妙適清浄の句、是菩薩の位なり    作:信州のイワ

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 これは、pixivでも投稿している作品です。マイピクのノウレッジさんと共同で製作する予定のものを私が執筆することになりまして、投稿する運びになりました。今後、R18展開にもなりますが、お楽しみいただければ幸いです。


妙適清浄の句、是菩薩の位なり プロローグ 事の始まり

「皆さん、おはようご、こんにちは、こんにちは、こんばんは、ナーズーリンだ。みんなは世の中に仏典、あるいは経典と言われる仏教にまつわる文献は世の中にどれほどあるかご存知かな?かの三蔵法師が持ち帰った経典だけでも300は軽く超えるし、今日その存在が知られている物だけでも1000から3000はある。耶蘇教(キリスト教)や回教(イスラム教)などが一つの聖典を基本とし、そこから派生したといっても、この手のものは仏典に比べれば数は格段に少ないことが分かると思う。だからと言って、そこに優劣があるわけでも無いし、ぞれぞれの宗教ごとの方針が違うだけだがね。まあ、こんなにも経典があるものだから、仏教は宗教というよりも哲学だと言われる所以でもあるかな。これから語られる物語は、そんな数ある経典の一つが元で巻き起こった、ある一つの騒動?事件?の全容だ、まあ、暇つぶし程度に見てもらえればいいかな。さあ、物語が始まるよ。」

 

 

 

 ザクザクザクザク

 シャラン、シャラン、シャラン、シャラン

 

 ある日の幻想郷。花咲く春が過ぎ、厚く身を焦がす夏が過ぎ、実りの秋も終わろうとしている頃のこと、一人の若い女性が歩いていた。その姿からしてそこら辺の町娘でないことは一目瞭然である。手には錫杖、頭に丸く大きな編み笠をかぶり、赤と白の法衣に身を包み、虎革の腰巻を巻いた何とも傾いた装いである。

この若い女性こそ毘沙門天の代理、寅丸星その人である。・・・・人ではないが。

普段なら空を飛んでいけば済むことだが、今日は歩いていきたかった。その理由は簡単なものだったが、それは後で触れよう。彼女は今、目的地である無縁塚を目指していた。

 

 

 ザクザクザクザク

 シャラン、シャラン、シャラン、シャラン

 

「ふぅ、やっと着きましたね・・・・ナズ!ナズーリン!ナズーリンいますか!」

「やあ、ご主人毎度ご苦労なことだね、まあ、用件は分かっているけど、入ってくれお茶ぐらい出そう。」

「では、お言葉に甘えて。」

 

 ナズーリンの若干皮肉の籠った挨拶を受けて、星はナズーリンの家に入る。この家も当初は掘っ立て小屋のような粗末な物だったが、今は九尺二間の長屋造り風の家が建っている。この長屋は二階建てで、河童と建設を得意とする地底の妖怪の技術の結晶であり、ナズーリンの意地と矜持、汗と努力の結晶であった。この家の建設の経緯について少し述べておこう。

 ナズーリンも当初は、掘っ立て小屋で充分と思っていたのだが、稗田乙女に「無縁塚の掘っ立て小屋を建てて住んでいる」などと書かれて以来、廻りのものの憐れみと、可哀そうな者を見るような生暖かい目を向けられるようになったためである。おかげで人里で買い物をする時にはやたらおまけを付けてもらったり、割引してもらえるのだ。普通ならありがたいことなのだが、自分が同情や憐れみを受けていると思うと何とも言えぬ気持になったのだ。しかし、宝塔の料金返済のために節約できるのでありがたくもあり、廻りの外聞を気にしてはいなかったが、原因は、あの本業がシーフなのか魔法使いなのかわからん霧雨魔理沙だった。

 

 

 何時ものように香霖堂に無縁塚で拾ったものを売りつけに行ったある日のことである。

 

