グレイトな人に転生した   作:puni56

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始めに謝罪します。すみません、予告詐欺です。
予告しておいて書くうちに内容が変わってしまった。慣れないことはするもんじゃない。
今回は一応ニコルサイドの話なので読まなくても本編には支障が出ないはずです‥たぶん。

お待ち頂いた読者の皆様に感謝を。


外伝:恋した人はグレイトな人②~アークエンジェル編~

―――翌朝。先に起床したのはニコルの方だった。窓から入る朝日のせいか、ベッドが違うせいか早起きするニコル。習慣とは怖いものでいつものように寝ぼけ眼で正面を見ると‥

 

「グゥ‥レイトォォ」

 

何かが臀部に触れた感じがした。同時に自分ではない声が聞こえ、意識が覚醒するニコル。

 

「え?‥えええ?!?」

 

ニコルは目の前の光景に驚愕した。何故なら自分の目の前にはディアッカの顔があったからだ。

それも唇が触れそうなほどの距離で。

 

(ど、どうなっているの!?)

 

寝る前は確かに自分の右側にいたはずのディアッカが起きてみたら目の前にいる現状に動揺を隠せないニコル。ただ目の前にいるだけではない、もっと深刻な問題があった。それは――

 

(ディアッカのて、手が私のお尻に~!???)

 

そう、ディアッカは左腕でニコルに腕枕をし右手はでニコルの尻を触っているのだった。一体どうしたらこのような体勢になるのかわからないがニコルが錯乱するにはこれ以上のものは無いだろう。

 

(わ、私の‥え?何で??どうして????)

 

もしやディアッカは起きているのではないかと思われるかもしれないがこの時ディアッカは本当に寝ていた。だが更なるピンチがニコルを襲う。なんとディアッカがニコルに抱きついてきたのだ。

 

(っ~△※◆■○▽#◎□▲¥■○▽◎*!?)

 

ピンチがピンチを呼ぶというのか?次々とニコルへ問題が降りかかる。ニコルが脱出しようとすれば余計に拘束が強まる。ニコルにはなす術がなかった。

 

(もう、どうにでもなれ‥)

 

現状の打破を諦め脱力するニコル。起床してどのくらい経過したのだろうか、ニコルがウトウトし始めたその時ディアッカが目覚めた。

 

「「‥‥」」

 

ディアッカは寝起きだからかボーっとしている。

 

「おはようニコル」

 

ディアッカが挨拶するとニコルも挨拶を返してくる。

 

「お、おはようございます‥」

 

「‥何だ、先に起きてたのか?」

 

「うん‥」

 

「そうか‥‥うん?」

 

上半身を起こし目を擦りながらも何かに気が付いたディアッカが動きを止める。

 

「うおおおぉ!?」

 

某映画の主人公のように後ろに反りベットから落下するディアッカ。

 

「ぐはっ」

 

後頭部を強打し床に転がり悶絶するディアッカ。

 

「だ、大丈夫?」

 

流石に見過ごせないのかニコルが声をかける。

 

「‥ああ、なんとかな」

 

「すごいリアクションでしたね」

 

「俺は芸人じゃないっての。まったく‥」

 

後頭部の痛みで完全に目が覚めたディアッカはニコルに状況把握の為にニコルに問う。

 

「それで?どういう状況なんだこれは?」

 

「覚えてないのですか?」

 

「何が?」

 

「あの、色々と‥」

 

先程のことを思い出し恥ずかしくなったニコルは顔を赤くし俯いてしまう。

 

「色々ねぇ‥‥そうだな、夢は見たな」

 

ベットの上に腰掛けニコルに答える。

 

「夢、ですか?」

 

「ああ。よくは覚えてないが何か柔らかいものを揉んでいたような‥「忘れろー!!!!」ガッ」

 

反射的にディアッカの顎に一撃を入れてしまったニコル。予期せぬ攻撃を防ぐことはできずディアッカは再び眠りに就いた。一方ディアッカを倒してしまったニコルはというと

 

「また、やっちゃった‥‥」

 

落ち込んでいた。まさか好きな相手を気絶させるとは一体どこの暴力ヒロインなのだニコルよ‥

 

 

 

 

 

―――ディアッカが無事復活を遂げ食堂にて朝食をとる2人。いつもならディアッカが下らない話をするのだが今日は違った。2人とも無言で食べ続けているのだ。

 

「「‥‥‥」」

 

