プリンセス・プリンシパル ~London Has Fallen~   作:アルビオン王国ハドソン湾会社

14 / 22
case12.13:再開

 

「案の定、だな」

 

 プリンセスが向かった通路の先では、銃口を向けられたゼルダが不遜な表情で立っていた。彼女に向けられた銃口からは白い煙が立ち上っており、持ち主であるアンジェが驚いたように目を見張っていた。

 

「信用できない相手に、実弾入りの銃を渡すとでも思ったか?」

 

「……弾頭は抜いてあったのね」

 

 

「ご名答だ、裏切り者」

 

 

 アンジェが次の動きに入るより早く、ゼルダが鋭い蹴りを入れる。

 

「ぐっ……!」

 

 痛みに喘ぐアンジェ。取り出そうとした愛用のウェブリー=フォスベリー・オートマチック・リボルバーが地面に落ち、乾いた音が通路に反響する。体勢を立て直す間もなくゼルダ配下の共和国軍特殊部隊の銃口が一斉にアンジェに向けられ、少しでも動けば頭部を撃ち抜くと暗に伝えていた。

 

 

「惜しかったな。もう一回、養成所(ファーム)に戻ってイチから出直して来い」

 

 

 ゼルダが合図すると、二人の特殊部隊員がアンジェを拘束した。

 

 

「まぁ、もっとも―――」

 

 

 ゼルダは拳銃の弾倉を開け、銃弾を一発づつ交換しながら言う。

 

 

 

「次、なんてものは無いが」

 

 

 

 リボルバーを弄ぶように弾倉部分をぐるりと回転させ、ゼルダはそれをノルマンディー公の額に当て、冷たく言い放った。

 

 

「待っ―――――」

「さよならだ、公爵」

 

 

 ゼルダは冷たく言い放つと、一気に引き金を絞った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 銃声を頼りに走ってきたプリンセスが最初に見たもの――それは目の前で頭を吹き飛ばされるノルマンディー公の姿だった。

 砕けた頭蓋骨の破片が飛び散り、それに交じって脳漿と血液があたり一面に飛び散る。

 

 

「え………?」

 

 

 倒れたノルマンディー公の瞳は、もはや何も見えてはいなかった。じわじわと広がる、どろりとした血の海。そして唖然とした表情で棒立ちになる、血染めのプリンセス。

 

 革命で王女と入れ替わってから10年間、内務卿そして叔父として接してきた相手が今、目の前であまりにあっけなく命を散らした。その事実を前に、プリンセスは呆然と立ち尽くす事しかできない。

 

 

「ほう、これはこれは」

 

 

 一方のゼルダは、新しい獲物を前に哄笑した。特段、驚いた様子はない。ちらっと横目でアンジェを見ると、彼女は信じられないといった様子で呆然としている。

 

 

(アンジェが裏切った事が判明した以上、死んだはずのプリンセスが生きていても不思議はない。とはいえアンジェの様子を見る限り、プリンセスが此処へ来たことは予想外だったらしいな)

 

 

 だが、ゼルダにとっては行幸というほかない。プリンセスが自分から進んで処刑場へと飛び込んでくれるなら、こちらが探す手間も省けるというもの。これぞ飛んで火にいる夏の虫、という奴だ。

 

 

 

「プリンセス・シャーロット、生きていたとは。いやはや、無事で誠に―――残念だよ」

 

 

 

 **

 

 

 ゼルダは意地の悪い笑みを浮かべ、無力な獲物を前にせせら笑った。最新式の自動拳銃で武装した部下が数名、その銃口をプリンセスに向ける。

 

 

「殿下の叔父・ノルマンディー公は最後まで勇敢だったよ。死の直前まで泣き叫ぶこともなく、毅然としていてね。命惜しさに泣き叫ぶ他の腐れ貴族どもとは大違いだ」

 

 

 ゼルダの口調には1割の敬意と、9割の悪意が混じっていた。

 

「さぁ、貴女はどちらの側の人間だ? お上品な仮面の裏に、何を隠してる?」

 

 

「……何も」

 

 

 プリンセスは体をこわばらせながらも毅然と背筋を伸ばし、両手を後ろで組んだ。

 

「私には何もありません。知性も気品もない、空っぽの人形だから」 

 

 プリンセスが落ち着いた口調で言うと、ゼルダと部下たちが一歩後ずさった。ゼルダたちを思わず下がらせたものは、人間が持つ本能的な恐怖であった。彼女たちは無意識のうちに感じ取っていた。

 

 

 ――この女は、潜り抜けた修羅場の数が違う。

 

 

 かつてスリだった少女。革命でたった一人王宮に取り残され、殺気立つ大人たちの中で王女を演じ切らねば殺される……ほんの一瞬の綻びが死に直結するプレッシャーの中、血の滲むような努力を10年も休むことなく続けてきた。

 

 文字を書くことすら出来ず、譜面を読むことも出来なかったスリの少女は、今や七ヶ国語を流暢に操る王国有数のピアニスト、誰もが認める正真正銘の“プリンセス”へと変わっていった。

 

 

「プリンセス・シャーロット、貴様……!」

 

 

 華奢な身体のどこにそんなエネルギーが隠されていたのか、この時プリンセスの姿は二回りも大きく見えた。

 この時この瞬間、場の空気を支配していたのはプリンセス―――無防備で武器の一つも持っていない少女は、ただその気迫のみで歴戦の共和国軍特殊部隊を圧倒していた。

 

「貴様は一体、何者なのだ……?」 

 

 不安の混ざったゼルダの声に、プリンセスはただ一言。

 

 

「ただの、スパイです」

 

 

 いつの間にか、プリンセスの手の中には小さな小石が握られていた。プリンセスの投擲は精確にゼルダの肩に命中し、銃口を横に逸らした。

 

 

「こいつ、いつの間に……!」

 

 

 そしてそれが合図だったかのように、それまで無抵抗だったアンジェが弾けるように飛び出した。

 

「なっ……!」

 

 チセから学んだ東洋の体術――柔よく剛を制す――を応用して素早く相手の拘束から逃れ、驚く相手が正気に戻る前に昏倒させて武器を奪う。

 

 

「殺せ!!」

 

 

 ゼルダが怒号を上げ、絶叫した。

    




>チセから学んだ東洋の体術

たぶんバリツ、シャーロック・ホームズがモリアーティ教授を倒した謎武術
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。