俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:強敵戦決着編。ちょっと長いです(7700文字程度)。
お時間頂けたら読んで欲しいです。




#49「甘きカラメルの芳香に凪ぎなさい!」

「よし、雲の上に出たぞ、マサト、いや相棒」

「あっ、はい」

 

 本当に呼び捨てにしてきたぞ、このパイロット。

 

 俺の顔には真っ赤な手形がついてる。

 もちろんファルフナーズのお手手だ。

 

 この狭い戦闘機内で器用に引っ叩いてくれたもんだ。

 そして今、反対側の頬をつねられている。

 

「ファルフナーズ、そろそろ勘弁してくれ。流石にちょっと痛くなってきたよ」

「痛くしてるのですわ。マサト様のえっち、えっち!」

 

 2回言った……

 

 むしろお姫様の方から抱き付いて来たんですが。

 

「ほら見ろ、ファルフナーズ。空が青いぞー、雲の上だぞー」 

「まあ……とても素敵ですわ。これほど深みのある青さも素敵なものですね」

 

 

 よし、誤魔化せた。

 確かに、青いというより暗くなってきてる感じすらあるな。

 逆に眼下は白い雲一色だ。

 その更に下はもはや暴風と雷雨なのだが。

 

 …

 

「魔法の加護って奴か。空気抵抗が思った以上に少なくてコントロール・ロスする所だった。間もなく暴風圏内に突入するぞ」

 

 パイロットの二条空尉が教えてくれる。

 2時間近く、スクルドの加護の術のおかげで狭苦しいけど快適な空の旅だった。

 

 

「台風の中を突っ切る事はできますか……じゃない、できるのか、相棒?」

「普通の台風ならな。だがこれは桁違いの勢力だ。機体がバラバラになっちまう」

 

「困った。台風の中を延々空中歩行しなければ、か……」

「安心しろ、わざわざバカ正直に台風に突っ込む事は無い」

 

「と、言うと?」

「簡単な話さ。俺達は今、雲の上を飛んでるんだぜ。上から台風の目に突っ込む」

 

「そんな針の穴を縫うような事が出来るのか!?」

「あのな、台風の目は普通、直径何十Kmとあるんだ。亜音速で飛んでても楽勝だ。ただし、流石に目の中心が確認できるような高度までは飛べ無い。手探りの状態で目に突入した瞬間、一気に急降下する」

 

「分かった。そこで俺とファルフナーズは脱出する。世話になりっ放しで悪いが、無事に帰ってくれ」

「そうもいかねえ」

 

 

「!?」

「理由は3つ。急降下してから上昇するまでに暴風域に突入する可能性が高く危険だ。そして、急降下中に1度開いた風防は恐らく戻せ無い。最後に、何より帰りの分の燃料が無い」

 

 

「じゃあこの機体は……」

「今日でお役御免ってわけだ。俺も一緒に脱出してな」

 

 戦闘機って初期費用だけでも1機あたり10億円とかするよな……

 諸々の費用を考えると気が遠くなる。

 

 

「高度1万5千mからのダイブだ、やり直しは効かない1発勝負。腹ぁくくれよ?」

「お、おう!」

 

 緩やかだった雲の海が盛り上がり、山のようになりはじめる。

 これが台風の上側か。

 

「ファルフナーズも、いつでも飛び出せるように心構えをしておいてくれよ?」

「か、かしこまりましたわ。私は空に浮けませんので、しっかり抱きしめてくださいね?」

 

「もちろんだ」

 

 この柔らか天国を手放すなんてとんでもない。

 

 

 機体が雲の海へ突入した。

 

「さあブラボー・2の最後の晴れ舞台だ! どーんと行くぜ!」

「頼んだ! にじょ……じゃない、相棒も無事でな!」

 

「当然だ! お前に飯をおごらせるまでは頼まれたって死んでやるものか」

「最近料理を覚え始めた、お姫様の手作りプリンもつけてやるさ」

「私ので良ければ、お約束しますわ」

 

「そいつぁ光栄だ! 末代までの家宝にするぜ!」

 

 いや、食えよ。

 

 初めてもらうバレンタイン・チョコかよ。

 俺もらった事無いけど。

 

 機体が突然ガクンと揺れた。

 

「ここだ! いくぞ!」

「おお、おう! うわあああ!」

「ひゃあああー!」

 

 怖い! 流石に怖い!

