"要塞空母デスピナ" スターティングオペレーション! 作:SAIFA
南鳥島北西に多数の深海棲艦を確認。友軍艦娘が接近していると思われる。デスピナ航空隊は当該海域を捜索、味方艦隊を援護せよ!
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やっと完成しました
何で急いで仕上げたい時に限っていろいろと手が進んじゃうんですかねぇ……。
11/7(火)、誤字や文法ミスの修正、加筆編集。
11/20(月)、結局、第8話のサブタイトルは中編になりました。2週間以上、時間の都合の事もあり中々執筆作業が進まず、それでも少しずつ9話を書いていった結果、案の定長くなってしまったためです……orz
11/23(木)、霧島のメガネを書き忘れていたため追記。
EJ24
ファイターゼロ《こちらファイターゼロ! 敵離島棲鬼のおおよその視察は成功しました! 敵の迎撃機に補足されているため再度の偵察は不可能です。よく聞いてください!》
アタッカーA(ミッドナイト1番機から12番機)に通信が入る。マイクスイッチをONにしたのは隊長機のアタッカー1だ。
アタッカー1《おう、しっかり聞いてるぜ。で、敵はどうなってやがる?》
ファイターゼロ《まず、島の3辺を一周するように沿岸砲台が築かれています。凄い数です! 特に北西側には大型の砲台座を少なくとも5基、間を埋めるように小型の砲台が2・3基ずつ計10基は見えます。 滑走路はおおよそ方位2-2-5から0-4-5に向かって1km以上の長さです。 南側と東側にも、大型砲台3基ずつと小型砲台5・6基ずつ確認しました! 正直、ミッドナイトの1中隊だけで片付けられる規模なのか不明です!》
アタッカー1《後でカロンの増援も来る! 波状攻撃で一気にカタをつける手筈だッ! んなことより、迎撃機の対処は出来そうか!?》
通信が始まってからの心配事をアタッカー1は訊いた。
実際、爆撃隊の心配するべき事項ではないのだが、ファイターゼロは全く意に介さない様子で返答した。
ファイターゼロ《別働のファイター1・2に後ろから落として貰う手筈になっています。 既に了承は得たので、あとは全力で北西に急行するだけです! そもそも俺たちには、北西に飛んでいった"蚊トンボ共"を追撃する任務があります。 こんな所で油売ってられません!》
アタッカー1《あいよっ! 全く頼りになる奴らだぜ。ゼロ中隊、幸運を祈る!》
ファイターゼロ《お互い生きて帰りましょう。 以上、通信終わり!》
ファイターゼロからの通信が切られると、次はアタッカーB中隊の長機であるミッドナイト13番機と、C中隊長機の25番機からの通信が入った。
アタッカー13《アタッカーBよりアタッカーAへ、そろそろ我々は北西に進路を変更します。ご武運を。》
アタッカー25《アタッカーC全機、続くぞ!》
ファイター4《ファイター3、また後でな》
ファイター3《おうよ!》
第3爆撃大隊隷下、アタッカーB・Cの24機とファイター4の36機は、南鳥島が見えるよりも手前で進路を北寄りに変更した。
南鳥島までの距離は残り約180km。巡航速度一杯のマッハ0.8(≠979km/h)で飛行し続ければ10分程で到達する筈なので、それまでに爆撃ルートを決めなければならない。
南鳥島の地図をコクピットのモニターに映し、ファイターゼロが危険を顧みずにもたらしてくれた敵配置の情報を頭の中で丁寧に重ね、爆撃機の進入ルートと必要機数を割り振っていく。
アタッカー1(ファイターゼロを追っかけた迎撃機が南鳥島を中心に右回りに北西に行ったんなら、こっちは南から進入するのが良さそうだな。北西の砲陣地と滑走路を潰すには……さしずめ3機ずつで空爆地点を前後させるしかねぇか。東と南の砲陣地は……)
数十秒ほどで考えをまとめ、隷下のミッドナイト全機と、"戦闘機ファイター"で構成される護衛の
