衛宮士郎に憧れた男   作:黒幕系神父

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おい、その先は地獄だぞ。


13話「引き継がれる想い」

衛宮士郎に憑依した男。かつて衛宮士郎だった、そして今も衛宮士郎である男。

 

 

彼は果たして衛宮士郎か?

 

 

それは違う。

 

彼は決して衛宮士郎じゃない。

彼は衛宮士郎ではあった。だけどそれは過去だ。今の彼はただ人を乗っ取る存在でしかない。

 

彼が全てを思い出しても、その信念を思い出しても、それでも。

彼は偽者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あっぐっ」

 

 

「何だ、この程度か。さっきの戦いは見事だと思ったんだが拍子抜けだな。いやわりーななんか。」

 

 

 

ボロボロのズタボロで、確かに勝利を確信していた彼は。

呆気なく、大英雄に敗北した。

 

 

衛宮士郎には弱点がある。それが憑依者であろうとなかろうと、英霊エミヤであろうとも。決定的な弱点。それこそが英霊エミヤが2流に成り下がる証とも。

 

 

対魔力。対魔術ともよぼうか、それが衛宮士郎には決定的に足りてない。たとえ特異な魔術を持ち、最強の宝具を持ち、圧倒的経験があっても。

それでも。それだけは、持ち得なかった。

 

ましてや相手は半神でありながら、魔術も極めたエキスパート。

彼が放つルーン魔術を防ぐ手段は衛宮士郎には存在しない。

 

 

 

攻撃面においても、衛宮士郎とクーフーリンの相性は最悪。

 

衛宮士郎が放つ投剣は彼の持つ加護、矢避けの加護で完全に防がれ。所詮人間である衛宮士郎では彼と剣戟を交わらせることすらできず。

 

 

ただそれだけの話。彼がいくら強くなろうが、衛宮士郎はランサー。クーフーリンには決して勝てない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”どうして、こんなことになったんだろうか”

 

俺は、このどうしようもない現実から逃げ出そうとしていた。

でも、地面に広がる冷たい土は確かに俺に現実を教えてくれる。逃げることは出来ない。

 

 

ただただ、自分が今まで歩んできた道を否定されてるようで、例え俺を殺したことがあるクーフーリンであろうと勝てると思っていたのに。

 

 

結局俺は偽者。本来のこの殻すら彼に返せず、桜も今の今まで助けることすら出来なかった。偽者。

 

調子に乗っていたんだ。まるで自分は何でも出来ると思い込んで。俺はいつになったら学習する。

 

まるで悲劇のヒーロー気取りか?84回憑依したからといって、本物に勝てる道理などあるはずがない。そもそもその全てで正義を気取り、その全てを戦いに明け暮れたか?

 

 

 

―――違う、そんなことはない。

 

 

 

俺は力を使わずに世界を救おうともした。

いや。それ以前の問題か。以前の戦いの技術が錆び付いて当然だ。何十。何百年使ってないと思っている。

 

何度だ、何度俺は失敗すれば気がする。こんなことなら、こんなことなら、こんなことなら―――。

 

違う。逃げちゃだめだ。それは俺の悪い癖だ。

 

現実は変わらない。俺がなんとかしないとランサーに殺される。それだけはダメだ。俺が死ぬことで、桜を救えないんじゃ意味がない。

 

ただ一つ、方法はある。

それをすれば俺の全てが消えてなくなってしまうけれど、それでも最高のハッピーエンドを迎える方法。

 

それをするには時間が必要だ。だったら―――立たなくては。

 

 

「ほう?」

 

そんな、まるで曲芸を見たような声音で俺を見てくるランサー。

ふざけるな。俺は見世物じゃない。

 

「いやはや。その傷で立ち上がるたぁたいしたもんだ。俺としちゃ物足りないと思っていたが、なかなか楽しませやがる」

 

 

 

ふざけるな。俺はこんな所で―――。

 

 

 

 

そうだ。俺は諦めない。例え意味なんてなかったとしても。それでも、それでも―――。

 

 

 

 

 

 

 

”ああ。安心した”

 

 

 

 

 

あの時の爺さんのあの顔。あの次に繋げれた安堵の顔。俺が本来の体のときの月下の誓いはもう覚えてないけれど、でも俺が憑依し生まれたこの世界で確かに俺は約束した。

 

 

 

 

正義の味方になると。

 

 

そう、約束したんだ―――!

