俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#16「千夜一夜物語(恥ずかしい)」

「よ、よし、医者に行こう。俺の頭がおかしくなったらしい」

「マサト様、落ち着いてくださいませ。確かに私の耳にも聞こえましたわ」

 

『姫の言う通りだ。そもそも我が主の頭がおかしいのは元からだ』

 

「バットが、金属バットさんが一丁前に俺をディスってるぞ……」

「これが銘の効果、ですわ」

 

『然り。エンチャントの効果を得て、遂に私は自我を得た』

 

「じ、自我……?」

「エゴ・ウェポンですわ。トリピュロン王国にも知性ある道具の伝承はいくつも存在しますわ」

 

「マジかよ。すげーな」

「私も目にするのは初めてございますわ。実在したのですね」

 

『さあ我が主、我に相応しい名を付けるが良い』

 

「もう銘はあるんだろ」

「銘は道具としての名前に付くもの。名は持ち主と道具で認め合う契約の名前ですわ」

 

 装備名と通称、みたいなモンかな……?

 よくわからん。

 

「そもそも銘だとか名付けだとかして、何か意味あんの?」

「確か、持ち主との絆が深まり更に強力な武器に――」

 

 窓からバットを、ぽいっ

 

「あああああ! マサト様、なんて事を!」

『主、時に落ち着け。話し合おう』

 

「うっせー、必死に頑張ってるのは俺なのに、何で金属バットさんばかり強くなるんだ!」

 

 ファルフナーズが駆け出して、庭へ金属バットさんを取りに行く。

 

「もうー マサト様ったらー」

 

 おや、メイドっぽい言葉を言うようになったじゃないか。

 すると俺の今の態度はワガママ貴族か。

 

 いや、もうだってさー。

 やってられない、っつーの。

 マジで。

 

 

 部屋に戻ったファルフナーズが金属バットさんを壁に立てかける。

 

 

『我が主よ。我の力は主次第、いや、我自体が主の一部なのだ』

「意味わかんねー」

 

『手足のようなものだ。いくら器用でも、己の手に嫉妬する者はおるまい?』

「ま、まあな……」

 

『我は主の影、主無くしては存在自体が消ゆる。ただの金属バットに戻ってしまうのだ』

「サーバーと端末、みたいな関係って事か」

 

『然り。我の知性は別の角度から見た主の人格、と解釈すれば良いのだ』

「俺はそんな変なしゃべり方しねーけどな」

 

『我の知性は最も良く使われていた時代の主の希望を根源にしている故』

「俺、そんな変な野球少年だったっけ?」

 

『いやいや、その後の頃の……』

「チャンバラごっこ時代か」

 

 言われてみれば、金属バットを振り回してチャンバラしてた記憶がある。

 一人で。

 

 ゴザルゴザルと武士気取り。

 

「なお恥ずかしいわ!」

 

 ああああ!

 

 床に倒れこんで顔を手で覆い足をバタつかせて羞恥心に耐えた。

 そんな根源的な黒歴史がコイツの人格ベースになっているとは!

 

「よし、やっぱり捨てよう」

 

 部屋の隅へ、ぽいっ

 

『主、落ち着け。全力で落ち着いてくれ』

「そ、そうですわマサト様……誰しも子供時代はひょうきんなもので……ふふっ」

 

「うわあああ!」

「まっ、マサト様あ! ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

 発作的に扉を開けて飛び出そうとした。

 ファルフナーズが抱き付いて俺を引き留める。

 

 扉の向こうにはダンジョンが広がっていた。

 

「くっ、この屈辱から逃げる事もかなわないとは」

「お許しくださいませ、マサト様」

 

「耳まで真っ赤だ! メイドが主人を笑うとはなー!」

「ああ、本当に申し訳ありません。どんな事でも致しますからお許しを」

 

 と、言ってファルフナーズは口に手を当てる。

 言質、頂きました。

 

 ニヤリ

 

「悪い顔なさってますわ、マサト様。どうかお手柔らかに……」

 

 言いながら早くもスカートの裾や胸元を気にしはじめている。

 

「今日の俺は一味違うぜ。この俺が味わった恥辱を倍にしてファルフナーズも味わうのだ」

「ま、マサト様ぁ~!」

 

「そう、ファルフナーズがこれまでに経験した最も恥ずかしい思い出を教えてもらおうか」

「でしたら先ほどの……」

 

「いや、あの程度では駄目だな。これは俺が満足するまで続く」

「ひ、ひぃーん!」

 

 ……

 

 …

 

 ファルフナーズの恥ずかしい話は夜更けまで続いた。

 トリピュロン王国の文化に少し詳しくなった。

 

「では……私が7歳の頃、姫巫女とは魔法で巫女に変身して、魔法のステッキで人々を癒す魔法を使うものだと思い込んで――」

「ほうほう、既に面白いな。続きは?」

 

「あの、それで……」

「ん? 続けて?」

 

「サ、サインの練習などを」

「わはははは! 書いて! そのサイン書いて!」

 

 …

 

 翌日、昼まで顔を合わそうとしてくれなかった。

 

 …

 

 

「さあ、ダンジョンいこうぜ。歌って踊れて目から七色のビームが出る魔法のプリンセス」

 

「いやあーー!」

 

 

 顔を手で覆って30分固まられた。

 

 おあいこ。

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