君の瞳のその奥に   作:楠富 つかさ

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最終話 君の瞳のその奥に

 楽しい時間はあっという間、なんてありふれた表現になっちゃうけれど、実際そういうものなんだと初めて理解出来た。二日間にわたる星花祭、当然仕事もあってずっと一緒というわけでもなかったけれど、美海との時間を共有出来て私は嬉しかった。後夜祭も二人でベンチに座って眺めて、踊ることはなかったけど私たちらしい時間の過ごし方だったと思う。後夜祭も全て終わって人が少しずつ帰り始めた時、

 

「部屋に来て。今日は……離れたくないから」

 

そっと呟いた美海に胸の高鳴りを抑えきれなかった。彼女の瞳をじっと見つめる。キスしたい、そう確かに思ったのに……美海に少しだけ叶美を重ねてしまい、力なく目をそらす。

 

「恵玲奈?」

 

二度目だ……。私は美海の恋人なのに。美海とキスしたいはずなのに……どうしても動けない。

 

「美海、こっち向いて」

 

言ってすぐだった。美海が唇を重ねて……ううん、押しつけてきたのは。思ってた以上に荒い口づけに混乱してしまった。

 

 

「恵玲奈、水藤先輩を重ねてもいい。目をそらされるよりもキスしてくれた方が嬉しい。いっぱいキスしよう? そのうち私のことしか考えられなくなるから」

 

そう微笑む彼女に手を引かれ、美海の部屋に向かった。

 

 

 二人でシャワーを浴び、服を着るでもなくベッドに横たわった。間接照明だけで照らされた部屋で、机の上に置かれたポメラが目に付いた。小説を書くのに普段はあれを使ってるんだ。……小説を書く年下の女の子に、小説を読まされてドキドキしちゃって、結局は付き合うようになる。叶美と紅葉ちゃんみたいだ……。

 

 

「恵玲奈、また私以外の女のこと考えているでしょう?」

 

間接照明を消した美海が私を抱き寄せる。真っ暗な部屋に二人、抱き寄せた彼女の瞳が真っ直ぐに私を捉える。彼女の猫のような眼に写った私は……どこか自分でないような風に思えた。自分に叶美を重ねる日がくるとは思ってもみなかったけど。

 

「……ごめん」

 

その謝罪は美海へか、叶美へか、それとも自分にか。

 

「いいよ。いっぱい甘えさせてくれたらね」

 

そう言って口づけを交わす。さっきみたいな乱暴なものではなく、触れるだけの優しい口づけ。甘く柔らかな彼女の唇に触れると、私の心の奥にあるもやもやも少し晴れていく気がして……夢中で彼女をむさぼった。

 

「んちゅ、ちゅぱ……あぅ、ん」

 

膨らみの乏しい身体を重ねているとじわじわと身体が熱を帯びていく。それでもどこか寂しくて、私は一線を越えられない……。身体が美海を求めているのに、心がそれを許してくれない。もどかしくてもどかしくて仕方が無い。私は美海に叶美を重ね、それでも好きだと言ってくれる美海が、私の寂しさを見透かしているようで……。

 

「もっと、甘えさせて?」

 

美海に求められれば求められる程に自分が惨めに思えて……だからこそ、この温もりを離したくない。美海を失えば私には何も残らないのだから。

 

「んちゅ、ちゅぱ、ずちゅぅ……」

 

この温もりを離してしまえば、私はきっと叶美に甘えて……いや、依存してしまうだろう。彼女の幸せを崩すわけにはいかない。だから私は美海に彼女を重ね、愛そうとすることで自分を保っているのだろう。

 

「まだ水藤先輩のことを考えているの? ダメだよ。今は私と恵玲奈だけの世界なんだから……そうでしょう?」

 

そうだとも……だからもっと、甘えて欲しい。私を私たらしめて欲しい。

 

「美海……」

「恵玲奈」

 

いつか、君の瞳のその奥に本当の私を見いだすその日まで……ううん、その後もずっと側に居て欲しい。きっと君に、すべての愛を贈るから。

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