そして彼は、衛宮士郎と出会う。
「衛宮、一緒に食堂にいかないか?」
慎二からの提案。特に断る理由もなく、
「ああ、今いくよ。―――」
正義の味方の出来損ないである衛宮切嗣との出会い、そして別れ。
魔術とは何なのか。またどのようにすれば正義の味方になるのか。
なるほど、切嗣と話してはっきりとわかった。
これは、どうしようもないくらい憧れても仕方がない。
彼の、その正義を語る全ての発言に力があった。
力の使い方。倫理観。その全てを許容する背中。そして、全てを諦めたかのような、けれど何かにすがりつくような、子供の目。
その全てが、どうしようもなく格好がよかった。正義の味方とはこういうものではないのかと。そう思わされた。
でも、憧れはしなかった。だって、俺は衛宮士郎という存在に憧れたんだから。だから、彼に憧れることなんて出来ない。
所詮正義の味方のなりそこないと、機械の振りをした人間では本物の正義の味方になれないと、彼の言葉を切って捨てた。
とある、満月の夜
となりには自分が救った、正義に狂った少年がいる。彼を見ていると、酷く安心する
”子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた”
ああ 酷く視界がオボロゲだ、もう長くない。僕は今夜息絶えるだろう。
「何だよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」
”うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると、名乗るのが難しくなるんだ。 …そんなこと、もっと早くに気づくべきだった。”
もうどうしようもないくらいに時間が過ぎた。
「そっか、それじゃしょうがないな」
”そうだね、本当にしょうがない”
どうしようもない
”本当に…いい月だ…。”
こんな満月の中死ねるなんて、僕はなんて幸福なんだろう。
「じゃあさ、爺さんは正義の味方って何だと思う?」
その言葉に、酷く心が揺さぶられる。もう心なんて擦り切れているはずなのに
”そ…れは…”
まるで自分の人生を語れと、自分が得た答えを言えと、士郎の眼は語っている。
士郎は決して自分を見失わない。そんなことは一緒に生活していたらわかる
僕はもう消える身だ、だったら、心の底からその言葉を言わなくちゃいけない
どうしようもなく喉が渇く、それを言ったら最後、彼は永遠と呪われた人生を送らないといけなくなるのかもしれない。でも、彼のために、平和のために言わなくてはいけない。
”それはね、大切な人を、自分の大切な関係を守れる人間だ”
”自分を大切に出来ない人間に、他人を救うことなんて出来ない”
”全員を救うなんて、出来ないんだ”
…どの口がいうんだか。父を、母を、妻を、娘を裏切った自分が言うことじゃない。
僕はやはり偽善者だ。彼に全てを救えと、そういえば彼は正義の味方になるはずなのに。
ただ、士郎のことを思えばそんなこといえない。いえるはずがない。
僕の答えは、案の定彼には届かなかった。当たり前だ、本心じゃないしそもそもこんな殺人鬼の言うことに意味はない。
「それでも…ごめんな、爺さん。本当はそうであっても、それが世界の真実だとしても、俺は認められないんだ。だってさ、爺さんは俺を救ってくれたじゃないか。だったら俺は皆を助けるよ。俺には爺さんが言ったそれが正義の味方だと思えないんだ。だって―――全てを救おうとする考えは、決して間違いじゃないんだから」
その言葉に、心の底では求めていたであろう答えに、今までの人生を認められたような気がした。
今までの生き方が、あの聖杯を追い求めた過程を認められたような、何も成していないのに
決して、そんな言葉を認めてはいけないのに、ただ…その言葉に
「ああ…安心した―――」
―――その、酷く満足した顔を見た少年は
「安心して眠りなよ爺さん。俺は絶対に全てを救う」
決して自分の道は間違いじゃないのだと、勘違いをして
こうして彼の正義感はさらに歪んで捻じれていった。
5年後
「衛宮、もうすぐ聖杯戦争が始まる。もうこっちは召喚をした、ライダーだ」
「ああ、こっちも触媒を用意している。今夜にでもはじめようと思う。俺たちの目的を決して忘れるなよ、慎二。」
「言われなくても分かってるさ。それが、僕が聖杯戦争に挑む理由なんだから。」
薄暗い教室で、周りに聞こえないよう話す青髪と銅髪の二人組。
衛宮士郎ともう一人、彼の名は間桐慎二。原作では外道として扱われた少年。
けど、彼は本来外道ではない。自分では扱えない魔術を使う高揚感。自分の本心を曝け出さない義理の妹である桜との関係。彼自身が親友と思っていた衛宮士郎の、人の言う事をきくだけの機械のような、まるで自分との友情は嘘だったかのような行動。