アタッカー1《アタッカーA全機へ! もうすぐ攻撃目標が見える。アタッカー2から6はウチについてこい! 二列に並んで島の南西から侵入、滑走路と砲陣地を同時に潰すぞっ!》
アタッカー2~6《《了解ッ!》》
アタッカー1《アタッカー10から12はそのまま直進して南側を叩け! アタッカー7から9は一度ウチらに追従してから、適当なタイミングで右に旋回して東側だ! いいな!?》
アタッカー2~12《《サーイエスサーッ!!》》
爆撃隊の割り振りは完了した。
アタッカー1《アタッカーAよりファイター3! ウチらはこれから9機と3機の二手に分かれるから、こっちにいくらか護衛寄越してくれ! ウチが率いる9機の内の3機は早めに攻撃に入るから、ちょっとばかし多めに頼むぜ!》
ファイター3《了解。割り振りはこちらで行いますので、いつでも爆撃ルートに入ってください》
あいよ! と最後に一言返し、アタッカー1はマイクスイッチを切った。
空爆直前の最後の通信に、アタッカー1は7番機に追従指示の無線を掛け、10-12の小隊を残して隊を分離し、一度西よりに進路を変更した。南鳥島の南西から北東に頭を向けて進入しながら、離島棲鬼の滑走路と主力となる砲陣地を爆撃するためである。
護衛戦闘機隊のファイター3も、アタッカーAが3:1の割合で分かれたのに従い、ミッドナイト隊
10分後、直進を続けて南側の砲台を叩く事になっているアタッカー10から12のミッドナイト3機小隊が、満載していたクラスター爆弾の投下を開始。前後に分かれて投下タイミングをずらしつつ空爆を実施した。
同時に護衛戦闘機隊であるファイター3隷下の9機が離島棲鬼から迎撃に上がった敵の航空機を撃ち落し、航空優勢を確保。
ズガガガガガーーーーーンッ!!
ダダーーンッ!!
ゴゴゴゴゴゴ……!!
南鳥島南側に設けられた離島棲鬼の多数の砲台は、並べたドミノが連続で倒れ続けていく用に大量の爆発に晒され、砲陣地が息絶える直前に放たれた
そして、今までアタッカー1から6について来ていた7から9が散開し、離島棲鬼東側の砲陣地の爆撃ルートに入る。
ファイター3隷下の9機も随伴する。
南側の砲陣地が粗方消し飛んだのをレーダーで確認すると、アタッカーA全機とファイター3全機に、以前偵察に来ては情報を集め、現在は北西の深海棲艦上空の制空を確保しに向かっているはずのファイターゼロも聞いた、ノイズ
《(ザザザッ)――(ザーザー)『クッ……!? ……イイ…デショウ……! オトシテ…アゲル……!』(ザッザザー)――》
衛星画像で見た時のソレとは違い、海面は紅くなり一層重々しさを増した離島棲鬼を見やり、ECCMを作動させつつノイズだらけの無線に向かってマイクスイッチを押した。
アタッカー1《上等だっ! お前は我らがデスピナ航空隊、
やられた事への復讐心を多く滲ませた声を聞いても、アタッカー1は怯むどころかむしろ、長年待ちわびた好敵手に再開したかのように声を張り上げた。
ECCMによって若干無線が回復したため、アタッカー1からの通信は同空域に居る全ての航空機の受信機に入る。
無線が遮られ一瞬混乱する機もちらほらあったが、ノイズの海を搔き分けるように聞こえた"彼女"の肉声は、突然の怪奇現象に不安を煽られた航空妖精達を安心させるには丁度良い特効薬となった。
それによって鼓舞された士気の高さは、
アタッカー1改め
航空参謀《さーてウチらも、派手に暴れるぞ!!》
アタッカー2~6《《ウォォォォーーーー!!!》》
やがて、アタッカーA隷下の7番機から9番機の小隊が南鳥島上空に到達。東側に展開する砲陣地の一掃を開始した。
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一方その頃。母艦である俺こと要塞空母デスピナは、仕事を終えて帰ってくる航空隊の燃料の事を考え、自分の位置取りを決めようと数十分前に飛ばしたファイター1・2とほぼ同じルートで移動していた。
