俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:強敵戦 真面目回です


#47「確かあのヒゲはカイゼル髭って言うんだっけ」

「よし、今日は早朝ダンジョンだ」

「マサト様がやる気に満ち溢れておりますわ」

 

「いやー……何だかんだ言って2日連続ダンジョン攻略してなかったし」

「私とした事が……少々弛んでおりましたわ」

 

 ファルフナーズは家事修行に夢中だったからな。

 良い事だが、それが本職じゃない。

 姫巫女として神事と修行を兼ねて異世界から地球に来ているのだ。

 

 昨日は俺も召還魔法と爆砕ボーラの練習で残りの時間を費やしてしまった。

 

『我も魔法や飛び道具ごときに負けるわけにもいかないのである』 

 

 金属バットさんもやる気か。

 

「装備も充実、いざ出陣だ」

 

 おー、とファルフナーズと金属バットさんが応じた。

 押し入れのフスマの前に立つ。

 

「いってらっしゃいなのじゃー ワシは今日中にこのドラゴンボールを全巻読破してやるのじゃ」

 

 机の椅子に座り、足をプラプラとさせながらスクルドが見送る。

 いや、漫画から顔を離してすらいないから見送るってのも変か。

 

 

 しかし、いつもながら少々間の抜けた絵面だ。

 俺は金属バットを片手に野球用のキャッチャー・マスクと審判用プロテクター。

 後ろには胸部装甲だけのミニスカ・ドレスにウサ耳ヘアバンドを付けたお姫様、ファルフナーズ。

 

 それがフスマを開けて押し入れの中に入っていくのだから。

 事情を知らない誰かが見ていたら、何事かと思う事だろう。

 

 いざ!

 

 フスマをスラッ!

 

 湿った風がスウッと漂ってくる、青味がかった白い石畳の通路が真っ直ぐに伸びていた。

 

「マー君!」

「おわっ!? な、何だスクルド?」

 

 突然、背中から声を掛けられてビックリした。

 振り返って更に驚いた。

 俺の家に来て以来、見た目通り子供然としていたスクルドが真剣な面持ちをしている。

 

「マー君。これは――そう『商売』じゃ。ワシの術を買え」

「突然何を――」

 

 はっ気付いた。

 あえて商売という言葉を殊更ことさら強調した所でピンと来た。

 

 スクルドは神としてファルフナーズの世界に招かれている。

 だから帰還の旅でもあるこのダンジョン探索を手伝う事が出来ない。

 手を貸せば侵略の邪神としての疑いを持たれてしまうから。

 

 だからあえて商売という建前で、違反ギリギリのグレーゾーンの手伝いをしてくれる、と言っているのだ。

 その目は真剣そのもの。

 もはやこれは威厳と言っても良い迫力を感じた。

 

 

「是非、お願いします」

 

 自然に頭が下がった。

 

 いくら鈍い俺でも分かる。

 何か深刻な事態になるか、あるいは既になったのだ。

 

「マー君と姫に術をかける。代償はマー君の毛根をそれぞれ1000本、都合2000本じゃ。良いな?」

 

 無言で頷いて了承の意を伝えた。

 

 スクルドが権能を発動し、周囲の風景が変貌する。

 無数の糸車や歯車に埋め尽くされた機械的な光景。

 

 俺とファルフナーズに光が降り注ぐ。

 代償を払った証に、後頭部に激しい痛みを感じる。

 2000本の毛根がまとめて死滅する感覚だ。

 

 光が止み、風景が元の俺の部屋に戻ると、体が不思議と軽くなるのを感じた。

 

「環境の変化に対する保護の術じゃ。急激な気流や水流、気圧や水圧、重力や慣性の変化から身を守ってくれるじゃろう。本来は異次元探索用の術じゃが」

「ありがとうございます」

 

 額の汗を拭って見せたスクルドの表情は、再び子供らしいそれに戻った。

 

 

