俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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アバンギャルド:前衛的な。フランス語で前衛部隊を意味する割と軍事的な言葉。
 都会の若い女性とは何の関係も無い、事も無いかもしれない。


#40「アバンギャルドなセンスをしておるのう」

「よし、酷い夢を見た。夢で良かった」

「お、お早うございますですわ……マサト様」

 

 目を覚ますとファルフナーズが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 

 禿げ散らかした俺が白い服に白い羽根、天使の輪っかを乗せて大空を飛び回る夢だった。

 右手には血まみれの金属バットさん。

 あとスネ毛と内股。

 

「マー君、それは予知夢じゃな」

「冗談じゃない。というかスクルド、何故俺のベッドに!?」

 

 俺の右腕が枕代わりにされていた。

 ぐう、痺れて感覚が無い。

 

「神を差し置いて自分だけベッドを占有するとは酷い奴じゃのー」

「君、最初浮きながら寝てたよね?」

 

「浮き沈みの激しい神なのじゃ」

「意味が違うと思う」

 

 長い銀髪、いや白髪だ白髪。

 白髪がくすぐったくてうっとおしい。

 

「ベッドに入るなとは言わないから髪切れ、髪ー 暑苦しい」

「髪は乙女の命じゃて。髪は神、マー君にそれが分からぬはずがないのじゃ」

 

 乙女って年なのか?

 抱きつかれるとトラウマとか言ってたくせに、自分から抱き付いてくるのは良いのか。

 

「分かるからこそだ。こっちは日々ファルフナーズにむしり取られてるのに……」

「まあっ! お望みとあらば直接毟って差し上げましてよ!?」

 

 やだ、この姫様怖い。

 自分だってそのピンクの美髪を伸ばし放題のくせに。

 いや、長さじゃなくて本数の問題だけど。

 

 しかし、毟(むし)ると言うこの字と言葉の何と無慈悲な事よ。

 

「ちくしょー、お前の世界に行ったらスクルド教は全員、剃髪(ていはつ)を義務付けてやるからなー」

「寝ぼけた事を言ってないで、早くお顔を洗ってきてくださいませ」

 

 はたはたとキッチンへ駆けていくファルフナーズ。

 お姫様ドレスにエプロンというのは、ちょっと似合わないと思うよ。

 

 

「うむー、まだ眠いな。2度寝しようかな」

「良い提案じゃのう。現世に降りると眠くていかんのじゃー」

 

 ファルフナーズがキッチンから呼びかけてくる。

 

「マサト様ー、早くしてくださらないと朝食が冷めてしまいますわー」

「なんじゃマー君、早くも姫と蜜月のようじゃの」

「いやいや、何だかプリンを自分で作るために、とかで料理に目覚めたみたいでさー」

 

 プリンってそんなに難しい料理だったっけ?

 コーヒーの醸し出す香りに満ちたキッチンへ行く。

 胸のすくような芳香を楽しみつつテーブルに着くと、朝食の乗った皿が置かれた。

 

 サラダと――

 

「プリンですわ」

「だめだこりゃ」

 

 お前が食べたいだけじゃねえか!

 

 道理で、コーヒー以外の香りがしなかったわけだ。

 そもそもサラダとプリンに冷める要素が無い。

 

「姫はなかなかアバンギャルドな朝食のセンスをしておるのー」

「センスの問題じゃ無いと思う。絶対」

 

 仕方なく自分でパンの袋を開け――てしまった。

 

「あー……食パンが、食パンが」

「まあ、パンの袋の中がダンジョンですわ。中に居るのは……重装甲(パンツァー)パンダですわ」

 

 パン祭りだな。

 俺のパンは鎧を着た巨大パンダのエサになった。

 

「くそー、今朝はパン抜きか。昼まで半休、ダンジョンに行くのは午後にするか」

「ワシのパンツ食べるかの?」

「いらんわ」

 

 せめてお色気マシマシの美女の姿になってから言ってくれ。

 そんな10歳程度の子供パンツなんか嬉しくも無い。

 嬉しかったとしても朝食にはならないけど。

 

 

「パンツで思い出したのじゃが……」

「できれば朝食向けの話題で頼みたい」

 

「パンツを買うて欲しいのじゃ」

「いくらで?」

 

「……?」

「……?」

 

 何か会話がかみ合わなかったかな?