 

 

 

 

だから、たとえ俺が消えてなくなるとしても、それでも―――

 

 

 

「同調。開始」

 

 

俺はそもそも本来のこの体と合った魂じゃない。

だからか、十全にこの体を使うことが出来ない。

いや、それ以前に。そもそも数多ある体格の人物に憑依してきた。それらの記憶を持つ俺が自身の体に違和感を持つのは必然。真にこの体を扱うことは出来ない。

 

 

俺が独りでは勝てない。だったら本来の衛宮士郎が戦えば。

 

 

本来の魂がこの体を使えば。俺の経験、それを十全に扱うことが出来たなら。

 

 

 

 

その為ならば俺は捨石でいい。

 

 

ヒントは得ている。俺は過去、衛宮士郎だった頃あの宝具を見ている。

ならば投影すればいい。

 

 

「お?何をするつもりか知らんが、面白そうだな。見してみろよ」

 

そんな、完全に人を小ばかにしたクーフーリンの態度が今の俺にはありがたい。そうだ、そんな態度をとり続けろ。その時間こそが俺を呼び覚ます鍵となる。

 

 

 

 

「体は、剣で出来ていた。」

 

 

そうして俺はかのコルキスの女王の逸話の集結。宝具、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を投影し、

 

 

―――――――――自らの体に突き刺した。

 

 

 

 

 

ルールブレイカー。コルキスの女王・メディアの逸話が昇華して生まれた宝具。

その能力はあらゆる魔術的な縛りから開放される能力。その生涯を神に操られ続けた彼女の恨みから生まれた概念武装。

魔術的な縛りからの開放。それは本質ではない。それは擬似的な産物でしかない。

 

 

その性質はあらゆる乗っ取りからの解除。それは最終的に、全てが終わった後に、だが。

神の操りからも免れた彼女の逸話の宝具。

 

彼、憑依者衛宮士郎の魂。その性質は他者の体と魂の乗っ取りである。そんな衛宮士郎が、自身の体にその宝具を突き刺せば当然。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――消える。

 

 

――――――消える。消える。消える。

 

 

 

俺の全てが消えていく。

 

 

 

 

ただ、それでも不思議と後悔はなかった。後は本来の衛宮士郎がなんとかしてくれるだろう。だって彼は俺と一緒に歩み続けたんだから。

だから俺では出来なかったけど、桜を救ってくれると、そう信じている。

 

 

 

―――それに、今更気づいたことだが、どうやら俺は死にたかったらしい。

……当たり前か。

 

他者の精神を乗っ取る存在なんて、正義の味方からしたら害悪そのもの。そんなものに成り下がった俺は、自分自身をどうしようもなく嫌悪していたのだから。

 

 

だから、どうしようもない高揚感が俺を満たしている。

 

ようやく、ようやくだ。

 

ようやく、死ぬことが出来る。他人の体だから、桜を救わなければならないから。そんな言い訳をして生き続けなければならない日々から開放される。

 

もう、俺は衛宮士郎じゃない。あの時の感情も、記憶も、アヴァロンがあっても擦り切れて殆ど思い出していない。

 

 

それでも。

 

 

――――――答えは得た。

 

そうだ。俺はここで脱落するけれど。

他者の体を、精神を、魂を。乗っ取り続けた俺が言うことじゃないけれど。

 

それでも確かに正義の味方を張り続けたことは間違いじゃなかった。

 