 自由落下以上の速度で落ちる!

 

 

「見えた! あれが敵か!」

「そうだ! 風の精霊王だ! ひいいい!」

 

 下には白い雲の海に浮かぶ青肌マッチョが見えた。

 

 

「奴はすぐ目の前だ! 脱出するッ!」

 

 緊急脱出装置が作動し、風防が開くと同時に俺とファルフナーズも放り出された。

 

 

 バンッ! 

 

 

 しまった!

 

 ファルフナーズを手放してしまった!

 

 

「ファルフナーズッ!」

「マ、マサト様ぁー!」

 

 互いに手を伸ばして何とか近づこうとする。

 スクルドの加護の術のおかげで俺達の落下速度はかなり遅いみたいだが、下降する気流と相まって相対的にどうなのかはハッキリとは分からない。

 

 眼下で戦闘機が真っ直ぐ青肌のマッチョ、風の精霊王に向かっていく。

 

 

 なんてこった!

 

 奴はすぐ近くに居たんじゃない。

 

 

 とてつもなく巨大化していた!

 

 

 戦闘機が吸い込まれるように風の精霊王に向かったが、奴は手の平で握りつぶすようにして防いだ。

 衝突と共に爆風が派手に巻き起こった。

 だがその爆煙ですら風の精霊王の姿を隠すほどでは無かった。

 

 

 くそ! どうすりゃいい!?

 

 

 ともかくファルフナーズの手を何とか掴む。

 空中遊泳とはラピュタみたいだ。

 

「大丈夫か! ファルフナーズ!」

「ぐすっ、何とか……ひっく」

 

 空中に放り出された恐怖の余り、泣き出してしまったようだ。

 

 いや俺もめっちゃ怖いけど!

 

 ファルフナーズを抱きとめると、浮遊靴に精神を集中してコントロールする。

 こいつは空中を歩けるだけではなく、落下速度をほぼ0にしてくれる優れものだ。

 

 

 俺達は一面の雲の海に降り立った。

 

 

 驚いた事に浮遊靴の能力を使わずとも、まるで地面みたいにしっかりと足がつく。

 台風の目の中だってのに、雲の海があるとは。

 

 ちょっとふわふわして踏ん張りが利かないが。

 固形化した雲とは、ジャックと豆の木みたいだな。

 

 

 遥か頭上から風の精霊王のムカつく声が響き渡る。

 

「んふ~う、ようこそヒキニート君、ワタシの台風へ。不意打ちとはやってくれますネエ~」

「ちょ、ちょっと見ない間にずいぶん太ったじゃないか……」

 

 巨大化した風の精霊王は身長がどのくらいあるだろう。

 100mか200mか。

 

 煙状になっている下半身ですら50m以上はありそうだ。

 それはこの雲の床と一体化しているように見える。

 

 

「おかげさまでネエ。この世界の風を次々と取り込み中でして、すくすく成長中ですヨ~」

「マサト様、風の旧精霊王はこの世界に風の精霊が居ないのを良い事に、台風で力を集めているのですわ」

 

 ファルフナーズも雲の上に立ち、俺に語りかけてきた。

 ずっと抱きとめてあげたのに。

 ……それじゃ戦えないか。

 

 

「何だか良く分からないが、台風が武器でもあり飯でもあるって事か」

「概ね(おおむね)、その通りですわ」

 

「戦闘機の体当たりを食らっても、びくともしないようじゃあ俺に出来る事が……」

「私にお任せくださいませ!」

 

「【炎の矢】はダメだぞ? 俺自身が巻き込まれて死に戻りしてしまう」

「これでも私は姫巫女を目指す身、天候を変える事ができますわ! 風の旧精霊王が台風を利用して力を得ているのであれば……」

 

 なるほど!

