俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:マサト達、ダンジョンで稼ぐの事


#63「タクシー乗るだけでレベルアップ」

「よし、今日から荒稼ぎだ!」

「その意気ですわ、マサトさ──くちゅんっ!」

 

 ファルフナーズが可愛らしいクシャミをひとつ。

 

「お大事に」

「申し訳ありませんですわ」

 

「昨日は風呂場で大変だったから……」

「ええ……重ね重ね申し訳ございません……」

 

「今日は休んでもいいよ?」

「そんな訳にも参りません! マサト様ばかりにご負担をかけるだなんて」

 

 別に良いのに、とつぶやいたものの、お姫様は案外頑固。

 風邪の原因が妹のシャフりんだし。

 ダンジョンへ稼ぎに行くのも、増大した生活費に充()てるという目的がある。

 

 要は気負ってるんだな。

 

 程好くモンスターを狩って、疲れたと言って早めに戻る事にしよう。

 

 ファルフナーズから【どこでも扉】を受け取り、代わりにティッシュ箱を携帯させる。

 

「このティッシュと言う品は本当に素晴らしいものですわ」

「ただの紙だよ?」

 

「とんでもございません! これほど肌に優しく、清潔で、軽くて、しかも安価な──っくちゅん!」

「お大事に。喉と鼻、労いたわらないと。しゃべるのは最低限にな」

 

「はひ。申し訳ありませんわ。ティッシュの素晴らしさについては、また後日」

 

 えらくティッシュが気に入ったみたいだな。

 風邪が治ったらティッシュ姫と呼んでやろう。

 

 

 

「さあ入場だ」

「はひ」

 

「……」

「……」

 

「ファルフナーズが鼻声になると、何か面白い声になるな」

「もーっ! マサト様ってばデリカシーが無いのですわ! もーっ!」

 

 もふん、もふふん

 

 使い終わって丸めたティッシュを投げつけるのは止めてください。

 

 ともかく【どこでも扉】をガチャッ

 

 

「夜の森だ」

「はひ」

 

「ダンジョンですら無いな。見ろ、夜空に大きな満月だ」

『否。自然の地形にしては木の生え方が極端なのである』

 

 金属バットさんが異を唱えた。

 

「確かに、道が真っ直ぐになるように木が覆い茂るなんて不自然すぎるな」

『しかも直角の曲がり角まで有るのである』

 

 無いアルよ。

 

「要は森っぽいダンジョンって事だな」

「はひ。……っくちっ」

 

「お大事に」

 

 ティッシュ、もう一箱持ってこようかな?

 

 

 アオーーンッ……

 

「犬の鳴き声が聞こえる」

『あれは遠吠えと言うのである』

 

 

 道の……いや、通路の曲がり角から3つの黒い影が。

 

「犬だ!」

『あれは狼である』

 

 どっちでもいーです。

 

「グレイ・ウフフ。レベル5でふわ!」

 

 完全に鼻声だなー

 

 まーレベル5なら苦戦するまい。

 

「飛び掛ってきたところをカウンターだ」

 

 が、3匹のグレイ・ウルフは金属バットさんが届かない距離で止まる。

 

 グルルルルゥ……!

 

「おっ、威嚇か!? だが、お前らの実力なんざ見切ったぜ」

 

ファルフナーズがね。

 鼻声でね。

 

「どしたどしたァ! かかってこい!」

 

 挑発してもダメだった。

 

『我が主よ! 敵の増援である』

 

 えっ

 

 グレイ・ウルフ達の後ろの曲がり角から更に3匹の仲間が飛び出してきた。

 

「厄介だな。どんどん増えるかも知れない」

『先手必勝なのである』 

 

 しかしこちらが前へ出ると、向こうがその分下がる。

 威嚇の声がいや増していく。

 

「ちっ、囲んで磨()り潰そうってハラか」

『群狼戦術(ウルフ・パック)という』

 

「だが囲んだくらいで倒されてやるマサト様じゃないぜ」

『向こうは警戒して、こちらの間合いに踏み込んで来ないのである』

 

 ならば、こうだ。

 

 いつも通り、野球のスイングの構え。

 もちろんこれでは狼達に届かない。

 

「だが、俺のスイングは伸びる!」

 

 金属バットさんは【伸縮自在】の能力がある。

 

 振りながら伸ばせば──

 

 ブオンッ!

 

 バキャキャキャッ!

 

 ギャワワンッ!

 

 

「一網打尽ってワケだ!」

 

 横薙ぎに振られた金属バットさんは伸びながら狼の群れを蹂躙した。

 魔法で伸びるその軌道には対応できないのだ。

 

『我が主とは思えぬ智と勇の冴え!』

「素直にほめろー」

 

『マジ最高、超クールなのである』

 

 まとめて3匹、ぶっ倒してやったぜ。

 次の3匹も同じ要領で一網打尽。

 

 倒した狼は牙と毛皮を残して光となって消える。

 これを後で両替機で換金しろって事だろうな。

 

 毛皮とっておいて、いつかの日に備えてフード付きの服を作ろうか。

 

 

 などとドロップ品を拾いながら余計な事を考えていた。

 

 

 アオオーンッ!