デスピナ「そう言えば、さっきからクゥが見当たらないけど、副長知らない?」
副長「ミッドナイトに乗り込んで、とっくに空の上です。今頃
デスピナ「え、あいつがアタッカー率いてるの?」
副長「ええもちろん。1番機に」
デスピナ「マジですかい……」
指揮官が直々に攻撃隊に参加して現場の部下と苦楽を共にするとは、上司の鑑じゃないか。
どうりで、あんなに部隊の鼓舞が出来る訳だ。最初ウザイとか思ったり釣竿の餌代わりにしたりしてゴメンよ本当に。
見直したぜ航空参謀。アンタ滅茶苦茶かっけーよ。
デスピナ「副長は、どう思う? 北西に向かった深海棲艦隊」
副長「いつ交戦状態になっていてもおかしくありません。もしかしたら横須賀鎮守府の艦娘たちが来ているのかも知れませんから、ここで恩を売っておくためにも、はやく攻撃隊に到着して欲しい所ですね」
デスピナ「だな」
すぐ後には"戦術爆撃機カロン"36機で構成される
デスピナ(今は、信じて送り出したデスピナ航空隊が頑張ってくれる事に期待するしか無いな)
そう思いながらコマンド画面を再び操作し、ボマー1・ファイター5の発艦準備を始めた。
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南鳥島を東から北西にかけて迂回したファイター1・2は、南鳥島沖40km、高度約70mの所をマッハ0.48(≠587km/h)で飛行しつつ、北西に向かったファイターゼロからの索敵結果を待っていた。
やがて南鳥島の北側を越えるころには、ファイターゼロから通信が入った。
ファイターゼロ《こちらファイターゼロ。北西の敵航空団を発見した。だが現在、わが隊は敵戦闘機に追われている。悪いが叩いてくれるか? やつら
圧倒的に大きい加速度差を活かしての一撃離脱や、高い速度を活かして大回りで後ろにつけて戦闘する選択肢も、あるにはある。しかし、マッハ1越えやアフターバーナー全開で飛行し続けたEJ24の燃料タンクは、その分
最初に母艦デスピナからのブリーフィングで聞いた話では、少なくとも70機の航空機が北西に飛び立ったのだ。それらが向かう先であろう北西に居る深海棲艦達の上空も抑えねばならない以上、偵察と言う任務の都合上燃料消費の激しさを気にしていられず高速で飛行し続けていたファイターゼロとしては、先に確認出来た70機だけでも、苦労してぶら下げてきたミサイルを全弾撃ち放ち、機体を軽くした上で早く帰路についてしまいたいのだ。
ファイター1-1《こちら
ファイターゼロ《今送る》
ファイター1は上昇しつつ、必要な情報を請求する。ファイター2もそれにならい上昇した。
ファイター1とファイター2全機のコクピットの
ファイター1-1《ファイター1全機、加速せよ。 これよりゼロ中隊の後ろの敵を攻撃する。 ファイター2は今は撃たないでくれ》
ファイター2-1《ファイター2、了解》
本命の目標の位置は判ったので、次はファイターゼロの後ろに引きずられるようについて行っている敵戦闘機達の後ろに回りこむ。
右横から眺める形だった時には正確な機数は判らなかったが、目標の後ろに回り込んで確認すると、ファイターゼロの迎撃に上がった敵の戦闘機は30機だった。
ファイター1機につき1機の敵を補足し、ロックオン。中距離ミサイルを発射可能な状態にした。ファイター1所属の全機のコクピットには、目標に対して誰がロックオンしているのかが示された。
ただし、ファイター1含めデスピナ航空団の戦闘機大隊は36機なため、隷下のA~Cの3中隊の内2機ずつ、発射しない機を決めておく。
ファイター1-1《全機、ミサイル発射を許可する。各自の目標と交戦せよ》
ファイター1-13《ファイター1B、交戦》
ファイター1-25《ファイター1C、エンゲージ》
ファイター1-1《よし、ファイター1A、フォックススリー!》
シュゥゥゥーーーッ!!
シッシュゥゥゥーーーーンッ!!
