プリンセス・プリンシパル ~London Has Fallen~   作:アルビオン王国ハドソン湾会社

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case12.4:“茶会事件”作戦

            

 “ティーパーティー(茶会事件)作戦”と名付けられたそれは、王国市民に銃をバラまいて内戦を引き起こそうという、考えうる限り最悪の作戦であった。これが実行されるようなことになれば、未曽有の死傷者が発生するだろう。

 

 

「ごっ、ごじゅうまん丁ッ!? そんな、いくらなんでも冗談ですよね――?」

 

 

 予想通りのベアトリスの反応にドロシーは僅かに苦笑しながらも、残念そうに首を横に振った。

 

「いいや、嘘じゃない。見ての通りクソみたいな性能だが、その分だけ生産性はゾンビ並みさ。ナンバー刻印や防腐加工は一切なし、部品数はたったの20点、平均組み立て時間は30秒、弾は1発だけで実質使い捨て、射程はせいぜい30フィートが限界ってとこだな」

 

 

 要するに「撃っても当らない、威嚇用のハッタリ武器」という訳だ。この銃を設計した技術者たちも、はなから戦に耐えうるとは思っていないだろう。

 

 

 とはいえ「武器を持っている」という心理的な影響は無視できるものではないし、「下手な鉄砲も数撃てば当たる」でまぐれ当たりは期待できるかもしれない。圧倒的な数で正規軍を取り囲んで、降伏した兵士の武器を強奪する、といった戦法も考えられた。

 

 

 

 現在、ロンドン市民の数はおよそ500万人。つまり理論上では10人に1人は武器を持てる計算になる。そしてその数は、ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)と5つの近衛歩兵連隊、ソブリンズ・ボディーガードといった近衛師団の全ての合計より遥かに多い。

 

 

「リベレーター(解放者)とはよく名付けたもんだ。共和国は自ら直接手を汚さず、あくまで怒れる王国の民衆自身が王国の支配から己を解放する……」

 

 ドロシーの言葉を聞いて、プリンセスはハッとする。

 

 それではまるで―――。

 

 

 

「あの時と同じ―――あの革命が、また起こるというの……?」

 

 

 

 それだけはいけない。あんなにも多くの暴力と擦れ違いを生んだ革命が再び起これば、さらに多くの悲劇が生まれてしまう。

 

 

「で、どうするんだ? プリンセス」

 

 

 ドロシーが問うと、ベアトリスも不安げな目を向ける。二人に見つめられたプリンセスはじっと黙っていたが、ややあって決意したように口を開いた。

 

 

「……そんなこと、させるわけにはいかない」

 

 

 挑むような眼差しでドロシーを見つめるプリンセス。ドロシーは僅かに驚いたように眉をあげた後、にぃっと悪戯っぽく笑った。

 

「そう言うと思った。それでこそ、我らがプリンセスだ」

 

 ドロシーは椅子から立ち上がると、扉の方へ首を傾け、親指を立てて二人に付いてくるように合図する。

 

 

 

「下に車を用意してある。―――新王室寺院まで全速力で飛ばすぞ」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 その日、洗濯工場の女社長・マリラは一日分の仕事を終え、帰宅しようと部屋を片付けている最中だった。

 

 

 コンコン、と扉を叩く音がするので顔を上げると、戸口に立っていた郵便配達員が軽く帽子をあげて会釈するのが見えた。

 

「こんな時間に配達かい? 珍しいねぇ」

 

「へぇ、俺も10年以上配達員を務めているんですが、こんなのは今日が初めてっす」

 

 確認書にサインをして荷物を受け取ると、マリラは首をかしげた。届けられた小包はそう大きくはないが、妙に重たい。

 

「紅茶だって……?」

 

 包装用紙を破ると、中には「紅茶」と書かれた安っぽいラベルの貼られた、紙箱がいくつも入っていた。

 

(こんなもん誰が注文したんだ……?)