「あの~に、ニコルさん?」

 

この空気に耐えられなくなったディアッカがニコルに恐る恐る話しかける。

 

「何でしょう?」

 

「‥げ、元気ですかー!?」

 

「ええ、とっても。ディアッカはいつも元気ですね」

 

「もちろんだぜ!」

 

「ふふっ‥」

 

なんとか場の空気を和ませることに成功したディアッカは俺のターン!とばかりにギアを上げていく。

 

「しっかし、残念だったな。外出ができなくなるなんてなぁ~」

 

「はい?」

 

瞬間空気が凍った。アクセル全開で発進直後に地雷を踏んでしまったディアッカ。もはや自爆である。

 

「ど、どうした?」

 

「別に‥」

 

ディアッカからすれば何でも無い話題だったがニコルにとっては重要なイベントだったのだ。

 

(初デートができると思ったのに~)

 

せっかく訪れたチャンス。少しでも進展を!と意気込んでいたのに任務が入ってしまったのだ。

 

「そんなに買い物行きたかったのか?まあ、ニコルも女の子だしな」

 

鈍感なディアッカは置いといてニコルの気は晴れない。

 

「‥‥」

 

「‥買い物なら今度付き合ってやるよ」

 

「え?」

 

「だから、買い物。行きたいんだろ?」

 

「それは‥でもいいの?」

 

「ああ。それでニコルが機嫌を直してくれるならな」

 

見るからに落ち込んでいるニコルを励ますべくデートに誘うディアッカ。まあディアッカはデートと思っていないが。

 

「私とでいいの?」

 

「何が?」

 

「その、デ‥買い物」

 

デート、と言おうとしたが恥ずかしくて言えなかったニコル。

 

「もちろんだぜ!」

 

即答するディアッカ。

 

「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします」

 

「おう!」

 

「よし、さっさと朝飯食べて仕事しますかぁ」

 

「うん!」

 

食堂に着いた時とは正反対のテンションのニコル。

 

「ところでさぁ‥」

 

「うん?」

 

「当然、買う予定の物は水着だよな?」

 

「何で!?」

 

「え、違うの?てっきり海で泳ぎたいのかと思って‥」

 

「違いますよ!」

 

「そうか、残念だなぁ、折角ニコルの水着姿が拝めると思ったのに‥」

 

「ええ!?」

 

ニコルの顔が見る見るうちに紅潮してゆく。

 

「何を言っているのですかディアッカは‥わ、私は水着なんて着ませんから!」

 

「そりゃ残念‥」

 

本当に残念そうに肩を落とし朝食を食べるディアッカ。

 

「ちなみに‥ディアッカはどんな水着が好きなの?」

 

「うん?」

 

「いや、あの、参考に。

 あくまで参考までに聞くんだけどディアッカはどんな水着が私に似合うと思うの?」

 

「うーん、そうだなぁ‥」

 

さて、こんなやり取りをしている2人だが、ここは食堂である。多くの兵士が利用する食堂である。大事な事だから2回書きました。つまり何が言いたいかと言えば

 

「あの野郎、イチャつきやがって!」「これだからエリートは」「男装の美少女キター!!」

「あら、イイオトコ♡」「あらあら、初々しいわね‥」

 

注目されまくりなのだ。当の本人達は気付いていないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――時間は一気に飛びニコルがアークエンジェルに投降した後の話。

 

 

「あのー先生、すみません‥」

 

「っ!」

 

アークエンジェル医務室に暫定処置として拘束されていたニコルは軍医が来たと思い声を掛けたのだが、そこにいたのはミリアリアだった。ナタルからトールがMIAと判定され悲しみに暮れるミリアリアはサイに付き添われ医務室にて休むことになったの。しかし間が悪くちょうど軍医は席を外していた。見つめ合2人。

 

「えーと、あの、すみません。先生だと思ったもので‥」

 

ニコルに驚き硬直するミリアリア。

 

「あ、繋がれているので大丈夫ですよ。危害を加えるつもりもありませんから。

 ですから、安心して下さい」

 

微笑みながら話しかけるニコル。

 

「‥‥」

 

なおも無言のミリアリア。

 

「うーん、困りましたね~。そうだ!何かお話しましょう。

 なんだか泣いていたようですので、困ったことがあれば相談に乗りますよ?

