プリンセス・プリンシパル ~London Has Fallen~   作:アルビオン王国ハドソン湾会社

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激闘編
case12.7:Wild Wild Speed


  

 ロンドン中に戒厳令がしかれる緊張状態の中、『壁』をくり抜くようにして造られた新王室寺院では、ロンドンの喧騒とは別世界が広がっていた。

 

 礼拝堂の広さは他に類を見ないほど広く、また装飾も趣向が凝らされている。

 

 床は天然の大理石、シャンデリアは磨き上げられた純金で塗装されている。彫刻の掘られた柱と一緒に立ち並ぶ石造は、どれも中世に活躍した芸術家たちが作り上げた骨董品。女王陛下の住まうバッキンガム宮殿にも引けを取らない豪華さと、優雅さが此処には備わっていた。

 

 

「女王陛下、ご到着――!」

 

 よく通る侍従の声に、それまでシャンパングラスを片手に談笑していた貴族たちが一斉に頭を垂れる。やがて広間の奥の方から、執事の押す車椅子に乗った女王が姿を表した。

 

 

 

「……始まったか」

 

 

 

 吹き抜けの屋根の上から、ゼルダは間もなく天に召されるであろう憐れな仔羊たちを眺めていた。すぐ後ろの部屋には、大人しくスコーンを食べるプリンセス――――変装したアンジェの姿があった。

 

 今のところ、彼女は怪しい動きを見せてはいない。まるで自分こそが本物のプリンセスだと言わんばかりに、完璧な王女を演じ切っていた。

 

「言っておくが、上層部からはお前も見張るよう命令が出ている。疑われるような動きは慎めよ」

 

 アンジェの耳元で、ゼルダが囁くように警告する。

 

「共和国の為にも、王国の連中は今日ここで確実に仕留める。いいな?」

 

「分かってるわ。何度も言わないで」

 

 プリンセスの笑顔のままドスの聞いた声で返すアンジェに、ゼルダは小さく鼻を鳴らして立ち去る。相変わらず、何を考えているか分からない女だ。敵ではないが味方とも言い切れない。

 

 これから“ティー・パーティー”作戦は大詰めを迎える。だからこそ、より一層の警戒が必要だ。

 

「ん……?」

 

 にわかに下が騒がしくなったのは、その時だった。数人の黒服が、ノルマンディー公と出口の間を行ったり来たりしている。

 

(何かあったのか?)

 

 

 

 

 **

 

 

 

 ドロシーの運転する車は、まっすぐに新王室寺院に向けて走っていた。ただし、法定速度を無視して走っている場所は、『壁』の内部に作られた環状線路だ。

 

 

「ちょっと、何ですかアレ!! なんか後ろからスゴいのが追っかけてきるんですけど!?」

 

 

 後部座席に座るベアトリスが、泣きそうな表情で悲鳴を上げている。

 

 

 無理もない―――彼女たちの背後から迫っているのは、機関銃と大砲を満載した巨大な装甲列車だったからだ。

 

 

「お迎えが装甲列車とは、随分と手厚い歓迎だな! 流石にちょっとコレは予想外だ」

 

 ドロシーはバックミラーで相手を確認すると、軽い苛立ちをこめてチッと舌打ちする。プランBを立てる余裕もない。

 

「呑気なこと言ってる場合ですか!? 姫さまにもしもの事があったら……!」

 

 今にも卒倒せんばかりのベアトリス。もっとも当のプリンセスは侍女より余程肝が据わっているらしく、落ち着き払った様子で逆にベアトリスを宥めている。

 

「ベアト、運転中のドライバーの邪魔をしてはダメよ」

 

「それはそうですけどぉ~」

 

 八方塞がり。どうして毎度の事ながらこんな目に合わねばいけないのだろうと、ベアトリスは大きく嘆息する。

 

 今回の事だってそうだ。本物のプリンセスが到着したというのに、アンジェの変装が上手すぎたせいで逆にこっちが偽物扱いされてしまい、衛兵に怪しまれる始末。

 

