プリンセス・プリンシパル ~London Has Fallen~   作:アルビオン王国ハドソン湾会社

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case12.8:待たせたな!

 

 ひとまず危機は脱したはず………そう安堵したのも束の間、数人の人間が駆けてくる足音が鳴り響いた。

 

 

「いたぞ! こっちだ!」

 

 

 見れば、道の先の方から赤と濃紺の制服に身を包んだ内務省軍の兵士たちが駆けてくるのが見えた。

 相手は最新式のボルトアクションライフルを装備しており、まともに正面から撃ちあえば勝ち目はない。

 

 

「隠れろ!」

「――撃て!」

 

 

 ドロシーたちが車の後ろに隠れたのと、兵士たちが発砲したのはほぼ同時であった。

 

 続いて新型ライフルの特徴である、再装填速度の素早さを活かした絶え間ない連続射撃音が響いた。タイヤがパンクし、車体にも次々に穴が空いていく。

 

 

「くそっ――」

 

 

 三人の中で唯一武器を持つドロシーが反撃を試みるも、まるで機関銃のような乱れ撃ちに思うように狙いを定める事が出来ない。

 

「ッ……!」

 

 やむを得ず腕だけを出して適当に発砲するも、訓練を積んだ内務省軍兵士に怯む様子はなかった。機械のように装填と発射のサイクルを延々と繰り返す。

 

(どうする……このままだとジリ貧に……!) 

 

 ドロシーは弾薬を再装填しながら考える。

 

 彼女の愛用しているリボルビング・ショットガンは基本的に遠距離での撃ち合いには向いていない。

 リボルバー銃の特徴である回転式シリンダーは、その形状から弾倉と銃身の間ある隙間からガス漏れが起こりやすく、またショットガンの弾は放射状に散らばるため遠距離では集弾性が極端に落ちるからだ。

 

 どうにか接近すればなんとかなるかも知れないが、あの弾幕の中を潜り抜けるのは至難の業だ。非武装のプリンセスやベアトリスでは援護もままならない。

 

 

(普段ならこういう時は、アンジェかチセがどうにかしてくれるんだが………あの二人が居ないと、こうもやり辛いとはな)

 

 

 弾の残り弾数もそう多くはない。ドロシーの額を、一筋の冷や汗が垂れていく。

 

 

 

 万事休すか―――そう思われた矢先に、どこからともなくスモークグレネードが投げ込まれる。一瞬のうちに白い煙がトンネルを満たし、兵士たちの視界を奪う。

 

 

 

「ぐわっ――なんだ!?」

 

「スモークグレネードだ! どこの誰が―――ガッ!?」

 

 

 その兵士は最後まで言い終わることなく、暗闇から現れた小さな人影の峰打ちによって昏倒した。

  

 

「敵襲! 敵襲だ!」

 

「くそっ!煙で何も見えない!」

 

「どこに居やがる! 正々堂々とフェアな勝負を―――うおッ!?」

 

 襲撃に気付いた兵士たちが反撃を試みるも、暗闇と煙で視界が不明瞭な状態での戦闘では相手に分が悪い。

 そう長くかからない内に、内務省軍の分隊はたった一人の少女によって壊滅した。

 

 

 

「チセ!!」

 

 

 

「――待たせたな。一宿一飯の恩義じゃ」

 

 かくして煙の中から現れたのは、堀川公の護衛についていたはずのチセであった。アンジェたちのチームで最強の戦力である彼女が参戦したとなれば、もう恐れるものはない。

 

「遅かったじゃないか相棒、自慢の勘でも鈍ったか?」

 

「案ずるなドロシー、これも策の内だ。いい女は遅れてくるものだと聞いた」

 

「ああ、今のチセは最高に美人だよ」

 

 こいつめ、とドロシーが冗談交じりに小突く。チセも満更ではなさそうな様子で、駆け寄ってきたベアトリスたちと再会を喜ぶ。

 

 

 

「それにしても、一体なにが起こっているのだ?」

 

