衛宮士郎に憧れた男   作:黒幕系神父

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彼は生前の事を決して忘れない。
例え、正義の味方を目指し続けた結果、大切な人を全てを失った過去であっても。
彼は夢を追い続ける。


2話「理想と現実」

彼、■ ■ ■が衛宮士郎に憑依したのは必然だった。

 

憑依とは別人の魂が体を乗っ取ることである。けれど、そんなことをすれば体と魂の拒絶反応が起きる。

当たり前だ。別人同士のイレモノと中身。それがうまく重なり合うことなどありえない。

アーサー王が持つ最強の回復宝具である全て遠き理想郷であっても、拒絶反応を防ぐことは不可能だ。

 

 

 

 

拒絶反応は起きなかった。彼は何の障害もなく衛宮士郎となった。

 

彼は衛宮士郎になる前からどうしようもなく衛宮士郎だった。

 

 

それは奇跡と呼ぶに相応しい必然であった。決して偶然ではない。衛宮士郎に憧れた■ ■ ■が衛宮士郎と同じ魂の色を持っていたとしても、彼が存在する世界に魂が移動することなどありえない。

 

 

 

それは呪い。過程は違えどあらゆる世界で衛宮士郎は守護者エミヤになるのだと。世界は守護者エミヤを求めていると。

まるで運命が守護者エミヤを生み出そうとしているのだと。

その為に同じ魂の色を持つ■ ■ ■を世界が別世界から招いたのだと。

それだけならまだよかった。

世界はより強固で、完璧な守護者であるエミヤを作ろうとした。

 

もとより便利すぎたのだ。あらゆる剣の宝具を造る固有魔術。英雄の中でも屈指の狙撃技術。そしてその信念。

全てが世界の抑止力たるアラヤにとって素晴らしい手駒だった。

 

完璧な守護者エミヤを作ろうとしたのは、仕方がないのかもしれない。

 

 

今回の聖杯戦争も彼を作るための一つの物語でしかない。

 

より強固で、より高純度の守護者。それを造りだすために守護者エミヤは召喚された。

 

それが本来の衛宮士郎の信念とは別である守護者エミヤが、どのような考えにいたるのか。

 

世界は理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――貴様…!」

マスターである自分の顔を見て、英霊エミヤの顔はまるで般若のようになっていた。その全てを呪う様な、平和な日本で受けることは決してあり得ない類の気。

ただ、死をある程度理解している。それだけの理由で、その気は判断がついた。

圧倒的な殺気を感じる。まるで、今この時こそが命日かのような。

 

―――当たり前だ。今の俺は衛宮士郎である。ならば彼の願いである自分殺しを達成できる今が最大のチャンスだ。正史と違い彼は記憶を失っていない。故に俺は対話を求めなければならない。

 

「――――違う、俺は衛宮士郎じゃない。」

震えるようで、否定したくなくて、でも否定しなければならない。

 

「なに…?」

 

そうだ、違う。俺は正確には衛宮士郎ではない。ゆえに彼と対話をすれば彼と共闘関係になれる。あの英霊エミヤとの共闘。夢のようだと。そう 思っていた

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…」

全て話した。といっても少し言い方を変えたが。自分は元々衛宮士郎ではなく、伝承に残っている英霊エミヤに憧れたと。そして正義の味方を目指そうとしたが結局夢墓場に散った。そして衛宮士郎になったのだと。初めは信じてもらえなかった。とはいえ衛宮士郎じゃない、という発言は彼が自分殺しを望む英雄、エミヤと知っていなければあり得ない発言である。他にも自分が持つ情報を話した結果一応は信じてもらえた。

 

俺は英霊エミヤについて知らないことが多すぎる。勿論fate内で語られたことは覚えているが断片的で情報が少なすぎるのだ。英霊エミヤを知っている前提で話して、間違った事を言うのもこれから信頼関係を置く人物相手に拙い。なので、自分の前世の世界は魔術のない世界、いわゆる並行世界であると話した。これならば多少矛盾した発言をしても問題はない。

 

 

それらを全て話した時、彼は酷く、落胆していた。

当然かもしれない。彼の願いは自分殺し、そして俺は正確には衛宮士郎ではない。だから落胆しているのだと。

だが俺はこれからがんばればいいと、絆を深めていけばいいのだと思っていた。夢である英霊エミヤと共闘が出来るのだと。

 

 

 

 

 

