「よし、あれがボス部屋に違いないぜ、兄ちゃん」
「一気にボスを撃破してやるぜ」
おっさんのタクシーで森道ダンジョンを移動中。
襲い掛かってくる狼を跳ね飛ばしながらの爆走だ。
正面に蔓草に覆われた門が見えてきている。
「オーケー! ぶち破るぜ! 掴まってな!」
「えっ!? いや、門を破れって意味じゃない! 待っ――」
ガシャアーン!
「イーヤッフーゥ! ボスぁどこだぁー!」
「っ痛え! おっさん落ち着けーっ!」
危うく大事故だ!
門と衝突した衝撃でタクシーが跳ねて、車の屋根に頭をぶつけた。
タンコブ1つ獲得。
ダンジョンでタクシーなんかに乗るもんじゃないな!
ボス部屋は開けた丘のような地形になっていた。
「いたぜ兄ちゃん! あれがボスに違えねえ!」
「移動に突破に攻撃に、おまけにナビまでついてる召還魔法とはな」
「便利だろぉ?」
「自分で言うなー」
丘の上に大きな獣の影が見える。
「丁度、満月を背負って凄味のあるシルエットだ。勝てるかなあ」
「任せな!」
えっ
ガアアアアアーッ!
タクシーが加速して丘を駆け上っていく。
このおっさん……ボスにまでぶち当たる気だ!
「おっさん無理すんな!」
「タクシーの真価! 見せてやんぜーッ!」
タクシーの真価は輸送だと思います。
ボスに先制攻撃を仕掛ける事じゃないと思うよ!
「やはり……ボスは巨大な狼だ! タクシーより大きいぞ!」
「異世界までひっ飛べぇーッ!」
狼を異世界転生させるのか。
ガアアン!
巨大狼はタクシーの突撃をこらえた!
異世界転生、失敗。
「この獣野郎ッ! 受け止めやがったァ!?」
「おっさん、一人で盛り上がってんなー」
『暮井寺
金属バットさんが冷静な感想を漏らす。
「目の前に巨大な狼の顔があって、めっちゃ怖いんだけど……」
「デカいだけのワン公に100馬力のタクシーが負けるかってんだ!」
おっさんがアクセルを踏み込んで巨大狼と力比べを始める。
ギャアアアアア!
キュルルルルッ!
アクセルを全開にするおっさん。
一歩も引かない巨大狼。
力と力が均衡し──
「うおおおおー!」
「グルルルルッ!」
勝手に盛り上がっていたのだった。
「……」
『……』
「じゃあ今のうちに……」
『うむ』
ガチャッ よいしょ
トコトコトコ。
うん。 このへんでいいかな。
タクシーを降りて巨大狼の脇腹に狙いを定める。
「せーのっ!」
マサトスマッシュ!
ドゴォ!
巨大狼が犬のようにキャウンと悲鳴をあげ、丘を転げ落ちていった。
「あああっ! 俺の見せ場が!」
「むしろこの上無く役に立ってくれたぞ」
タクシーのおっさんは車を降りると、むくれ顔でボンネットに肘をついた。
ふくれっ面でこちらにもう片方の手を差し出す。
「んっ!」
『タクシー代を要求しているようである』
仕方なく万札をポケットから取り出して渡す。
代金払わないと帰ってくれないからな。
お釣りを受け取りながら、巨大狼が転げ落ちていった方向を眺めつつ訊ねる。
「ファルフナーズは大丈夫か? 怪我とか気分悪いとかない?」
「はひ。はいりょーふなのれすわ」
酔っ払ってるみたいな声になってきたな。
お姫様の顔は、鼻をかみすぎたせいで赤味がさしている。
「……真っ赤なお鼻のプリンセス」
「もーっ! もーーっ! マサト様ってばっ!」
赤鼻のトナカイかと思ったら牛でした。
もふふん もっふんもっふん。
お姫様のティッシュ攻撃。
使用済み。
ガアアオオオアッ!
「うわっ!? 新手か!?」
「まらはおへへはいのへふは!」(訳注:まだ倒せてないのですわ!)
「何を言ってるか分からんが、とにかく【魔法の盾】を頼む!」
「はひほはひはひはは!」(訳注:かしこまりましたわ!)
さっぱり分からん!
ファルフナーズから魔力が飛んでくる。
「【あほーのはて】!」
「誰がアホの果てだ!」
もやや~ん
ぱちんっ
いつものように青白い膜が俺を覆ったかと思ったら弾けて消えた。
「お姫様、魔法失敗してるぞ」
「はひ……」
ああっ、しょんぼりさせてしまった。
フォローを……してるヒマが無い。
巨大狼が丘を駆け上がってきた!
