「よし、階層ボスの顔を拝んでやるぜ」
「マサト様となら、どんな敵でも怖くありませんわ」
しまった。
まだ乙女モードのままだ、このお姫様。
押し開けた扉の中を警戒しながら踏み込む。
とてつもなく広いホール状態になっているボス部屋だ。
天井もとても高い。
「モンスターが見えない。また罠か?」
『いや、主よ。扉の前に何か居るようである』
あ、本当だ。
もうぼやけて見えないくらい遠くだが、反対側に何か居る。
「よし、行こう。こちらが近づくまでは何もしてこないみたいだ」
「マサト様、どうかご慎重に」
「オーケー、ファルフナーズ今のうちに【魔法の盾】を。金属バットさん、燃えておいてくれ」
「了解しましたわ」
『応である』
ゆっくりと近づき、その物体を見定める。
どうやら……大きなテーブルと、何か車輪のようなものが3つ。
その3つの車輪に人らしき紫の全身を覆う服……ローブって言うんだっけ?
3人のローブを着た人物は女性、どうやら老婆だ。
車輪に白い綿みたいなものをくくりつけてハンドルで回している。
「あれは糸車ですわ」
「糸車? へー、あれが」
老婆達の脇には白い綿がたくさん置いてあり、テーブルの上には確かに棒に巻きつけられた糸の束が置いてある。
巨大な横長のテーブルを挟んで老婆達の向かい側に到達した。
「お前達がこの階層のボスか」
「ヒッヒッヒ……良く来たの……ダンジョン・オープナーや」
3人のうち右側の老婆が肩を震わせるように笑いながら応答した。
あれ、ちょっと懐かしい感じの声がする。
引き篭もり生活が長かったせいかな。
「こっちはいつでも良いぜ。婆さんを叩きのめすのは気が引けるが、モンスターとあっちゃあ仕方ない」
「ワシらをモンスターとな……無礼な坊やじゃて」
「むう、調子狂うな。いかに俺でも、婆さんを金属バットで殴るのは無理ゲー過ぎる」
『ネットに流されたら炎上逮捕必死の絵面である』
「ヒッヒッヒ、元引き篭もりは気が小さいのう」
「あ、やっぱ殴れるわ。ちょっと燃やしてやるか」
「マ、マサト様……流石にそれはどうかと」
「なあ婆さん、俺達の事を知ってるなら戦うか通すかにしてくれないか」
「シシシ……若いモンはせっかちじゃのう。」
真ん中の老婆が小刻みに震えながら応える。
「良いじゃろう。シシシ……勝負してやろうじゃあないかえ。じゃが……」
「だが……何だ? 条件付きか?」
代わって左の老婆がよれよれの白髪を掻き分け、目だけを覗かせて問いかけてくる。
「どの勝負がお望みじゃ? 殺し合いか? ゲームか?」
「ほほー、選ばせてくれるのか。流石に婆さんを殴るのもアレ過ぎるし、ここはゲームで勝負だ!」
途端に3人は後ろから光を発し、体が宙に浮き始める。
な、何だ!?
「よかろう! ワシらは未来を司るノルニル3姉妹! ダンジョン・オープナーの未来は今、紡がれた!」
「うわっ! まぶしっ!」
それまでの枯れたボソボソの声とは打って変わって、若い女性のようなきびきびした大きな声だった。
「賢明な判断じゃったの、ダンジョン・オープナー! これでもワシらは神に連なる巨人族、戦いを選んでおったら……」
「うっそー……」
3老婆が目の前で巨大化していく。
どうりでこの部屋が異様に広いわけだ!
巨大化しきった老婆の靴だけでも俺より大きい。
こんなのと、しかも3人と戦ってたら即死だったな……
老婆はそれぞれの声で笑いながら、再び普通の人の大きさに戻っていった。
「ワシは運命により未来を紡ぐ者、ウルズじゃ」
「ワシは変化により未来を紡ぐ者、ヴェルザンディ」
「そしてワシが希望により未来を紡ぐ者、スクルドなのじゃ」
「マサト様! 今、分かりました。この老婆、いえ御方達は御神そのものですわ!」
「まっじでー!?」
おいおい
危うく神に肉弾戦を挑む所だったのかよ。
いくら不死身とは言え、どこかの哲学者じゃあるまいし、そんなの無理無理。
あー良かった。
「で、何でそのゴッド様達が俺と勝負するってんだ」
「マサト様に頼ってはおりますが、あくまでこれは私の姫巫女としての試練なのです」
「ははー、つまり巫女適正の試験官みたいなモンか」
「その通りですわ」
ファルフナーズがひざまずいて、ノルニル3姉妹とやらに敬意を示した。
何となく俺も同じポーズをとっておく。
「よい。ワシらはアストラルに映る影、姫巫女の世界に縁のある神でもないからの。そうかしこまる必要も無かろう」
ファルフナーズが礼を言って、ゆっくり立ち上がる。
えーと……じゃあ俺も立ち上がっておこう。
「そう言えば、モンスターには見えなかったファルフナーズの姿が見えてるのか。こりゃ確かにモンスターとは違う」
「はい。アストラルの影とは言え、御神にお目にかかれるとは、姫巫女としてこの上無い喜びなのですわ」
「へー……まあ俺には関係無いから良いけど、じゃあゲーム勝負はファルフナーズがやんの?」
「構わぬと言ったものの、無礼な坊やじゃの。むしろおぬしの世界にはそれなりに縁があると言うのに」
へーへー、左様でございましたか。
金運アップしてくれたら拝んでやるから頼むよ。
(とっくに上がっておるじゃろ。稼げないのは運よりおぬしの所業のせいじゃて)
「こ、こいつ。心の中に直接……!?」
「マサト様、御神の前に隠し事は無意味ですわ。どうか慎しみを」
「こえー……プライバシーも何もありゃしない」
「普段はこんな事やらんがの。坊やの肝をちょいと冷やしてやろうかと思っただけじゃ。ヒッヒッヒ」
絶対零度まで冷えました。
まじゴッドすげえ。
超リスペクトっすよ。
女運アップお願いします。
「それも上がってるじゃろうに……先ほど実感したばかりじゃろ」
「そうでした。すんません、ってか心読むのマジやめてください」
ちくしょー、こうなったらさっさと終わらせるしかない。
ゲーム勝負とやらはファルフナーズに任せて良いみたいだし、先に帰ってようかな。
「いや、勝負するのはおぬしじゃ。姫巫女が選んだ使いの者じゃからの」
俺がやるのかー……
使いの者って何だよ。
ファルフナーズが俺のメイドだろー?
