君の瞳のその奥に   作:楠富 つかさ

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第6話 巡り合わせ

 40日ほどの夏休みが終わった九月一日、全校生徒は行動に集まり始業式に参加している。理事長の話はビジネスに少し絡めた分かりやすく聴いていて苦にならない程に短くまとまったものだった。その後、教頭先生から各部や個人の表彰なんかが行われ、最後に校歌を斉唱して終わった。教室へ戻ると、やはりどこか浮かれた雰囲気が教室を支配していた。それもそうだろう、夏休みの間には臨海林間学校や部活の合宿や星花祭の準備も行われており、想い人との距離が大いに縮まったり、恋仲になったりした人も多くいるだろうから。特に高校二年なんて前にも叶美に言ったけれど恋の季節だ。高等部からの入学であっても一年の時間を経て積み重ねた想いが……みたいな、ね。翻って私は……いやぁ、やんなっちゃうね。

 

「恵玲奈? どうかしたの?」

「ううん。なんでもないよ」

 

叶美、どこか自信なさげで隠れ美少女の代表格的存在だった君が今は眩しくてしょうがないよ。立場が人を変えるとはよく言われるけれど、年下の女の子二人から愛されて君は……随分と大人びた魅力を放つようになったよね……。本人に言うことはまぁないだろうけれど、ますます惚れちゃいそうだよ。ほんとに。

 

「何かあったら言ってね。力になるから」

 

叶美に頼るのはちょっと難しい相談だろうなぁって、そんなことを思っているうちに二学期初日は過ぎていった。配布された校内新聞の増刊号をトートに押し込んで、教室を出ると珍しい人に声をかけられた。

 

「西さん、少しいいかしら?」

「え、赤石さん? いいけど、何?」

 

赤石燐、去年のクラスメイトで今年も授業で時折同じ教室になることもあるが、そこまで仲良いわけでもない。夏になる少し前からどこか角が取れて取っつきやすくなったが理由はおそらく恋。叶美が前に中学生から声をかけられているのを見たらしい。そんな赤石さんに言われるがまま食堂にやってきたのだが、座るといきなり

 

「かつてローマの哲学者フェルロック・マーシャルソートはその著書『フィロソフィアの紙片』にて「目に見えるものに手が届かないのならば、見えない障害を排除し損なっている」と記しているわ。至極当然のことよね」

「えっと……どゆこと?」

 

柔らかく微笑む赤石さんの表情に魅せられてつい聴いてしまったが、何のことだかさっぱり分からない。

 

「後輩がね、貴女のことを知りたがっているのよ。どこか辛そうな目をしていう貴女のことをね……」

 

須川さん、か。同じ文芸部に所属している二人。赤石さんは相談しやすい先輩ってわけだ。女の子同士の恋が成就しているから、か……。

 

「赤石さんはさ、どうやって彼女と付き合うようになったの? 年の差もそこそこあるし、考えなかったの?」

 

高二と中学生だと叶美と紅葉ちゃんかおりちゃんと同じだけど、どうにも赤石さんのお相手は中学一年生らしい。学年色を叶美が見てるからまず間違いないはず。

 

「私は……彼女から猛烈にアプローチを受けたから。そういえば響はどうして私のことを好きなんだろう? 考えてもみなかったわね。理由なんてどうでもいいわ。フェルロックと同時代を生きた天文学者のサーディラ・オーフェンはその手記に――――」

「あぁ、そういうのはもういいから! 頭痛くなっちゃうから!」

 

そもそもフェルロックもサーディラも誰だか知らないし。赤石さんのこういう性格は知っていても難しいって。

 

「じゃあ、私は帰りますね」

「いえ、帰るのは私の方ね。そうでしょう?」

「え?」

「……西先輩、ご無沙汰してます」

 

赤石さんの視線の先に、須川さんが立っていた。ごきげんようと言って立ち去る赤石さんを、憎らしいと思ったのがどうしてか、自分には分からなかった。

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