俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:みんな大好きお風呂回


#62「これはスライムですか?はいそれはスライムです」

「よし、マサト様、お風呂が沸きましたわ」

「おーぅ、サンキュ。さっそく頂くとするか」

 

 一戦、いや一発で倒したとは言え、一応強敵だった。

 だから疲れても許される、はず。

 

「マサト様、お召し物を」

「頼むー」

 

 ファルフナーズが俺のシャツのボタンを外し始める。

 ピンクの髪に包まれた頭が、俺の顔の前で揺れてくすぐったい。

 

 

 いや!

 

 

 これは決していやらしい事ではない!

 

 ダンジョン・オープナーの能力のせいなんだ。

 俺が開いた、開けたものは全てダンジョンに繋がってしまうから。

 

 扉だけに限らず、ファスナー、瓶、弁当の蓋、はては便座カバーまでがダンジョンの入り口となる。

 だから危険を避けるために、着替えなどはファルフナーズに手伝ってもらうのだ。

 

 えっ、服は「脱ぐ」ものだから大丈夫だって?

 

 ……。

 

 こまけーこたーいーんだよ。

 

 万が一って事もあるしね!

 

 実際、シャワーの蛇口がダンジョンの入り口になった事もあった。

 蛇口は開けると言うより「ひねる」ものなのに。

 

 用心しておくに如()くはない。

 

 まあ、厳しい戦いの日々、ひとつくらい楽しみがあっても良いじゃないか。

 と、自分の心に言い訳をしておく。

 

 

「だが待って欲しい」

「どうかされましたか? マサト様」

 

 ファルフナーズが俺のジーパンに手をかけた所で止まって訊ねた。

 

「あれは何だ」

「何だと申されましても……ご存知の通り、私の妹シャフルナーズでございますわ」

 

「そんな事は分かっている。どうしてシャフりんがここに居るんだ」

「それはもちろん、マサト様のお背中を流させて頂くためでございますわ」

 

 シャフルナーズ、通称シャフりん。

 12.3歳のファルフナーズの妹。

 鮮やかな赤い長髪と切れ長の目が魅力的な女の子だ。

 

 それがバスタオル一枚、体に巻いただけの姿で立っている。

 ドヤ顔で腰に手を当てて。

 

 

「今日からお世話になるのだから、背中くらい流してあげてもいいのよ!」

 

 くっ

 

 そこは姉のほうでお願いしたかった。

 胸の装甲厚が段違いだ。

 

 チェンジ効かないかなー

 

 別におっぱいで洗ってもらうわけじゃないが……

 

 だが、シャフりんの好意を無下むげにも出来ない。

 今日の所はシャフりんとのバスタイムを楽しむとしようか。

 

 

 カラララ……

 

 

「……」

「……」

 

 

「バスタブが! バスタブが、ピンクの液体に満たされているぞ!」

「落ち着いてにーに! あれは入浴剤よ」

 

 

 ボコン

 

 コポォ……

 

 

「大きな泡が浮いてきてるんだけど!」

「そういう種類なのよ!」

 

 

 ヌラァ……

 

 

「縦に伸び上がってるんだけど!」

「平気! 平気だから!」

 

 

「……」

「……」

 

 

「シャフりん、いやシャフルナーズさん」

「はい」

 

 

「あれはスライムですか?」

「はい、あれはスライムです」

 

 

「……」

「……」

 

 

「ファルフナーズーッ! 風呂にスライムが! 風呂にスライムがー!」

「落ち着いてにーに! あれは安全! 安全なスライムなのー!」

 

 

 プルプルプル

 

『ボク、悪いスライムじゃないよ』

 

「キエエー! シャーベッターー!」

 

……

 

 

「……な、なるほど。人間に有益なスライムもいるって事か」

「ええ、あれは弱酸性スライムといって、人に危害を加える能力もないのよ」

 