 

 だからここまで必死に俺に同行してきたのか。

 姫巫女としての力が役に立つ可能性を信じて。

 

 

「分かった。ファルフナーズ、頼む」

「かしこまりましたわ!」

 

 ファルフナーズは腰元の見えないアイテム・バッグから取っ手のついたベルを取り出した。

 

 ハンド・ベルって奴だ。

 

 

 チリーン

 

 

「伏して乞う! 姫巫女がファルフナーズ、四神の風に願い奉ります!」

 

 一振りしたハンド・ベルから高く澄んだ音色が響く。

 

 ハンド・ベルはファルフナーズの手を離れ、ゆっくり時計回りに彼女の周りを浮きながら回転し始める。

 さらに3つのハンド・ベルを取り出し、同様に呪文を唱えながら振っていく。

 

 あたりに4つのハンド・ベルそれぞれの音色が混ざり合う。

 これが姫巫女の術か……確か巫女の呪文を祝詞(のりと)と言うんだっけ。

 

 

 青肌マッチョこと、風の精霊王はしびれを切らしたように言う。

 

「怖気づきましたカ~? 鈴を鳴らした所で――こ、これはッ!?」

 

「姫巫女が重ねて願い奉ります! 四神の風よ! 穏やかなる時を平和の内に過ごさん事を!」

 

 ファルフナーズが片膝をつき、両手を組み祈りの姿勢を取ると、光の粒のようなものが降り注ぎ始め周囲が静寂に包まれた。

 

 

「風が……止んだ、のか?」

 

 

 俺の呟きをかき消すように風の精霊王の怒号と絶叫が響き渡る。

 

「キイイエエエーーッ! 禿げニート! きっ、貴様何をしたッ!? 風が……力が抜けていくッ!」

 

 風の精霊王が頭をかきむしりながら身もだえすると、奴の巨体がみるみる萎んでいった。

 

「その鈴の音ですネッ!? ダンジョンの時にも居た、ワタシに見えない何者かの仕業ですネッ!? ぐうう~、憎らしいーッ!」

 

「今だッ! 伸びろ、そして燃えろ金属バットさん!」

『応ッ! ようやく出番なのである!』

 

 最小化していた金属バットさんを最大にまで伸ばし、ファイヤ・ブランドの能力も発動させる。

 そして今や最初に見たときと同じ位にまで縮んだ風の精霊王に飛び掛った!

 

 最大化した金属バットさんは5mを超える長さになる。

 それを大上段から――

 

 全力で振り下ろす!

 

 

「食らえッ!」

 

 

 ゴウッ!

 

 

 やった!

 俺の一撃が風の精霊王を真っ二つに切り裂いた!

 

 

「ギャアアアー! ……とでも言うと思いましたカー! お間抜けサ~ン!」

「なん……だと!? 効いてないッ!? それとも不死身なのか!?」

 

「魔法武器のせいで少し痛かったですがネ~ 風の精霊を倒したかったら真空を作るくらいじゃないとダメダメ!」

 

 

 効いてないのか!

 

 

『我が主よ、暖簾(のれん)に腕押しのようである』

「くそぅ! どうすれば良い!?」

 

 

「こちらの反撃デ~ス! 食らいなサイ、禿げニート!」

 

 風の精霊王が右拳をグルグルと振り回しパンチを繰り出してきた!

 金属バットさんで受ける!

 

 

 ガキッ!

 

 

「こっちの攻撃は効かないのに、向こうのパンチは当たるのかよ! ずっちぃ!」

『恐らく、空気の密度差であろう。攻撃の瞬間にだけ、しかも拳にだけ空気を固めて逃さない固形物と化している』

 

 じゃあカウンター狙いしか無いって事か!?