俺はいくつもの憑依で地獄を何度も見た、けど、それ以上に笑顔も見てきた。

 

 

だから俺は満足して死ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――消えていく。

 

体が、心が、感情が。決定的な何かが消えていく。

 

 

 

 

もう、俺は自分が何か思い出せない。俺は確かに誰かだった。でも、それでも目指したものがあったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――思い出した。ようやく、思い出した。

 

俺が確かに正義の味方を目指したキッカケ。ただの願い。

あの燃える。全てが燃える地獄。その時見た衛宮切嗣の顔。

誰かの力になりたかったのに、何も救えなかった彼の顔。地獄を覆してほしいと思った、彼の願い。

結局、何もかも零れ落ちた男の果たされなかった願い。

 

それを見て、彼のその顔が余りにも綺麗だったから、俺は正義の味方を目指したんだ。

84回の転生をする前の、確かな”俺”の願い。

 

 

 

俺はもうダメだけど。

後は頼んだ。かつての俺。いや、違う。

 

 

――――――後は頼んだ。正義の味方。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、彼の精神は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ…?)

 

何かが違う。そんな予感を彼、クーフーリンは感じていた。その少年から何かが抜けたような、そんな違和感。

まるで今までの彼は偽者だったと、そんな違和感だった。

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ」

「あん?」

 

 

「そうだ。俺は確かに彼に憧れた。彼が俺に憧れたように、正義の味方を張り続けた彼を俺は確かに憧れた。彼は確かに俺の理想だった。」

 

 

 

ただ正義の味方になろうとする、その生き方に憧れた。その真っ直ぐな、届かぬ星を目指す生き方に憧れた。

 

そして俺は、衛宮士郎になった。

 

 

ただ、一緒にいたかった。体は彼が動かしていたけれど、それでも彼の生き方はどうしようもなく美しかったから、だから彼に体を貸すことに拒否感はなかった。

 

いや。正直に言おう。俺は正義の味方を張り続けた彼と一緒にいれて、嬉しかったんだ。

 

まるで自分も正義の味方であると、そう錯覚させられた。

 

 

 

それはもう夢物語。

そうだ、もう。彼はいない。

 

ただ、彼は何も残さなかったわけじゃない。彼は確かに俺に置き土産を置いていった。

 

その記憶。あらゆる戦闘を繰り返した。英雄シロウの過去。それを俺は全て知ることが出来る。

 

「だから」

 

だからこそ、俺は彼の意思を継ぐ。決して諦めない。俺は――――

 

「その人生が偽善に満ちたものだとしても」

 

それでも

 

「それでも俺は、正義の味方を張り続ける。」

 

 

俺は彼の生涯を見た。

ならば―――そのバトンを受け取らなくちゃ嘘になる。

 

俺は決して彼の選択を否定しない。彼は本物の正義の味方だ。だったらそれを受け取らなくちゃいけない。

 

それこそが、彼が生きた衛宮士郎の証明。

 

 

 

ならば彼のその生涯に意味はあり、

 

その心はきっと。

 

「I am the bone of my sword」

 

―――剣で出来ていた。




オリ主消滅→本来の体の衛宮士郎復活。
衛宮士郎に絶対的な信頼を持つから桜を任せて逝きました。

いやぁーここまで来て原作主人公が初登場。
まあ慎二の過去編でもチラチラ出てたけど。
衛宮士郎(本物)に憧れた男(オリ主)ではなく
衛宮士郎(オリ主)に憧れた男(本物)だったわけです。

物語のあらすじもそう見てくれていいです。

というわけで一応完結。ここから先は衛宮士郎の物語で、オリ主の物語ではないですから。


ルールブレイカー:オリジナル設定。逸話的に出来そう。

I was the bone of my sword:過去形。英雄シロウがもはや衛宮士郎じゃない、別の何かになった証。

I am the bone of my sword:衛宮士郎の口上。確かに彼の体は、剣で出来ている。
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