俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:マサト一行、新キャラと出会うの事。


#51「この世界の牛は空を飛ぶのですね」

「よし、ダンジョン探索だー!」

「マサト様がやる気に満ち溢れておりますわー!」

 

 いや、だって……

 

 ガガゴン! ガシャア!

 

 破壊音。

 工事用重機の駆動する音。

ハンマーがブロックを叩き割る。

 

「……この騒音で部屋に居られないだろ!」

「えーっ? 今ー! 何ておっしゃいましたかーっ!?」

 

 ドドド! キュイーン!

 

 ファルフナーズが耳を塞ぎながら大きな声で聞き返してくる。

 そりゃ耳を塞いでちゃ聞こえるわけが無い。

 

 庭には工事の業者がいて、早速外壁の修繕を始めたのである。

 以前、風の精霊王に壊された壁だ。 

 うるさくてかなわないや。

 

「とにかくダンジョンだ! ダンジョンに入れ!」

「えーーっ!? マサト様! 今、何とーー!?」

 

 辛抱たまらん。

 

 風呂場へ逃げ出して浴室の扉をカラララ……

 モンスターが居ようが居まいがこの際構うものか。

 

 飛び込め!

 

 

―――

 

「おっ、ダンジョンの中までは音が響いてこないや」

「本当ですわ。 これで一息つけるのですわ」

 

 松明が所々壁にかけられた、茶色い大きな石を敷き詰めたダンジョンは静かだった。

 有難い、本当に有難い。

 

 扉から覗く風呂場の脱衣所から工事の騒音は聞こえてくるが、遥か遠くからの音のように小さい。

 

 

 ファルフナーズが耳をぽんぽんと叩き、目をしぱしぱと瞬きさせて言う。

 

「私、あのような轟音は初めてで……雷が目の前に落ちた時より凄いのですわ」

「そうだなー……って目の前に雷落ちた事あるの!?」

 

「はい。雷の竜が城を襲ってきた時に……こう、髪の毛がハリネズミみたいにボワワッと逆立ちまして」

「何それ、凄い見たい。ちょっとこの間のハンドベルで雷雲呼んで」

 

 きっと硬そうな金髪になって、スーパープリンセス人とかに変身するに違いない。

 

「ダンジョン内では天候操作は無理ですので……申し訳ございません」

「よし、じゃあ戻ったら頼もう。夜の方がファルフナーズの逆立った電気ヘアーもより目立って楽しいに違いないしな」

 

「絶対にやらないのですわ! そんな恥ずかしい姿を披露するだなんて」

「えー、見せてよー プリン買ってあげるからー」

 

「……」

「……」

 

「い、一国の姫を買収しようだなんて、マサト様は悪いお人ですわ!」

「今すっごい迷ってたよね?」

 

 

 このピンクの髪のお姫様は甘い物に目が無い。

 だが、流石にプリン1つではお願いを聞いてくれなかったようだ。

 

 いつものスネたように頬をぷっくりと膨らませて顔をぷいっと背けられてしまった。

 

 ――が、ファルフナーズの手が人差し指を立てて宙をさまよわせている。

 これはガチャを回したい、のサインなのだ。

 

 

「ほーん、お姫様とあろう者がはしたないですなあ。そんな露骨にガチャを回したがるなんて」

「ろっ、露骨だなんてそんな事ないのですわ! 少々手持ちぶたさで指先を遊ばせていただけで、私は別に」

 

 ファルフナーズにはゲームのようなステータス画面が見えているらしい。

 そこで俺と自分の戦闘データを確認したり、課金ガチャを回したりできるのだそうだ。

 

 正確にはガチャの代金は俺の毛根なのだが……

 もう何度と無く回したせいで後頭部が大変寂しい。

 

 天辺や前から薄くなるよりは恩情だけど。

 

「しかし、ファルフナーズの逆毛スタイルを見るために貴重な毛根を300本も捧げなければならないのは……」

「あっ、思い出しましたわ。レベルアップボーナスで半額中だそうで」

 

「うっ……そんなルールもあったな。だが、大道芸ひとつ観るのに毛根150本とは」

「最近ちっともしてなくてご無沙汰なのですわ」

 

 やだ、言い方がちょっとエロい。

 

「もうちょっと、こう。上手くおねだりして欲しい。『ご主人様、もう我慢できませんー』とかさー」

「マサト様が何をおっしゃっているのか、分かりかねるのですわ」

 

 ややジト目で呆れたように返されてしまった。

 伝わらないかー

 