 確かに風の精霊王はちょっと涙目で自分の拳をフーフーと吹いている。

 

 

 一々漫画(カートゥーン)めいた大仰な動作がイラつく。

 

 

「このままではお互いに致命傷を与えられない千日手デスネ~! こうなったら、もう一度パワーアップデ~ス! 風よ集まりなサ~イ!」

「させるかッ!」

 

 風の精霊王は右腕を天に突き上げる。

 俺は奴の頭やその右腕に向かって金属バットさんで攻撃を仕掛けるが、やはり一瞬だけ切り裂いて元に戻ってしまう。

 

「全くダメージを与えられないぞ!」

『炎の属性と魔力が込められている分、ダメージは与えている感触があるのである。ただ、奴の力の増幅速度の方が勝っている』

 

 1のダメージを与える間に、2の耐久点を増やしてる感じか!

 おまけに残った左腕で牽制してくるから、こちらも攻撃ばかりしていられない。

 

 後ろからファルフナーズの呻き声が聞こえた。

 

「くうぅ……マサト様、風の旧精霊王の力が増して……私の力では抑えきれなく……」

「ファルフナーズ、もう少しこらえてくれ! 今、奴にダメージを与える算段を考える!」

 

 とは言え、正直ノープランだ!

 

 どうすれば奴を倒せる!?

 

 何か手はあるはずだ。

 

 いっそ、どこでも扉で再びダンジョンに押し込めるか。

 いや、気体である風の精霊王を押し込めることは無理だろう。

 

 再びゴウゴウと風が鳴り始め、上から叩きつけるように吹き付けてくる。

 

 また台風になり始めた!

 

 ファルフナーズも限界か。

 あんな苦しそうな顔をしているのは初めて見る。

 

 4つハンド・ベルがファルフナーズの周りを回転するのを止めてしまった。

 風の精霊王の力が圧倒的になった証拠だ。

 

 

「ファルフナーズ! 大丈夫か!?」

「はい……もう一度、必ず風の旧精霊王を止めてみせますわ。私の未熟さゆえの結果なのですから」

 

 お姫様にはそんな作り笑顔は似合わないぜ……

 再び術を使おうと、動きを止めたハンド・ベルに手を伸ばす。

 

 風の精霊王の嫌味ったらしい笑い声が響いた。

 

「んふ~う! 勝負ありましたかネ~? ワタシの必殺技を食らうが良いデ~ス! それは! ワタシ自身が竜巻になる事デ~ス!」

 

 

 風の精霊王が両腕を左右に広げ回転し始めた。

 ダブル・ラリアットの状態で速度を増すと、あっという間に竜巻になる。

 首から上だけは回転しないのが本当にムカつく。

 

 ヒューヒューと甲高い風切り音で俺に向かって来た!

 右に走って逃れようとする。

 横に逃げないとファルフナーズが巻き込まれてしまう!

 

「風の精霊王であるワタシと追いかけっことは良い度胸デスネ~! ミンチより酷くしてやりマ~ス!」

「くそおおお!」

 

 全力で走って逃げるも、あっという間に追いつかれ竜巻に体を浮かされる。

 ねじ切られそうになりながら竜巻の回転に巻かれて、吐き捨てるように放り出された。

 

 関節技を全身に食らったかのように痛む!

 スクルドの保護と昼に使った【魔法の盾】が残っていなかったら、本当にミンチだったぜ。

 

「頑丈なニートですネ~! いい加減、死ぬか殺されるか逃げるかして欲しいものデ~ス!」

「うるせえ、ニートじゃねえ。元ニートだ。第一、ニートが家を失ったら生きるも死ぬも逃げるも無えだろうが」

 

 

 悔し紛れの言葉しか出ない。

 

 

「オ~ウ! ではワタシの靴を舐めて忠誠を誓えば、貴方の家だけは残してあげますヨ~!」

「ぬかせ! そもそも舐める靴すら履く足が…… んッ!?」

 

 

 そうか! そこだ!!

