銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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少し、コンセプトがボケているかもしれません。


19:僕は同盟で育った。

 前世の記憶からすると、人間なんて簡単に壊れる。

 

 療養休暇中だったのに、わざわざ本社のビルの屋上で命を絶った同僚。

 ある日、失踪してそのまま行方不明になった同期。

 ああ、夜中に机の上のディスプレイをぶん投げたやつもいたな。

 いや、それは俺じゃない。

 俺がぶん投げたのは椅子だ、間違うな。

 冬なのに暑くて、シャツ一枚になっても汗が止まらなくて……大変だったぜ。

 今思えば謎なんだが、椅子をぶん投げれば汗が止まると思ったんだ。

 人間が壊れるってのはそういうことだ。

 

 

 まあ、自分のことを振り返っても、寝不足と過労って理由だけで、人間っていきものは、本当に簡単にぶっ壊れるもんさ。

 だからまあ、俺の目の前で目をキラキラさせながら将来を語るこいつが、ぶっ壊れたところで何も不思議には思わない。

 

「僕はもちろん、士官学校を目指すよ。君は?」

 

 俺は今、ちょっとした運命の分かれ道ってやつに直面しているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちた。

 

 どうやら、分かれ道以前の問題だったようだ。

 まあ、前世でもそれなりに努力してたし、今世ではもっと努力してみたが、落ちたものは仕方がない。

 仕方がないんだが……。

 トラバース法に引っかからない絶妙なタイミングで死んじまったな、オヤジ。

 別に帝国が憎いってのはないな。

 戦争だからな、お互い様ってやつだ。

 前向きに考えるか。

 これから何をやろうと、逆縁の不幸だけはやらかさずに済むってな。

 

 俺は風に吹かれるように、歩いていく。

 口笛でも吹きたい気分だ。

 

 さあ、俺に何ができるのかねえ。

 

 

 へえ、新入生代表を務めてるってことは、あいつが、主席合格か。

 そうか、よくある名前とはいえ、あいつはやっぱり原作に登場するアイツなのか。

 しかし、記事に名前とか顔写真を載っけて大丈夫なのかねえ?

 将来の軍の幹部候補の情報なんか、公開するもんじゃないと思うんだが。

 アニメは見てねえから原作がどうこう言えないが、いわゆる前世日本人的に言えば、ハンサムで女にはモテそうだよな。

 まあ、そんなことには見向きもせず、仕事に打ち込んでぶっ壊れたんだろうな。

 俺の経験からすると、誠実で真面目な奴ほどぶっ壊れる。

 ヤンは、ああいう性格だから、能力を発揮し続けられたんだろうなあ。

 しかし、このままだと同盟が大ピンチで、俺の命も大ピンチってことか。

 ふーん。

 原作では同盟の癌扱いだったが、俺に言わせりゃ、作戦を提出したやつより、認可したやつの責任だろ。

 暗殺に関しちゃ、心神耗弱によりってな。

 まあ、それで感情論を納得させられるかというとあれだが。

 つーか、時間さえかければ、人間は洗脳から絶対に逃れられないって言うしな。

 あいつを目の敵にするのはなんか違う気がするぜ。

 

 

 銀英伝の世界か。

 人の命が風に吹かれて飛ぶような軽い世界だ。

 子供の頃から、自分が生き延びるためにはどうすればいいか考えてたんだが、どうもうまくいくイメージがわかない。

 どのルートを選んでも、運とか実力とかに左右されるってな。

 士官学校に落ちたことからもわかるように、俺には華々しく原作に介入するような何かを持ってないってことだ。

 

 大きすぎる夢は歌えない。

 多くのものを救おうとすれば、指の間からこぼれていく。

 程々だ。

 布帛(ふはく)を知れ。

 俺の身の丈にあった望みというか、何か。

 しかしなあ……。

 この世界、『生き延びる』って願いですら身の丈に合ってるかどうか。

 銀英伝は、あの10年程でどれぐらいの人が死んだんだろうな。

 帝国では貴族連中ぶっ殺しーの、10万隻の艦隊って人が何人いるんだ?

 まあ、暴動なんか含めて確実に10億以上死んでるよな……社会的混乱による自然(?)死なんか含めるともっと増えるか。

 仮に20億だとすれば、20人に1人は死ぬ計算か。

 三国志が、確か50~60年ほどで人口が8分の1まで激減したんだったか?

