俺を正義の味方にしてくれと。
その出会いは偶然だった。意図して、原作の真似をしたわけじゃない。
後ろからふと声をかけられた。その台詞はまるで自分をバカにしたように、でも驚嘆が溢れているような、そんな台詞。
「なかなかいい仕事するじゃん、お前」
それが俺が友と呼んだ男、慎二との出会いだった。
たまたまに過ぎない邂逅だけど、それでも俺は慎二と友達となり、親友になった。
結局、俺が魔術師であることがバレて、桜に魔術の適正があることが判明して。それで慎二には魔術の才能がないことが分かって。
そうして、慎二はどんどん周囲への恨みから壊れていった。
思想は捻じ曲がって曲解して、最後には慎二と殺しあうことになったけど。
そうであっても、確かに俺はアイツと親友だ。
だから、慎二の暴走を止めようと、もう一度友達になろうとしたんだ。
―――でも
「シンジィイイイイイイイイイイイイイ!」
結局、手は届かず、慎二はビルの屋上から墜ちていった。
そんな彼を見て、どうしようもないほど、俺は無力で。
"だけどさ、俺は頑張った。全力を尽くしたんだから。だったらいいんじゃないか?"
そんな考えがふと浮かんで。
―――違う。そんなわけない。そうだ、そんなこと認められない。
そして
「なんでだよ!なんで俺は!」
意図せず、叫んだ。
もう少し、速く手を伸ばしていれば、慎二を救えたのに。
もう少しで、慎二を助けれたのに。
墜ちていくアイツの絶望した顔を見て、確かに助けを求めた慎二を助けることが出来なくて。
「ちくっ…畜生!畜生!ちくしょおおおおお!」
全力を尽くしたとか、そんな事は関係ない。
俺は皆を救わなければ、助けなければならない。それが衛宮士郎となった俺の責務。
じゃあ今の俺は?
何も救えず、誰も助けれず、そんな俺が正義の味方?
助けを求めた友人すら助けれずに?
そんなものが正義の味方であるはずがない。
どれだけ努力をしようが、それで結果が伴わないんじゃ意味がない。
「こんなザマで」
こんなざまで正義の味方を目指しているなんて本当に…本当に、笑わせる。
ちくしょう…!
結局、慎二は生きていた
ボロボロの慎二の体を支えていた桜が魔術を使ったか、はたまたなんらかの奇跡が起きたのか。
それでもアイツは確かに生きていて、それで、桜ととても仲がよさそうだった。
そんな、そんな兄妹の姿を見て―――
確かに俺は、涙を流した。どうしようもなく、その涙はほおをつたった。
どうしようもなく、その光景を美しいと思った。
ただ、それは、それはつまり。
そうして俺は、ゆれるようにその場を去り―――
感慨深い。
かつての家。俺が衛宮士郎に憑依する前。本来の人格が住んでいた家。その跡地。気づけばそこに俺はいた。
そこには昔の光景はないけれど、でも確かに俺の心に響くものがあった。
でも、それは―――
「ふざけるな…!」
そうだ、ふざけている。
どうしてだ。どうして運命は俺を選んだ。兄と妹の仲睦まじい姿を見て、衛宮士郎の殻は確かに涙を流した。
「ふざけるな、ふざけるな!」
そうだ、それはつまりは
「どうして、どうしてこんな、こんなことをした!」
そうして、どうしようもなく己の魂の性質を呪った。
あの大火災で、彼が。衛宮士郎の人格が完全に消えていたらまだ理解できた。
それは衛宮士郎の死体を乗っ取っただけだ。
仮に生きていて、それで憑依によって本来の魂を消し飛ばしたとしても、それでもあの地獄からの苦しみからは解放されるだろう。だから、彼にとっては救いだと。そう思うことで、罪悪感から逃げていた。
だが。確かに。確かにこの殻は桜という妹の存在に反応した。
それはつまり、つまり、つまり。
衛宮士郎の殻には未だ本来の衛宮士郎の魂が存在している訳で…!
本来の衛宮士郎は確かに俺の中で生きていて、それでも彼は自分の体を動かすことは出来ず、自らの意思を涙、なんてものでしか出せなくて。
そんなもの、ただの地獄でしかない。
その地獄を与え続けている俺が、正義の味方なんて出来るはずもない。
それに、
俺が衛宮士郎になる前の殻、■ ■ ■ももし同じだったら?
いや、それ以前に何十回も俺は転生している。
その全てが体の自由を奪い、彼らの尊厳を踏みにじる憑依だったら…?
だとしたら、俺は何人、何十人の人を犠牲にしたんだ…!
どれだけの人生を奪い尽くせば気が済む。
化け物、なんて言葉すら生ぬるい。
地獄に行くべき存在。悪魔の所業でしかない。
結局
結局そんな俺の行動は…誰かを助けようとする想いは。
偽善でしか、俺の想いは偽善でしかないのか―――?
―――違う。俺の理想は確かに言った。偽善であってもいい、それでも人を救おうとする気持ちは、きっと正しいことだと。
だったら、それでいい。やってやる。
俺は桜を救う、そして本来の人格である衛宮士郎を救う。
それが偽善にすぎなくても、それでも俺は彼らを救ってみせる。
意味が分からない、という人は前編と合わせてみてください。
士郎(偽)の目標:桜を救い、本来の衛宮士郎に体を返すこと。だがその割には自らが死ぬことを許容しているようで…?
殺しあうこととなった原因:士郎が魔術師、桜が魔術の才能を持ち、慎二は魔術の才能がなかった。それだけです。
次回:vsアサシン
現代に戻ります。