キスから始まる異世界百合色冒険譚   作:楠富 つかさ

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第十話 勘違い

「女の子が欲しいんだけど、どこに行けばいい?」

 

宿のいわゆるフロントにいた主人は、そう尋ねた私を見て一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに営業スマイルを浮かべて手をだした。紹介料を要求しているのだろうか。相場が分からないけど、素直に尋ねたら足元を見られてしまうと判断し、銀貨一枚を手渡した。一人当たりの宿代が銀貨二枚。だったら、銀貨一枚というのは少ないという可能性はないだろう。……まぁ、貨幣価値への理解に欠ける部分があるのだが。

 

「予算はどれ程あるのですかい?」

 

顎鬚をさすりながら、上機嫌な声で尋ねる主人。銀貨一枚は多かったようだ。まぁ、渡してしまったものはしょうがない。レリエからは金貨10枚を預かっているが、あまり乱用するべきではないだろう。

 

「金貨4枚が限界かなぁ。出来れば、大手の店がいい」

「4枚ですか……もう少し出していただければ私の知る最高の店を紹介できるのですが……」

 

主人は顎に手を当てたまま唸った。むぅ、複数回行くことを前提に4枚と言ったけれど足りないのか。レリエが持つ金貨は50枚近いらしい。ならば、

 

「7枚。これ以上は無理です」

「承知しました。では、この地図どおりに店へ向かうとよろしいかと。後悔はさせませんぞ?」

 

ニヤリと笑みを浮かべる主人。どうやら彼も、そうとう通っているらしい。その地図を見ながら辿り着いたのが……。

 

「ここ、なんだよなぁ」

 

地球で言うギリシャのような白い石造りと建物。立派な門を構え、いかにも高級そうな佇まいに庶民魂が足を踏み出すことを躊躇させる。かれこれ10分程、ここで建物を眺めているのだが……。

 

「……ふぅ。行こうか」

 

決心して足を踏み出す。重厚な木製の扉を開けると、

 

「いらっしゃいませ、ユール様。宿より連絡を承っております」

 

私を出迎えた店主の男。長身でスーツを着込んだ姿は、ホストにも見えた。どうやら宿から連絡があったらしく、奥には数人の女性――何人かは少女がセクシーな衣装を身に纏って待機していた。……どうやら、18歳未満の風俗嬢もいるらしい。

 

「本日はどのような娘をご所望ですか?」

 

狐のような顔をした店主に尋ねられる。並んでいる女の子達を見ると、本当に粒揃いで悩む。……って、勇者の能力のためにきているのに、つい楽しむつもりでいたや。反省しなきゃ。

 

「そうだね……私に年が近くて賢い女の子がいいかなぁ」

 

私がそう言うと、店主が何か閃いたらしい。

 

「本当は明日から出すつもりだった彼女をご覧頂きましょう。少々お待ちください」

 

店の奥に引っ込む店主。どうやら、デビュー前の女の子を特別に紹介してくれるらしい。

 

「クレア、です」

「彼女は旅商人の娘。見識の広さなら当店随一かと。これも何かの縁、金貨5枚でいかがでしょうか?」

 

クレアと名乗ったのは15歳くらいの少女。緑みがかった髪はセミロングでストレート。瞳は翡翠のように美しい。目鼻立ちも整っており、いかにも快活そうで愛らしい。健康的な色をした肌にはシミ一つなく、一切日焼けしていない部分とのコントラストが美しい。胸元は控えめだが、その分引き締まった肢体に魅力を感じる。まぁ……レリエもステラも胸は大きくない。本当なら自分以外の大きなおっぱいを貪りたいのだが、彼女には将来性を感じる。

 

「うん。彼女にするよ。前払いかな?」

「あぁ、ではお預かりします。書類をお持ちしますので、そちらの部屋で少しお楽しみください」

 

金貨5枚を受け取ると再び店の奥へ引っ込む店主。書類? 就業前の女の子を相手するのだから、諸々手続きがあるのだろうか。にしても、お楽しみください、ね。この世界では同性愛が偏見の対象になっていないのだろうか。どうにも話が早すぎる。

 

「まぁいいか。クレア、よろしくね」

 

通された部屋には大きなベッドと最低限の家具しかなかった。ベッドに女の子座りで向かい合う。ここはさっそく……。

 

「ねぇくれア。君の知っている知識を教えるって思い浮かべてみて?」

「???」

 

僅かな声を上げて疑問の表情を浮かべるクレア。まぁ、それもそうか。ステラの時もそうだったし。

 

「取り敢えず、思い浮かべてみて?」

 

もう一度お願いしてから、こくんと頷いたクレア。そんな彼女の瑞々しそうな唇に自分のそれを重ねる。

 

「「ちゅぅ……ん」」

 

舌は挿れずに優しくキスを交わす。その時、私に流れ込んできた知識はあまりに衝撃的なものだった。

 

「ここ、風俗店じゃないだとぉ!?」

 

……思わず男性口調になる程には衝撃的だったのだ。クレアの「何を今更?」といった表情がそれを加速させたのは言うまでもない。


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