 

 奴にも弱点はあるんだ!

 俺自身がアラジンとか言っておいて、そんな当たり前の事を忘れていたとは!

 

 軽口が災いしたな!

 

 

 よし、勝ちの目は見えた。

 あとは……

 

「ファルフナーズ! 後1回! 一瞬でいいから奴の風を止めてくれ!」

「かしこまり……ましたわ」

 

 まずい。

 

 肝心のお姫様が明らかにダメそうだ……

 体力とか術の力よりも、自分を未熟とか言ってしまう気力の時点で負けてしまっている。

 

 何とか元気付ける……には、やはりアレしかないか。

 

 

「ファルフナーズーッ! 良く聞けッ!」

「はぁはぁ……はいっ!」

 

 

「ここから一番近い島、沖縄にはな! なんと、プリンの専門店がある! その店を守――」

 

 

 俺は見た。

 

 

 ファルフナーズの目に炎が吹き上がるのを。

 

 良く分からないシャキーン! という効果音と共に。

 

 

「お土産ですわねッ!?」

「えっ、いや、そのうちに行こうか、とか……」

 

 長いピンクの美髪を翻し、凛とした姿勢で立ち上がった!

 

「姫巫女が命ず! 四神の風よ! 我が声に従え! 甘きプリンの味にひれ伏せ!」

 

 んん?

 

 さっきはお願い、くらいのトーンじゃなかった!?

 

 呪文にプリンとか入れちゃって大丈夫!?

 

 その声と同時に風の精霊王が喉をかきむしって苦しみ始めた。

 

 

「ギイイエエエエーッ! やめろォ! 甘ったるい風を送ってくるなぁ~ッ!」

 

 

 ファルフナーズはくるりと身を翻し、華麗な跳躍と共に祝詞を続ける。

 

 

「プリン専門店の名において姫巫女が命を下します! 四神の風よ、眠れ! 甘きカラメルの芳香に凪ぎ(なぎ)なさいッ!」

 

 今やハンド・ベルは物凄い勢いでファルフナーズの周囲を回転している。

 触ったら切り裂かれそうな速度だ。

 

 ファルフナーズはバレリーナのように片足で回転し、飛んだり跳ねたり良く分からないポーズを取ったりだ。

 

 

『姫がノリノリなのである』

「お、おう……」

 

 

 さっきまでは無かったはずの良く分からない歌まで祝詞に混ぜ込んでいる。

 

「これが~終われば~ マサト様が~ プリンを買ってくださるのですわ~♪」

「誰もそこまで言ってないよ!?」

 

「私には2つ~ いいえ~ きっと頑張った私には3つ買ってくださる~♪」

「お金持って来てないよ! そしてちょっと音痴気味だよ!?」

 

 

「マサト様、今ですわー!」

「え、あ、ハイ!」

 

 振り返ると、風の精霊王「だったもの」はマッチョだった上半身がすっかりしなびていた。

 むしろ全身シワシワの痩せこけた老人のようになってる。

 

 

「これなら……! もらったぁ!」

「やらせまセン……やらせはしまセンゾォ~……! 弱体化してもニートの攻撃など効かないのデッス……!」

 

 

 風の精霊王は再びダブル・ラリアットの構えから体を竜巻にした。

 

「それを待っていたッ!」

 

 

 俺は腰にくくりつけていた、もうひとつの武器を投げつけた。

 

 そう『爆砕ボーラ』だ。

 

 太めのロープの先に細いロープで3つの鉄球がくくりつけてある、狩猟用の投擲武器。

 敵に絡み付くのが特徴の投げ武器だ。

 

 相手を吸い込む竜巻の攻撃との相性はこの上無しだ!

 

 

「ぎゅううううッ!」

 

 

 風の精霊王がボーラの鉄球のロープに雁字搦め(がんじがらめ)になり、竜巻の回転は止まった。

 

 良かった、任意で爆発してくれるから魔法武器だとは思っていたが、きちんと奴に巻きついてくれた。

 

 

「爆・砕ッ!」

 

 

 鉄球を爆発させると共に奴に踊りかかる!