「では、行ってくるが良いのじゃー お土産のひとつもよろしくなのじゃ」

「ああ、楽しみに待っててくれ」

 

 心の中で礼を言ってダンジョンに飛び込んだ。

 

 …

 

「あの……マサト様。先ほどのスクルド様ですが」

「ああ」

 

 青白い石畳で出来た一本道の通路を慎重に進みながらファルフナーズに返事をする。

 

「一体、スクルド様は何を教えてくださったのでしょうか」

「恐らく、この先に待ち構えてる何かだ。敵か罠か……」

 

「突然スクルド様の様子が変わったので、私、驚いてしまって何も言えませんでしたわ」

「スクルドは未来を紡ぐ神、たまに未来が勝手に見えるらしい。そして俺がフスマを開けた途端に様子が一変した。つまりこのダンジョンが開いた瞬間だ」

 

 俺は自分が唾を飲み込む音を聞いた。

 かなり緊張している。

 

「何かを引き当てたんだ。だが、止めなかったと言う事は避けては駄目な何かなんだろう」

「その助けとなるのがこの保護の術なのですね」

『恐らく、これまでに無い強敵であろう。武者震いを禁じえぬ』

 

 本当に震えてる。

 振動機能まで搭載したのか。

 

 慎重に進んだが、特に罠は無かった。

 恐らく1km程そのまま直進した所で扉にぶち当たる。

 

「いきなりボス部屋か」

『やはり強敵との戦いなのである』

 

 扉に耳を当て聞き耳を立ててみるも、特に何も聞こえない。

 ファルフナーズと顔を合わせ、頷き合って扉を開けてもらう。

 

 ギッ、ギギギィ……

 

 鉄で補強された木の扉が開いていく。

 その扉の向こうには――ただの広い部屋の奥に、ぽつんと1つ道具が置かれていた。

 

 黄金色した金属の……これは、何だったか。

 カレーが入ってるじょうろみたいな形のあれに蓋がついてるヤツ。

 

「ランプですわ」

「それ、ランプだランプ」

 

 あの口先に火を灯ともすタイプのランプだ。

 だが、このランプの口先は煙こそ出ているが、火が灯っていない。

 

 確かあそこからランプの精が出てくるんだよな。アラジンと魔法のランプだ」

「そうなのですか? トリピュロンの言い伝えでは邪悪な風の王が封印されて――」

 

 ドムンッ!

 

 突然、爆発音と共に大量の煙がランプを覆い隠した。

 

「ハアーッハッハッハッ!」

 

 ランプの先から出ている煙が巨人の男の形になった!

 

 青い肌に身長は3mを越えるような巨大な筋肉男。

 しかし下半身は煙の状態だ。

 頭髪は天辺だけを残して剃ってあり、とても長く伸ばして結んである。

 

 大男は八の字のヒゲを指で引っ張るように撫でながら俺の事を見てニヤニヤ笑った。

 確かあのヒゲはカイゼル髭って言うんだっけか。

 

「ワタシは追放された風の王、シャイターン・ジン!」

「あれ? ランプの精はアラジンじゃなかったのか」

 

 アラジンは人間のほうだっけ?

 

「マサト様! これは風の旧精霊王ですわ! 悪業酷く、アストラルへと追放されたと言われている邪悪な存在ですわ」

「ムムーン!? チビ人間の他に何か居るな? このワタシの目を欺あざむくとはネー」

 

 チビ人間って俺の事か。

 ファルフナーズはモンスターには見えないのに、居る事にだけは気付かれた。

 確かに並みのモンスターじゃあ無いようだぞ。

 

「旧精霊王のレベルは100以上です! 今のマサト様に勝てる相手ではございませんわ!」

「だからこそのスクルドの加護だ。これで納得したぜ。【魔法の盾】を頼む!」

「かしこまりました!」

 

 ファルフナーズが【魔法の盾】をかけてくれる。

 スクルドの加護と干渉してるのか、青白く輝く薄い膜が俺を包んでいくのが見えた。

 