ファイター1-13《ファイター1B、フォックススリー!》
ファイター1-25《ファイター1C、フォックススリー、ファイア!》
続けてB中隊、C中隊もミサイルを発射。
マッハ4で飛翔するミサイル群計30発が、真後ろから深海棲艦の艦上戦闘機に殺到する。
1分後、全てのミサイルが敵戦闘機に直撃。
ファイターゼロを追いかける事に夢中になっていた深海棲艦の戦闘機は、避ける間もなく撃ち落され、母なる海に墜落した。
ファイター1-1《全機撃墜を確認。我が隊はこれよりゼロ中隊に追従する。ファイター2、出番取って悪かったな》
ファイター2-1《気にするな。つぎは俺たちが活躍するからな》
それぞれの長機が会話している所に、ファイターゼロからの無線が割り込む。
ファイターゼロ《ファイター1、梅雨払い感謝する。だがあまり話し込んでもいられん。前方の敵航空団が2手に散開した。交戦中の深海棲艦の艦隊も見え始めている》
ファイター1-1《と言う事は》
ファイター1の隊長妖精は、出撃前に受けた指示とは別に、航空参謀から聞いた予想を思い出していた。
気付けばいつの間にここまで飛んで来たのかと、レーダーの反応を見ながら思っていた。
ファイターゼロ《
EJ24を操る中隊の1番機は少し後悔していた。
EJ24は、1機あたりのミサイル搭載量はファイターに勝る。とは言え、それでも交戦出来る数には制約がある。レーザー砲を搭載し若干程度でも経戦能力に優れ、尚且つ機数も多い戦闘機ファイターのほうに交戦可能数の軍配は上がる。
更に、ファイターゼロの場合は先の偵察行動による燃料の不安もあるため、あまり長く戦場に留まる事は出来ない。さもなくば燃料不足でデスピナに辿り着く前に力尽きてしまう。
敵の航空団をわざわざファイター1・2との合同で同時に対処しようなどと考えなくとも、中距離ミサイルだけでもさっさと全弾撃ちつくして早々に帰路に着き、空域の確保は後続のファイター達に任せてしまう事も出来たのだ。
ファイター1-1《ま、そう言うなって。ゼロ中隊は程々で戦闘を切り上げて帰路についてもらってかまわない。分散した奴等は俺たちが片付ける。ゼロ中隊は敵の観測機や偵察機を優先的に撃墜してくれ》
ファイターゼロ《ファイターゼロ、了解。気遣い感謝する》
ファイター1の提案に従い、ファイターゼロを初めとした"デスピナ戦闘機隊"は、再び交戦を開始した。
ファイターゼロ《全機、観測機を最優先に狙え!
ファイター1-1《ファイター1各機、中隊ごとに散開。左に分かれた奴等を追うぞ》
ファイター2-1《ファイター2全機、我々は右だ。全機、交戦せよ!》
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デスピナ航空隊が各々戦闘を続けている頃、南鳥島北西約400kmほどの海域では多数の深海棲艦の艦隊と、それらの追撃から逃れるために退却を続ける6つの艦娘の姿があった。
艦娘側の内訳は、正規空母二隻と、戦艦四隻。合計6隻。そして頭数をじりじりと減らされている艦載機たち。
内空母娘二人(隻?)は、和弓を射る際に用いられる弓道着のような衣服を身にまとっている。海に持ち出すには一見違和感がある和弓を構えているあたり、本当に弓道着を模した服のようだ。
実際の弓道着と違う所を見るなら、彼女ら二人の片腕に木製の飛行甲板を模した物をこしらえており、背負っている艦橋部を模した艤装が、甲板と共に彼女達の実艦時代だった頃の面影を垣間見せている。
一人は海面を反射する太陽光に負けないくらいの光沢をもった長い銀髪を潮風になびかせ、白い胴着に黒い胸当て(装甲板?)、赤いスカート(袴?)を着こなした和風美人といった風貌の若い女性。飛行甲板は右腕に装備している。
もう一人は、生まれつきの色素の関係かそれとも潮風に晒され続けた結果なのか、やや緑が掛かった黒い頭髪を左右で2つに纏めたいわゆるツインテールの髪型も相まって、まだ少女らしい面影が少しだけ残っている顔立ちの女性だ。藍色の胴着に薄めの茶色のスカートと、迷彩柄の胸当てを着用している。左腕の飛行甲板も、胸当てと同じ迷彩柄だ。
現代の戦闘において陸上は元より、ましてや海での戦いにはとても似つかわしくない和弓を構え、時には敵に直接、時にはやや上に向けて矢を放ち続けていた。
一見、個体差が大きいとはいえ、それでも数十センチの砲弾に耐えられる程度の装甲を持った深海棲艦相手には、一見無力に思える。
しかしそれは、彼女達"空母艦娘"が己の自慢の
「きゃぁっ!?」
「翔鶴姉ぇっ!!」
突然、「翔鶴」と呼ばれた銀髪の女性を爆発が襲う。
深海棲艦側の戦艦の放った艦砲射撃が直撃したのだ。
翔鶴「うぅ……飛行甲板をやられました! 着艦不能! 瑞鶴、私の攻撃隊の収容お願い出来る?」
瑞鶴「分かった! 翔鶴姉ぇは大丈夫!?」
翔鶴「まだ中破だから、まだ……」
瑞鶴「そんな事言って!