 まあ、こんな状態で言っても説得力ないですけど‥」

 

「…」

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

心配し声を掛けるニコルであったが突如ミリアリアがナイフを持ち出しニコルに振り被った。

 

「っ!?」

 

筋トレの腹筋の要領で上半身を起こし、咄嗟に回避するニコル。

 

「一体何を!?」

 

息が荒く興奮状態のミリアリア。騒ぎを聞きつけ戻ってきたサイが慌ててミリアリアを羽交い絞めにする。

 

「何してるんだ、ミリィ!!」

 

「トールが‥トールがいないのに何でこんな奴がここにいるのよー!!」

 

絶叫するミリアリア。

 

「落ち着くんだミリィ!」

 

(トール?)

 

トールが誰だかわからないニコルは2人の様子を窺っていた。すると入口の方から銃を操作する音が聞こえたので振り向くとニコルに銃口を向けたフレイが立っていた。

 

「コーディネーターなんて‥みんな死んじゃえばいいのよ!!」

 

引き金を引き発砲するフレイ。

 

「っ駄目ー!!」

 

フレイに飛びかかり制止するミリアリア。しかし引き金は止まらず銃弾は発射され天井ライトを破壊する。ミリアリアは涙を流し嗚咽しながらもフレイを取り押さえる。呆然とするフレイからサイが銃を取り上げる。

 

「何で邪魔するの?自分だって殺そうとしたじゃない!?」

 

フレイがミリアリアを問い詰める。

 

「あんただって憎いんでしょう!?トールを殺したコーディネーターが!!

 あんただって、私と同じじゃない!?」

 

「…違う、違う!!」

 

自分は貴女は同じだと主張するフレイをミリアリアは否定する。

 

「おい、なんだこの騒ぎは!?」

 

この段階になってやっと2人のアークエンジェルクルーが対応の為入室してくる。

 

騒ぎの後、ニコルは部屋を捕虜用の場所へ移された。数時間後。ミリアリアとのやり取りを思い出し悩むニコル。

 

「憎しみの連鎖か‥‥」

 

ニコルの許へ、ミリアリアが訪れる。

 

「うん?」

 

「ッ」

 

ニコルが気付くとミリアリアが踵を返してしまう。

 

「待って下さい!」

 

ニコルに呼び止められ振り向くミリアリア。

 

「えっと、先程は何か気に障ることを言ってしまったようで。すみませんでした」

 

ニコルは頭を下げ謝罪する。

 

「スカイグラスパーのパイロット」

 

「スカイグラスパー?」

 

そんなニコルを見兼ねてかミリアリアが語りだす。

 

「戦闘機よ。青と白の。島であなた達が攻撃してきた時に‥」

 

「2機あったはずですが、どちらの?‥」

 

「何も付けていない方よ」

 

「‥‥それは私じゃない」

 

「えっ」

 

「私が攻撃したのは2機のうち1機でしたがストライクの換装パーツを付けていた方です。

 それに撃破まではしていません。だから私じゃない‥」

 

驚きニコルを見つめるミリアリア。視線に気づいたニコルが問う。

 

「どうしたのですか?私を殺しに来たのではないのですか?」

 

「…」

 

結局ミリアリアは何も答えず、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

―――連合がオーブに最後通牒を迫った後の事。ニコルの許へミリアリアが訪れる。手にはザフトのパイロットスーツが。

 

「こんにちは。今日はどうしたのですか?」

 

「‥‥」

 

「あっもしかして移送先でも決まったのですか?」

 

明るくニコルが尋ねる。

 

「戦闘になるの。この艦」

 

「え?」

 

「連合がオーブを攻めてくるんだって。だから、貴女はもう釈放していいんだって」

 

パイロットスーツを床に置き立ち去ろうとするミリアリア。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

ニコルはミリアリアを追いかける。廊下を歩くミリアリアの後に続くニコル。

 

「戦闘ってどういうことなんですか?」

 

「連合が攻めてくるからアークエンジェルは戦うの。

 だから捕虜の貴女をいつまでも乗せておいても仕方ないの」

 

「でも何故この艦がオーブの味方を?」

 

「オーブが連合に協力しないからよ」

 

「‥‥なるほど、中立だからですか。

 しかしそれではこの艦がオーブの味方をする理由になりませんよね?」

 

「言い忘れていたけどこの艦、脱走艦なの。だから世話にをしてくれたオーブに協力するの」

 

「そんなわけで、悪いんだけど後の事は自分でやってもらえる?」

 