「まあ仕方無い。帰ったらガチャしていいから。逆毛ファルフナーズを拝ませてもらおう」

「笑い者にされそうで、身の危険を感じるのですわ……」

 

 

 絶対スマホで画像を撮って、PCの壁紙にしてやるからな。

 

「毛が増える魔法とか薬とか、落ちてねーかなー」

「トリピュロン王国に戻ったあかつきには私もマサト様の毛が増える方法を調べますわ」

 

 ありがたいね。 禿げ上がる前に辿り着けるだろうか。

 このダンジョンをクリアしていけば、ファルフナーズの故郷に着くらしいが。

 

 

 雑談もそこそこに一本道の通路を進み始める。

 突然、後ろから抱きつかれる感触。

 

「マー君! 今回はワシもついていくのじゃー!」

「うおっ……と、スクルド。後ろから急に飛びついてくるなよ。びっくりしたあ」

 

「もうあの騒音には、ほとほと参ったのじゃー」

「神様はダンジョン探索手伝ったらダメなルールじゃなかったっけ?」

 

「付いていくだけだからOKなのじゃ。それに今回は手伝う事も無さそうじゃからのー」

「いきなりネタバレか。何だろう? ボーナスステージかな」

 

「行ってみれば分かるのじゃ。マー君は引きの運を持っておるのー」

 

 どうやらボーナスステージは確定のようだ。

 引き運なんてあったかな、俺。

 

 ファルフナーズもスクルドの言葉を聞いてウキウキし始めた。

 

「さあ、早く参りましょう。きっとプリンの山に違いないのですわ」

「んなアホな。俺の引き運ならきっとナイスバディの美女が待ってるに違いない」

 

 お姫様はまたぷうっと頬を膨らませてスネた。

 

 歩く早さがいつも以上に遅いと思ったら、一生懸命自分の胸を持ち上げたり、腰に手を当てながらくいくいとひねっていた。

 

 いや、君はスタイルは地球で一番だと思うよ。

 だが俺の好みはもう少し大人の女性なんだ。

 

 ダンジョン探索に数年かけて、じっくり口説き落とすなんて計画も有りではあるが……

 まあその頃には俺の頭がツルツルだろう。

 

 くわばらくわばら。

 

「お、扉が見えてきた……が、何だあれ?」

「何か飾り付けのようなものがしてありますわ」

 

 扉の上に『ようこそダンジョン・オープナーご一行様』と日本語で書いた看板が付けてある。

 

「えらく歓迎されてるな」

「言ったじゃろ? 良いのを引いたと」

 

 スクルドがにひひと笑顔で言いながら俺の肩から身を乗り出す。

 仕方無いので、銀髪の頭をわしゃわしゃとかき回すように撫でてやった。

 撫でられるが好きな神様とは扱いが楽でいい。

 

「つまりスクルドと同じく、また神様がいるダンジョンを引き当てたわけだ」

「流石マサト様なのですわ。これでトリピュロン王国も益々栄える事疑いようもありません」

 

 そんなもんですかね。

 

 まあ向こうに到着すれば謝礼金で豪遊生活が決まってるんだ。

 一日でも早くゴールできるよう頑張らねば。

 

「よし、ファルフナーズ、扉を開けてくれ」

「かしこまりましたわ!」

 

 俺自身が開けると別のダンジョンへ繋がってしまうからな。

 ファルフナーズが重そうな扉を開けるのを、やや心苦しい思いをしながらも見守るしかない。

 

 

 扉の隙間から見えてきたのは――

 

 

「草原だな」

「本当ですわ。もしやトリピュロン王国に帰還できたのでしょうか!?」

 

「マジで……いや、違う。すぐそこに扉が置いてある。次の階層があるんだ」

「まあ……あ、マサト様、あそこに変な生物が」

 

 

『ン゛モ゛~~~ゥ』

 

 モンスターか!

 

 ……いや、あれは。

 スクルドがつぶやいた。

 

「牛じゃなー」

 

「しかも乳牛だ」

「あれが牛という生物なのですね。バッファローと似てるのでございますわ」

 

 ファルフナーズの世界では牛が家畜化されてないようだ。

 だからプリンなんかのお菓子を有り難がって喜んでいるのか。

 

 スクルドが俺の肩越しに身を乗り出して指差す。

 

「マー君、牛から羽根が!」

「マサト様の世界の牛は空を飛ぶのですね」

 

「んなワケあるか! ありゃ牛とは別の何かだ!」

 

 

 牛の背中に金色の翼が生えたかと思うとこっちにゆっくり飛んでくる。

 これだからファンタジーは嫌なんだ……わけが分からない。

 

