麦茶のペットボトルと豆乳の紙パックが置かれたテーブルを挟んで、私と須川さんが向かい合って座っている。私から声をかけようにも言葉が見付からず、あわあわしていると須川さんが口を開いた。
「すみません、私から声をかけたかったのですが、どうしていいか分からなくて。赤石
先輩に頼ったんです。私、どうしても西先輩のこと、知りたいんです」
真摯なその瞳にあらがうことが出来なかった。私自身、叶美への想いを誰かに相談したかったんだと思う。新聞部や放送部の友達に相談したらきっと心配をかけるし仕事にも響く。ルームメイトもきっと、私以上に抱え込んじゃいそうな性格だから心配をかけたくない。だからってクラスの友達は……恋愛相談が出来るくらいに仲がいいのはほんとに叶美くらいで……だからきっと、須川さんとの出会いは運命なのかもしれない。
「私には好きな人がいるの。髪が綺麗で、ちょっと垂れ目で、笑うとすごく可愛くて、良い匂いがするの。スタイルも良くてさ、抱きしめると柔らかくて暖かくてドキドキしちゃってさ、恋だって気付いたのはいつだったっけかな……。もう分かんないくらい前なのかも」
静かに聞いてくれる須川さんに、私は話し続ける。今年になって叶美に彼女が出来たこと。しかも二人、年下の女の子だったこと。二人ともタイプは別々だけど、私にないものを持っていて、そんな彼女らと付き合うようになって叶美も眩いほどに綺麗になったこと。祝ってあげたいけど、自分が叶美の隣にいないことが悔しいこと、恨みたいのに紅葉ちゃんもかおりちゃんも凄くいい女の子で、そんなことできないこと。二人のことを自慢げに語る叶美の笑顔がほんとにキラキラしていて……そんな叶美にますます心を揺さぶられること。全部、全部話した。心のモヤは晴れなくて、叶美への想いが膨らんで自分の心を押しつぶすような
不安感に迫られて……もう、つらいの。
「先輩」
私の耳に届いた声はとても澄んでいた。私の心と正反対で……でも、染みるようだった。
「私に、恋を教えてください。貴女の恋心を、総て、全て私に向けてください」
それは愛の告白だった。
「赤石先輩じゃないですけど、小説の一文を引用させてもらいますね。楠奏絵が書いた短編集の冒頭に『失恋を引き摺ったまま誰かに好意を寄せられたとき、その瞳に映るのは誰ですか?』という文があるんです。まさにこの状況に一致しますよね。だから、私を見てください。恵玲奈先輩」
その真剣な眼差しで見つめられ、その真剣な声で名前を呼ばれ、私の心は大いに揺れた。思わず頷きそうになった。でも違うんだ……彼女は叶美の代わりじゃない。彼女を私の中で叶美の代わりにしてはいけない。彼女の恋心を踏みにじってはならない……だから、断らなくては……。
「ごめん……。私は、叶美が好きだから。君を好きになったら、ダメなの。君を傷つけちゃうから……。ごめん」
逃げ出したかった。否、逃げ出していた。彼女に背を向けて、食堂を後にしようとした。
「先輩! 私、待ってますから。文化祭の時、もう一回伝えますから!」
出会ってから短い関係だが、それでも分かる。大きな声を出すなんて彼女らしくない。それでも、私に告げる彼女の想いがひしひしと伝わってきて、ますます私はどうしていいか分からなくなってしまった。