この章でも、野球馬鹿みたいなキャラが必要かなと思った。
でも、確実にやらかした気がする。(笑)
イケメンに生まれた!
いや、まだ子供だけど。
でも、両親を見ればわかる。
姉さんを見ればわかる。
さあ、もう一度鏡を見よう。
この将来を約束されたイケメンを思う存分眺めよう。
ちょっと取り乱した。
いや、前世でさ……嫌な思い出があってね。
『勉強も運動もできるし、趣味も結構合うんだけど……顔が嫌いなの』
余計なこと言わずに、普通に振ってくれよおおおおお!
そりゃ、告白してストレスかけたのはこっちだけどさ……『ごめんなさい』とか『好みじゃないから』とかでいいじゃないかよ。
『顔が嫌い』って……自分、どうすればいいか、わからなかったとです。
まあ、ある意味ものすごく正直だったんだろうけど、思春期真っ盛りの中学生には、致命傷だったよ。
その過去を踏まえたうえで、今の俺を笑うか?
笑えるか?
というわけで、前世の記憶を取り戻してからしばらく、鏡を見ては嬉しそうに笑っていた気持ちの悪い帝国貴族の長男でっす。
いや、もう落ち着いてるし、落ち着いたよ。
だって、イケメンはイケメンで大変だからってことに気づいたからね。
自分にも覚えがあるけど、『所詮顔だけ』とか『性格悪いよ』とか、嫉妬も含めて悪意にさらされるのがイケメンの悲しさ。
あれだ、前世の記憶からすると日本人って『顔が良い=善人』で、『顔が悪い=悪人』って無意識に考えるよね。
子どもに読ませる絵本とかもそうじゃん。
悪人はみんな醜く描かれて、善人は良い顔っぽく描かれる。
あれってさ、洗脳だよね。
そのくせ、人は顔じゃないなんて言うの。
まあ、そのへんの面倒くさい部分はまるっと無視して。
俺は、イケメンらしく、中身もイケメン……そう、イケてる魂、イケ魂を育むことにしたんだ。
前世の日本人の感覚じゃ、この世界というか帝国の貴族社会ではちょっとあれだけど、基本は威厳と寛容。
まずは使用人に慕われ、尊敬というか、『さすが』と思われることを目標に、子供時代を過ごした。
礼法、学問、芸術、運動……密度の濃い生活。
以前の俺なら耐えられなかっただろう。
でも、今の俺はイケメンだから耐えられる。
いや、イケメンだからこそ耐えなきゃいけない。
そういえば、健全なる肉体には健全な魂が宿るんだったっけ。
ならばイケメンにはイケ魂が宿る。
そうか、イケ魂は既に俺の中に宿っている。
俺は、そのイケ魂を燃やせばいいってことか。
婚約者ができました。
政略結婚だからって馬鹿にしちゃいけない。
前世のじいちゃんやばあちゃんが言ってたけど、お見合いの結婚ってのは、双方の家同士がいろいろ相談し合って、合いそうな組み合わせを選んでいったんだとか。
つまり、周囲の反応としては家格の上でも釣り合いが取れ、本人たちの相性もよさそうな組み合わせ。
よろしい、ならば俺がそこにイケ魂をニトロターボだ。
そして俺は、婚約者との顔合わせに臨んだ。
美少女です、ありがとうございます。
と、これはちょっとイケ魂じゃないな。
それに彼女、ちょっと表情が硬い……緊張してるからってわけでもなさそう。
じゃあ、イケ魂を燃やしていこうか。
彼女、最初は顔も知らない相手が婚約者に決められたことが嫌だったらしい。
それが今や、俺を見つめてキラキラしてます。
多分俺も、彼女を見つめてキラキラしてる。
でも、現状維持なんてイケ魂のやることじゃない。
さらに上げていこうか。
俺はイケメンだけど貴族の長男だからね。
やることは多い。
領地経営なんかも入ってきた。
商人との交渉も。
知らないで誰かに任せるのと、知った上で誰かに任せるのは違うからね。
当然、これは貴族として知っておくべきことだ。
忙しくて会えない時は、彼女に連絡をとる。
古風に、人を介して手紙を送ったら驚いていた。
でも、とても嬉しそうだった。
ちょっとした贈り物も。
彼女が喜ぶと、俺も嬉しい。
世界が輝いているように見えた。
つまり、イケ魂は世界をキラキラさせる。
皇帝が新しい寵姫を囲ったとか。
囲うもなにも、周りの人間が勝手に押し付けてるだけじゃん。
イケメンが大変なように、皇帝も大変だ。
それで、寵姫の名前は…………うん、うん……?
フリードリヒ4世陛下。
ブラウンシュバイク公。
リッテンハイム、リヒテンラーデ、クロプシュトック、イゼルローン、自由惑星同盟、フェザーン、オーディン、ハイネセン、〇〇〇、△△△、……。
おう、イケメンと美人が多い世界だなと思ってはいたが……銀英伝の世界かよ。
いや、まだだ、まだわからんよ。
だって、俺がいるから。
似てはいても、銀英伝の世界そのままじゃない。
そもそも、そんなことあり得るの?
……そういえば、俺って前世でどうやって死んだんだっけ?