迷彩柄にツインテールの女性は、「瑞鶴」。翔鶴の妹であり、「翔鶴型航空母艦」の2番艦である。
自己犠牲的な部分がある姉を心配する様は、姉思いなよい妹の証拠である。
「ショーカク、ソーリー! 私たちの観測機全部墜とされマシタ! 着弾観測不能デース!」
少し離れた所には、見方によっては翔鶴姉妹よりも少々ばかり年上の雰囲気を醸し出している、巫女服装束に似た衣服を着用した女性が4人。
頭には、実艦だった頃に艦橋に搭載されていた、正面から見ると六角形の形をした電探がヘッドギアのように装着されている。背中には物々しく
片言で喋った女性を含め、4人共服装に大きな差異はあまりない。強いて言えばスカートの色と、髪型は大きく異なる。
艦娘達をここまで苦戦させているのは、南東の南鳥島に巣食う離島棲鬼周辺の海域からやって来る深海側の艦隊だ。
偵察機で確認出来ただけでも、戦艦ル級elite二隻、空母ヲ級elite二隻、軽母ヌ級elite二隻、重巡リ級flagship一隻、重巡リ級elite四隻、軽巡ト級elite二隻、駆逐ハ級elite五隻、合計18隻。
上空には多数の艦載機。もちろん深海棲艦の空母と軽空母が放ったものである。数はざっと、70機は居る。
更に後方には、南鳥島に巣食う離島棲鬼周辺に控えている防衛艦隊がいる。このまま戦いが膠着し続ければ、痺れを切らしてこちらに向かってくる恐れもある。艦種はまだはっきりしていないが、日本側にとっても敵側にとっても、重要な戦略拠点である南鳥島の防衛艦隊である。相当に強力な戦力を持った艦で構成された艦隊であろうことは想像に難くない。
瑞鶴「翔鶴姉ぇ、左右から雷巡flagship二隻と駆逐二級elite四隻が1組ずつ来てる!」
翔鶴「なんですって……!?」
続けざまに、艦娘側の艦隊旗艦である翔鶴に悪い知らせが入る。瑞鶴の偵察機が雷巡チ級flagship二隻と駆逐ニ級elite四隻の接近を2つ捉えたのだ。
これで敵艦の合計は30隻に増えてしまった。どうやら、左右から魚雷攻撃で圧殺して足止めしつつ、包囲網を形成しようとしているらしい。
翔鶴「金剛さん!! 0-9-0と1-8-0から敵水雷戦隊が接近しています! 相手をお願いします!」
「金剛」と呼ばれた艦娘は、6隻の艦娘の内弓道着姿の翔鶴と瑞鶴を除けば、人数の関係で巫女装束に砲塔を背負った女性の内の一人である。
長い茶髪と、両サイドに作られたお団子が特徴的な、大学生くらいに成長した見た目の女性だ。
金剛「OKデース! ヘイ、マイシスターズ! とりあえずは魚雷を積んだ敵を撃つヨ! 砲撃準備は良いデスカ!?」
"シスターズ"、本当に血縁上実の姉妹なのかは不明だが、少なくとも実艦時代には本当に「金剛型姉妹艦」として
榛名「うぅ……はい! 榛名は大丈夫です!」
艶やかな長い黒髪の、大和撫子と言っても差し支えの無い程に整った容姿と丁寧な口調が特徴の三番艦「榛名」が答えた。
(もっとも、彼女に限らず
自分の体の事は自分が一番知っているとはよく言ったものだが、既に彼女は中破している。
艦娘である都合上、一見攻撃を食らった箇所が壊れたり破れたりしているようにしか見えないが、実艦に例えれば航空魚雷と砲撃を数発貰っている上に電探も故障している状態だ。観測機が無くなったのは先に述べた通りであり、本当に"大丈夫"と言える状態なのかは、第三者の目からは正直怪しい。
比叡「はいお姉さま! 機関が少し不調ですが、砲撃は問題ありません!」
金剛「比叡は私と、ゆっくり後ろに下がりながら0-9-0からの敵をおもてなしシマース! 榛名は霧島と反対側を頼むネー!」
戦艦「比叡」。艦娘に転生した現世は兎も角、前世では"巡洋戦艦"と言う厳密には所謂戦艦とは別の艦種として建造された金剛型の二番艦である。
長女に似て茶髪だが、髪型はショートに切ってあり、外側に広がるクセがついている。
彼女も榛名と同じく魚雷と艦砲射撃を食らって中破していた。更に脚部の主機が浸水によって出力を落としてしまい、総合的な被害はこちらの方が大きい。
霧島「射撃諸元よし! 次弾装填完了!」
だからと言って、他の姉妹の被害が軽いかと言うと、そんな訳は無い。
姉妹で唯一のメガネ着用者でもある金剛型の末っ子、戦艦「霧島」の損傷も、決して無視は出来ない。
航空魚雷は何とか回避出来たものの、直後に爆弾を食い二番砲塔が故障、金剛型の艤装の特徴の一つである二連装主砲4基の内、一時的に3基に減らされた状態で戦わねばならなくなっていた。