「事情は理解しました。えーと、ブリッツは返してもらえ‥ないですよね、やっぱり」

 

「当然でしょ?元々は連合の物なんだから。モルゲンレーテが持って行っちゃったわよ」

 

「ですよね~」

 

困り果てるニコル。ニコルを見つめ

 

「こんな事になっちゃって、ごめんね」

 

そう言い進むミリアリア。

 

「ミリアリアも参加するのですか?」

 

「同然でしょ?私はCIC担当なんだから。それに‥オーブは私の国なんだから」

 

「ニコルが例の人と上手くいくことを祈っているわ」

 

そう言い残してミリアリアは去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――カズイ等の艦を降りる者達が退艦、避難が完了してからしばらくして、オーブ近海に展開していたブルーコスモス盟主のアズラエル率いる連合軍からミサイルが発射され戦端は開かれた。

 

対するオーブは海上にクラオカミ、イワサク、クラミツハ級護衛艦、ソコワダツミを筆頭にしたイージス艦を。海岸沿いにはリニアガンタンク、M1を展開し迎撃にあたる。アークエンジェルもオーブを援護する為にフリーダムとストライクを発進させ、自らも戦線に加わる。フリーダムは圧倒的な性能とパイロットの技量も相まって連合のMS、ストライクダガーをあっという間に撃破してゆく。一方のストライクは拙いながらもストライクダガー部隊をアグニで薙ぎ払っていた。そのストライクであるが、その姿は通常のエールストライカーでは無かった。ソード、ランチャー、エールと全てのストライカーを装備した状態、通称パーフェクトストライクと呼ばれる形態で出撃していたのだった。

 

この形態は以前キラから却下された案ではあったのだがパイロットのムウ・ラ・フラガの強い希望で実現した。フラガによればMSで今回が初陣だからどの距離でも対応できるようにしたかったと事だ。結局マードックら整備班とモルゲンレーテ技術員の協議によって予備バッテリーをストライカーパックの後部に複数取り付け稼働時間の延長を実現した事、OSをフラガ専用に調整した事で艦長のマリューから出撃の許可が出て今に至る。

 

戦闘の様子を見つめるニコル。連合の新型3機が攻めてくる。その内の1機、カラミティが山間部に着地する。ニコルが山に視線を移すと人影が見えた。

 

「えっ!?」

 

驚くニコル。

 

(逃げ遅れた人がいた?)

 

ニコルは近くに停めてあるバイクで山に向かう。スーツ姿の男女と私服の子供が山の中を走っていた。

 

「父さん、このままじゃあ‥」

 

「大丈夫だ、シン。もう少しで港に出るはずだ」

 

そう子供に言い聞かせながらも内心、現在地がわからず不安になっていた男性に突如声が掛けられる。

 

「ここは危険ですよ!避難して下さい!!」

 

突然声を掛けられ驚く親子。

 

「誰だね君は?」

 

男性が振り返ればモルゲンレーテの制服を着た少女がいた。

 

「そんなことより早く避難して下さい!ここは危険です!!」

 

「連合の目標は軍関連施設だろう?」

 

「そんなわけないでしょう!?現にここは戦闘地域になっているんですよ!!」

 

「そんなバカな‥」

 

ショックを受ける男性。

 

「とにかく、ここは危険なんです。私に付いて来てください、早く!」

 

「あ、ああ‥」

 

渡りに船とばかりにニコルに先導され移動を開始する親子。

 

「はあ、はあ、はあ‥」

 

「マユ、頑張って!」

 

息を切らす少女に母親が声を掛ける。幼い少女に山道を走らせることは体力的にも無理があったのだ。その時少女の足がもつれ、ポケットから携帯端末が落ちてしまう。

 

「あ~マユの携帯!」

 

「そんなの良いから!」

 

「いや~!!」

 

携帯端末は斜面下の方まで転がっていってしまった。取りに行こうとする少女を母親が諌めるが駄々をこね足を止めてしまう親子。

 

「私が取ってくる!」

 

「ちょっと、シン!」

 

母親の制止を振り切り斜面を滑り降りて樹の根元に引っかかった携帯を拾いに行く少女。

 

「1人では危険です!」

 

少女の後を追うニコル。携帯を拾い上げる少女にニコルは注意する。

 

「君は何をしているんですか!?」

 

「別にあんたも一緒に来てくれなんて言ってないだろ!」

 

ニコルに反発する少女。

 

「私は軍人です。一般人を見捨てるわけにはいきません」

 

「あんたには関係ないだろ!!」

 

ニコルと少女が言い合いになりかけた次の瞬間、山に砲撃が加えられた。

 

「っ!!!!!!!!?」

 

爆発音が聞こえ、ニコルは咄嗟に身を屈めるも爆風によって吹飛ばされ意識を失ってしまう。

 

 

 

――――「‥うっ」ニコルが意識を取り戻す。

 

「ここは‥痛っ」

 

痛みから意識が完全に覚醒し、身体を確認すると所々に擦り傷や切り傷、打撲の跡が見られた。

 

(一体、何が?)

