「よし、聞かなかった事にしよう」
「何を聞かなかったの? お義兄ちゃん!」
シャフルナーズが俺の背中に抱き付いてくる。
姉のファルフナーズとは違って、距離感が近い。
物理的に。
「しゃ、シャフルナーズさん」
「もうっ! シャフリーンて愛称で呼んでいいのよ、って言ったじゃない!」
「そう、それだ。シャフリーン、俺も愛称で呼んで欲しい」
「えーっ、お義兄ちゃんて呼びたいのにー!」
その呼び方は何か将来を縛られる気分になる。
ぜひ変えてもらおう。
「うーん、お義兄様?」
「ノーさすおに、ノー」
「義兄上様?」
「増えそうなのでチェンジ」
「おにー様?」
「うーん、チェンジ」
「兄ちゃま?」
「戻った」
…
「もーっ! じゃあ何てよべば良いのかしらっ?」
「もうちょっとこう、フレンドリーかつフランクに」
「……にーに?」
「それだ!」
シャフリーンと抱き合って喜びを分かち合う。
謎の感動。
「にーに!」「シャフリーン!」
「に~にっ!」「シャッフリーンッ!」
「あははっ! にーにー!」 「ははは! シャフりん!」
謎のくるくるダンス。
ダンジョンを出るまでのわずかの間とは言え、心臓に悪いからな。
俺にじゃれ付くシャフリーンを見て、お姫様がふふっと笑う。
「さっそく仲良しさんなのですわ」
「顔立ちはそっくりなのに、距離感がえらく違う姉妹だなー」
「あら、むしろ私がシャフリーンくらいの頃はもっと甘えん坊なのでしたわ」
「マジか。さあ、甘えて来い!」
両手を広げておいでおいでの体勢。
でも手をわきわき。
「大変な身の危険を感じるのですわ……」
「どうした! 恥じらいなんか捨ててかかってこい!」
乗ってこなかった。
当たり前か。
…
「さあ、ひと戦闘して疲れたし、ひとまず帰るかー」
「かしこまりましたわ」
白い神殿を後にした。
しかしファルフナーズに妹が居たとは。
妙に甲斐甲斐しかったりするのは妹が居たからだったんだな。
顔立ちは本当にそっくりだ。
年齢が3つ4つ下で、目元が切れ長で活力にあふれている印象だった。
ファルフナーズはやや垂れ目気味のおっとりした雰囲気なのに。
まあ胸は年相応と言うか……日本人から見たらスーパーモデル級だが。
わずか数年でファルフナーズ並みの大きさになるのか。
何て素晴らしい事だろう。
次に会う時はどのくらい大きくなっているのか。
トリピュロン王国で再会するのが楽しみだな。
パタン。
背後で【どこでも扉】が閉まる音がして、部屋に戻ったのだと気付いた。
いかんいかん。
モンスターが出ない階層のようだったから良かったけど。
あまり気を抜き過ぎるもんじゃないなー
部屋でくつろいでた3柱の女神達に挨拶をする。
「ただいまー」
「おかえり、マサト」とデスノ。
「やっぱりこうなりました、ですって!」とハーちゃん。
んん……?
「おかえりなのじゃ、マー君。色々大変じゃろうが、頑張るのじゃぞ」とスクルド。
おかしい。
彼女達が何を言ってるのか分からない。
そう思ったのは、わずか一瞬だった。
俺の目の前に翻る、赤いドレス。
「わー! にーにの世界はあたくし達の世界と全然違うのね!」
「……」
「……なによ?」
「待て、なぜシャルりんがここに居る!?」
「……はっ!? 言われてみればそうだったわ!」
慌てて【どこでも扉】をオープン!
うーん、普通のダンジョン。
「ダメだ。もう別の階層だ」
「帰れなくなっちゃったねえ」
「……」
「……なによー?」
「元の世界に戻れなくなった割に落ち着いてるなあ」
「うーん、あそこの世界、何か原始的で好きになれなかったわ!」
そうですか。
確かに元の世界と言っても、あのバサーカーという戦士の世界だ。
シャフりんの故郷じゃないからなあ。
「こっちならファル姉様もにーにもいるし! 今日からここで暮らすわ!」
「いやいや、そうは言ってもウチの家計にも事情がね?」
「……」
「……」
「……うっ、ぐすん。」
しまったあああああ!
泣かれたあああああ!
涙をぼろぼろこぼし始めたシャルりんをファルフナーズが抱き止めて慰める。
「マサト様、ご迷惑にならぬよう私が厳しく躾けますので、どうか……どうか寛大な処遇を」
「あたくしは……ぐすぅ、ファル姉様と、にーにと一緒に……居たいです……ぐしゅ」
「も、もちろんだ! 俺だってシャルりんと一緒に居たいぞ!」
「ほんとうにぃ……? ぐしゅん」
「当たり前だ! 可愛い妹が出来て嬉しいなー!」
「にーに、優しい。大好き……」
抱き付いてくるシャルりんの頭を撫でてやりながら天井を仰いだ。
生活費と居住スペース、どうしよう……
『明日からダンジョン探索に励むしか無いのである』
俺の心を察した金属バットさんが小さく呟いた。
それしか無いよなー
んん……?
そうだったのか!
物凄い勢いでスクルドのほうへ振り返る。
「そう言う事じゃ」
「スクルド……この結果を最初から知ってたな!?」
思い出した。
出発前にスクルドに声をかけられた時のあの笑顔。
あれは優しい笑顔じゃあ無かった。
ある種の諦め、労
「確率的に最大というだけで、必然的な結果では無かったのじゃ」
「さっぱり分からん!」
「この現状になる確率は100%のうち、わずか25%。その他5%の確率で姫が直前で気付いた。5%の確率で赤い姫の戦士が呼び止めた。5%の確率で扉を閉める前にマー君自身が気付いた。5%の確率で再度開けた扉が同じ場所に繋がった。5%の確率でマー君が赤い姫を拒絶し――」
「あ、もういいです。すんませんした」
「なんじゃー、ここからが本番だったのに」
何? 本番て。
もっと酷い展開があったのか!?
恐ろしくて聞きたくも無いな。
「もう少し分かりやすくヒントをくれても良かったのに」
思わず愚痴がこぼれる。
スクルドがニヤリと笑って返す。
「神たるもの、受けた恩と仕打ちは絶対に忘れぬのじゃ」
その手元には進撃のコミックス5巻目。
バレてましたか。
触らぬ神に祟りなし。
ハーちゃんがトドメの一言。
「家族が増えるよ、やったねマサトさん、ですって!」
俺がパパになるんだよ。
にーにだけどね!
感想とか居住スペースとかお待ちしております!