全てが絶妙に絡み合い、彼は外道となった。
そんな未来を知っている故に、正史と違い彼との仲はよくなった。
桜の仲は取り持ったし、魔術に対するコンプレックスの解消、そして衛宮士郎との友情。全てを完璧にした。理想の関係。
本来ではありえない、慎二との共闘。それが桜を救うために俺が取った道だ。
桜との面識はそれほど多くない。原作では桜は衛宮士郎の通い妻のようなことをしていたが、現実は数ある友達の一人、くらいの面識だ。
けれど、それで救わないなんて理由にはならない。
俺の魔術の起源は剣、どうあがいたって桜を救うことなんて出来はしない。ゆえに慎二と共闘して、桜の虫を取り除くための技術を持つ英霊を呼ぶことにしている。
その為に、聖杯戦争を勝ち抜くために、俺は自分の体をいじめ続けた。
俺は英霊であるエミヤを知っている。将来の理想の姿を知っている。その成り方を、知っている。だから俺は強化の魔術よりも投影魔術を鍛えた。
勿論宝具なんて投影できるわけがない。所詮俺は偽者。贋作者としての才能は、本来の衛宮士郎に劣る。
けれど、原作開始時よりかは強い自信がある。決して悪に負けないために体を鍛えた。対マスターで優位になれるよう切嗣が置いていった銃の扱い方を覚えた。
衛宮士郎となってから10年、理想の自分になるために進み続けた。
そして今夜、俺はキャスター、裏切りの魔女・メディアを召喚するつもりだ。そのための触媒も用意した。
俺は本来の衛宮士郎より今の段階では強いし、最強の知識である原作知識がある。キャスターと知識を共有すれば負けはしないだろう。
一番の問題は英雄王であるが…自分の魔術である無限の剣製は英雄王の天敵だ。キャスターの補助があれば宝具の投影を可能にし、優位に戦えるかもしれない。
もっとも、これはキャスターを召喚できればの話だ。
自分の体にはあのアーサー王の触媒である宝具であるアヴァロンが眠っている。だからアーサー王を呼んでしまうのかもしれない。だが、アヴァロンは間違いなく最強の宝具だ。それを所有している限り負けはない。
桜に関しては自分を犠牲にしてアヴァロンを埋め込めば救えるのだから、なんの問題もない。
「でさぁ衛宮。お前はキャスターを召喚するつもりなんだろうけど、気をつけろよ?」
「気をつけるって何がだ?慎二」
「っ!…はぁ…。まったく…。裏切られないよう気をつけろってことだよ。魔術師は外道が多いからな。お前はただでさえお人よしなんだ」
「ああ…そういうことか。わかった。忠告感謝するよ」
「まあ、せいぜい死なないようがんばれよ」
青髪の彼は笑顔で、でも心の底から自分を心配していた。
夜
屋敷の離れには召喚紋があることはしっている。触媒も用意した。グズグズ召喚を先延ばしにしてキャスターを別のマスターに召喚されても困る。ゆえに急がねばならない。
真夜中、彼の声は離れから響いていた。
「素に銀と鉄。祖には我が大師シュバインオーグ。 礎に石と契約の大公。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
召喚紋が輝いている
「セット」
「―――――Anfang」
「――――――告げる」
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
まるで今から出会う英霊には運命を感じるかのような、そんな感覚がある。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
―――当然、その可能性は考えていた。当たり前だ。縁、というのなら彼以上のものはない。
その顔を覚えている。あの時の、衛宮士郎ではない、確かな俺の憧れ。
彼のようになれたら、彼のようになれたら、彼のようになれたら―――
何度も考えた。何度も思った。何度も願った。何度も彼を渇望していた。彼は自分の生きがいであった。
けれど、偽者である自分には決して答えないと、決してありえない奇跡だと。そんなうまく世界は周るわけがないと、そう―――思っていた。
――――――ただ、彼と出会えたことは、嬉しかった。
「問おう」
「君が、私のマスターかね?」
白い髪をなびかせ、赤い外装を纏い、黒っぽい肌の色をした俺の理想
英霊・エミヤがそこにいた。
遠坂うっかりをバタフラエイエフェクトで回避ルート。
慎二との過去はちゃんとします。
独自設定
召喚の呪文;原作まんま。士郎(偽)は原作を知っているため魔術師を信用していません。そのため、魔術的な知識は本来の衛宮士郎&原作知識のみ
そのため、召喚の呪文は原作そのまんまです。