それでも表情一つ変えず、悪態の一つもつかず、何事も無かったかのように砲撃を続けるられのは、普段から艦隊の頭脳を自称しつつも実艦時代から受け継いだ武闘派な側面がある性格故だろうか。
正直な所、戦況はあまり芳しくない。
敵側の多数の機動艦隊によって制空権が奪われた上に、空母二隻の内一隻が中破。戦艦娘の観測機も撃墜され、金剛型自慢の35.6cm連装砲の射程を活かし切れなくなっていた。
理屈の上では、数十キロ離れた敵の艦船を大火力を以て一方的に爆砕する長距離砲も、観測機による着弾観測射撃がなければ、相当数打ち込んでもまともに着弾してくれない代物である。
それ故、戦艦娘にとって"観測機"とは、単に"狙いをつける為の道具"程度の物では無く、狙いを澄まし、より遠くを見渡すための
今の状況は金剛達にとって、戦場で視力を大きく削がれたも同然だった。
逆に、敵側が航空優勢な内に敵戦艦が観測機を飛ばしたらどうなるかは、想像に難くない。
つまり、空母二隻の内比較的損傷は軽微な瑞鶴が、翔鶴の分まで制空権を取り戻さねばなら無い上、敵の艦砲射撃に混じって続けざまに飛来する艦攻や艦爆も撃ち落さねばならないのだ。さもなくばまともに撤退するのは難しく、現に戦艦四隻の足は、機関部に損傷を受けたものがいるためにかなり遅くなっている。彼女らの安全の為にも、早く空からの脅威は片付けてしまいたいのだが、いかんせん敵機の数が多すぎる。
そのため金剛姉妹は絶え間なく降り続ける砲弾の雨を、とりあえず全力で回避運動を取りながら避け続けているものの、時折直撃弾、良くて至近弾を食らってしまうのは、決して彼女達の回避能力に起因する物ではない。
先ほども述べたが、今の彼女達には艦載機が無いのだ。
「視力が悪くまともに狙いが定まらない狙撃手vs視力が良く精密射撃が出来る狙撃手」の戦いの結果など、火を見るよりも明らかである。
このままでは確実に後続の敵艦隊に追いつかれる。せめて比較的近くに居る敵だけでも片付けようと、金剛たち四隻の戦艦は主砲を撃ちつづける。
金剛「ファイヤー!」
ドドンッ! ドドドンッ!!
比叡「主砲、斉射! 当たってぇ!」
ガガンッ! ガガガンッ!!
方位0-9-0からの敵に、金剛と比叡が発砲する。
榛名「勝手は…榛名が…! 許しませんッ!!」
ズダーンッ! ズガガーーーンッ!!
霧島「よし! 斉射ぁー!!」
ダーンッダーンッズダーンッ!!
けただましく砲声が鳴り響く。
数分後、主砲弾が着弾。敵艦隊先頭の旗艦である雷巡チ級flagship二隻の周りに水柱が複数立ち上り、1・2発が命中。一先ず、水雷戦隊の旗艦である雷巡チ級と、もう一隻は片付いた。これで敵水雷戦隊の統率力は大きく削ぐ事が出来た。
"この調子で打ち続ければ、駆逐艦の掃除は楽な筈だ"。
今までの状況が状況だったために、目標が視認出来るくらいの近距離での砲撃戦は、金剛四姉妹に若干の精神的余裕を取り戻すことになった。
もう何回砲声が鳴り響き、どれ程の数の艦載機が撃ち落されたのか分からない。
撤退を開始して1時間程しか経っていないと言うのに、水柱が立ち上り続け海面が飛沫で真っ白に染まる海での時間は、まるでこの世の無限地獄のように永く感じられた。
つい先ほども、翔鶴がもう一発、戦艦の主砲を食らってしまい大破したばかりだ。
金剛たち戦艦四隻の艦砲射撃で、接近してきた深海棲艦を一つ一つ潰してはいるが、接近は不味いと判るとなると、再び戦艦や空母を初めとした敵主力艦達はアウトレンジからの攻撃に専念しだした。
もっとも、敵である深海棲艦はこの場所を「現世の地獄」等と言うありきたりな比喩では許さず、本当の意味で艦娘たちを"地獄"に送ってやるために猛攻を続けているのだが。
現に、瑞鶴の航空隊所属の、かろうじて生き残っている偵察機が、苦戦している翔鶴艦隊全員(艦?)に驚くべき「不都合な未来」の情報をもたらしてくれた。
瑞鶴「索敵結果は……え…そ、そんな…!」
翔鶴「どうしたの? 何が見えたの!?」
偵察機からの索敵報告を受けた瑞鶴は、驚きで言葉を詰まらせた。
当然、艦隊旗艦である翔鶴は、その情報がどんなものであれ聞かなければならない。
大破し、体中に負った傷に顔をしかめながら口を開く。
姉からの催促に対し、瑞鶴は口元を震わせ涙声になりながらも、それでも出来るだけはっきりと、その"事実"を伝えた。
瑞鶴「ひめ…姫が来てる!
