「よし、今日の事は無かった事にして帰ろう!」
「ならんことは、ならぬのじゃ」
くそー、いらないって言ってるのに。
この3姉妹、俺の家に押しかける気が満々らしい。
「まあ、いきなり3姉妹で押しかけるのも酷じゃろうて。幸いワシらは三位一体の神。つまり誰か1人が付いてゆくだけで良い」
「あんま変わらん気がするが……」
「食費が1人分で済むじゃろう?」
「神様なのにメシ食うの!?」
「おぬしだって仏壇に供え物してたじゃろう……」
「神様なら霞を食え、霞を」
「そりゃ仙人じゃのう」
「ファルフナーズさん!? こんな事になるなんて俺、聞いてないんだけど!?」
「申し訳ございません……ですが、私はマサト様におすがりする事しかできず……」
「おぬしが選択した事じゃしのう。姫の乳に釣られて高い代償となったかや?」
くしししっ、とイタズラ小娘のようにスクルドが笑う。
「分かった。だがスクネ婆ちゃんの姿になってくれ」
「あれだけはお断りなのじゃ! 軽くトラウマになりかけたのじゃぞ」
「……何気に失礼じゃない?」
「あいや、神ともなると人に触れるような事が滅多に無くての……」
「仕方無い。じゃあせめて『マー君』て呼んでくれ」
「ぐぬー……しょうがないのう。マー君や」
子供声なのがやはり不満だがこの際我慢するしかない。
「白髪だからギリギリ許せるが……」
「シラガちゃうわい。これは銀髪じゃ、銀髪」
脳内補正で白髪になってるからオーケー。
「んじゃ帰ろうかー」
「かしこまりましたわ」
『長い一日だったのである』
…
「さて、無事に帰ったは良いが、スクネ婆ちゃんが若返ったと言って両親が納得するだろうか」
「スクルドと呼べい。ややこしい。その点は大丈夫じゃ」
「ほー、神様パワーで何かやってくれるの?」
「何もせんぞー むしろマー君の宿業が勝手に、ワシをこの家の娘に結びつけるじゃろ」
「宿業?」
「ダンジョン・オープナーの能力じゃ」
「ああ、やっぱりこの能力で周囲をバグらせてるのか」
「うむー その能力は異界の異物を強引に現世へ馴染ませる能力もあるようじゃてなー」
あ、こいつ、俺のベッドに勝手に横たわりやがった。
しかも「ちと男臭いのー」とか文句言ったよ。
男が男臭くて何が悪い。
『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』
「お、きたきた。レベルアップ」
「おめでとうございます、マサトさ――」
『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』
「うはっ、2回上がった」
「流石ですわ、マサト様」
『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』
「おいおい、マジかよ」
『大盤振る舞いである』
『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』
「ワルキューレみたいだな」
「なんじゃそれは? 死んだらヴァルハラにでも行くのかえ?」
『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』
「5回! 今日の俺の活躍はそれほどだったとは」
「マサト様、快進撃でしたから」
考えてみれば、3層4層を一気に突破したからなー
「じゃあ早速ステータスを確認しよう」
「その前にレベルアップ・ボーナスのガチャなぞを」
覚えていやがったか……
「コホン。ファルフナーズ、神前だぞ。ガチャなどと言うはしたない行為は控えるんだ」
「別にはしたなくも無いがのー」
援軍が謀反を起こしました!
アテにならねー!
「ではスクルド様の許可も得た事ですし」
「落ち着けファルフナーズ。その手をゆっくり下ろすんだ」
ぷくっと片方の頬を膨らませてスネるファルフナーズ。
何てはしたない……いや、可愛いけど。
「それよりマー君、ワシは腹が減ったのじゃ。久しぶりに下界の飯を頂こうぞー」
「そっ、そうだ! メシだメシ! もうこんな時間だ。昼も食べてなかったからなー!」
「さあスクルド婆ちゃんが来たから飯を追加で買いに行こう」
「婆ちゃんじゃないぞえー 様をつけずとも良いから婆はやめよ、婆は」
くーぅ、俺のスクネ婆ちゃんイメージが消えていく。
これから念入りに俺のイメージでスクルドを汚染していくしかあるまい。
なあに、時間はたっぷりあるんだ。
「マー君、何じゃその目は。また良からぬイメージでワシを攻撃しておるのじゃろ。じゃが無駄無駄。現世にいる間は神の力は極力抑えておるからの。心を読む力も封印じゃ」
「な、何だって!? なんでパワーダウンしちゃったの!?」
「力を抑えないで現世に顕現けんげんしたら、ここが聖地かつ新しい宗教紛争の中心地じゃてー」
「なるほど、面倒臭そうだ。ダンジョン攻略が楽になると思ったのに、アテが外れたなあ」
「抑えても権能は使えるが、攻略は手伝えないぞえ」
「なんで? ケチ臭い」
「マ、マサト様、それは無理な相談なのでございますわ」
「うむ。姫よ、神々の関係に疎