「体とか溶かされて同化しないの?」

「消化力が弱いのよ。角質や垢、人の体の余分な老廃物だけを食べてくれます。お肌ツヤツヤ、保湿成分も分泌してくれて髪の毛しっとりです。花の香りをコピーする能力があって、この子はローズマリーの香りを出します。泡立ちも良くてソフトな感触。水切れが良く洗い流しもスッキリです」

 

 

「なんで営業口調になるんだ」

「にーににローズマリオの良さを分かってほしくて」

 

「何だそのローズマリオって。名前か」

「そう。あたくし専用のバブル・バス・スライムよ!」

 

 マリオって事か男なんだろうか…… 

 異世界人の感性には付いて行けないな。

 

「口も脳も無いけど、どこで考えてしゃべってるんだろう」

「そこは割りと根性で」

 

「根性かー」

「はいー」

 

 なら仕方ないね。

 

 

 カラララッ

 

 

「マサト様、どうかされましたか? 大声で呼ばれた気がしたのですが」

「ああ、ファルフナーズ。この弱酸性スラ――ガボゴボガッ!」

 

 

 頭からスライムをぶっ掛けられた。

 

 

「な、何でも無いのよ、ファル姉様! にーにがこの入浴剤を珍しがって、飛び上がって喜んでただけよ」

「まあ、マサト様のお気に召したようで何よりですわ。では、ごゆっくり」

 

 

 カラララッ、パタン

 

「……」

「……」

 

 

「ゲホッ、少し飲んだぞ!」

「大丈夫よにーに。オーガニックな成分だから、むしろ健康に良いのよ!」

 

 

 オーガニック(有機)というよりレア(生)だよね。

 

『ポッ……ボク、お兄さんとひとつに』

「そういう言い方はやめて。マジほんとに」

 

 

「にーに、ファル姉様はモンスターが苦手だから、この子はただの入浴剤としか教えてないの」

「あいつのモンスター嫌いは生まれつきだったのか」

 

「うん。だからこの子にもファル姉様の前ではしゃべったり動いたりしないように躾(しつけ)てあるから」

「なるほど……」

 

 

 シャフりんが洗面器で弱酸性スライムを浴槽からひとすくい。

 

 ぬぽんっ

 

 

「粘り気あるんだけど……」

「ふふっ、この子もにーにが気に入ったみたい。ついつい力が入って粘っちゃうのね」

 

 嬉しくないよ?

 シャフりんが命じるとサラサラの液体になった。

 

「にーにはきっと人外に好かれる才能があるのよ。神様もたくさん居たし」

「神様はともかく、モンスターに好かれてもなあ」

 

 シャカシャカ……

 

「……」

「……」

 

 あれえ?

 

 目の前で膝立ちになって、洗面器の中で薄いピンクの液体をかき回すシャフりん。

 何だかイケない事をさせている気分になってきたよ?

 

 

「こう見えてもファル姉様やお母様の背中を流して、いつも褒められてるのよ!」

「へえ、偉いな。家族孝行とは、良い姫様になるだろうなー」

 

 よし、会話と思考を普通の方向に戻したぞ。

 これで穏やかなバスタイムを――

 

 

「2人から泡姫と呼ばれてるんだから!」

「うん、ダメなやつだそれ」

 

 

 風呂から上がったらファルフナーズに良く言い聞かせなければ!

 

 外出中にうっかり口を滑らした日には、社会的に終わりそうだ。

 

「さあにーに! 洗って差し上げるわ!」

「背中だけで良いよ。後は自分で」

 

 その両手に盛ったピンクのスライムの山はちょっと。

 少しずつ自分で使って試したい所だ。

 

「もー! にーには怖がりさんね! やっちゃえ、ローズマリオ!」

『来て! お兄さん、ボクのナカに』

 

 バスタブのスライムがせり上がって俺を包む!

 

「うわあああ! やめろォ!」

「ローズマリオ! 泡立ち攻撃よ!」

 

「今、攻撃って言った! 攻撃って!」

『お兄さんを、ボクのナカの奥までー』

 

 

「そうよ! にーにをソープに沈めるのよ!」

 

 それは色々間違っている!




これをお風呂回と言い張る勇気
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