―――そうじゃなかった。甘かった。英霊エミヤの絶望は自分のような凡人では測ることが出来なかった。作中でも凄まじいメンタルを見せた衛宮士郎が、自分殺しを決意するほどの絶望を俺はなめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「違うな、お前の本質は衛宮士郎だ。でなければ憑依など出来るはずがない。」

 

 

「…え?」

 

 

何を言っている

俺は衛宮士郎なんかじゃない。

 

「何だその(つら)は。お前の前世がどうあったとしてもお前の本質は衛宮士郎だ。とはいっても、それは本質であってお前は衛宮士郎じゃない。つまり俺ではない」

 

「ゆえにお前が俺を呼んだのはお前が触媒になったのではなく、アラヤが後押ししたからだ。実際アラヤに召喚されたのと同じ感覚だったしな」

 

彼の言っていることがわからない。それならばなぜアラヤが英霊エミヤを召喚するんだ。

 

「なぜ、といった顔をしているな。お前はアラヤをなめすぎだ。あの性質を何もわかっちゃいない」

 

「アラヤは俺のような不満を持たない、完璧な守護者を作ろうとしたのだろう。その為にわざわざ平行世界からお前の魂をこの世界に呼び、そして俺をお前の前に召喚させた。完璧な守護者、衛宮士郎にするために鍛えろというわけだ。」

 

「ゆえに…まあいい。俺が召喚されている間、お前が強くならなければアラヤが何をしでかすか分からない。とはいえ、俺が大嫌いなお前の目標を俺が叶えるわけにはいかない。お前に聖杯戦争を勝ち進ませるわけにはいかない、なので…こうしようか。」

 

 

そうして、彼は

 

 

 

 

――― I am the bone of my sword.

 

頭が、痛い。

 

 

Steel is my body, and fire is my blood.

 

その詠唱は、知っている。

 

 

 

I have created over a thousand blades.

 

だからこそか、あの光景が、あの光景が、あの地獄が―――

 

 

 

Unknown to Death.

 

やめろ

 

 

Nor known to Life.

 

やめろ

 

 

Have withstood pain to create many weapons.

 

俺にその風景を見せ付けるな。

 

 

Yet, those hands will never hold anything.

 

やめ―――――――――

 

 

 

So as I pray, unlimited blade works.

その体は、きっと剣で出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

回り続ける錆びた歯車、灰色の空、墓標のように突き刺さった大量の剣。それが彼の心象風景。それら全てがまるで世界を呪っているように見えた。

 

 

ピシリ、と頭が響く。そうだ、ここは彼の心象風景。だからこそダイレクトに衛宮士郎である俺に響く。

――――――殺した。

お前は僕たちを殺した。

殺すな。

殺すな。

 

 

殺すな。

僕を殺すな。

俺を殺すな。

私を殺すな。

 

 

僕は僕は俺は俺は僕僕僕僕頃頃頃頃頃頃殺殺殺殺殺殺殺――――――

 

 

 

 

やめろ。

その怨嗟の声をやめろ。

 

俺の過去を侵食するのは、やめてくれ――――――!

 

 

 

狂えるほどの炎の中、確かに俺はあの時。

 

 

確かにあの時、正義の味方を目指した俺は

 

 

 

 

大量の人間を殺した。

 

 

 

 

ヤメ――――――

 

ピシリ、とヒビク音と共に最後の何かが砕け散った。そんな感覚がある。

 

何かが抜けた、決定的な何かが。もはや残っているのは破片だけ。

それらはまるで、剣のように、鍛錬されるように、埋まっていく。

 

痛みは治まり新たな痛みが始まる。まるで別種の痛み。

 

頭が痛い。だが、何だろう。これは俺ではない。いや、俺ではあるが俺ではない。謎の何かが俺を浸食している。俺の精神を狂わせようと。

 

これは――――そうか。これこそが自分の体の中に剣が貯蔵されていくかのような感覚。

 

 

 

 

 

なるほど、この感覚。この墓標を見た今ならわかる。この充実感。この全能感。まさしく今の俺の体は、剣で出来ている。

 

 

「――――――くっは」

ふと、カスれたような、そんな声をしてから気づく。そうだ、俺は英霊エミヤに―――――

顔を上げると、そこにいたのは、決して俺の理想じゃなかった。

何かが分かった。

彼は決定的に終わっている。そして俺は決定的に始まっている。

 

 

 

そうして彼は、そんな酷く充実した顔をしてるであろう自分を見て、皮肉げに笑った。

 

薄い、薄い笑みだった。

 

 

「この光景をよく覚えておけ。何もしてやれないお前に対する、まあ贈り物のようなものだ。お前が何もできないようでは、今回の聖杯戦争で死者が増えるかもしれないからな」

 