 本来であれば怪しまれた時点で一度撤退して作戦を変更すべきなのだろうが、事は一刻を争うと判断したプリンセスは衛兵の「調べさせてもらうぞ」との反応に対して、一言。

 

 

「嫌です♪」

 

 

 当然のように拒否、そのままドロシーに命じて強行突破を図ったのだ。当然、すぐに追手が差し向けられ、現在の状況に至る。

 

 

「ねぇベアト、見て見て。砲塔がこちらに向けられてるわ」

 

「ふ、伏せて下さい! 砲弾なんか撃ち込まれたら車じゃひとたまりもありませんよ!?」

 

「では、機関銃で撃ってくれる事を祈りましょう」

 

 そうこうしている内にも、装甲列車は距離を詰めてくる。やがて照準を完了したらしく砲塔の動きが止まり―――ズドン!!と榴弾がドロシーたちの車を目掛けて放たれる。

 

「きゃぁああああーーーっっ!!」

 

 車体がガクン!と大きく揺れ、ベアトリスの悲鳴がトンネル内に反響した。

 

 

「ドロシーさん! もっと早く! このままだと……!」

 

「わかってるって! 落ち着けベアト! いま全力で飛ばしてる!」

 

 砲撃は一撃では終わらず、続けて何発もの砲弾が放たれる。直撃こそ免れたものの、凄まじい爆風がドロシーたちの車に襲い掛かり、サイドミラーが砕け散った。

 

「なんかさっきより近くなってません!? もっとスピード上げないと次こそ直撃ですよ!?」

 

「無茶言うな!もうこれが限界だ!!」

 

「もうダメですっ! 追いつかれるーー!」

 

「ごちゃごちゃ喚くなって! どうせ叫ぶなら交通安全でも祈ってくれ!」

 

 次々に放たれる砲撃と衝撃波に足を取られないよう、ドロシーはスピンしかけた車のハンドルを必死に押さえつける。

 思い切りアクセルを踏み込むも、徐々に距離は狭まっていく。そもそも列車と車では最高速度が違うのだ。

 

 すると、プリンセスが後部座席から身を乗り出してドロシーの耳元で囁いた。

 

「ドロシーさん、次の分かれ道を右です。線路のレールは左側に続いてますから、右折すれば追手を振り切れるはずです」

 

「え? なんだって? 風がうるさくてよく聞こえな―――」

 

 

 

「えいっ」

 

 

 

 プリンセスは問いに答えず、ハンドルをふんずと掴むと、そのままグイッと右側に大きく寄せた。

 

 

「ちょ、プリ――」

 

 

 当然、そんな事をすれば車は斜めに横滑りする。ドリフト状態でスピンしながら、分かれ道の右側へと突入した。

 

 

「うおおおおぉぉぉぉぉぁぁぁぁあああああッッ!?」

「きぃいやああああああぁぁぁぁあああああっっ!?」

「きゃー♪」

 

 

 三人分の悲鳴を響かせ、ドロシーたちの乗った車が右折する。やがて遠心力が底をつくと、車は疲れ果てたように動きを止めた。

 

「列車は……!」

 

 ドロシーが顔を上げる。するとプリンセスの予想通り、装甲列車はレールに従ってそのまま分かれ道を左折していく。最後の抵抗とばかりに数人の兵士が恨めしく発砲するも、無駄撃ちに終わった。

 

「……た、助かった」

 

 ドロシーがふぅ、と大きく息を吐く。後ろを見ると、悪戯を成功させた時のように満面の笑みを浮かべているプリンセスと、泡を吹いて倒れているベアトリスの姿がった。

 

「ベアト、生きてるか?」

 

「大丈夫です……いま天国にいるみたいな気分で―――うっぷ」

 

 激しいスピンの酔いに耐えられず、ベアトリスが車内から身を乗り出した。花も恥じらう乙女にあるまじき音が聞こえてくるが、そこは突っ込まないのが優しさというものだ。

   




 自分の中でベアトリスはオモシロ黒人枠なので、ちょっと洋画のノリで
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