方向と距離、そして構成艦種からして、明らかに南鳥島周辺の離島棲鬼防衛に当たっていた筈の艦隊であろう。
最初は70機以上(今は50機程に減少)もいた深海棲艦の艦載機は、敵空母から数機ずつ発艦されて集まった結果だ。一度に数十機……いや、100km以上離れている距離からでも分かるほど"数え切れない"くらいの大規模な航空団が一度に大挙してやって来られれば、艦載機が減少し艤装の損傷も大きい今の翔鶴達にはひとたまりも無い。
金剛「ホワッツ!?」
比叡「ひ、ひえー…!」
榛名「流石にちょっと…大丈夫じゃ無さそう…ですね」
霧島「馬鹿な…! 私の計算では、仮に居たとしてもまだその距離には……!」
翔鶴「瑞鶴、落ち着いて。その艦隊の他に随伴艦はいるの?」
金剛姉妹四隻が各々の反応を示す中、艦隊旗艦である翔鶴だけは、なんとか冷静さを保とうとしていた。
内心は、おそらく他の艦娘達と同じくらいに焦っていたであろうが、せめて横須賀に彼女達を連れて帰る義務がある以上、あからさまな動揺は決して顔に出すわけにはいかなかった。
瑞鶴「う、うん…、戦艦棲姫と、戦艦ル級のflagshipが二隻と、重巡リ級eliteが一隻、あとは駆逐ハ級flagship二隻……あ! 敵機が左右に分かれた!」
翔鶴「不味いわ、このままじゃ挟み撃ちね……皆さん、今から機関出力を最大にしたら、何ノットくらい出せますか?」
今から敵に背中を見せてでも、死に物狂いで逃げるしかない。翔鶴は艦隊旗艦として決断を下した。
金剛「私は全力で走れるネ! でも比叡は多く見積もっても20ノット、榛名も結構なダメージもらっちゃってるから、私か霧島がフォローしてあげないと危ない状況デース!」
幸い、敵の砲撃は幾分か散発的になり、何故か命中率もかなり落ちていた。
リスクはあるが、この状況が続くなら理屈上は離れるほど安全度は増す事になる。
一か八か、この幸運に賭けて逃げるしかない。
翔鶴がそう判断した時だった。
瑞鶴「どうするの、翔鶴ね……!! えぇっ!?」
翔鶴「もうっ、今度は何!?」
翔鶴は、全く好転するどころか悪化しかしない状況に対する愚痴をぶつけるかの如く、妹に吐き捨てた。
だが瑞鶴からの次の報告を聞いた瞬間、翔鶴は妹にあたりつけた事への申し訳なさが吹き飛ぶくらいの衝撃を覚えた。
瑞鶴「敵の航空隊が、同士討ちしてる!?」
翔鶴「えぇっ!?」
妹と全く同じリアクションを返すあたり、やはり瑞鶴の姉と言う事だろうか。
ある意味驚くべき状況ではあるが、これは彼女達にとって最大のチャンスである。
翔鶴「艦隊、回頭! 全力でこの海域から離脱します! 金剛さんと霧島さんは、比叡さんと榛名さんの援護をお願いします。瑞鶴は、引き続き偵察をお願い!」
瑞鶴「分かったよ、翔鶴姉ぇ!」
元翔鶴所属の航空隊も瑞鶴所属の航空隊も、もう殆どが撃墜されてしまったが、足の速い偵察機と、練度の高い航空隊はなんとか生き残っていた。それも撃墜されるのは最早時間の問題だが、引き返させた所で意味はない。
金剛「了解したネー! 霧島、榛名をお願いしマース!」
霧島「分かりました。榛名、動ける?」
榛名「ええ…何とか、大丈夫…」
金剛「さ、比叡、肩貸してあげるから、一緒に頑張りまショウ!」
比叡「お姉様…! ありがとうございます!」
よく慕う姉に助けて貰える比叡は、このような状況でも照れなら喜んでいる。
撤退しながら翔鶴は、「深海棲艦の航空機の同士討ち」について、回避運動を取りつつ簡単に思考した。
深海棲艦には謎が多い。その筆頭が、"鬼"や"姫"と言った、人の言語を操り人並みの知性を持った個体もいれば、いくらでも沸いて出てくる駆逐艦や軽巡のように人語を喋るどころか、行動パターンさえ野生の知性が低い固体もいるなど、頭の程度に明確な「差」がある事だ。
