衛宮士郎に憧れた男   作:黒幕系神父

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彼の中の正義の味方は、衛宮士郎だった。


プロローグ「正義の味方」

遠い昔の、おぼろげで、でも確かに覚えている。

そんな、子供の頃の記憶

 

 

 

 

あれはテレビの電源をつけていたときだったか、

 

たまたま目にした、美しい金髪の少女が主人公に召還される場面。

 

 

 

 

 

 

―――声が、でなかった。

 

 

 

あの時に自分の運命は決まったのだろう。

 

美しいと思った。気高いと思った。何より、汚してはいけないと思った。

 

その女の子の瞳の輝きが余りにも今の自分には眩しくて、けれど目を離すことなんて出来なかった。

 

 

一目惚れだった。例え現実には存在していなくても、彼女を知りたいと思った。

 

きっかけはそんなものだ。

そして彼は物語を知り、彼女に憧れた少年は衛宮士郎に憧れた。

 

 

だって仕方がなかったんだ。彼の届かぬ星に手を伸ばすような途方もない夢に、正義の味方になろうとするその精神がきれいだったんだから。

 

 

剣と共に自分の道を突き進んだ衛宮士郎。

 

理想の自分に現実を見せられて、なお理想を抱き続けた衛宮士郎

 

一人の少女のためにこれまでの信念を曲げ、正義の味方を辞めた衛宮士郎

 

 

その全てに憧れた。彼のように生きれたらどれだけいいのだろうかと。ただ、憧れた。

 

 

子供である彼に、衛宮士郎の生き方は劇薬だった。

 

 

 

 

―――結局彼は死んだ。正義の味方などという分不相応な夢を抱いて、大勢の人を救おうとして、誰も救えずに。全てを殺しつくして。

 

 

 

そんな彼が死に、意識がこの世からなくなる時、思い出されたのはあの美しい少女

 

 

 

 

()()()()

 

 

 

 

 

銅色の髪を持つ、正義の味方の少年だった。

 

 

―――理想を抱いて溺死した。

それが彼が衛宮士郎になる前の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐっ!」

―――――ここは、どこだ?

 

声が出ない。この感覚は何だ?これは―――

 

 

ピシリ、という音と共に彼の体はその精神に襲い掛かった。

 

「がっ!?」

 

鉛のように体が痛い。燃えそうに体が熱い

痛い。痛い。痛い。痛い。熱い。熱い。

 

 

体が痛い、それは分かる。

 

 

体が熱い、それも分かる。

 

 

生きている、分からない。

 

 

そうだ。なぜ自分は生きている。僕は確かに、自分は死んだはずでは?

全身に感じるこの説明できない違和感は何だ?

そんな疑問と共に、重くなった眼を開く

 

 

 

 

はじめに見えた手は小さかった。

 

そして体は軽く、酷く動かしにくい。

 

また、自分が死んだ場所と今いるここは違うとも。

 

「―――あっぐっ!?」

 

声なんて出せない。肺が燃えたのか、それは言葉となっていなかった。

だが、ここにいたら死ぬ。間違いなく死ぬ。嫌だ。それはいやだ、しにたくない。

 

 

そうして、どうにも馴染まない体を無理矢理動かし立ちあがって辺りを見回すと、そこには轟々と燃え盛るナニカ。

 

僕は知らないけれど、でもこの体は知っていた。かつてこの体が住んでいた街。記憶にはなくとも、それらには見覚えがある。

 

ふと、気づく。何かが聞こえる。

 

―――これは、声だ。

 

助けてくれと、この子だけでもと、死にたくないと、周囲から聞こえる縋り付く声。

 

焦げ付いた風景。そして、肉が燃える臭い。この独特な、嫌な匂いは知っている。人が燃えている。僕もかつて経験したことがある。

ここは地獄、人の悪意によって生まれた人災。

 

そこまでなら今まで見たことがある地獄と同じ。だが決定的に違う何かがある。そう。あれは…

 

―――空に浮ぶ黒い月。

 

 

それを見た彼はこの地獄をすぐに理解した。してしまった。

 

 

ここは人類悪によって呪われた聖杯の悪意によって汚染され全てが穢れた地獄だと。

 

 

そして、自分はあの”衛宮士郎”になったのだと。

 

 

もう自分は、■ ■ ■ ではないのだと。

 

 

以前の自分は死んだのだと。

 

 

 

―――――――理解、してしまった。

 

 

「っ、く、ぁ…あああああああああッ!!!??!」

 

 

 

 

救えなかった。

 

 

正義の味方を目指したのに、人を救おうとしたのに、彼らを救えなかった。

 

自分が死ぬことなんてのは()()()()()()

 

何も出来なかった。誰も救えなかった。僕はあの時確かに決意したはずなのに。それでも救えなかった。

そんな正義の味方失格の自分があの()()()()()()()()衛宮士郎になるとは何ていう皮肉なのだろうか。

 

 

 

ましてや人格の上書きなど彼を殺したのと変わらない。

 

 

人を救おうとした結果が、正義の味方(あこがれ)を消すこととなるなんて。

 

 

 

 

 

―――嗚呼、けれど

 

こんなこと思ってはいけないのに。

 

 

 

 

 

 

うれしいと思ってしまった。

 

 

 

だって、正義の味方になれるんだから。友人よりも、恩師よりも、好きだった人よりも、そして何より親よりも憧れた

 

 

彼に、正義の味方になれるのだから。

 

 

勿論人を救えなかったことは酷く残念だし悲しい。衛宮士郎を消したという事実は心が折れそうになる

 

 

でも…彼のような、正義の味方になれるかもしれない。

 

 

そう思えばこの地獄も美しいと感じた。生前、救えなかったことも仕方がないと、必要な犠牲だと感じた。それが歪んでいるなんて自分が一番わかってる。そんなこと彼を目指すのならあり得ない考えなのに

 

 

 

夢にみた、正義の味方になれるのだと。この光景と誰も救えなかった過去はその第一歩の地獄だと。

 

 

 

そう、思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

その後は言うまでもない。

 

 

彼は周りの人を誰一人として救えず、衛宮切嗣に救われるという本来の正史を辿った。

 

 

 

 

これは、偽者に憧れた偽者が、本物を目指す物語。




結局セイバーに余り興味がなくなった主人公



hf映画のワカメ見て書く衝動を抑えきれなくなったので。

この作品のコンセプトは正義の味方への憧れがこじれすぎたらどうなるか、というものです。また、主人公を知り尽くした人間は主人公以上の行動を起こせるのか?というテーマもあります。
アンチ・ヘイト物ではなく主人公が最強というわけでもないですが、原作と大きく流れを変える予定なのでご了承ください。

作者名通り僕は愉悦が大好きです。
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