 そう考えると、全然チョロイ……ってそんな単純な話じゃねえし。

 あれは、表面に出てこない人口がかなりあったって推測されたような……。

 

 

 働かなきゃ食えません。

 それなりの遺産はあるが、それとこれとは話は別だ。

 身体を動かすのは好きだし、働くのも好きだ……度を超えなきゃな。

 幸いというか、職種を選ばなきゃ仕事はそれなりに有る。

 都市部の強みだ。

 これが辺境の星系なんかだと話が変わってくるのは、前世の日本と変わらない。

 

 働きながら、通信教育。

 まあ、大学は無理にしても、そのぐらいは頑張るさ。

 家に帰っても1人だしな。

 やることは多いほうがいい。

 しかし、士官学校に受かってたらどうなってたかねえ……成績不振で退学、かかった費用を返還せよ、なんて言われてる可能性もあるか。

 アイツは元気してるかねえ。

 

 

 

 

 よう。

 お、まだ覚えててくれたか。

 久しぶりに見たあいつは、以前より大人びていた。

 軽く抱き合い、再会を喜ぶ。

 そうか、もうすぐ卒業なのか。

 これから、大変だな。

 身体に気をつけろよ。

 睡眠はちゃんと取れよ。

 飯もちゃんと食え。

 おい、笑うなよ、大事なことだぞ。

 それに、笑うなら、『歯磨けよ』のオチをつけてからにしろ。

 

 いけね、このネタ前世のネタだ。

 

 え、俺か?

 俺は、なんとか生きていたよ。

 

 

 

 別に狙ってるわけじゃないんだがな、よく会う。

 今日は、あいつの方から声をかけてきた。

 少し痩せたか。

 いつものように声をかける。

 食事と睡眠。

 

「そして、歯を磨けだろ?」

 

 笑えるのか、大丈夫だな。

 俺は、なんとか生きてるよ。

 食いかけのハンバーガーを押し付けておいた。

 

 

 少し考えてしまう。

 この友達とも言えない軽い付き合いの影響で、原作に介入できるのかと。

 不純にも程があるなと思う。

 ただ、あいつを見てると……前世の友人の顔がちらつく。

 

 飯食えよ。

 寝てるか?

 

 自分にも余裕がなかったといえばそれまでだが、声ぐらいはかけられなかったか?

 

 余計なことを考えるのは暇なせいだな。

 もっと働こう。

 労働が俺を幸せにする。

 つまり、もっと働けば、もっと幸せになれる。

 いや、待て。

 なんか違う。

 前世の記憶が、激しく拒否している。

 ああ、どうやったら生き延びることができるかなんて考えられるのは、そもそも余裕を持って生活しているという前提だな。

 今日を生きるので精一杯。

 今を生きるのに精一杯。

 ああ、つまり……俺は随分鈍っちまったのかな。

 もう少し追い込めば、なにか見えてくるか? 

 

 

 俺は働いた。

 とにかく働いた。

 若さが武器だ。

 身体が資本だ。

 食事は取る。

 睡眠も、効率的に取る。

 そして、不意にアイツと出会う。

 それを繰り返す。

 

 

 

 気が付くと。

 お互いがお互いに。

 

 飯食えよ。

 ちゃんと寝てるか?

 

 そう言い合うようになっていた。

 お互いを指さし、『歯を磨けよ』と言って別れる。

 時間にして10秒もかからない。

 

 多くて年に数回、少ない時は年に1回程度の付き合いだ。

 まあ、こんなもんで原作に介入はできないよな。

 

 

 

 

 は?

 アイツが死んだ。

 いや、聞いてないよ?

 だから、形見分けとか言われても?

 あれ?

 イゼルローンって、まだ落としてないよな?

 え、そのイゼルローン攻防戦で、戦死……ですか、はあ。

 つーか、士官学校卒業時の成績優秀者に送られる記念品って……俺に?

 

 

 アイツに限った事ではなく、軍人は大抵が出陣の際に遺言を認めるらしい。

 そうか、アイツは何度も何度も、死を覚悟しながら生きていたのか。

 軍人だもんな。

 すげえな。

 ホント、すげえな。

 俺は、死を覚悟したことなんかねえな。

 

 

 

 

 それよりも、なあ、お前ってさ……友達いなかったのか?