 パタパタ……

 

 羽根は意外とせせこましく動いて、どうにもコミカルだ。

 

 羽根牛は俺達の目の前まで来るとゆっくりと地面に降り立った。

 

 

「2本足で立ったのじゃ……ワシも家畜化された牛種を見るのは初めてじゃが賢いのー」

 

「違う。違うぞスクルド。牛は立たないぞ」

「私の世界にはミノタウロスという、牛頭人身のモンスターが……」

 

 ややこしくなるからやめて。

 

 羽根乳牛は後ろ足で立つと、どこからとも無く手……もとい前足になにやらアイテムを取り出した。

 

「何だ!? 攻撃してくるのか!」

 

 パァーン!

 

 撃たれた!

 

 だが、外した!?

 

 

「マサト様! 赤や白の紐と紙吹雪ですわ!」

「……クラッカーだ」

 

『はい! どーもどーも! SLMN72といいまーす! 今日はね、名前だけでも覚えていってください、って!』

 

「マー君、しゃべったぞえ!」

「マサト様の世界の牛は何て賢いのでしょう。とてもこれを食べるだなんて可哀相な事は……」

 

 食べません。

 

 

「しかも何故かお笑い芸人調で語りかけてくる」

 

 羽根乳牛はそれはそれは美しい女性のソプラノ声で語りかけてきた。

 とりあえず情報を交換しておくべきか?

 

「あんたが神様なのか……? SLMN72って、記号みたいな名前なんだな」

「あ、いいえいいえ。SLMN72はグループ名でして、正式にはソロモン72って言うんですけどー。どうかひとつ、よろしくお願いしますね、って」

 

「ぐ、グループ名? スクルドみたいな3人で1人の神様なのか?」

「わたし達は別々の存在でして、ダンジョン・オープナーさんの世界では割と有名なんですよー? ご存知ありません?」

 

「俺は神話とか歴史とかさっぱり知らないしなー どこの国の神様なの?」

「はいー、イスラエルの方でブイブイ言わせてた時期がありまして。そりゃもうね、ちょっと最近地球では廃れ気味のローカルアイドルでして」

 

「アイドルて……まあ神様もアイドルも似たようなもんか」

「ま、ちょっと当時は悪役だったんですけどねー 知りません? ソロモン王に使えてた悪魔なんですがー」

 

「ちょっと待て。今、何て言った?」

「ソロモン王に仕えてた悪魔ですがー」

 

「悪魔かよ!」

「えええ! 差別良くないですよー!」

 

「帰ってもらえますか」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください! わたし達良い悪魔! 悪魔ウソ付かない!」

 

 神様じゃなくて悪魔だなんて、とんでもない!

 

「いや、マー君大丈夫じゃ。こやつは本当に悪い悪魔じゃない」

 

 スクルドが間に入ってきた。

 悪いから悪魔って言うんじゃないのか?

 それとも本当に良い悪魔なんているのか。

 

「そ、そちらの神様の言うとおりです。ね? わたしとっても頑張りますから! 何でもやっちゃいますよー!」

「空飛ぶ乳牛が何の役に立つんだか……悪魔ってのはやっぱり騙されそうで嫌だなあ」

 

「マー君、神か悪魔かと言うのは人間の見方や立場ひとつで逆転するものなのじゃよ」

 

 スクルドが俺を諭してくる。

 流石にスクルドが俺を騙すはずもないし……

 

「そうですそうです! わたし達は人間さん大好きな悪魔っ子ですからね! どうぞひとつ、仲良くしていきたいなー、って」

「胡散臭せー、けど、スクルドがああ言ってるから信じよう。んで、ソロモン72はどんな悪魔なの?」

 

「あ、はい。ソロモン72柱はグループの名前でしてー わたしの正式名称は別にあります、って」

「ほほー、じゃあアンタのお名前聞いてもいいかな?」

 

「はいー、もちろんですともさ! これからお世話になるのですから、ぜひぜひ覚えてくださいねー ソロモン72柱の第48柱、地獄の大総裁、このわたしの名は――」

 

 羽根乳牛は足を重ね右前足を前に出して、左前足を背中に回し挨拶のポーズをとった。

 牛の関節は絶対にあんな風に曲がるはずが無い。

 

 

 

 

「ハゲンティ、と申します」

 

 

 

「帰ってもらえますか!」

「ええええ!」

 

 

 

 名前だけで全てが分かった。

 これは俺をハゲさせる、正真正銘の悪魔だ!




感想とか乳牛とかお待ちしております!
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