プリンセス・プリンシパル ~London Has Fallen~   作:アルビオン王国ハドソン湾会社

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case12.3:まずは姫様が落ち着いてください!

    

 

「ひ、ひ、姫さま!?」

 

 

 

 プリンセスの侍女で友人でもあるベアトリスは、予想外の人物の訪問に驚くばかりであった。

 つい先日、彼女の主人はアンジェと出かけたきり、連絡の一つも無かったからだ。

 

 

「よくぞご無事で! わたし、てっきり姫様が何か危ない目にあってしまったのかと――」

 

 

「ベアト、少し声が大きいわ」

 

「す、すみませんっ!」

 

 彼女は慌てて口を塞ぐと、ドアを大きく開けてプリンセスを博物クラブの部室へと通す。

 

「っ………!」

 

 再会の喜びも束の間、憔悴しきったプリンセスの姿にただならぬ雰囲気を感じ取った。一流のメーカーが仕立てた上質なプリンセスの私服は何故か、傷つき、汚れ、所々にほつれが見えている。

 

「姫様、外でいったい何があったのでしょうか? 一緒にいたアンジェさんはどこへ……?」

 

「アンジェは――」

 

 

 言いかけて、ふとプリンセスの視線がある一点で止まった。つられてベアトリスが視線の先を負うと、机の上に置かれた新聞の夕刊紙面が目に留まる。

 

 

「ベアト、これって――」

 

 

 プリンセスの碧い瞳が、驚きで見開かれた。

 

 新聞には、19時から行われる戦勝祈願式典の事が書かれていた。だが、プリンセスの目を引いたのは記事に掲載されている小さな写真―――――そこには、会場へ入る自分そっくりの姿があった。

 

 

 

「シャーロット!?」

 

 

 

 見間違うはずもない。この姿は間違いなく自分に変装したシャーロット………アンジェの姿だ。

 

(どうして戻ってきちゃったの!? 貴女はいつもそう。また一人で無茶ばかりして……!)

 

 目じりに涙を浮かべ、小さく体を震わすプリンセス。

 

 その只ならぬ様子に、ベアトリスはあっけにとられる。どうにか落ち着いてもらおうと紅茶を差し出すが、それもあっという間に一気に飲み干されてしまう。

 

 珍しく平常心を失っている主人に、ベアトリスはおずおずと話しかけた。

 

「あの……姫さま? ひょっとして写真に写っている姫様って、その、アンジェさんなんじゃ……?」

 

「ええ、その通りよ。チェンジリング作戦が変更になって、私はゼルダさん達に暗殺されかけたの」

 

 プリンセスの言葉はどこか投げやりだった。長年取り繕ってきた“プリンセス”の仮面を被ることも忘れて本音をぶちまける。

 

「あ、暗殺!?」

 

「でもアンジェがうまく追っ手を撒いてくれた。二人で飛行客船に乗って、そのままカサブランカまで脱出する計画だったみたい――」

 

 言葉が溢れだし、制御が効かない。自分でも予想外の激しさで、プリンセスは早口にまくしたてた。

 

「でも此処まで来て逃げるなんてイヤ! もし最終的にどちらかが消えなきゃいけないなら、それは私の方よ。アンジェには……アンジェには生きて欲しかった!だから――」

 

「姫様――」

 

 ベアトリスが声を挟むが、プリンセスは止まらない。

 

「だからあんな嘘までついて閉じ込めたのに! 貴女が傷つくような言葉をわざと言って、嫌われようとしたのに――!」

 

 

 

「姫さま!!!」

 

 

 

 いつになく強い響きを込めて叫ぶと、ベアトリスは使えるべく主の手を握った。そして残った自由な方の手で紅茶の入ったティーカップを掴むと、有無を言わさずプリンセスの別の手に押し付けた。

 

「べ、ベアト……?」

 

「まずは姫さまが落ち着いて下さい」

 

 プリンセスはぽかんとベアトリスをしばらく眺めていたが、やがて気を取り直したようにティーカップを口に運ぶ。カモミールの爽やかな香りが鼻一杯に広がり、すぅっと熱が引いていくようにして冷静さが戻っていく。

 

「……ごめんなさい」

 

 自分のことばかり考えていて、周りが見えていなかった事に反省する。今ここで取り乱したところで、現実は何も変わらないのだ。

それを変えようと望むなら、ベアトリスの言うとおり落ち着いて現実的に考えるしかない。

 

「姫さまは一人じゃないです。私はいつでも、姫さまの味方です」

 

「……ありがとう」

 

 ベアトリスが嬉しそうに微笑む。

 

 そうだった。忘れていた。自分は孤立無援ではない。頼りになる味方が、こんな近くにいるのだから。

 

 

 

「―――あー、お取込み中のところ悪いんだが、私もちょっといいか?」

 

 

 

 その時、気まずそうな声と共に戸口から現れたのはメンバーを外されたはずのドロシーだった。思う所があるのか、気恥ずかしそうに困ったような顔をしている。

 

 

「一応、ノックはしたんだが返事がなかったもんで」

 

「え!? でも私、姫さまを部屋に入れた時にちゃんと鍵はかけたのに!」

 

「部室の鍵ぐらい、少しピッキングすれば開くだろ」

 

 

 

「マナー違反です!!」

 

 

 頬を膨らませたベアトリスが反則だの不謹慎だとの抗議するのを軽くあしらいつつ、ドロシーはプリンセスと向かいのソファにどっかと座る。

 

 

「ともかく、一通り話は聞かせてもらった」

 

 

 そう言うとドロシーは手短に、何が起こっているのかをプリンセスとベアトリスに話して聞かせた。

 

 共和国内部で情報部と軍部の派閥争いが怒っていること、プリンセス暗殺はコントロールを掌握した軍部が強引に進めた作戦であること、そして軍部は今回の革命の裏で糸を引いていて王国の弱体化を狙っているということ――。

 

 

「要するにウチらは、政府と軍部の椅子取りゲームに巻き込まれたのさ。今は共和国内部もかなりピリピリしている。事は一刻を争う状況だ」

 

 

「じゃあ、ドロシーさんは……」

 

「私は政府の命令でゼルダの作戦内容を探っていた。どうやら連中、式典の場で王国首脳部を一網打尽にする計画らしい」

 

「そんな……!」

 

 ベアトリスの口から思わず悲鳴が漏れる。だが、続けてドロシーの口から出てきた言葉は、彼女らを更なる不安のどん底に陥れた。

 

 

「それだけじゃない。万が一の失敗に備えてのバックアップ・プランがある。それが“ティーパーティー”作戦………軍部の連中、この混乱に乗じて労働者たちを武装蜂起させて内戦を引き起こすつもりだ」

 

 

 そう言ってドロシーが懐から取り出したのは、手のひらに収まるほどの小さな銃だった。見るからに粗悪なプレス加工で作られており、本格的な戦闘に耐えうるものではないだろう。しかし――。

 

 

 

「アルビオン共和国製・試作簡易拳銃『リベレーター(解放者)』、こいつが50万丁バラ撒かれる」

 

 

 

「なっ………!」

 

 これには流石のプリンセスも驚きを隠せなかった。唇を噛み、白い肌から血管が浮き出るほど強く拳を握りしめる。ベアトリスに至っては顔が真っ青だった。

  




 アレですよアレ、元ネタは言わんでも分かると思います。
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