「よし、みーとそーすを頂くのですわ!」
「最近俺の口癖移ってきてるよね」
「まあ! このソースの香ばしく何と深みのある事でしょう――」
始まった。
喜んでいるから良いんだけど、一口だけでよくあれだけ言葉が紡ぎ出せるもんだな。
「あ、まだかかります?」
「ええ、後3分ほど。そしてこの小麦粉が原料のパスタという形状がまた――」
1口10分か……スローフードここに極まれり、だなー
長生きするよ。
ファルフナーズが2口目を食べた時には俺は全部食べ終わっていた。
女って食べるの遅いよなー
…
「やばい。腹がタプンタプンだ」
『ドリンクバーを飲みすぎなのである』
「ふふっ、マサト様のお腹を突つくと何だか楽しい感触ですわ」
君が食べ終わるのを待ってた結果だよ?
周囲を警戒しながら店を出る。
どうやらあのタクシー屋は去ったようだ。
良かった。
「大変素晴らしい昼食でしたわ。マサト様のお屋敷の食事に勝るとも劣らない美味でしたわ」
「そりゃどーも」
パスタセット900円だけどな。
まー、口に合ってくれて良かったよ。
俺が異世界に行ったら、絶対1日で日本の食い物が恋しくなるに違いない。
「なあ、ファルフナーズの国の料理ってどんなの?」
「そうですわね……肉料理でしたら、私はドリル・バッファローのヒレをレプラコーン・ピノの赤ワインで煮込んだ――」
あ、ダメだ。
さっぱり分からない。
まあドリル・バッファローって時点で理解したくも無くなったが。
やっぱり角が回転しながら突進してくるんだろうなあ……
食材ひとつに命懸けとは恐ろしい。
…
結局、クボタスポーツ用品店に辿り着く頃には夕方になってしまった。
「よし、前回の徹は踏むまい。ファルフナーズ、自動ドアを開けてくれ」
「かしこまりましたわ。ここに立てばよろしいのですね?」
フィイイン
「えーらっしぇい! ハマタン装備店にようこそ!」
順調にバグり続けてるなー
それとも俺が来たからバグり直したんだろうか。
「すいません。この金属バットなんスけど、直せますかね?」
「また来たな、兄ちゃん。少しは戦士らしい顔になってきたじゃねえか」
どんな顔だ。
「ああ、こりゃ耐久度が0になってる。装備できないよ」
「そんなルールあったのか」
『ないぞ』
「普通に鉄の像を殴ってましたわ……」
禿げ散らかした店主が凄い残念そうな、愕然とした顔になった。
ええ、何その表情!?
空気読んで話し合わせろって事?
それっぽく受け答えしないと逆に面倒な事になりそうだぜ。
「オ、オヤジ……流石に強敵揃いになってきてな。お前の腕が頼りなんだ。頼むぜ」
こ、こんな感じか?
あー……すっごい嬉しそうな顔になった。
キラッキラした表情になってる。
「ハッ! 誰に向かって口を聞いていやがる!」
スポーツ用品店の店員ですよね?
「待ってな。このくらい、すぐに直してやるぜ」
革の作業グローブを手にはめながら言う。
プップッと手につばを付けて……汚ねえなあ。
そもそもグローブの上に付けて意味あるのかね。
『流石に良い気分では無いのである』
「うるっせぇ! 気が散るからしゃべるな、金属野郎!」
どこからともなく取り出した大きいハンマーで金属バットさんを滅多打ちにしてる。
外側からハンマーで殴って、折れた金属バットが真っ直ぐになるはずが――
あった。
「んなアホな」
「ふぅ……もう年だぜ。だが、久々に良い仕事をした」
額の汗を拭いながら、やり遂げたぜって爽やかな笑顔してる。
でも額を拭いた時に散らかり気味のバーコードが前髪にかかって、ちょっと切ない事になってるぞ。
おっと、あのオヤジの顔は、またそれっぽい事を言うのを期待してる表情だ。
「えーと……い、いい腕してやがる。まだまだ衰えちゃあいないようだな」
「はん!」
ニヤリと笑って真っ直ぐに戻った金属バットさんを突き出してきた。
仕方ないので、同じくニヤリと笑って受け取る。
やめて。 そんな爽やかスマイルで歯をキラリと光らせないで。
「だが、兄ちゃん。それだけじゃダメだ」
「はい?」
「随分と硬い敵を相手にしてるようじゃないか」
『ちょっとテコの原理を使い誤っただけである』
シーッ!
あー……ほらー、またオヤジがこの世の終わりみたいな顔になった。
「ま、まあそんな所だ。動く鉄の像を薙ぎ倒さなきゃならなくてな」
シャキーン!
そんな効果音が聞こえた気がした。
オヤジ速攻復活。
わー面倒臭い。
「だろうな。そのままの強度じゃ1体倒すたびに俺を儲けさせに来る事になるぜ」
「ふーむ、では何か良い方法でもあるのか? 教えてくれ、オヤジ」
「俺とお前の仲だ。教えてやろう。ここへ行きな」
どんな仲かな? 聞きたくはないよ。
オヤジは腰から巻物を取り出して俺に渡した。
巻物って……
「これは……?」
「行けば分かる。そこでハマダというジジイを探すんだ」
ふと気になってオヤジの胸元を見ると……
『店長代理ハマダ』
「納得した。ただの仕事丸投げじゃねーか!」
「じゃあな、兄ちゃん。死ぬんじゃないぜ」
あっ、それは既に7回ほど。
「毎度有難うございました~ またのご来店をお待ちしておりま~す」
「そこは普通かよ!」
疲れる店だ。