 

ニコルが周りを見渡すと少し離れた所に船と避難民が確認できた。そして先程まで居たと思われる山は砲撃によって半分ほど抉られ樹木は倒れ、所々が燃えていた。

 

「これは‥」

 

酷いと呟きそうなところで、戦闘の音が聞こえ上空に目をやるとトリコロール色をした背部に青色の翼を持った機体が連合の機体と思われる翼を持った黒色の機体と鎌を持った緑色の機体と戦闘をしていた。

 

「なんてデタラメな‥」

 

空中で舞うように戦闘している3機を見て思わず声が出てしまうニコル。

 

「っそうだ、あの人達は!?」

 

先程出会った親子の事を思い出し捜索するニコル。最初に発見したのは少女の方だった。

 

「君、しっかりして!」

 

うつ伏せに倒意識を失っている少女を仰向けの体勢に変え肩を叩き呼びかける。

 

「‥‥ぅう」

 

何度かそうしていると少女が意識を取り戻す。

 

「気が付きましたか?私が分かりますか?」

 

「‥っくぅ」

 

「自分で歩けますか?」

 

「そ‥うだ、マユ‥‥マユは!?」

 

体を起こし視線が定まっていない状態で叫ぶ少女。

 

「え?」

 

「マユー!マユー!!」

 

「ちょ、ちょっと‥」ニ

 

コルを無視し家族を探し始める少女。

 

「マユー!!」

 

「ここは危険です、捜索は別の人に‥」

 

「っ!!?」

 

山の方へ走り出した少女が突然驚愕し棒立ちになる。

 

「何が?」

 

少女の見つめる先にニコルも視線を向けると――

 

「あ、ああ‥マユ‥‥父さん‥‥母さん‥」

 

そこには爆発を近距離で受けたのか、手足や首が通常ではありえない方向に折れ曲がり、または千切れ、全身から大量に血を流し倒れている親子の姿があった。

 

「そんなっ‥」

 

ニコルも絶句せざるを得ないほどの光景だった。

 

「大丈夫か!?」

 

こちらの様子に気付いたオーブ将兵2人が駆けつける。

 

「おい、君!おい!!」

 

1人の年配将兵が少年の身体を揺すり声を掛けるが、少女はそれに気付いていないようだった。

 

「っうぅ、くっうう‥」

 

少女はその場に蹲り、右手に持ったピンク色の携帯を握り締め声を押し殺し泣いていた。

 

 

「うわあああああああああああっ!!!!」

 

 

堰を切ったように少女の咆哮が木霊する。その場にいるニコルも将兵も誰も少女に声を掛けられなかった。

 

(‥‥‥)

 

ニコルもなんて声を掛けていいかわからなかった。だがニコルは自分がやるべき事が見つかった気がした。

 

「‥将兵さん、この子をお願いします」

 

「それは構わないが、君は?」

 

「私にはやるべき事が見つかりました。だから、行かなくちゃ!」

 

年配の将兵に少女を任せモルゲンレーテに戻ろうと走り出すニコル。

 

「待ちたまえ!」

 

「すみません、急がないと!」

 

「あれを使いたまえ」

 

「え?」

 

将兵が指し示した先にはゴムボートがあった。

 

「走って山を移動するよりも海岸沿いを突っ切った方が早い」

 

「よろしいのですか?」

 

「急ぐのだろう?」

 

「ありがとうございます!」

 

年配の将兵に礼を言ってモーターボートに乗り込みモルゲンレーテに向かうニコル。

 

「トダカ一佐、よろしかったのですか?」

 

若い将兵が問いかけるが

 

「フン、どうせ使わない物だ。それよりもこの少女を避難させるぞ」

 

「了解しました!」

 

