「よし、巻物だ」
「何だか楽しくなってきましたわ」
スポーツ用品店を出てすぐ巻物を広げた。
後ろですっごいオヤジがにこにこしながらこっちを見てるけど気にしない。
巻物を広げて、ぱらりっ!
[ ハマタン装備店 → 300m → 目的地 ]
スパァーン!
「直進すぐそこじゃねえか!」
「口頭で終わる話でしたわ……」
反射的に巻物を地面に叩きつけてしまった。
すまん、巻物。
悪いのはお前じゃない。
あのスポーツ用品店の禿げ散らかしたオヤジだ。
「ファルフナーズ、この巻物あの後ろでニヤニヤしながら見てるオヤジにぶつけて返して来て」
「そ、それは流石に……一応、親切で教えてくださったのですし」
『親切3割、イタズラ7割なのである』
そもそも巻物なんてものがスッと出てきた時点でおかしかったんだ。
「リベンジしてやる。今度来るときまでにスライムを生け捕りにして買い取らせてやろうぜ」
『パニック・ホラーの始まりフラグである』
「パニ……? 美味しそうな響きがしますのですわ」
食いしんぼうさんめ。
「どれ300m先は……あれかな?」
やたら赤い色で目立つ大型の店舗がある。
これが探索の末に辿り着いた約束の地か。
苦節2分。
擬人化されたマスコットがニヤニヤしている看板を読み上げる。
「カー・コンビニエンス倶楽部」
『車のメンテナンス屋である』
「く、車は悪魔の乗り物ですわ!」
「板金屋に来させて何をしろってんだ……」
『ともかくあの店主の父親殿を探すのである』
父親と決まったわけじゃないけどなー
心底どうでも良いから突っ込まない。
「すんませーん」
「いらっしゃいませ! 修理車のお引渡しですか?」
まあ車のメンテナンス屋に徒歩でくればそうなるな。
だが生憎、俺は車どころか免許すら持ってない。
「あ、いえ。ハマダさんて人を探してるんスけど」
受付のぴっちりとしたブラウスにタイトスカートの綺麗なお姉さんの表情が、いや空気が変わった。
目を細めて、髪をかき上げながら遠くを見つめてる。
「そう……遂にこの時が来てしまったのね。彼なら倉庫よ。また寂しくなるわね……」
「あ、ありがとうござます」
お姉さんも変なスイッチ入ったみたいだ。
とっとと用を済ませてしまうに限る。
倉庫は部品や廃棄品の置き場のようで、ガラクタが山となって積み重なっている。
「ハマダさーん、居ますかー? ハーマダさーん」
「来たか、小僧。そろそろ来る頃だと思っていたぜ」
うわあ。 最初から全力でバグってる。
もろ右手にスマホ握ってるじゃん。
絶対今、スポーツ用品店のオヤジから連絡もらったろ。
「この金属バットさんの強度を上げたいんだ。鉄の鎧の装甲を抜きたい」
「鉄の剣で鉄の鎧をな。簡単に言ってくれるぜ」
いえ、剣じゃなくてバットです、バット。
鉄じゃなくて超ジェラルミンだし。
「だが任せな。ワシは強化一筋50年だ」
「強化!?」
「そうだ。鉄は打って鍛えるのだ」
ジェラルミンなんだけど……
大丈夫かなあ?
「突きなら同じ鉄の剣で簡単に抜けるが、これはそうもいかん」
バットですからね。
『我にも弱点くらいある。完璧な武器など存在せぬのだ』
「その通りだ。だが強化はその無理を押し通す! 剣は万能の武器となる!」
バットです、バットバット!
爺さんがどこからともなく出したハンマーで金属バットさんを叩く叩く。
ガンゴン! ガガン!
ピローン!
「えっ、何、今の”ぴろーん”って音?」
「できたぜ。強化値は+1だ」
「おお! 何かゲームっぽいな。でも待てよ……+1って事は、もっと強化できるの?」
「お値段は強化したい武器の現在の強化値 × 1000円 になります」
営業口調だ!
『何やら体に一本芯が通ったような良い気分である。主よ、良ければもう少し……』
「もちろん。手持ちをはたいて強化してやるぜ」
「ああっ!? 帰りにプリンを買って頂く約束でしたのに!」
お姫様は地球にグルメツアーに来たのか!?
…
+9まで強化を終えた。
ここで爺さんが突然違う事を言い始める。
「ここから先は俺でも失敗する事がある。成功率は80%だ。特別な素材があれば成功率が上がるぞ」
「ほーん。失敗するとどうなんの?」
「逆に強化値が下がる」
なーるほど。
「手持ちも少なくなってきたし、今回はここまでで十分だろ」
『うむ、格段に強化されたのである。これなら、あの鉄の像も打ち砕けようぞ』
本人が、いや本バットが言うんだから間違いないだろう。
「プリン、楽しみにしておりましたのに……」
プリンセスがあんまりプリンプリン言うなよなー
「大丈夫。プリン買うくらいは十分残ってるから安心しろ」
「流石マサト様ですわ!」
できればもっと別の所で流石って言って欲しいなあ。
「世話になったな、爺さん」
「なあに、俺より先に死ぬんじゃねえぞ」
いえ、もう7回ほど。
店を出る所で入り口が騒ぎになっていた。
さっきのバグった受付のお姉さんが声を張り上げている。
その相手が――
「あの兄ちゃんには俺の力が必要なんだ! 俺のタクシーがな! ここを通せ! 力ずくでも通ってやるぞ!」
「あの子の悲しみの何が貴方に分かると言うのっ!? 力だけでは何も解決しないのよ!」
「……」
『……主はどんな悲しみを?』
さあ……?
毛根とかですかね。
ややこしくならないよう、見つかる前に帰ろ。