「よし、満足して元気モリモリですわ!」
『代わりに主が虫の息なのである』
ああ……俺の大事な毛根達
燃え尽きた気分で床に突っ伏している。
「後頭部が……寒い……もう夏だってのに……寒いんだ」
「後ろがツルツルで、なんか勘違いしたアーチスト気取りみたいなのじゃ」
バタッ
追い討ちしないで。
今日は一日このまま、畳を涙で濡らして過ごそう。
二度とキノコの里は食うまい。
共食いみたいになるから。
「さあ、遅くなりましたが朝食を用意して参りますわ。プリン・プレートでよろしいですか?」
あの朝食はそんな名前だったのか……
とてもよろしく無いけどツッコミを入れる気力が湧かない。
目の前に置かれたハズレ景品の山が恨うらめしい。
都合4つ目となる『どこでも扉』。
強化素材、とか言う『キレニウム』3つ。
投擲武器『爆裂ボーラ』。
脚用装備『大胆光沢ニーソ』。
これらの使い方も教わらねば。
…
遅い朝飯なのか早い昼飯なのか分からない、それでいてオヤツめいた食事を済ます。
今日のコーヒーは一際苦いぜ……
スクルドが俺のコーヒーに興味を示し、マグカップを奪い取り飲み干した。
ぶぴゅっ
「わっ! 汚なっ! 俺の顔に吹きかけるな!」
「苦っ! 苦いのじゃー! 何の罰でこんな黒くて苦い汁を飲まされてるのじゃ」
「その香りと苦味が良いんだよ。あーあ、昨日買ったばかりの服が台無しじゃないか」
なんでまたマーライオンみたいにぴゅるぴゅると噴き出すのか。
わざとか。
寝巻き代わりに貸した駄目文字Tシャツが染みになってしまう。
テーブルふきんで拭き取ってやる。
「わー、マー君に胸を触られてしまったのじゃー」
「笑いながら言うな」
「マー君、このシャツの文字は何て書いてあるんじゃ? 漢字は難しいのー」
「……『変態紳士』」
「マー君の職業じゃったかー」
「違います。もう一度言う。断じて違います」
「スクルド様、洗ってしまいますので服をお脱ぎくださいな」
「んっ」
俺に向かってバンザイする。
「いや自分で脱ごう? 何千年も生きてる神様?」
脱がせたら今度は見られたー、とか言って大喜びで騒ぐに違いない。
楽しそうで何よりですが。
「マサト様もお脱ぎください。一緒に洗ってしまうのですわ」
「えー、俺のは良いよ。色の濃いスウェットだから多少染みになっても……」
「駄目じゃー マー君、おっさんの匂いがするのじゃ」
まだハタチなのに。
昨日母親に洗濯機の使い方を教わってたから、ファルフナーズは洗う気満々だ。
流石に自分のドレスは洗えない事を教えられ、渋々母親に渡してクリーニングに出したらしい。
洗濯機でお姫様ドレスを洗ったらどうなっちゃうんだろうな。
やっぱボロボロになるのか。
あるいは魔法の使用回数を増やしてくれる特殊能力が消えたりして。
「えらい所帯じみた姫じゃのー 貧乏国の姫だったんじゃろか」
「お風呂にすら一人で入った事無いって言ってたから貧乏は無いだろ。むしろ世話され過ぎて、家事の才能が芽を出すタイミングが無かったんだろうな」
洗濯物を抱えて鼻歌交じりに風呂場へ向かうファルフナーズを見送りながら好き勝手な事を言い合った。
…
「しかしファルフナーズのお姫様服を毎日クリーニングに出してたら、代金もバカにならないな」
「はい。ですからドレス以外は洗濯機で大丈夫なようですので、使い方を教わったのですわ」
社会適応も早い。 おまけに経済観念まで身に付け始めた。
スーパーお姫様め。
「ん? ドレス以外の服と言うと……?」
「あっ、はい……このレースの白手袋とか……タイツとか……し、下着とか……ですわ、はい……」
恥ずかしい事を言って顔を覆い隠す。
俺のスウェットにその綺麗な顔をうずめて良いものかどうか。
「ほう、でも洗濯機もそこまで万能では無い。物によっては縮んでしまったり生地が傷んだりしてしまうんだ」
「はい、気をつけて洗いますね。柔軟剤と言うのも教わりましたわ」
「いや、それだけでは不十分だ。どれ、俺がちゃんと判別してやろう」
「ええっ!? その恥ずかしいですわ」