将兵は少女の避難を優先させた。モルゲンレーテに戻ってきたニコルは格納庫に向かう。モルゲンレーテの制服のおかげか、戦闘中だからかブリッツの保管場所は簡単に教えてもらえた。

 

「よしっ」

 

ミリアリアや先程の少女とのやり取りが頭を過ぎる。

 

「今私にできる事を!」

 

ニコルはブリッツを起動しミラージュコロイドを展開させ発進した。

 

 

――――オーブ海岸ではアークエンジェルが奮戦していた。しかしアークエンジェルといえどもMSの援護無しでは全てに対抗できるわけもなく被弾してゆく。VTOL戦闘機スピアヘッドが隊列を組みミサイルを放つ。イーゲルシュテルンで迎撃するが弾幕を潜り抜けたミサイルがアークエンジェルへと向かう。被弾を覚悟するアークエンジェルクルーだがアークエンジェルの後方からビームが撃ち込まれミサイルを撃ち落とした。

 

「えっ」

 

驚く艦長のマリュー。モニターを確認するとそこにはミラージュコロイドを解除し佇むブリッツが。

 

「ブリッツ?」

 

サイが呟き通信が入る。

 

「援護します。アークエンジェルは下がってください!」

 

「あの子‥」

 

ミリアリアが呟く。――ブリッツ参戦後も戦闘は続く。

 

「こんの~」

 

ブリッツがビームでミサイルを撃ち落とす。

 

「ええーい!」

 

フラガがシュベルトゲベールでストライクダガー3機を撃破する。

 

「数だけいたって!」

 

ストライクの後ろから来た3機をブリッツが倒す。オーブのM1部隊も戦闘に慣れ始めた頃、優勢だった連合の部隊が撤退を始める。

 

(撤退?)

 

連合の行動に疑問を持ったがオーブ側も撤退命令が出たため、最低限の警備部隊を残し補給に戻る。

 

「ふう‥」

 

ヘルメットを外しコクピットハッチから出て外の空気にあたるニコル。スラスター音が聞こえた方向を見るとフリーダムと赤色の不明機が向かい合って着陸するところだった。ニコルも他のクルーに混じり駆けつける。MSから降りた2人は見つめ合う。

 

(あれは‥アスラン?)

 

ニコルや多くの人が見つめる中、何やら会話をしていたキラとアスランであったがカガリの乱入によってそれも中断されてしまった。

 

(今気付いたけど‥フリーダムのパイロットは前に見たモルゲンレーテの女の子じゃないかな?)

 

ディアッカ殴打事件の原因の為、良く覚えていたニコルはそんな事を考えながら3人を見つめていた。

 

 

 

 

―――MS格納庫内にて

 

「しかし、それはっ!」

 

「‥」

 

キラの覚悟を聞き驚くアスラン。ジャスティスの足元でアスランとキラの会話を盗み聞きするニコル。

 

「たとえ守るためでも、銃を撃ってしまった私だから‥」

 

「キラ‥」

 

(昔からの知り合いかな?)

 

そんな事を思っているとミリアリアが走っていくのが見えた。

 

(ミリアリア?)

 

一瞬ミリアリアを追いかけようと思ったが、アスラン達の話の方が気になった為その場に留まるニコルであった。

 

 

 

――各々が補給を済ませ休んでいると施設内に警報が鳴り響く。ニコルもパイロットスーツに着替え格納庫に向かうとキラとアスランが話し込んでいた。

 

「‥でも、勝ち目がないから戦うのをやめて、言いなりになるって、そんなことできないでしょ?」

 

「キラ‥」

 

「大切なのは何の為に戦うかで、だから私も行くんだ」

 

階段を上るキラ。

 

「本当は戦いたくなんかないけど、戦わなくちゃ守れないものもあるから‥」

 

「‥」

 

「ごめんね、アスラン。話せて嬉しかった」

 

そう言い残しフリーダムに搭乗するキラ。すぐに起動し歩行で格納庫から出てゆくフリーダム。残されたアスラン。

 

「‥」

 

「参りましたね‥」

 

悩んでいるアスランの後ろからニコルが声を掛ける。

 

「ニコル!?」

 

予期しない人物との再会に驚くアスラン。

 

「そんなに驚かなくてもいいんじゃないですか?」

 

「いや、しかし‥」

 

「まあ、アスランを弄るのはここまでにして‥「おい!?」どうするつもりですか、アスラン?」

 

アスランのツッコミを無視し話を続けるニコル。

 