 

 身に覚えのない届け物に困惑するマリラ。首をかしげていると、従業員のリタとメリージェンが入ってくる。

 

「社長、片付け終わりました」

 

「部品の紛失もありませーん……って、あれ?」

 

 さっそく紅茶箱に目を付けたのは、大食いのメリージェン。眼鏡ドジっ子のリタが慌てて制止しようとするも、メリージェンは興味津々で箱を開けてしまう。

 

「ちょっとメリー、そんな勝手に人のモノを開けちゃ悪いよ!?」

 

「えー、でもちょっと見るぐらい…………へ?」

 

 ひぃっ、メリージェンとが息を飲んだのと、リタが顔を真っ青にして気絶したのは同時であった。

 

「嘘だろ、おい……」

 

 マリラもまた、紅茶箱の中に入っていたモノを見て血の気が引いていくのを感じた。

 

 

 ――そこには照明を反射して妖しく光る、何丁もの銃が入っていた。

 

 

 

「待て待て、どういう事だ!?」

 

 気絶したリタをメリージェンに任せ、マリラは慌てて駆けだした。無駄と分かっていながらも、先ほどの配達員を捕まえて事情を聴くべく工場の外にでる。

 

 

「っ――!?」

 

 

 角を曲がった途端、ドンッ!と誰かにぶつかる音がした。マリラは勢い余って反動で後ろに倒れる。

 

 

「いたた……」

 

 地面にぶつけて擦りむいた足を押さえ、ぶつかった相手の方を見るマリラ。よく見ると、知っている顔だった。残念ながらあまり会いたい顔ではない。

 

「あんたは……!」

 

「ちょっと危ないじゃない! どこ見てんのよぉッ!? 」

 

 そこにいたのは借金取りのオカマ……もとい、フランキーとその取り巻き二人組であった。向こうもこちらに気づいたのか、何とも言い難い微妙な表情を向けてくる。

 

「あら、アンタ洗濯工場の。久方ぶりじゃない、元気してる?」

 

「それなりってトコね。あと、ぶつかって悪かった。今はちょっと急いでるから、用事がないならどいてくれないか?」

 

 マリラがつっけどんに言うと、フランキーはやれやれといった様子で首を左右に振った

 

「やーね、余裕が無い女はモテないわよ。ひょっとしてアンタ、例の連中の仲間だったりする?」

 

「例の連中?」

 

「外でこーんな小さな鉄砲もって暴れてる連中の事よ。まったく何処の馬の骨が配ってるのか知らないけど、迷惑しちゃうわ」

 

 フランキーは困ったようにぼやくと、ポケットから届けられた紅茶箱に入っていたものと同じタイプの拳銃を取り出した。

 

「今朝、知らない届け人から紅茶箱が届けられたんだけど、その中に3丁も入ってて。ホント、悪趣味よねぇ。あたしのとこにも配られたんだけど、どうしろってんのよぉ」

 

「ごめん、ちょっと借りるよ」

 

「あ、ちょっとぉお――!?」

 

 マリラは素早くフランキーから銃をひったくると、抗議の声を無視して拳銃をしげしげと確認する。刻印はなし、シリアルナンバーも無し。どこの誰が作ったのか全く分からない。

 

 それだけに、余計に不安が掻き立てられる。一体誰が、何の目的でこんなモノを配っているのか。少なくとも、真っ当な理由からではないだろう。

 

 

「一体、この街で何が起こっているんだ……?」

 

 




 茶会事件の元ネタはもちろん、アメリカ独立戦争のきっかけになった「ボストン茶会事件」です(この世界のアメリカはどうなっているのか謎ですけど……)

 イギリスをモデルにした王国に抗議した市民が立ち上がる、というシチュエーションが似てるからという安直なネーミング(笑)

 ちなみに「リベレーター」拳銃のモデルは第二次世界大戦中にアメリカが作った同名のピストルをモデル、というかまんまパクってます
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