 

 ファルフナーズが食器を落とした。

 あ、凄い顔で睨んでる。

 

「いやいや、着替えが欲しいという意味じゃてー」

「神様なのに着替えるの!? 変身してたじゃん」

 

「着替えひとつに毎回権能を使っておられんじゃろう。人々の信仰の力じゃぞ」

「仕方ないなあ……じゃあせめてスクネ婆ちゃんの姿か、25歳くらいのお色気最大値の世代に変身してくれ」

 

 スクルドが皿にかぶりつきながら言う。

 神様なら犬食いはやめるべきだと思います。

 

「ならん、ならん。この、本来の姿以外はやはり力を消耗してしまうのじゃ」

「本来の姿はそんな子供の姿なのか……」

 

「厳密に言えば違う。ここに居るワシは全体の0.1%程度に過ぎぬからのー」

「ふーん、残りの99.9%はどこに?」

 

 スクルドは長い銀髪――俺の脳内補正で白髪を巻き込んでサラダを食べている。

 仕方無いから手近にあった輪ゴムで髪をくくって留めてやった。

 にひひー、と無邪気な笑顔を投げて返してくる。

 ヘアゴムも買ってやらねば。

 神様ってお金かかるなあ。

 

「三千世界に散らばっておるわ。守護すべき世界もまた多いでの」

「つまり、それぞれの世界ごとに別会計でやってるって事か」

 

「上手い例えじゃな。その通り、別会計なのじゃ。信仰の力も権能の配分もな」

「いつかまとめて取り立ててやるからなー とりあえず、シマムラでいい?」

 

「そりゃ店の名前かの? 着れれば何でも良いぞえ」

「じゃあファルフナーズのパンツ借りれば?」

 

 ファルフナーズが食器を落とす。

 湯気が立つような雰囲気で睨まれた。

 怖い。

 

「実は借りたのじゃが、姫のはちょっとお尻が大き――」

「スクルド様? ちょっとお話が」

 

 こわっ!

 笑顔なのに凄い迫力のある顔になってる!

 

「じょ、冗談じゃ! 神流のジョークじゃ! ゴッド・ジョーク!」

「おほほほ、左様でございましたか。でも私達は下賤の人間でございますので、人間に理解できる冗談をお願いしたいのですわ」

 

「はい、なのじゃ」

「よろしい、ですわ」

 

 巫女って神様を崇めるのが仕事じゃなかったっけ……

 

 ファルフナーズは尻の大きさがコンプレックスだったのか?

 むしろ俺の好みからは、まだまだ小さ過ぎ。

 もっとこう、ボンッキュッボン的な……

 

「マサト様、後でお話が」

「なっ、何も言ってないだろぉ!?」

 

「マー君は目と表情が雄弁過ぎるのじゃ……」

 

 

 無言でファルフナーズにプリンを差し出す俺だった。

 

 山吹色のお菓子(カラメル乗せ)




10万文字になりましたので、人物紹介まとめ

マサト:主人公。元ヒキニートで現在ダンジョン荒らし。「開けた」所が全てファンタジーなダンジョンにつながってしまう珍能力を宿してしまった。めでたくヤラハタ達成中。意外と年上好み。オマケで不死身。甲斐性は足りないが案外器量は大きいようだ。

ファルフナーズ:魔法の国から押しかけてきたお姫様。ピンクのロングヘアーが自慢。胸は豊か。なぜかダンジョンに入る時以外は常にお姫様ドレス。姫巫女という職につくための修行としてダンジョンを突破しなければならない。オマケで無敵。健気で尽くすタイプだがいろいろ趣味が悪い。甘いものに目が無く、目下プリンに夢中。

スクルド:未来を紡ぐノルニル3姉妹、という神様のうちの希望を司る女神。ダンジョンでマサト達に出会い、お姫様の世界へ招かれる事になった。現世では力をセーブするために幼女化。放って置くと浮く。マサトの首周りが妙に気に入ったらしく、掴まって移動してる。神様としての役作りで老婆の姿に変身してる事が多く、言葉は「のじゃ」系。つまりのじゃロリ。

金属バットさん:メイン武器。マサトが子供の頃買ってもらった子供用野球バット。常にマサトの倍ペースで成長するため、敬意を込めてさん付けされている。マサトがこのバットでチャンバラごっこをしていた時代の影響を受けているため武士っぽい変なしゃべりをする。実は女性人格。
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