「‥俺はアイツを!アイツ等を死なせたくない!!」

 

キラとカガリの様子を思い浮かべ答えるアスラン。

 

「まさかのハーレム宣言とは。流石です、アスラン」

 

「何でだよ!?」

 

「え、違うんですか?」

 

「違うに決まっているだろ!!」

 

身振り手振りで必死に否定するアスラン。

 

「でも‥カガリさんとキラさんと近寄り難い空気を出していたじゃないですか」

 

「出してないよ!?さっきからニコルどうしちゃったの?」

 

「あっ私、もう行きますね」

 

「おい!?」

 

投げっぱなしで会話を打ち切り出撃準備に向かったニコル。残されたアスランはというと

 

「あいつ、ディアッカに似てきたな‥」

 

新たな問題に頭を悩ませるのであった。

 

 

 

――その後アスランはキラを、ニコルはアークエンジェルを援護し戦闘するもまた連合側から撤退し、ウズミからアークエンジェルへカグヤ集結命令が出たため戦闘は中断された。

 

 

―――カグヤにて

 

「住民の避難は完了した。支援の手もある。後の責めは我々が負う」

 

「お父様!」

 

「このまま進めば世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うことになる。

 そんなもので良いか?君達の未来は。

 別の未来を知る者ならば今ここにある小さな火を抱いて、そこへ向かえ‥」

 

ウズミはオーブが負ける事を覚悟し、同じ志を持ったアークエンジェルを宇宙に上げる事を決意したのだった。マスドライバーでの打ち上げ準備が進む中、MSパイロットのニコル、アスラン、キラの3人が自らの思いを伝える。最初に切り出したのはニコルだった。

 

「本来であれば私たちはこのままカーペンタリアに帰投した方が良いのでしょうが‥

 酷な言い方ですが戦っているのは連合とオーブですからね。

 でも私は「ザフトのアスラン・ザラか‥」うん?」

 

みんなと一緒に戦う、と言おうとしたニコルに割り込み呟くアスラン。ニコルとキラは何の事かわからず首を傾げる

 

「彼女にはわかっていたんだな‥」

 

「彼女?」

 

ニコルとキラを無視し自分の世界に入り語りだすアスラン。

 

「国、軍の命令で敵を撃つ。それでいいんだと思っていた。仕方の無いと。

 それでこんな戦争が1日でも早く終わるならと‥

 でも本当は、俺達は何とどう戦わなくちゃいけなかったんだ?」

 

「一緒に行こう、アスラン」

 

「え?」

 

アスランの問いかけに対しアスランを見詰めながら返答するキラ。

 

「皆で一緒に探せばいいよ、それもさ」

 

「キラ‥」

 

頷き手を取り合い自分達の世界へ旅立つ2人。そして残されたニコル。

 

(‥何これ?私への当て付け?)

 

ジト目でキラを睨むニコル。

 

(私だって、あれぐらい大きければディアッカと!)

 

持つ者と持たざる者、リア充とぼっち、これもまた戦争の一因かもしれない。あの後ニコルはブリッツは飛べないという理由でアークエンジェルに収容され、宇宙に上がってからも親しい相手がいない為1人だった。唯一ミリアリアなら話が合いそうなのだが彼女はサイといい雰囲気な為、近寄れなかった。アスランはカガリやキラとイチャイチャしているし、マリューもフラガとラブラブだし、どうなっているんだこの艦は、と憂鬱になるニコルだった。

 

 

 

―――「戻らなかったらジャスティスはニコルが使ってくれ」

 

とかフラグを立てプラントに戻ったアスランだが、あっさりと帰ってきた。それもジャスティス、フリーダム専用母艦のエターナルという物まで一緒に。しかもだ。死んだと思っていたバルトフェルド隊長を筆頭にしたバルトフェルド隊のメンバーも一緒に。さらに、さらにだ!ラクス・クラインという大物まで付いてきた。

 

「何これ?」

 

そう呟いたニコルは悪くない。ディアッカならよりオーバーリアクションをしていただろう。

 

「初めまして、ニコルさん」

 

「えっあっはい!」

 

ラクスが微笑みながら手を差し出してきたのでニコルも返す。そしてラクスのある部分を見つめる。視線に気付いたラクスが問いかける。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ‥」

 

(やはり大きい‥)

 

 

 

 

―――――メンデルにて

 

ストライクダガー部隊を相手にするニコル。

 