 

 

「マサトひゃま! 新手の狼でふわ!」

「分かった! いや、良く分からんけど!」

 

 鼻声がどんどん酷くなるな。

 ドロップ品がいくらになるか分からないけど、これ倒したら帰ろうか。

 

 突然金属バットさんが叫んで警告してくる。

 

『主! 倒した敵が復活するのである!』

 

 

 振り返ると、俺とファルフナーズの間に半透明の狼が6匹。

 ちょうど倒したまま転がってた場所のあたりだ。

 

「うわ面倒臭い。敵も死に戻りかよ」

『むしろその場復活なのである』

 

「なお悪い。少なくとも倒したら即その場を離れないと危険だな」

『恐らく、あの遠吠えが復活の合図かタイマーなのである』

 

 なるほど。

 

「立ち止まってないでザクザク進むしかないか」

 

 ぱっと走り出すも、はっと気付いて立ち止まる。

 振り返るとスローモーションのように走るお姫様の姿が。

 

 ファルフナーズは走るのが異様に遅いんだった。

 

 お姫様に追いすがろうとする狼6匹を、先ほどの要領で一気に倒す。

 返す刀で前から来る3匹も瞬殺。

 

「これ、最後は物量で押し潰されるパターンだな」

『数で押されては打つ手無しなのである』

 

 ファルフナーズを進ませつつ、後ろから短時間で復活する狼をなぎ倒す。

 その復活間隔は10分も無い。

 

「マサトひゃま! 分かれ道はどちらへー」

「えーと、えーと……右! 右だ!」

 

『主よ、再び狼が追ってくるのである』

 

 えーい、忙しいダンジョンだ!

 

 

……

 

 

 退きながら戦い続けて結構な距離と時間を費やした。

 正直へとへとだ!

 

「まひゃとひゃま! まはひひほはりでふわ!」(訳注:マサト様! また行き止まりですわ!)

「もはやファルフナーズの言葉が意味不明になってきた」

 

 鼻かみ過ぎだ。

 風邪薬と鼻炎薬を買ってやらないとな。

 

『ジリ貧になってきたのである』

「ここまで進んでダメでした、なんて御免だぜ」

 

 なにせ途中からドロップ品を拾っていない。

 狼がどんどん増えるから、拾っている時間も惜しくなった。

 

 このままじゃ、精神的に赤字だ。

 

 

『もはやこれまで』

「景気悪い事ばっかり言うんじゃねー!」

 

 くそー、この不況の中、金を稼ぐのも楽じゃない。

 ダンジョンに不況は関係ないか。

 

 だが先日また壊したシャワーのカランと鏡の修理代はもぎとってやる。

 そう言えばスマホの料金も払わねば。

 

 ヒキニートだった最近までは気にしてなかったが。

 今では俺にとってスマホは――スマホ、料金……!

 

 

 ──そうだ!

 

 

『いよいよもって年貢の納め時』

「そうでも無いさ。要は移動と攻撃を同時にできれば良いんだから──」

 

 

『そんな手が!?』

「あるんだぜ!」

 

 スマホを取り出して魔力を込める!

 

 

「速攻召還! クレイジータクシー!」

 

 

 ガッシャーン!

 

 パパーーンッ!

 

 木々の壁がある空間を割って、タクシーが飛び出してきた。

 今の状況にこれほどうってつけの物もあるまい。

 

「兄ちゃん、呼んだか!」

「おう、ちょっとボス部屋まで頼むぜ!」

 

 

 ファルフナーズを押し込むようにしてタクシーに乗せる。

 おっさんの運転でトラウマになっているが、流石にこの状況ではお姫様も文句は言わない。

 

 

 狼を蹴散らしながら俺もタクシーへ飛び込んだ。

 

「何だよぃ! 兄ちゃんは屋根じゃないのか!」

「どこの珍走団だ!」

 

「ま、仕方ねえやな。トゲ付きのジャケットも着てねえし」

「そっちか……」

 

 いつぞやの妄想が現実になってしまった。

 

 タクシーが狼の群れを跳ね飛ばしながら森のダンジョンをかっ飛ばす。

 

「どけどけぃ! ワン公ども!」

「こりゃいいや。どんどん狼を倒してくれ」

 

「タクシー乗るだけでレベルアップってか? チートだな、兄ちゃん!」

「どこぞのラノベか!」

 

『ただし有料なのである』

 

 金で経験値買ってるようなもんだな。

 

『しかしトゲ付きとは良いアイデアなのである』

「金属バットさんが次なる進化を模索し始めた」

 

 生やすのか……トゲ。

 

 ますます絵面が酷くなるな、俺の装備。

 

「もはや金属バットというより鬼の金棒だな」

『それはそれで』

 

 いいのか。

 

 タクシーのおっさんがクラクションを連打しながら叫ぶ。

 

 

「馬鹿野郎ぃ! バットに生やすのは釘って相場が決まってるだろォ?」

 

 

 そんな進化、全力でキャンセルだ。




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