「ホッホッホーウ! チビ人間が! このワタシに戦いを挑むと!? ホントに? これはケッサクだ!」

 

 シャイターン・ジンと名乗った旧精霊王は文字通り腹を抱えて笑い出した。

 いちいち芝居がかったオーバーアクションをしやがる。

 

「風の精霊対策は施してきたようデスガー! 呼吸が震えてますヨー? ビビリのチビ人間く~ん?」

「う、うるせえ! 御託並べてないで、さっさとかかってきやがれ! 燃えろ金属バットさん!」

『主、挑発に心を乱してはならぬ。奴のペースに乗っては負けである』

 

 ぐう、その通りだ。

 しかしイラっとくるしゃべり方をしやがる。

 煽り耐性が低いのは元ヒキニートの弱点だぜ。

 

「ビビって来ないなら、ワタシから行きますヨー? 」

 

 風の精霊王が突撃の溜めポーズを取ると、下半身の煙が渦を巻いた。

 一瞬にして体が煙で出来た竜巻に包まれる。

 

 まずい、初撃だけはかわさねば!

 

 ニヤニヤ笑いながら風の精霊王が左右に揺れ始める。

 タイミングをずらして回避しづらくする魂胆か。

 

「さあワタシの竜巻でミンチになりなサーイ!」

 

 ゴウッ!

 

 今だ!

 

 横っ飛びダイビング!

 

 間一髪で風の精霊王が身に纏まとった竜巻攻撃を回避した!

 

「オーウ! 見事なすばしっこさですネー! 実に素晴らシーイ!」

 

 よし、避けられない攻撃ではない。

 このくらいならば避けつつ反撃していける。

 スクルドの加護と回避点に感謝だ。

 これなら十分、奴と渡り合える!

 

「てめーの攻撃は見切ったぜ。さあ今度はこっちの反撃だ!」

「オー! 怖い怖い。怖いのでさっさと逃げマース! 再見、再見!」

 

 えっ!?

 

 風の精霊王は右手を前、左手を後ろに丁寧なお辞儀をした。

 かと思うと、そのまま高笑いと共に部屋を出て行ってしまった。

 

「に、逃げられた……勝ったのか!?」

 

 ファルフナーズも呆気にとられている。

 

「風の旧精霊王は狡猾だと言い伝えられてますが……何だったのでございましょう?」

 

 

『違う、違うのである、我が主よ!』

「どうした金属バットさん!?」

 

『奴は最初からこれを狙っておったのだ! 奴の狙いは戦いと逃走に見せかけた、ダンジョンからの脱出なのである!』

 

 

 ――ッ!!

 

「そ、そうですわ! 風の旧精霊王はこのアストラル空間に封印された存在でしたわ」

「くそっ! まんまと一杯食わされた! 最初から奴の術中だったのか!」

 

 まずい、風の精霊王は地上へ、地球へ出ていってしまった!

 

「急いで戻るぞ! 家が滅茶苦茶にされる!」

『それだけで済めば良いが……』

「……!?」

 

 部屋を出る前に一応ファルフナーズに出口側の扉を開けてもらおうとしたが、やはり駄目だった。

 出口が開いて次の階層へ行ければ、奴が消えてくれるかも、と甘い期待をしたのだが。

 

 走って通路を逆戻りする。

 こうしてみると、この長い通路もトラップのひとつだったのかもしれない。

 誰がそう設定したのかは知らないが……ただ長いだけの通路が罠そのものになるとは。

 

「マ、マサト様、お待ちくださいませー!」

 

 しかもファルフナーズは致命的に足が遅い。

 文字通り突風のような風の精霊王に時間を与えてしまう。

 

「ファルフナーズはゆっくり来い! 俺は奴を食い止める!」

「い、嫌あー! 置いてかないでくださいまし!」

 

 そうだった……! ファルフナーズはダンジョンに取り残されるのがトラウマだった。

 だが時は一刻を争う!