「確かに機体は強いですが、それだけでは!」

 

1機また1機とストライクダガーを撃破していく。配備されて間もないからなのか、宇宙空間での戦闘ということもあってなのかはわからないがストライクダガーではニコルの相手にならない。ブリッツが旧式であるにも関わらずだ。

問題は――

 

「おら~滅殺!!」

 

何故かオープンチャンネルで雄叫びを上げながら攻撃してくる連合の3機の新型の方だった。

 

「くっ」

 

鉄球―ミョルニルを放つレイダーに対してニコルはグレイプニールをぶつける事で相殺する。正面からぶつかり合ったミョルニルとグレイプニールは衝撃で弾かれる。グレイプニールを戻しつつ直ぐにビームを撃ち反撃に出るニコルであったがレイダーは右に少し移動するだけで回避する。

 

「うら~!!」

 

今度は後ろから誘導プラズマ砲―フレスベルクがブリッツに向け発射された。

 

「くぅっ」

 

なんとかトリケロスで防御するも衝撃でクサナギの方に飛ばされてしまうブリッツ。何故こんな事になっているかというとクサナギがワイヤーに絡まって身動きが取れなくなってしまったからだ。M1が作業中は無防備なので援護を申し出たのがニコルだった。最初はジャスティス、フリーダム、ブリッツ、ストライクといたのだが突然、フラガがクルーゼの存在を感じ取りメンデルの裏側に行ってしまった。ストライクはパーフェクトストライクの状態で出撃したがバッテリー容量に不安があった為、ニコルがついて行くことになった。だが新型―カラミティ、フォビドゥン、レイダーの3機はキラとアスランをもってしても倒せない程、手強い相手だった。それに加えてストライクダガーの部隊も相手にしなければならい。一方こちらはエターナルが調整中、クサナギは動けずM1部隊はルーキー。そんな状況でニコルはとてもじゃないがフラガを追うことは出来なかった。

 

「ニコル!」

 

フリーダムのバラーエナビーム砲がフォビドゥン目掛けて放たれるがそれをゲヒマイリッヒパンツァで弾くフォビドゥン。

 

「オラオラオラー!!」

 

今度はカラミティのスキュラがフリーダムを襲うがバク宙の要領で回避しビームサーベルでカラミティに斬りかかる。

 

「へっ」

 

しかしあと一歩というところでフォビドゥンが邪魔をし決めきれないフリーダム。それはブリッツも同様でいやむしろブリッツの方は押されている。

 

「撃滅!!」

 

ツォーンが放たれトリケロスで防御するブリッツであったが耐久力の限界を向かえトリケロスは右腕ごと破壊された。

 

「ああっ!」

 

武装の殆どを右腕に集約しているブリッツにとってそれは致命的なものだった。

 

「このままでは‥」

 

クサナギの様子を覗うが動き出す気配は無い。

 

「下がれ、ニコル!」

 

ジャスティスがビームブーメラン―バッセルを投擲しブリッツのカバーに入る。

 

「おいおいおい、隙だらけじゃねーか」

 

オルガはそう言って2連装高エネルギー長射程ビーム砲―シュラークを放つ。

 

「くっ」

 

ニコルは回避操作をするも完全には回避できずバックパックのスラスターに掠り、機動力が低下してしまう。

 

「ニコル!」

 

キラも援護しようとするが連携が取れていないが故の滅茶苦茶な3機の攻撃とドミニオンからの攻撃でそれが出来ない。そしてついにブリッツが囲まれロックされてしまう。

 

(ああ、私はここで死ぬんだ‥)

 

ブリッツの状態と周りの状況からそう判断するニコル。

 

(こんなことならディアッカに告白しておけば良かったな‥)

 

ディアッカとの思い出が走馬灯のように駆け巡る。

 

「抹殺!!」

 

レイダーがツォーンを放ちブリッツが撃破されると誰もが思った瞬間

 

 

 

 

―――レイダーの頭部はビームで貫かれ破壊された。

高エネルギーのツォーンの発射直前だったこともあり頭部へと繋がっている経路まで破壊され火花を散らすレイダー。

 

 

「無事か?ニコル」

 

 

「ディアッカ!!」

 

 

ついに戦場に審判者が現れた。

 

 




前回書き忘れたTSしたキャラ
ニコル、キラ、シンの3人です、今のところは。

次回からは本編に戻ります。今度は早めに投稿したいがどうなることやら‥


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