 チセもまた、詳細は知らずとも王国でキナ臭い動きがあることには感づいていたようだ。ドロシーが手短に事情を話すと、チセは目を大きく見開いた。

 

「ふむ、女王暗殺か……穏やかではないな」

 

「プリンセスに扮したアンジェが、ゼルダと一緒に寺院にいるらしいんだが……」

 

 ドロシーの言葉を受けて、チセは寺院にいたメンバーの顔を思い出そうと顎に手を当てる。ややあって何かに思い至ったのか、ぽんと拳で手の平を打った。

 

「ゼルダというのは、プリンセスの傍にいた目つきの悪い女の事か? それなら吹き抜けの部屋の上にいるのを見たぞ」

 

「本当か!?」

 

 あっさりと居場所が分かったことに拍子抜けするドロシーたち。もちろん疑うわけでは無い。チセの能力はこの場にいる誰もが認めている。

 

 

「嘘は言わん。礼拝堂から見えた」

 

「よし、なら急ごう。時間が無い」

 

 ドロシーが言い、他のメンバーも頷く。全員で駈け出そうとした時だった。

 

 猛烈な突風がトンネルに吹き荒れ、間を置かずして金属同士が擦れるようなキィイイイ――ッという甲高い音が響く。

 

 そう、例えるなら―――列車が駅のホームに停車する直前のような音が。

 

 

 

「まだ残ってたぞ! 一気に仕留めろッ!」

 

 

 

「さっきの装甲列車か!? こんな時にッ!!」

 

 

 あまりに間が悪い状況での敵襲に、思わずドロシーの口から呪詛が漏れる。先ほど撒いたはずの装甲列車が、線路を逆走して戻ってきたのだ。王立鉄道警察の呆れるほどの職務への忠実さに対し、敵ながら尊敬の念すら感じてしまう。

 

 もっともドロシーが彼らを見直した時間は30秒にも満たず、銃撃を受けた次の瞬間には吹き飛んでしまったのだが。

 

「ったく、しつこい! 少しは空気読めって!」

 

 正直、先ほどの内務省軍より厄介な敵だ。装甲列車はその搭載能力を生かして歩兵から砲兵、工兵、軍医、場合によっては戦車から装甲車まで何でもござれだ。こうしている間にも、停車した貨物車両から次々に兵士が吐き出されていく。

 

 

「……チセ、スモークグレネードはあと幾つ残ってる?」

 

「これが最後の1つだ。他は全て使い尽くした」

 

 

 チセが懐から、小さな球状の物体を取り出す。

 

 

「でかしたチセ! 後で幽霊通りにあるパブのスタウトを奢ってやるよ。絶品だ」

 

 

 ドロシーはそう言うと、チセにスモークグレネードを取り出すよう合図する。

 

「作戦はこうだ。チセがグレネードを投げる。煙で敵は視界が見えなくなるはずだから、プリンセスとベアトはその隙に一気に走り抜けてくれ。私は銃で援護、チセはカンフーで敵を撹乱―――どうだ?」

 

 プリンセスとベアトリスが頷くと、ドロシーは「よし!」と銃を構えた。チセは「カンフーではない……」と不満げにブツブツ呟いていたが、体は既に投球の構えに入っている。

 

 

「よし、今だ! 投げろ!」

 

 

 ドロシーが叫ぶと同時に、チセが勢いよくスモークグレネードを投擲する。チセの強肩によって投げられたスモークグレネードは綺麗な放物線を描き、装甲列車から降りてきた兵士たちの中心部に着地した。

 

 

「プリンセス、ベアトリス、―――走れッッ!!」

 

 

 ドロシーは発砲しながら、口だけを動かして叫ぶ。それを合図に、プリンセスとベアトリスは駆けだした。チセの姿は既になく、兵士たちの中に飛び込んでいるようだった。

 

 

「ベアト、行きましょう!」

 

「はいっ!」

 

 

 駆け出す二人の主従をチラッと横目で見やり、ドロシーはその幸運を祈る。

 

 

 

(頑張れよ、プリンセス……囚われのプリンセス(アンジェ)が待ってるからな)

 

 

   




チセ「待たせたな!」
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