「それで、何で勝負すんの……するのですか?」
「そうじゃな、シンプルにおぬしの世界にあるカードで勝負するかの。シシシ……」
3老女神は椅子に座りローブのフードを脱いだ。
!?
そんな……まさか
「これ、このトランプで勝――」
「スクネ婆ちゃん!!」
喜びの余り俺はテーブルの上から婆ちゃんに飛びつく!
「な、なんじゃ!? 突然老婆に抱きつくでない!」
「婆ちゃん! スクネ婆ちゃんだ! 会いたかった!」
「こりゃ! 人違いじゃ! 離せ、苦しいぞえ!」
「いいや、どう見てもスクネ婆ちゃんだ! 7年前に死んだ山形のスクネ婆ちゃんだ!」
嬉しい!
亡くなる時に見送れなかった。
ずっと心に引っかかってた!
「何度も仏壇に語りかけたのに、ちっとも会いに来てくれなくて! でも仕方無いよな! こんな所で神様やってたんじゃあ忙しいよね!」
「ち、違うと言うておろうに……」
「そんなにマサト様の御祖母様に似ておられるのでしょうか……?」
『似てるどころでは無いな。瓜二つである。何せこの我も御祖母殿に買って頂いた身故。そのご尊顔、忘れようも無い』
「ええい! やめよ、やめよ! こりゃたまらんのじゃ!」
ドムンッ!
「うわっ、スクネ婆ちゃんが爆発した!? 婆ちゃん大丈夫!?」
手ではたはたと仰いで煙を晴らす。
見回すと他の2人の老婆も煙に包まれていた。
煙が晴れて、そこに居たのはスクネ婆ちゃんでは無かった……
「ふう、これで分かったじゃろ。ワシはスクルド。おぬしの祖母では無いのじゃ」
「ば、婆ちゃんが……子供に戻った!?」
「戻ったのでは無いわい。神に肉体的年齢は無意味なのじゃ。老婆の姿は単なる役作りじゃ」
「婆ちゃん、俺はやっぱりあの婆ちゃんの姿が一番好きだよ。割烹着の姿が最高だよ」
「マサト様は余程御祖母様を慕われておられたのですね」
『うむ。主は御婆ちゃん子だったのである。休日のたびに父上殿に帰省をせがむほどであった』
それから小一時間かけて、ノルニル3姉妹は俺のスクネ婆ちゃんとは関係無いと説得された。
3人とも子供の姿になってしまって……嘆かわしい。
「くっそー、紛らわしい顔するなよな。違うなら違うって最初に言えよ」
「ずっと言ってたじゃろうが! 何と手のかかる坊やじゃ」
「まあでも考えてみれば納得だぜ。俺のスクネ婆ちゃんはもっと凄い超神になってるはずだからな!」
「無礼も極まる奴じゃな……」
「申し訳ございません、スクルド様。マサト様は御祖母様の事を思えばこそなのですわ」
「まあ良い。人前ではずっと老婆の役で通してたから、この体は少し違和感があるがの」
「何だよー 人違いだとしても、せめて婆ちゃんの姿になっててくれよー」
「お断りじゃ。またおぬしに抱きつかれたらたまらんからの」
「いいじゃんかよー 抱きつくくらい。久しぶりに膝枕してくれよー」
「久しぶりも何も無いのじゃ。初対面じゃ、初対面」
ちっ、神様のクセにサービス精神てもんがありゃしない。
何だあのちまっこい子供の姿は。
もっと癒しと慈愛に満ちた婆ちゃんの姿をしてれば良いのに。
「もう良い。ともかくカードで勝負じゃ」
「あー、やる気出ねーなー……スクネ婆ちゃんに会いたいなあー」
「なんだか私も祖母に会って甘えたくなって参りましたわ」
「だろー? やっぱ人間、爺ちゃん婆ちゃんが大好きなんだよ」
「ちっとも話が進まんのじゃ……」
『主に代わってお詫び申す。許されよ、スクネ……いや、スクルド様』
「ともかくダンジョン・オープナー! カードで勝負じゃ!」
「若返ったやつはせっかちでダメだな。仕方無い、勝負するかあ」
「ようやくなのじゃ……これほど疲れる人間は初めてじゃ」
「あ、でも勝負中は昔みたいにちゃんと『マー君』って呼んでくれよな」
「早くも負けを認めたくなってきたのじゃ……」
「スクルド様! ファイトっ! なのですわ!」
応援するほう間違ってない?
他人の空似。グランマ最高。
次回#37「ゴールデンタイム・ババア」お楽しみに。
感想とかお婆ちゃんとかお待ちしております!