 同盟軍に、知り合いとかいたんだろ?

 

 

 

 

 

 

 イゼルローンが同盟の手に落ちた。

 

 そして、同盟軍による、帝国領への大規模侵攻作戦が開始された。

 

 

 

 

 え、なんで?

 アイツ死んじゃったよ?

 アイツのせいって言ってたじゃん。

 アイツいないのに?

 じゃあ、この作戦、誰のせいだよ?

 原作のあの作戦は、誰のせいだよ?

 

 この作戦、誰が考えたんだよ!

 

 

 アイツの形見の品を握り締める。

 

 飯食ったか?

 ちゃんと寝ろよ。

 

 そんなアイツの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 同盟市民が、戦勝に湧いている。

 

 はは、最初だけ最初だけ。

 口にはしないけどね。

 

 歴史ってのはこんなもんかねえ。

 誰かがいなくなっても、ほかの誰かがその役割を果たす、みたいな。

 もしくは、同盟社会そのものがこの計画を求めていたのか。

 アイツはたまたま、その役割をあてがわれた。

 アイツがいないから、別の誰かにその役割を与えた。

 誰でも良かった。

 

 前世の、上司の記憶をもとに想像してみた。

 

『同盟軍が大軍をもって華々しく帝国領に侵攻し、勝利を収める作戦を提出したまえ。同盟市民に支持される内容であるのはもちろん、予算のことも当然考慮してだ』

 

 ああ、うん、俺ならその場でぶん殴るな。

 前世の友人も、さすがにぶん投げるわ。

 でもアイツはどうだろうな……。

 

 

 はは、お前は俺の友達さ。

 誰の代わりでもなく、な。 

 

 

 俺は働く。

 俺は飯を食う。

 俺は歯を磨く。

 俺は寝る。

 

 

 

 同盟軍が壊滅的な敗北を喫したことがニュースで流れ、世の中は大騒ぎになっている。

 

 俺は、アイツの形見を眺めながら、今日もつぶやく。

 

 ああ、なんとか生きてるよ。

 

 

 

 

 

 ひどいもんだ。

 ハイネセンから人が逃げ出していく。

 人が泣く。

 人が喚く。

 責任、責任、責任、責任!

 軍に、政府に、人が押しかける。

 

 

 俺の生活から、『働く』が消えた。

 

 

 ああ、なんとか生きてるよ。

 

 

 ちょくちょく、暴動なんかが起きる。

 静かな時も、何かが破れそうな緊張があたりを包んでいる感じがする。

 

 

 俺の生活から『飯を食う』が不足気味になった。

 

 

 ああ、なんとか生きてるよ。

 

 

 俺の生活に、『働く』が戻った。

『飯を食う』も回復しつつある。

 

 

 ああ、なんとか生きてるよ。

 

 

『働く』が消えたり戻ったりを繰り返す。

 人が歩いているのに、不思議なほど活気がない。

 占領されるって、支配されるってこういうことか。

 金があっても物が足りない。

 

 

 

 暴動だ。

 家の外には出ない。

 電気を消し、息を潜める。

 

 

 生活からたまに『寝る』が消える。

 

 

 大丈夫さ、なんとか生きてる。

 

 

 なんとか生きてる。

 それを繰り返すこと、それが生き延びるって……クソが、見境なしかよ、お前ら!

 

 

 おかしいな、精々20人に1人ぐらいしか死なないんじゃなかったか。

 計算間違(ミス)ったか……。

 そりゃ、士官学校も落ちるわ。

 でもなあ……女子供を見殺しにするのはないわ。

 アイツに怒られちまうだろ。

 

 

 そういや、アイツと一緒に飯を食ったことなかったなあ……。

 一緒に飯食ったら、歯を磨かなきゃな……。

 

 

 はは……今から、寝るよ……大丈夫、さ……。

 

 




原作キャラに介入して、原作の流れに介入しよう。
原作に介入したのに、歴史が変わらない絶望。
そういう話だったはずが、友情に走ってしまった。
とりあえず、皆様にアドバイス。

ちゃんと食って寝ろよ。(現実は非情である)
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