銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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伝説は、歴史を大幅にねじ曲げて銀河を駆け抜けていきました。

銀英伝の二次もので地球教に同情が集まる話って珍しいんじゃなかろうか?
大抵、蛇蝎のごとく嫌われてるっぽいし。


証言者2:ある地球教徒。

『地球に詳しいってことは、野球知ってんだろ?一緒に野球やろうぜ、なあ』

 

 あの疫病神と初めて出会った時のことを苦々しく思い出す。

 チルレル子爵家の長男が病死し、棚ぼたで後継者の地位が回ってきた幸運の次男。

 口さがないものが言うには、それまで『行状宜しからず』と他人の目に触れぬように、屋敷の地下牢に幽閉されていたとか……まあ、真偽は定かではない。

 威圧感あふれる身体に、端正なマスク。

 そして、平民である我らに人懐っこく語りかけてくるさまは、貴族らしくはない。

 もちろん、向こうが気安く声をかけてくるといっても、こちらがそれに準ずることはできない。

 貴族と平民の間には、超えられない壁がある。

 ましては相手は、子爵家の子息だ。

 

 もちろん、我らも最初は警戒した。

 しかし、警戒してもグイグイやってくる。

 あまりにしつこいので、面倒を避けるために、キャッチボールとかいうのに付き合った。

 あれが最初の間違いだ。

 

 金属の棒と、革の手袋、そしてボール。

 建物の外から響いてくるのは、やたら大きくて、どこか無邪気な声。

 

『おーい、野球やろうぜー』

 

 知らんわ。

 野球ってなんだ!?

 癇癪を起こして声を荒らげた時もある。

 正直、貴族相手にしまったと思ったのだが、あれはきょとんとした顔でこういった。

 

『おいおい、知らないなら余計に知る必要があるだろ?母なる地球に伝わる、神聖なるスポーツだぜ、野球は』

 

 親が子どもを諭すように。

 思わず、そうなのかーと納得してしまいそうになった。

 そして結局、キャッチボールとやらに付き合わされる。

 くだらん、子供の遊びじゃないか。

 しかし、私が投げるボールと、あれが投げるボールの勢いが明らかに違う。ものすごく違う。桁外れに違う。

 革手袋を構えた位置に飛び込んでくるんじゃなければ、反応できない……というか、不格好な大きい革の手袋越しでも手がものすごく痛い。

 思わず、加減してくれと文句を言ったら。

 

『……本気で投げると、こんな感じなんだが』

 

 それを見て、私は黙った。

 死にたくない。

 我々には果たすべき大義がある。

 命を惜しむのは当たり前のことだ。

 相手は貴族様なのだ。

 適当に相手して、野球の普及と、選手の育成及び、プロリーグの設立などと、語られる夢物語を聞き流していればいいのだ。

 そう、適当に聞き流していたら、『同盟にもリーグを作って、帝国の王者と同盟の王者で、イゼルローンで宇宙一決定戦をおこない、フェザーン経由で全宇宙放映だぜ!』

 飲んでいたお茶を吹き出した。

 あんた本当に帝国の貴族様か?

 同盟じゃなくて、反乱軍だろ!

 

『別に、言葉を飾っても仕方ないだろ』

 

 それはまあ、そうだが……。

 

 

 それからあれは、本気で野球の普及に取り組み始めたらしく、ほとんど顔を見せなくなった。

 ほっとすると同時に、どこか寂しく思ったのは気のせいだ。

 気のせいったら気のせいだ。

 

 まあ、そんな時に限ってふらりとやってくるのがあれだ。

 そして私を見て笑いかけ……いきなり、そばにいた下っ端の信者の腕を掴みあげたのだ。

 いつもと目つきが違う。

 止めるまもなく、信者の腕をあらわにしてしまう。

 まずい、サイオキシン麻薬の……。

 

『ドーピングかよ……』

 

 一瞬、首をひねったのがいけなかった。

 あの疫病神は、信者の身体を抱え上げて猛ダッシュで走り出したからだ。

 

 ……その後の大混乱、強制捜査の数々は思い出したくもない。

 いくらかの時間的猶予があったせいか、サイオキシン麻薬に毒されていない信者と入れ替えることにいくらかは成功を収めたので、地球教の信者の一部がサイオキシン麻薬を常習していたという感じに落ち着いた。

 もちろん、捜査当局の目は厳しく、帝国における我々の動きが著しく制限されたのは言うまでもない。

 それなのにあの疫病神は、平然とやってくるのだ。

 

『おーい、野球やろうぜー』

 

 そうか、これが殺意か。

 自分の身体を流れる血の音を聞いた気がした。

 

『クスリはいけねえぜ、クスリはよ……宗教ってのは、人の心を救うもんじゃねえのか?俺が言えた義理じゃねえが、もう少し信者のことを…』

 

 お前が言うな!!