 ここは無情なようだが――

 

 

「分かった。無理しないで良いから」

 

 

 置いていけるわけが無い。

 

 無敵状態が約束されているとは言え、ファルフナーズはただの一人の女の子だ。

 

 落ち着け。

 

 

 大きく深呼吸して体と頭のテンションを整える。

 焦ったら駄目だ。

 家は取り返しが付かないかも知れないが……モンスターを外に逃がしたとあっては、一般の人に怪我人死人が出る話だ。

 むしろ、オコノギ家を破壊する事に夢中になってくれる方がありがたい。

 

『流石、我が主は優しいのである』

「そんなんじゃない。頭に血が昇っていたのをクールダウンしたかっただけだ」

 

 通路を逆戻りしながら考える。

 

 家の破壊に夢中になってくれたら御の字。

 出口や奴に有利な場所で待ち伏せされていたら……不利な状況とは言え、これも俺にとってはラッキーだ。

 外に飛び出して街を暴れまわっていたら厄介だ……あのタクシーのおっさんを呼んで追跡しよう。

 

 よし、考えはまとまった。

 まずは出口手前か出た途端に襲われる事を警戒してダンジョンを出よう。

 

 

 ダンジョンの入り口、すなわち押し入れフスマの前には居なかった。

 ただし、フスマが閉ざされていた。

 

「なるほど。怖くて試す気にはなれなかったが、ダンジョンの入り口になった扉を閉ざす事が出来るのも、また俺だけって事が証明されたな」

『怪我の功名である』

 

 それは無事に終わって初めて言って良い言葉だ。

 フスマの外からは破壊音や風の音はしない。

 

 スラッ!

 

「家は無事……とは言えないか。壁に大穴開けて出て行ったようだな」

「ひとまずおかえりなのじゃ、マー君。やはりこうなったの」

 

「スクルド、奴と会ったのか」

「会うた。家を壊そうとしたから止めさせたのじゃ」

 

「そんな俺達を手伝うような真似して大丈夫なのか?」

「ここは今やワシの『神殿』、『神社』じゃからの。派手にやるならこちらも容赦せぬ、と言っただけじゃ」

 

 それで壁だけで済んだのか。

 有難い。

 

「しかし奴はどこへ向かったんだろう。庭から上空へ飛び立ったのか、破壊の跡を追うのも無理みたいだ」

 

 突然、ボロンボロンと不協和音がテレビから鳴った。

 皆の視線がテレビへと集まる。

 スクルドがテレビを見ていたのか。

 

「この不協和音は、確か災害の緊急ニュースだ」

 

 昼前のバラエティ番組が突然ニュースキャスターが座った机に切り替わる。

 

「ここで緊急ニュースのお知らせです。突如、フィリピン海沖に発生した大型低気圧が急速に発達しながら北上しています」

「これは、まさか……」

「はい。風の旧精霊王の仕業に違いありませんわ」

 

「史上類を見ない速度で北上を続け、九州南部を通過するコースを取るとみられています。中心部の気圧は860ミリヘクトパスカルを下回ると予想され、最大風速は120mに――これは直撃すれば地上の全ての施設が倒壊する規模です!」

「マジかよ……歴史上最大の台風って事か」

「人間が空に吹き飛ばされる速さじゃな。時速にして400kmを越えるかのう」

 

「このままじゃあ日本が!」

「根こそぎ持ってかれるのう」

 

 

 親方! 空から日本が!

 

 奴を、風の精霊王を倒さなければ。

 台風が大災害を巻き起こす前に!

 

「奴はやはり台風の中心部にいるのか!?」

「じゃろうなー 移動するだけなら、風の精霊は音速の何倍もの速さで動けるからの。合流も時間の問題じゃて」

 

 テレビがやかましく緊急避難警報を鳴らし続けている。

 外から街が一際ざわめき、車のクラクションやら様々な音を立て始めた。

 混乱は早くも深刻になってきている。

 

 すぐにでも台風と化した風の精霊王を倒さなければ!

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