大学以降の、いや、2年の夏……。
そうか、俺は逃げて……死んだんだ。
この人生では逃げたくはないな。
数年後、俺と彼女は無事に結婚した。
俺のイケ魂は、最高に燃え上がっている。
彼女の笑顔が眩しい。
この時ばかりは、世界のキラキラが目に入らなかった。
俺は、彼女だけを見ていた。
彼女も、俺だけを見ていた。
2人だけで世界を完結するのは、イケ魂として良くはないけど、今この瞬間だけは許して欲しい。
それからさらに数年、俺はイケ魂を燃やしつつも、帝国及び同盟、フェザーンなどの動向を調べていた。
ああ、うん。
こりゃあやっぱりラインハルトが勝って、貴族連合が滅ぶのか。
ああ、それはつまり……。
俺と彼女も滅ぶってことか?
背中に、氷の針を突き入れられたかのような悪寒。
自然と、俺の思考は導かれていく。
もう手遅れかもしれないが、殺すなら……。
彼女のキラキラした顔が浮かんだ。
うむ、イケ魂はそんなことしません!
謀略は貴族の嗜みかもしれないが、俺は貴族である前にイケメンで、イケ魂だ。
悪寒が消えていた。
それはさておき、俺の家も、彼女の実家も、帝国貴族の派閥にどっぷりつかったポジションだ。
この世界で、この貴族社会で20年以上も生きてきて、本当の意味での自由な選択肢などない。
複雑に絡み合い、もたれ合うようにして成立しているのが貴族社会だ。
それは人間関係だけじゃなく、領地も含めての複雑さだ。
大貴族なら、星をまるごと領地にしてたりするけど、ウチの領地がある星にはほかの貴族の領地があったりするわけだ。
俺の家の領地改革に関しても有形無形の横槍が入ってくる世界なんだ。
それは、力がある証明であり、力のない証明でもある。
ブラウンシュバイク公や、リッテンハイム候の立場まで行くと、また話は別なんだろうが。
ああでも、上が理性的な判断をしても下が暴発して台無しになるなんてことは普通にあるか。
俺は、皆が寝静まった深夜に、彼女と話をした。
前世とかの話は抜きに、このまま推移すれば帝国を割る内乱が発生し、俺や彼女の属する陣営は滅びの運命をたどるだろうと。
彼女は、優しく俺の頬をなでた。
「あなた、貴族は責任を取るから貴族なの。良くも、悪くも、私たちは責任を取る立場から逃げてはいけない義務がある。帝国の威厳が衰えたなら、それは貴族のせい。平民が不満を持つなら、それも貴族のせい。その責任を背負っているからこそ、あなたも、私も貴族なのよ」
ああ、彼女は、俺なんかよりよっぽど貴族らしい貴族だった。
「勝敗じゃなく、貴族らしく、そしてあなたらしく、キラキラしていきましょう」
彼女もまた、イケ魂だった。
俺と彼女はともに歩む存在。
だったら負けるわけにはいかないな。
時の流れが早い。
貴族連合の一員として、ラインハルトたちと戦う。
多くはないが、艦隊指揮の経験はあった。
俺が指揮する艦隊数は約500。
原作では、貴族連合の私兵とも言える艦隊のだらしなさがクローズアップされていたが、考えるまでもなくそりゃそうだと思う。
だって、軍を相手に戦うことなんか想定してない集団だもの。
想定する相手はせいぜいが海賊で、それも数で威圧の方針だから、スタート地点がまず違う。
一応、この戦いに挑む前に皆には伝えたんだけどな。
負けるから、参加したくない奴はするなって。
減らない。
恋人や妻がいるやつ、家族が心配なやつ、異性と付き合ったことがないやつは、おうちに帰りなさいっていったら、その場の全員が俺を指さして笑いやがった。
みんなに親しまれてるって、なかなか辛いことだったんだな。
まあ、士官じゃなくて平民の兵士までそれを通達したら、ようやく少し減ってくれたよ。
上に立つ人間としては無責任だと思うんだけどね。
死ぬ奴は少ないほうが良い。
だったら戦うなって?
貴族連合の集団なんだよ?
兵を出さないとか、やる気がないなんて、敵対行動と同義で、粛清の対象じゃないか。
戦いの前に滅ぼされて、領地は、暴走した貴族連中に虐殺と略奪のフルコースだよ。
原作で、形勢が判断できないとか、逃げる行動力もないとか言われてたけど、そういう問題じゃないんだよ。
逃げるためには、逃げられるだけの状況が必要なんだ。
人間関係、領地周辺の状況、距離、思惑……タイミング。
ラインハルトに味方するのにも、それだけの状況が必要なんだ。
自分だけが助かって、領地の人間を見殺しにするかい?
イケ魂のやることじゃないし、貴族としても失格だね。
ウチの家の兵士も、そのへんは理解してる。
戦って死なないと、残されたみんなが助からないって。
これは、
そして俺にとっては……生き残ったウチの兵士たちを救うための戦いだ。
「さあ、いこうか!」
そうだ、イケ魂を燃やせ。
最期の瞬間まで。
これを書きながら、ふっとヒロアカの某キャラを連想した。
この話を楽しんでくれたなら幸いですけど、作者としては忘れたい。(笑)
健全なる精神は健全なる肉体に……。
(自分自身と、高校のチームメイトを思い出しつつ)あれって、願望だよね。
体力バカが迷惑な存在だと、手がつけられないもん。(笑)
確か原文というか訳文も、『やどれかし』とかの、『宿ってくださいお願いします』的な願いだったはず。