 

 

 

そうして、仮初の理想たる彼は傍にあった固有結界内につき刺さった装飾兼備な剣、所有者に勝利をもたらす選択の剣。恋焦がれた少女との思い出たる剣、カリバーンを引き抜き、

 

 

「もしかしたら、お前なら本当に正義の味方になるかもしれない。だが、俺のようにはなるな」

 

「そして一応最後に言っておくが」

 

 

 

「――――俺は、お前の捨石ではない」

 

 

 

「さよならだ」

 

 

選択の剣にて、自らの首を切断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の、全てを諦めたような顔を見て

 

その、血にぬれた現実を見て

 

ボトリ、と落ちた彼の首と共に

 

理想が砕けたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで自分の人生は茶番だと

今までの人生は、彼に召喚されるためにあったのだと

そのために、あの地獄を経験したのだと

 

自分は完璧な守護者エミヤを作るための、彼のための捨石なのだと。

 

彼の否定できない言葉を聞いて、アラヤの後押しによる召喚と知って、

 

 

そう、理解させられた

 

自分の人生は彼のためにあったのだと。そうでなければわざわざアラヤからの後押しだと認識できるような召喚などするはずがない。わざわざ平行世界から魂を持ってくるなんて奇跡、起きるはずがない。元より自分のような未熟者に、アラヤが契約を結びたがるはずもない。

 

ふざけるな…ふざけるな…ふざけるなよアラヤ…!

 

否定したい、けれど衛宮士郎に憑依した彼の発言は憎憎しいほどに否定できなかった。

彼の夢には賛同できない。その為に目の前で自害した。彼の夢なんて絵空事だと。

だが…嫌悪するような夢を持とうが彼は悪人ではない。しかも俺を素晴らしい英雄のように見ていた。悪意ある嘘はつかないだろう。

様々な人間の死を見てきたんだ。それくらい俺にでもわかる。

 

 

何のために人を殺してきたんだ。

何のための人生だったんだ。

なにが正義の味方だ。

そんな事認められない。そんな事を認めてしまったら今まで殺してきた人達はなんだったんだ。

そんなこと、絶対認めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英霊の魂が一つ、聖杯にくべられた。

呪われた聖杯は彼の思念を正確に読み取り、彼の願いをかなえるために鼓動をする。

 

 

彼の本当の願い、正義の味方になるという願い

 

ではなく

 

世界への恨み、自分への恨み。

 

 

その為の世界の消失。

 

 

 

 

衛宮士郎では本来ありえない願い。悪意ある願いが他人を巻き込んでまで英霊エミヤを作ろうとする世界への恨みから噴出した。

 

 

脱落した英霊を聖杯が選ぶなどありえない。しかしその恨みの強さはこの世全ての悪を内包する聖杯をして、自らの主と認めてしまうほどだった。

 

ゆえに染める。英霊エミヤは本来善なる存在。考えをすぐ改めるだろう。なればこそ、絶望している今黒く染める。

その絶望を知った聖杯は決して彼を逃がさない。

 

こうして正義の味方は邪神となった。

これより聖杯にくべられる魂は、邪神召喚の生贄と化す。

 

 

 

 




エミヤ「自分に憧れてる…でも別人だから殺すのもなんだし…かといって彼を強くしなかったらアラヤ何するかわからないし…自害して絶望させたろ!自分も絶望してるしちょうどいいや!こんなの見せられたら守護者になるのはさすがにやめるでしょ!アラヤが何するかわからんからUBW見せて…もう十分働いたよね!」


さすがですエミヤさん。結果全部悪い方に行ってる!貧弱すぎる幸運!さすエミ!


独自解釈:触媒衛宮士郎では英霊エミヤを呼ぶことは不可能、元が同じでももはや完全に別人のため。エミヤが召喚されたのはアラヤの後押しである。(オリ主は触媒衛宮士郎のおかげと思っていた)

カリバーン:エミヤはセイバールートに近いルートを辿ってるらしいので。

エミヤの一人称:地が出ている。私ではなく俺

エミヤの人生はオリ主のための捨石:実際は違います。ですが衛宮士郎への憑依という奇跡。アラヤによる後押し。アラヤのパシりをしていたことによる精神の磨耗。そもそも俺みたいなやつがアラヤ(世界の抑止力)と契約できるのはおかしいという考え。それらが合わさってエミヤは勘違いを起こしました。エミヤって妙に自分を下に見ますよね。
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