「例えばそのニーソ、シルクの生地だろう。洗濯機に投入すると毛羽立ちが激しく、色がくすんで白さが失われる」
「さ、左様でございますか……」
いや知らんけど。 シルクの服持ってないし。
「さあお次は下着だ! 下着の材質は?」
「それは……流石に恥ずかしすぎてお答えできませんわ」
ファルフナーズは目を伏せて逸らしながら、手を合わせてモジモジとしてしまう。
うむ、今日もお姫様は可愛い。
しかし別に履いてるのを見せろとか触らせろとか言ってる訳じゃないんだが……
材質1つ聞かれるのがそんなに恥ずかしいのだろうか。
「ま、いっか。洗うのを手伝えば済む話だ」
「そそそ! それこそ無理ですわー!」
「冗談だ。許せ。それよりニーソで思い出したんだけど、さっきのガチャの景品の効能を知りたい」
「先ほど一通り説明しましたのに」
「マジで? 放心状態で聞いてなかったみたいだ。もう一回頼む」
「かしこまりましたわ。では洗濯物を先に洗濯機にかけてしまいますので、コーヒーでも飲みながらお待ちくださいませ」
「あ、ああ……頼む」
出来るお姫様メイドだ。
でもやはりお姫様ドレスにエプロンは似合わないと思う。
…
「では、こちらの道具の説明文を再読致しますわ」
「頼んだー」
「まず『どこでも扉』は以前の物と同じですわ。伸縮自在で、マサト様ならどこでもダンジョンへと繋がる扉です」
「持ち運びに便利な以外はただの扉じゃのー」
「でもリセマラ戦法で動き回らなくて良いので地味に便利なんだ」
「リセマラとは何じゃ?」
「ダンジョンは開ける度に違うモンスターが出てくる時がある。より倒しやすいモンスターが出るダンジョンを選ぶために扉を渡り歩くんだよ」
「同じ扉を開け閉めすれば良いじゃろー」
「それだと何故か開ける度に高レベル・モンスターが出やすくなるらしくてな。開ける扉を変えていく必要があるんだ」
「そりゃ面倒なシステムを作ったものじゃな」
「次にこの『キレニウム』ですが、武器装備の強化に使うのだそうですわ」
「ああ、こないだのカーコンビニエンスの爺さんが言ってた……」
「はい。これで益々戦いが楽になりますわ」
「また金属バットさんに差を付けられてしまうのが少しばかり切ないが……」
既に俺の何倍強いのか。
あ、そうだ。 それも確かめておかないと。
「それで更に思い出した。レベルアップしてからステータスを確認してないんだった。これ終わったらそっちも頼むよ」
「かしこまりました。では次の投擲
「ふーん、これが武器なのか。でかいアメリカン・クラッカーみたいなオモチャっぽい形だが」
「なんじゃマー君、ボーラも知らんのか。男の子なら狩猟道具くらい知っておかぬと駄目じゃろー」
このボーラと言う武器、3つの紐が1つの紐にまとめられていて、3つの紐はそれぞれに小さい鉄球がくくり付けられている。
「いや俺、現代日本の元ヒキニートだから。狩り道具とか知ってるわけが無い」
「これはの、こうグルグルと振り回して敵にぶつけるんじゃ。敵にダメージを与えた上に運が良ければ紐に絡まって逃亡を阻止できるスグレモノじゃ」
「しかもこの『爆裂ボーラ』は敵にぶつかると、その鉄球が爆発して追加のダメージを与えてくれる、とありますわ」
「ほー、ちょっと便利そうだな。絡めてよし、ぶつけて良しなら俺にも使えそうだ」
「鉄球を外して直接ぶつけても良いそうです。更には使い捨てですが、消費しても1日1個補充されるそうですわ」
なるほど便利。 無限補充とはゲームみたいで有難いな。
何より俺に遠距離攻撃の手段が出来たのは頼もしい。
これで昨日のスライムみたいな敵にも対処できるようになる。
「そして最後に脚用装備『大胆光沢ニーソ』ですが……ええと、説明文には『ちょっぴり大胆になれる、この夏流行の光沢モデル。魅力度アップの光沢コーデで注目度急上昇!』だそうですわ」
「ムカつく説明文だ。まあそれはファルフナーズ用だな。白ニーソだし、似合うだろう」
「一応男女両用だそうですわ」
「着ないよ!?」
20歳の男がニーソ履けるわけないだろう!