「かしこまりました、スクルド様。良いですか? マサト様」
「その話長い? とりあえずコンビニ行こうぜ」
「あ、はい。では道すがらご説明させて頂きますね」
3人で最寄のコンビニへ歩いていく。
いくら周囲がバグって当たり前のように認識してくれるからって……
スクルドは多分、浮いて俺の肩に掴まるのをやめるべきだ。
「歩くのは面倒なのじゃー」
「じゃあ明日、首輪買ってやるよ。風船みたいに浮いてれば良い」
「酷い扱いなのじゃ」
『我が主は何かと人や物の扱いが酷くて……』
悪口は本人の居ない所で頼みたい。
…
「おお、これがコンビニとやらの弁当か。このまま食べられそうじゃのー」
「温めないと美味しくないぞ。さあ、どれにする?」
「じゃあの、ワシはこの焼肉弁当とチャーハンとカツカレーと……あの、おにぎりを」
「1つにしなさい。1つに」
「なんでじゃー! 神様虐待反対なのじゃ!」
「ええい! 神なら俺の財布にダイレクトアタックを仕掛けるんじゃない!」
ダンジョンから出たせいか、姿だけじゃなく性格まで丸きり見た目通りの子供じゃないか。
俺の素敵なスクネ婆ちゃんとの暮らしが……
「マサト様、私はプリン弁当を所望したいのですが」
「ねーよ」
ちゃんと食べなさい。
だから胸ばかり大きくなるんだ。
全くけしからん! いえ、最高ですが。
「知識としてはあるのじゃがのう。やはり身をもって経験せねばなるまいてー」
「だからデザートも片っ端から取るんじゃない。1度に1つまで!」
ファルフナーズと目が合う。
その手元には右手にプリン、左手側にかぼちゃのプリン。
長い沈黙の時が過ぎた……
「いや、買わないんだけどね?」
「マサト様のいけずですわー!」
女2人がぷーぷーと文句を言ってる。
駄目だこいつら……
姫様と神様、明らかにどちらも経済観念が存在しない。
俺だって元ニートなのに!
だが俺がしっかりしないと2人が心配過ぎる。
…
コンビニの自動ドアをくぐって外へ出る。
「っしゃーせー、ありあとーっすたーっ」
店員の意味不明な挨拶を背中に受ける俺の手にはパンパンに膨らんだビニール袋。
「マー君がなかなか話の分かる男で良かったのじゃ」
「流石マサト様、甲斐性に満ち溢れておりますわ」
くっ……!
神様のクセに泣き真似までしやがって!
プライドってものは無いのか!
元ニートの弱点、注目を浴びたくないと言う所を突かれては手も足も出ない。
まさにこの世は生き地獄。
神も仏もありゃしない。
……いや、目の前にいるんだけど。
「そう言えば、スクルドがダンジョン突破を手伝えない、と言うのは……?」
「はい。このマサト様と私の探索行が御神様をお招きする神事であるならば、それは私達の手で行われなければならないのですわ」
「それでも……ちょっと手伝う位いいんじゃないの?」
「やはり御神々の間にも礼儀がございまして。スクルド様が手を貸したとあらば、少なからず招かれざる印象を与えてしまうのですわ」
「あー……どうぞ、と言われる前に家にあがったり食事を始める感じか」
「正しく、その通りでございます」
「そう言う訳じゃ。全力で力添えした、何て場合じゃとこりゃもう侵略扱いで、神々の全面戦争になるでの」
「怖いな、おい」
「スクルド様方がなさったように、スクルド様をお招きした私達の心は必ずトリピュロンの御神々に読まれますわ」
「分かった。もう十分に分かった。神輿を担いでるんだから、神輿自体が動いちゃ駄目って事だわな」
『四輪駆動のガソリンエンジン神輿。ふふふ……愉快』
昔の霊柩車にしか見えないな、それ。
「まあ、おおよその事は分かったけど、天使とかいないの? 神様の世話をするのは天使の役目だろー こう白い服着て背中に羽根が生えた美男美女がさー」
「……姫よ、マー君の信教知識は最低レベルじゃぞ」
「も、申し訳ございませんっ!」
「なぜファルフナーズが謝る?」
「マサト様、天使と言うのはマサト様の国の言葉である日本語で、文字通り天の御使いでございますよね?」
「そーね」
「では今、スクルド様のお世話をさせて頂いてるのは……」
「俺だな。……待てよ、何かもう嫌な予感しかしない」
やめて、それ以上聞きたくない。
「これから赴くトリピュロンの世界でのスクルド様の主天使、マサト様はその座に着いたのですわ」
「自覚が無さ過ぎるのも困り者じゃのー」
「い、嫌だー! 天使は美男美女で羽根が生えてなきゃ駄目だー! 元ニートが天使なんて!」
「なんじゃ、早くも堕天かえ? 20歳になって中二病とは感心せんのー」
なんてこった。
不死身の体だけじゃなく、死ぬ前に天使になるのか……この子供ゴッドの。
バラ色のぬるま湯ニート生活が、気が付けばバラ色の悪夢になっていたとは。
「ワシらの流儀とは異なるが、マー君の趣味とあらば仕方無い。向こうに着き次第、白い羽を生やしてやろうぞ。何なら頭に輪っかもじゃ」
欲しくなーい!
ニート天使。童貞だからある意味適任。
速攻で俗世に馴染んだスクルドを交え、騒がしい日常が始まる。
次回#40「アバンギャルドなセンスをしておるのう」お楽しみに。