プリンセス・プリンシパル ~London Has Fallen~   作:アルビオン王国ハドソン湾会社

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case12.2:偽りの王女

 『壁』にほど近い橋の上に作られた道路を、数台の車が走っていた。プリンセス・シャーロットと彼女を護送する兵士たちの乗った車列だった。

 

 

「プリンセスが我々の決起に参画したとなれば結束も強まるでしょう。本日は新王室寺院で戦勝祈願式が行われます」

 

 

 向かい側に座っていた、壮年男性がプリンセスに語りかける。アルビオン王国伝統の赤い制服に身を包んだ男、イングウェイ少佐は植民地出身の将校で今回の革命の中心人物でもある。

 

「寺院建設に関わる労働者には我々の同志が大勢おります。植民地支配されこの国の労働力の大半を占めながら最低限の権利しか認められていない。彼らの怒りは必然なのです」

 

 王国軍はその多くが植民地出身の兵士であり、共和国との戦闘にも植民地兵が多く投入されている。

本国人と同等かそれ以上の献身を求められながら、二等国民として軽く扱われる彼らの境遇を思えば、革命への参加は当然の結果であった。

 

「移民、貧困、格差……それがあなた達の理由なのですね」

 

 物憂げに溜息をつくプリンセス。完璧な演技だ――民を慈しみ、国を憂うその姿を見て心を動かされない者はいないだろう。

 

「ご安心ください、プリンセス・シャーロット。革命は必ず成功でしょう――否、我らが必ず成功させてみせます」

 

 事情を何も知らないイングウェイ少佐らが心打たれたように敬礼するのを横目で見ながら、共和国スパイのゼルダは満足げに薄笑いを浮かべた。

 

(さすがは養成所を1位で卒業した優等生、王国軍の馬鹿どもが騙されるのも無理はないか)

 

 目の前にいるプリンセスはコントロールのスパイ、アンジェが変装した姿だ。本人かと見まがうほど瓜二つの完璧な変装は、ベテランのゼルダですら危うく間違えそうになるほど。

 

 

(この世界にシロは無い。あるのはクロとグレーだけ…………今のところアンジェはグレーだと、ジェネラルには報告しておこう)

 

 二人で追っ手を撒いた時は裏切りかと思ったが、どうやら思い過ごしだったらしい。

プリンセスの信用を得るための演技で、プリンセスは最後までアンジェが味方だと思ったまま死んだ………そうアンジェからは聞いている。

 

 

 とはいえ肝心の死体を確認していない以上、まだアンジェが裏切ったという疑惑が晴れた訳ではない。

 アンジェは服とバッグを回収した後、暗殺の証拠が残らないよう死体を焼却炉に捨てたと言っていたが、嘘をついている可能性もある。

 

 しばらくはアンジェの動向に目を光らせる必要があるだろう。

 

 

 

 もっとも――。

 

 

 

 ゼルダが窓の外を見やると、大勢の群衆が集まっているのが見えた。旗やプラカードを持って、口々に現政権への不満を叫んでいる。

 

 

(本物のプリンセスが生きていようが、歯車は既に動き出した。今さら誰にも止められはしないさ――)

 

 

 王国は何年も前から腐っている。本来ならばとっくに崩壊しているはずの死体が、『壁』のおかげで辛うじて延命しているだけのゾンビに過ぎない。僅かなきっかけさえあれば、すぐに朽ち果てるだろう。

 

 

(賽は投げられたのだ。“ティーパーティー”作戦は既に始まっている……)

 

 

 もうまもなく、戦争が始まる。

 

 開戦の号砲と共に、アルビオン王国は音を立てて崩れ落ちる。

 

 

 

 それに必要なのはきっかけ。

 

 

 

 ほんの小さなきっかけさえあれば十分なのだ――。

 

 

 

 ***

 

 

 

 王国の中央省庁や政府機関が数多く立ち並ぶホワイトホール、その一角にノルマンディー公の邸宅は佇んでいた。

ヴィクトリア朝風の優雅な調度品で囲まれた部屋の奥で、ノルマンディー公爵は部下のガゼルから報告を受けていた。

 

 

「暴動の兆行だと?」

 

 

「まだ流血沙汰には発展しておりませんが、各地で反政府運動が活発化しております。恐らく、例の一団が裏で糸を引いているのではないかと……」

 

「ふむ……」

 

 ガゼルから渡された報告書に素早く目を通す。今のところ頻発しているのはせいぜい噂話や、無政府主義スローガンを壁に落書きしたり、女王の肖像画を燃やしたりといった程度の反乱である。

 

 だが、これは危険な兆候であった。

 

イーストエンドの貧民街では民衆が交番に火炎瓶が投げ込まれ、ドックランズの廃墟街では犯罪が増加し、カナリー・ワーフを拠点とするギャングによる組織的な犯行が急増しているという。

 

 

「ルーアンから呼び戻した内務省軍は?」

 

 

「つい先ほど、2個連隊がグリニッジ王室特別区に到着したそうです。――動かしますか?」

 

 ガゼルの問いに、ノルマンディー公は首を横に振った。

 

 あまり事態を大きくすれば、それこそ共和国の叛徒やテロリストの思う壺だ。王国が弱体化しているとの、間違ったメッセージを与えかねない。

 

「非番の警官と首都警備隊を動員して、24時間体制で警戒に当たらせる。イーストエンドは全域を封鎖し、夜間外出禁止令を出せ。それから近衛歩兵連隊にも協力を要請するんだ」

 

「了解しました。ですが……果たして暴徒たちが大人しく従うでしょうか」

 

「命令を破った者は容赦なく逮捕しろ。最悪、射殺も止むを得まい」

          




本作でゼルダさんの前に現れたのはプリンセスに変装した本物のアンジェです

ちなみに原作で本物のプリンセスに入れ替わってた事に気づいたゼルダさんなんですが、あれって上層部に報告しなくて良かったんですかね? 本物のプリンセスって事はその時点で裏切ったアンジェも何処かにいるという事は明白ですしが完全に放置してたし...

いや、ゼルダさんそれだけの裁量権は持ってそうでしたけど
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