 

 血の流れる音どころか、血管が切れる音がした。

 

 

 そして、あの疫病神は次々と我々の邪魔をする。

 唸りを上げて襲撃実行者の身体を吹き飛ばす金属の棒。

 冗談じゃない、あのボールでさえ壁が壊れる威力なのだ。

 人の頭なんか……。

 遠くから現場を観察していた私は、疫病神の姿を見た瞬間、逃げ出していた。

 少し後ろめたかったが、私は襲撃計画に関わった仲間の中でオーディンの脱出に唯一成功した。

 

 それから私はしばらく悪夢を見続けた。

『おーい、野球やろうぜー』と、あの悪魔が私の頭をボールに見立て、おいでおいでしてくるのだ……。

 毎晩というか、一晩に二回も三回もだ。

 そんなおぞましい日が何日も続いたある日、私は、サイオキシン麻薬に手を伸ばしている自分に気づいて愕然とした。

 自分の顔をぶん殴ることで、無理やりに目を覚まし……自分の行動があの悪魔のそれとどこか似てきていることに気づいて恐ろしくなった。

 サイオキシンを使えば最後、廃人まっしぐらだ。

 下っ端信者の洗脳ならともかく、幹部たる私が判断力を失うわけにいかない。

 

 キュンメル男爵を利用する暗殺計画も、あの悪魔に潰された。

 なんだあいつは、我々に恨みでもあるのか!

 あるかもしれんが、どう考えても我々の方が恨みが深いぞ!

 

 潜伏している仲間が、街中でいきなりあの悪魔に捕まる。

 なんの根拠もなく、『おまえ、ちょっと来い』と捕まえられて連れて行かれるのだ。

 わけがわからなかったのだが、無事に帰ってきた仲間から話が聞けた。

 

『いい身体してる。身のこなしもいいし、周囲への視線の向けかたとか、才能あると思うぜ。野球やらないか?』

 

 それを聞いて、膝から崩れ落ちた。

 捕まった仲間のほとんどは、相手が地球教にとって因縁の相手だっただけに妙な抵抗をしてしまい、その結果逆に素性が割れて、本当の意味で捕まってしまったらしい。

 くそ、あの悪魔め!

 私は怒りを発散するために、あの悪魔にプレゼントされた金属の棒をなんどもなんども振り回す。

 はるか地平線に向かって、思いっきりボールを投げるのもいいストレス発散になる。

 拾いに行く時はちょっと惨めだが。

 

 いかん、いつの間にかあの悪魔に洗脳されつつある。

 野球狂ならぬ、野球教かッ、おのれ悪魔め。

 

 

 いろいろあって……本当にいろいろあって、嫌になるぐらいいろいろあって、気が付けば、我々の存在も風前の灯。

 まあ、金髪の小僧は主治医の洗脳を失敗した時(これもきっと悪魔のせいだ!)は焦ったが、そのまま病気で死んでくれた。

 もう少し早ければ、子供など生まれなかったものを。

 まあ、新しき後継者が生まれないのは好都合よ。

 子どもを殺す。

 後継者を失って、再び宇宙は混乱に包まれるのだ。

 しかしだ、我々をいつも邪魔するあの悪魔が、今度も邪魔をしないとは限らん。

 というか、断言してもいい、絶対に邪魔をする。

 あの悪魔こそが、我々の真の敵だ。

 邪魔をされるのではなく、最初から悪魔を狙うのだ。

 いつも我々の邪魔をする悪魔を狙うのだから、もはや我々の邪魔をするやつはいない。

 警護の厳しい連中と違って、あの悪魔なら……護衛を連れずに、平然と街中を移動している、あの悪魔なら……やれる、今度こそ。

 

 殺った!

 もはや助かるまい。

 普通なら最初の一撃で死ぬというか、これは3回死んでお釣りが来るレベルだ。

 というか、死ね、死んでくれ!

 致命傷を負いながら大暴れしていた悪魔の動きがようやく止まる。

 はは、ははははは。

 久しぶりに、心から笑えたぞ。

 もう、この悪魔が我々の邪魔をすることはない。

 高らかに笑う私の目の前にいた仲間が、いきなり糸の切れた人形のように倒れる。

 何も映していないと思える悪魔の目。

 その悪魔の腕が、私に向かって伸びてきた。

 

『野球……やろうぜ』

 

 悪魔の瞳は、私を見ていなかった。

 子供のように無邪気に、私の首を……。 




地球教徒:『大司教様!今まさに我々に向かって追い風が吹いてきております!』
大司教様:『おお……暖かな、力強い思い(同情や哀れみ)を感じる』

これで本当におしまいです。
お気づきかもしれませんが、銀河野球馬鹿は、『この世界の人間がその功績を知ることはありません』が、『間接的に、ヤンウェンリーの命を救いました』。
原作歴史、超歪みまくり。(笑)
まさに地球教の天敵で、本人無自覚ですけど殺されても文句は言えない。(笑)
これ(野球馬鹿)で連載やろうと思ったら、やっぱり原作に絡める必要がありますし、そうすると私の原作知識が足りなすぎますね。
主要キャラでも名前とか怪しいですからね……帝国七元帥が全部出てこない私。

……昨日の早朝も人が1000人ほど死にまくる新作(原作マインスイーパーという時点で内容はお察し)書いて、今朝も人が死ぬお話を書く。
ああ、生きてるって素晴らしいなあ。(癒され中)
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