとさ。

次回はいよいよ、日本領海に接近&初の航空戦です。
むしろ今までが無理矢理引っ張りすぎた感がすごい…(特に今回)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。