「そうでしょうか? マサト様にとてもお似合いのタイツかと思いますわ」
「薄々感じてたが、ファルフナーズはどこか美的センスにズレがあるな」
お仕着せのお姫様ファッションばかりだから、そこらへんを身に付け損ねたのだろうか。
常にお姫様ドレスを着ているのは大正解だったな。
部屋着みたいな、くつろぎ系ファッションは覚えさせない事にしよう……
一度覚えさせたが最後、あっという間に芋ジャージを着てあぐらをかくに違いないのだ。
ジャージ・プリンセス
「でも防御点も2点上がるそうですわ」
「それは多少惜しいが、やはりぴっちり白ニーソを履くのは抵抗がある」
「いつものジーパンという物の下に履くものですから、目立たないと思いますわ」
「待て待て、どんだけファルフナーズは俺にニーソを履かせたいんだ!?」
「とてもお似合いだと思いますのに……私の国でも貴族は白いタイツを――」
「あーそーね。確かにメルヘンな王子様達は白タイツだろうけど」
なるほど。
あんなイメージの人達がお姫様の王宮で闊歩
……行きたくねえー
向こうに着いたら、式典だかお祝いだかで同じ格好させられるんだろうな。
「しかも装備すると魅力点が15点も上がるそうですわ」
「そんなステータス項目あったっけ?」
「え、ええ……私に」
「初耳だ」
「聞かれなかったものですから……色々と恥ずかしい項目が多いのですわ」
「ほーほーほー! そりゃあメイドの主としては把握しておかないと、なあ? ファルフナーズ?」
「お、乙女の秘密だけは、どうか……」
あ、こりゃそろそろ固まるな。
流石に俺でもファルフナーズの限界点は少しずつ察する事ができるようになってきた。
あと一押し二押ししたら顔を抑えて固まってしまうだろう。
「仕方無いな。で、その魅力点て何に使うの?」
「魅力は姫巫女の使う術に影響する、と言われていますわ」
「へー、神様も美女相手のほうが気前も良い、って事なんかな」
「風評被害じゃー 顔でひいきするならマー君の所へ来るはずないのじゃー」
「そう言えば目の前に居るのは神様だった。って言うか滅茶苦茶俺に失礼じゃね? それ」
「すまんかったのじゃ。お詫び代わりに教えると、姫巫女は人々の願いを自身を通して具現化するものじゃから、姫巫女自体のカリスマ性も重要だって事なのじゃ」
「えーと、つまり?」
「姫巫女自身の人気や魅力がそのまま姫巫女の力となるのじゃ」
「なるほど。じゃあ地球でファルフナーズをアイドル・デビューさせよう」
「辛い事がある度にガチャとやらに手を出して、マー君が禿げ上がっていく未来が見えるのう」
「よし、やめよう」
「挫折早っ! 速攻じゃのー」
マネージャー兼プロデューサーの道は断たれたのだ。
そもそも大勢の前に出したら、誰がどうファンタジー風にバグるかわかったもんじゃない。
「で、何だっけ。ああ、ニーソだニーソ。やっぱりそれはファルフナーズが装備する事にしよう」
「残念ですわ……絶対にマサト様用だと思いましたのに」
いやだって、男女兼用と言っても端っこレースでめっちゃフェミニンですから。
びっくりするほどツルツル光沢ですから。
「じゃあ装備してみてくれ」
「かしこまりましたわ」
「……」
「……」
スルッ……シュルシュル、パチン
「って、マサト様! なぜ凝視してるのですか!」
「お前が目の前で脱ぎ始めたからだろぉ!?」
お姫様は基本ノリツッコミなのか?
今日のパンツは桜色か。
眼福眼福。
うわっ! 目が! 暗い!
ってスクルドが後ろから俺の目を塞いだだけか。
「さあ姫よ、ワシがマー君を目隠ししてるうちに早う!」
「で、では……スクルド様がそう言われるのでしたら」
スクルドが俺の耳元で囁く。
「ケーキ3つでワシの指の隙間が広がるのじゃが……」
こいつ! 悪魔か! いや、邪神だ!
「晩までには用意しよう」
「商談成立なのじゃ」
指の隙間が広がり、光が差し込んで来る。
そう、そこには魅惑の光景、美少女姫様の着替えシーンが――
無かった。
パタパタとスリッパの音を立て、風呂場へかけていくファルフナーズの後姿が見えていた。
「だめじゃん」
「駄目じゃったのう……」
邪神の上に使えない神様だったとは。
所詮、子供の浅知恵だったか。
…
「着替え終わったのですわ」
戻ってきたファルフナーズが恥ずかしそうにはにかんで言う。
お譲様が挨拶をする時のように長いお姫様ドレスの裾を広げながら上げ、膝上までを見せてくれる。
直前まで着ていた自前のニーソと大きくは変わらないはずなのに……
魔力めいた特別な魅力を感じさせられる。
「……綺麗だ。とても良く似合っている」
「お褒め頂き光栄ですわ」
そんな恥ずかしい言葉がするりと出た。
これが魅力値+15の力か。
「美しい。食べてしまいたいくらいだ」
「た、食べちゃ駄目ですわ」
「じゃあせめて舐めるだけでも」
「よ、余計駄目ですわー!」
「じゃあ生クリームを添えて、生クリームだけを舐める方向で」
「変態的になりましたわ!」
「じゃ、じゃあせめてせめて、出汁を取るだけでも!」
「マサト様が何をおっしゃっているのか、分からなくなりましたわ……」
はっ!?
俺は一体何を言わせられているんだ!?
「マー君、とびきりの変態じゃのー」
「ち、違う! 今のは何と言うか、ニーソの魔力でだな」
恐ろしい力だぜ、大胆光沢ニーソ。
でも出汁を取るのはちょっと良いかも。
感想とかニーソとかお待ちしております!