しかも後ろ足だけで走ってくる!
ウオォン!
「待て、お前の走り方はおかしい!」
『綺麗なランニング・フォームなのである』
「畜生! これだからファンタジーは嫌なんだ! ハーちゃんの時といい、常識を平気で無視しやがる!」
「まひゃほはま! はれはぱいぱんふろーふへほはいはふは!」
(訳注:マサト様! あれはライカンスロープでございますわ!)
バキバキと骨がきしむような、折れるような音を立てながら巨大狼の体が変化していく。
あっという間に狼の顔をした毛むくじゃら人間になった。
「狼男だったのか!」
『姫がそのように言ったであろう』
分からん分からん、聞き取れん。
あれを解読できるのは金属バットさんだけだよ。
再び巨大狼男が遠吠えをすると、急激に空気が冷えてきた。
『我が主よ、どうやら奴は冷気の属性。見よ、口元から吹雪のブレスを吐くのである』
「よし、来ると分かればタイミングを合わせて――」
今だ!
回避発動アンド【未来視】!
スススッ
「馬鹿め、そっちは残像――」
「ひゃああああああんっ!」
俺の真後ろにはピンクの髪のお姫様が居たんだった……
ファルフナーズがもろに吹雪を浴びた。
「ひくちっ! ふぇぷしゅっん!」
「お大事に」
ファルフナーズが涙目で俺を見つめながら鼻をかむ。
その目が「誰のせいで吹雪を浴びたのか」と語っているのは分かる。
ごめんて。
ともかく、ファルフナーズが風邪をこじらせないうちに倒してしまわねば!
「食らえ! ファルフナーズの仇!」
金属バットさんを最大化し、炎を吹き上げてのフルパワー攻撃!
バギャッ!
「これはファルフナーズの分!」
ドゴォ!
「これがファルフナーズの鼻の分!」
バギョッ!
『なぜそこで鼻っ!?』
「そしてこれが……ファルフナーズの鼻水の分だあーッ!」
ドグシャアッ!
渾身の一撃が頭部に命中し、巨大狼男はその場に崩れ落ちた。
「ちっとも嬉しくないのですわ……」
「ティッシュの分、の方が良かったかな?」
炎に巻かれて燃えていく狼男が光を放って消えた。
グレイ・ウルフと同じように牙と毛皮がドロップ品として残る。
ファルフナーズの丸めたティッシュ攻撃を受けながらドロップ品を拾う。
よくもまあ、それだけティッシュを使ったものだ。
そういえば前に鼻水姫ってあだ名を勝手につけたっけ。
お姫様、イメージダウンだな。 ははは。
「さ、階層突破ボーナスを受け取って帰ろう」
「かしこまりましたわ」
「あれ、ファルフナーズ鼻声が治ったな」
「あらっ? 確かに、言われてみればそうですわ」
「吹雪攻撃を食らったのが良かったのかな」
「その件については後ほどお話があるのですわ」
ヤブヘビだ。
第一、無敵なんだから良いじゃないかー
ファルフナーズが奥にあった扉に触れると、双子天使が天から降りてきた。
きゃっきゃと笑いながら大きな茶色い箱を投げつけてくる。
回避アンド【未来視】ッ!
「もう貴様らの攻撃は食らわないぜ」
「……チッ」
いくらなんでも、天使が舌打ちしたらダメだと思うよ!?
「で、ボーナスアイテムは何だった?」
「はい……ええと、まあ! これはとても助かりますわ!」
おお? そんな凄いアイテムなのか!
「箱になんて書いてある?」
ファルフナーズが美声で読み上げる。
「ティッシュ10年分、ですわ!」
「……」
いらねええええ!
お姫様はホクホク顔で腰元のアイテムバッグにティッシュをしまい込む。
それ以上鼻が赤くなっても知らないからなー
そこでファルフナーズが突然ハッとして声をあげた。
「そう言えば困ったのですわ」
「何が?」
「車でここまで来たので、帰り道が分からないのですわ」
「何だ、そんな事か。大丈夫だ」
「何か帰り道を探るアテでもおありですか?」
「ああ、ほら。狼をたくさん倒してきたからな」
ドロップ品が通った道にはたくさん転がっているのさ。
拾って帰らないと赤字だし。
「途中からはファルフナーズの捨てたティッシュもあるしな」
『とんだヘンゼルとグレーテルである』
そんな童話もあったね。
「じゃあ回収しながら帰るかー」
「はい、かしこまりましたワン!」
「……」
『……』
「えっ? 何だって?」
冗談を言ってるのかと思って振り返ってみる。
ファルフナーズのそのピンクの髪の頭に――
大きな犬の耳が
生えて……いる!?
感想とかティッシュとかお待ちしております!