しかし、いくら単体での知能指数が低すぎる固体でも、一度強力な深海棲艦、例えば鬼や姫クラスに指揮されれば、他の深海棲艦に引けを取らない位の統率力を発揮する。
それが、図体が更に小さい艦載機ともなれば、尚の事脳の大きさが(あるかは不明だが)制限されてしまい、"母艦からの命令通りに行動する"と言う基本的なこと以外は出来ない筈だと言う事は、既に何回も言われてきた。
榛名「まさか、味方の増援でしょうか? でも、それなら何で反対側から来るのでしょう?」
翔鶴の思考に呼応するかのように、榛名は誰に言うでもなく問うたが、その問いに答える者が現れる間もなく、瑞鶴の偵察機が見ている状況は刻一刻と変化する。
瑞鶴「後ろからついて来てる戦闘機が、何かを使って…あ、また出した! さっきから白い煙を出す……なんだろう、コレ? とにかく
霧島「墳進弾かしら?」
自称"艦隊の頭脳"こと霧島は、頭の中に設けたデーターベースから、ある兵器についての情報を引っ張り出す。
瑞鶴「見た感じは、確かにそれ。だけど、墳進弾にしてはすごく良く命中してるし、今まで私たちが墜としてきた深海棲艦の戦闘機に、あんなモノ撃つやつはいなかった」
比叡「うーん…敵の空母の数と飛んできてる艦載機の規模からして、どう考えても離島棲鬼から飛んできたやつですよねぇ。新型かしら?」
金剛「でも、それならフレンドリーファイアなんて尚の事有り得ないデース。せっかく
随伴艦達があれやこれやと推測を重ねてはいるが、まだ敵の追撃から逃れた訳ではないためあまり話し込んでもいられない。
そもそも情報が少なすぎるため、今ここで考えても結論など出よう筈も無い。
翔鶴「いずれにせよ、今は逃げ切る事を考えましょう。瑞鶴、敵の航空隊と艦隊の動きはどう?」
瑞鶴「うん…ええと、もう艦攻と艦爆は、居なくなってて……て、戦闘機増えてる! わっ、今度は敵戦艦に向かって攻撃しだした! なにこれ…? ほんともう、意味わかんない!!」
瑞鶴は口では驚きまくりながらも、表情は綻びを出し、声色も何だか嬉しそうだ。
何にせよ、敵を攻撃して時間稼ぎしてくれるのなら、頼らない手は無い。
翔鶴「味方の攻撃機かしら? 深海棲艦を攻撃しているのなら、多少は足止めになりそうね」
敵の艦砲射撃も、さっきまでの猛攻が嘘のようにいつのまにか止み、瑞鶴航空隊の懸命な尽力と翔鶴艦隊の撤退行動によって、航空機による攻撃も戦艦と空母の対空砲火で十分片付けられる数になった。
本当に、今回の海戦は不幸なのか幸運なのか分からない事だらけだ。
もしこの世に幸運の女神とやらがいるのなら、何故もっと早くに降臨なさらなかったのかと、翔鶴艦隊の面々は皆一様に思ったのだった。
「後編」と銘打ってはおりますが、まだ離島棲鬼を完全に攻略しきっていませんので、次の話の長さ次第で第8話は「中編」になるかも知れません。なりましたorz
あと艦娘の性格や口調、果たしてこれで合っているのか分かりませんので、違和感が酷いようでしたら是非ご指摘頂ければと思います。
さて、また明日から仕事しながらネタ考えて、帰ってきたから執筆しなければ。
裕一君永遠に艦娘に会えないまんまで終わってしまうw
本家「要塞空母デスピナ出撃す。」の文字数で数えたら……どれくらいでしょうね。
少なくとも、とっくに鎮守府に到着して、艦娘たちとの交流を楽しみつつ色んな海域で猛威を振るっている頃なのは確実ですね。
私、描写を分かり易くしようとすればするほど、どうしても本編が長くなってしまうんですよね。どうしたものやら……。