 

 風の精霊王の体はすぐにでも再生する。

 それは奴の本体じゃないからだ!

 

 狙いは下半身の煙、その出所――

 

 あった!

 

 魔法のランプだ!

 

 雲の地面はこれを隠すためのものだった!

 奴は空を飛べるのに、地面を作る必要なんて無かったのだから!

 

 

「獲ったぞおおお! 俺達の勝ちだッ!」

 

 

 ランプの口先を塞ぎ、出ている煙をさえぎる。

 ただそれだけで、再生中の風の精霊王の動きが固まった。

 

 再生途中の体を作りかけの状態で、風の精霊王「だったもの」が萎びていく。

 

 

「アア~ッ……! ゆ、許してくだサ~イ! ワタシの負けデ~ス……認めマ~ス」

「本当、自分の間抜けさに嫌気がさすよ。アラジンと魔法のランプって、最初から自分で答えを出してたのに」

 

 

「何でもアナタ様の願いをかなえマ~ス! 言う事を聞きますカラ~」

「必要ないね。俺には飛びっきりの美少女姫が仕えてくれてるんでね!」

 

 金属バットさんを振り下ろし、風の精霊王にトドメを刺した。

 中途半端な煙の塊だったそれは、雲散霧消していった。

 

 

 周囲何百kmにも渡っていた、厚く暗い雲が一瞬で吹き飛び――

 史上最大の台風は跡形もなく消えた。

 

 

 雲の地面に、夏の訪れを知らせる強い日差しが反射した。

 

 雨の残滓(ざんし)が遠く、虹を空にかけている。

 

 

「ファルフナーズ! 勝ったぞおお!」

「マサト様は~ きっと頑張った私に~ ガチャをたくさん許可してくださる~ 絶対~」

 

「しないよっ!?」

「そんな事~ あるはず無いのですわ~」

 

 

「おい見ろよ……このお姫様、精霊王の事なんてすっかり忘れて踊りに夢中だぜ……」

『踊りと言うよりプリンとガチャに夢中なのである』

 

 肩をすくめて金属バットさんと語り合った。

 

 

「おーい、お姫様ー 終わったぞー 帰るぞー」

「プリンとガチャ~……はっ!? もう終わったのでございますか?」

 

 

 長生きするよ、このお姫様。

 

 

「ファルフナーズのおかげでな。ほら、戦利品の黄金のランプだ」

「じゃあそれを両替機で換金してプリン専門店を買占めですわ!」

 

 

 やれやれだ。まあ今回は大変だったし、その位は……

 

 

 ぼふんっ! ズズズズ……

 

 

「な、何だ!? 体が雲に沈んでいくぞ! 雲の地面が消えていくッ!」

「風の旧精霊王の力が消滅したからですわ! マサト様、お助けをー!」

 

「ダメだあああ! スクルドの加護も切れてるうううう!」

 

 急速な落下とその空気抵抗で浮遊靴も役に立たない。

 これは靴の裏に空気の地面を作る魔法アイテムだから、自由落下で頭が下に向いてしまうと無力だ。

 

 

 俺達は地表数千mからのスカイ・ダイビングを体験するハメになった。

 生の風圧を受けて、俺は早々に気を失った――らしい。

 

 

 …

 

 

「――ハッ!?」

 

 

 目が覚めれば、いつものベッドの上だった。

 

 手元には黄金のランプ。

 そしていつものファルフナーズの涙声をバックに、スクルドが俺の顔を覗き込んで笑顔になった。

 

「おかえりなのじゃ、マー君。良くやった、お疲れ様じゃー」

 

「えぐっ、ひんっ、ぐしゅ、私のプリンが、プリンが……マサト様の嘘つきー!」

 

 

 

 落下して家に着いた。

 

 一件落着とはこの事か。




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