「よし、ダンジョンだ」
「お風邪を召しておられるのですから、まだ寝ていたほうが……」
「なーに、ウィルス性の風邪じゃないんだ。体を動かしてれば治る」
「ウィル……?」
第一、借金がある。
風呂場の水道を破壊してしまったから。
修理代は親が立て替えてくれたものの、俺が払う事になってしまった。
おのれ暮らし感心クラスマン。
ウソです。修理してくれて有難う。
あと両親には隠してるけど、窓ガラスも交換しなきゃなあ。
そしてスノコもか……金かかるなー
「行くぜ! 3万6千飛んで54円!」
「今日のマサト様は良く分からないのですわ」
『男には稼がねばならぬ時がある、のである』
「方眼紙よーし、ペンよーし。準備完璧! いざ、ダンジョン・オープナー!」
『主、我を忘れていかないで欲しいのである』
金属バットさんをベッドの脇に立てかけたままだった。
「わ、忘れてないし? 片手に方眼紙とペンを持ってて、扉を開けるために仕方なかっただけだし?」
『絶対忘れていたのである』
フスマを開けると第4階層の廊下が……
左右に広がっていた。
「あれ、前回とは出現位置が違うのかな? それとも配置が違うのかな……?」
「どちらの方向にも遠くに鉄の像が見えますわ。恐らく、壊された形跡がないので――」
『うむ。配置変更であろう』
「ほほー、じゃあ今までも階層のボスを倒すまでは、入り直すたびにダンジョンも復活してたのか」
「どうやらそのようでございますわ」
つまり1からやり直しか。
だが、階層まで戻されてないのはラッキーと思うべきか。
「よし、じゃあ慎重に歩測しながら……って、歩測なんて出来なかったわ、俺」
「歩測とは何でございましょう? 私に出来る事であれば……」
『歩幅をなるべく等間隔に保つ事によって、歩数で距離を測る事である』
「うーん、じゃあこの石壁のブロック数で測っていく方が正確かなあ」
『主よ。計測なら我に任せるのである。機械的な事なら無機物に任せるのが一番也』
「便利な奴だ。バットなのに大きくなったり、火を噴いたり、計測したりと万能だな」
『お褒めに預かり光栄の至り』
もう全部金属バットさん1本で十分なんじゃないかな。
「まずはシンプルに、『外周に手を付きながら進む外堀を埋めていくぜ戦法』だ」
「流石マサト様ですわ。迷宮を迷わずに進む、そんな手法をご存知とは」
「ファルフナーズ、右と左どっちが好き?」
「はひっ!? ええと、そうでございますね……どちらかというと……」
「じゃあ右な」
「もーっ! マサト様、意地悪ですわー」
ファルフナーズが俺の背中をポコポコと叩く。
姫に押されて迷宮参り。
入り口から100m近く進んだ所で、例の鉄の鎧像が2体、向かい合わせに立っている。
「さあ、今日は軽くぶち壊してやるぜ!」
『リベンジ推参なのである』
日本語おかしくない?
「燃えろ、金属バットさん!」
『応! さあ主よ、ガツンと一発』
「いやいや」
『!?』
金属バットさんを鎧の右手首に張りつける。
『破壊せぬのか?』
「鉄は熱くして打て、って言うじゃん?」
『長生きするのである』
「うっせー、この先にどれくらい鉄の像があるか分からん以上、毎回ぶち壊してたら俺の体力が持たんわ」
10分ほど鉄の鎧像の右手首を炙あぶる。
「さて、こんなものか。おりゃあ!」
ボゴッ!
暖めたチーズをナイフで切るような感触で簡単に手首を叩き落せた。
地面に落ちた手首と鉄の剣が派手な音を響かせる。
「ファルフナーズ、必ず手首を落とした側の像に寄って通ってくれよ?」
「わ、私とて同じ間違いは2度はしないのですわ」
ははは、と笑いながら鉄の像の脇をすり抜け――
ゴムンッ!
「痛って!」
『手首から上も、罠の動作も健在なのである』
余りに像の近くを歩きすぎて、像の右腕そのものに殴られた。
運良く野球用マスクの上にヒットしたから良かったものの。
痛みの余り転がってのたうちまわってしまった。
「マサト様、耐久が1点減っておりますわ」
「マジ痛い! 本当にわずか1点のダメージかよ」
昨日作ったタンコブも完治してないのに。
頭ばかりダメージを受けるなあ。
「この鉄の像解体して、兜だけもらっていくかな……」
『ちょっとセコいのである』
「ん? 待てよ?」
「どうされましたか、マサト様?」
「じゃあこの切り落とした手首と剣は安全か」
『また悪い顔になったのである』
「うっせー、顔が悪いのは元々だ。ファルフナーズ、両替機を出してくれ」
「かしこまりましたわ」
ファルフナーズが腰元にあるらしい魔法のアイテム・バッグから両替機を取り出す。
「鉄の像の手首と剣、さて、おいくらハウマッチ!」
『かなりセコいのである』
「こちとら借金を背負った身なんでえ! 体裁どうの、なんて言ってられるかー」
「庶民の知恵なのですわ」
お姫様の口から言われると嫌味にしかならないからやめて欲しい。
両替機の画面に換金表示が出た。
「セコく奪い取った鉄の剣と鎧の手首 を換金します 1)銀貨3枚 2)3270円」
「一言余計だ。両替機もステータス画面みたいに小言を言うようになったのか」
「乳母様を思い出しますわ……とても口厳しくて」
ほほー、それでこんなに素直なお姫様に育ったわけか。
万が一に会う事があったら一言礼を言わねばなるまい。
ついでに甘い物好きを何とかしておいて欲しかった、ともな。
「ともかく3000円ゲット! よし! やる気出てきたぜ」
『こうなったらガンガン進んで稼ぐのである』
「じゃあ反対側の像も壊しておくか」
『最高にセコいのである』
「うそうそ、片っ端からやってたら日が暮れてしまうからな」
『それを聞いて安心したのである』
「あ、でも、この鉄の像自体を換金できるのかな」
『この上ないセコさである』
感想お待ちしております!
あとパンツ
厳しい評価点を頂き、やはりパンツだけではダメなのだなあと反省する次第。