「おう、ナズーリンじゃん。」

「これは、これは、普通のシーフの霧雨魔理沙じゃないか。香霖堂を冷やかした帰りかい?」

「そんなとこだぜ。但し、私は普通の魔法使いだぜ。あくまで借りているだけだ、一生な。」

「盗人猛々しいとはこのことだね。それじゃあ、私はこれで、香霖堂に用があるのでね。」

「香霖堂に客とは珍しい、こりゃ明日は雨かな?」

「商店を利用して何が悪い、私は、ご主人が失くした宝塔と生活費を稼がにゃならんのでね。君と違って暇ではないのだよ。」

「私だって暇じゃないんだがな。それはそうと、ナズーリンは無縁塚の掘っ立て小屋に住んでいるんだっけ。」

「・・・そうだが、なんだい。」

「いやな・・・ホイ、これ。」

 

 そういうと、魔理沙は帽子の中に手を突っ込むと、大きな包みをナズーリンに渡し、ナズーリンは怪訝そうに受けっとった。

 

「なんだい、これは。」

「干し椎茸だぜ、今年は椎茸が豊作でな、ただ腐らせるのももったいなくてな、大量に干し椎茸にして知り合いに配ってるんだぜ。」

「そういうこと聞いてるんじゃあない。なぜ私にくれるんだ、そんなに親しくないだろ私たちは。」

「いやな、お前が掘っ立て小屋で一人暮らしと聞いてな、さぞ苦労してると思ってな。私も昔は魔法の森で一人暮らしを始めたころは苦労したしなぁ。」

「・・・・」

「あんまり皮肉が過ぎるんで寺を追い出されたんだろうから、少し哀れに思えたからな、お前には少しおまけしておいたぜ。」

「・・・・フ、フハハハハ!!!」

「???どうした、ついに無縁塚の瘴気にやられて気がふれたか?」

「違うよ、どいつもこいつもあの小屋を私の終の棲家だと思っているようだと思うと滑稽でね。いいかい、まず言っておくが、寺の皆はお前が思うほど冷たくない!私が一人暮らしを始めると言うと、皆引き留めたしね。私は寺の戒律だのに縛られたくないから、一人暮らしをしてるんであって、追い出された訳では断じてない!!!勘違いするな!!!それにあれはあくまで仮の住まいだ!いいか!!今に立派な家を建ててやるから見てろよ!!」

「お、おう、そりゃ悪かったな・・・・・」

「フゥ、フゥ、フゥ~。分かったな、分かったならいいんだ。」

 

 聖や星を始めとした寺の皆を馬鹿にされたことと、何より、このシーフにまで哀れまれていると思うと無性に腹が立った。ナズーリンにしてみれば、痩せても枯れても毘沙門天直属の部下であり、小さな賢将であるという矜持がある。ガラにもなく、大声をあげながら大風呂敷を広げてしまったのである。

干し椎茸はありがたくいただき、ナズーリンは走るようにしてその場を去った。

 

「・・・・なんか、悪いこと言っちまったかな・・・」

 

 ばつが悪そうにたたずむ魔法使いを残して。

 

 

 その日から、ナズーリンはお宝を求めて幻想郷中を駆けずり廻り、宝塔の料金返済と自宅建設の為の資金獲得に勤しんだ。物品としてのお宝はもちろんだが、迷いの竹林や妖怪の山、果ては地底に潜り、生薬や鉱物などの様々な物品を竹林の医者や山の河童、そして勿論、香霖堂にも提供し、宝塔の料金と住宅建設には充分すぎる資金を稼ぎ出したのである。そのかいあって、河童と地底妖怪謹製の冷暖房完備、防犯対策万全のかなり立派な住宅が出来上がり、以前のことを気にしてか、それなりの祝儀をもって白黒の魔法使いが訪ねてきたのはまた別のお話。

 

「錫杖はそこの鑓掛けにかけてくれ、笠はハンガーに掛けて大人しく待っていてくれ。」

「分かりましたよナズーリン」

 

 ナズーリンは星にそういうと、居間へ誘い、お茶の用意を始めた。星は静かに待ちながら室内を見回す。質素ながらも品の良い室内だ。几帳面なナズーリンの性格がよく出ている。先ほどの鑓掛けにはナズーリンのダウジングロットがキチンと掛けられ、床の間には香炉と山水画の軸が掛けられている。多くのネズミの眷属を従えるナズーリンにとっては和風が良いようだ。

 

「お茶が入ったよご主人」

「ありがとうございます。ナズーリン」

「用件はいつものかな」

「はい、私たちと一緒に暮らしませんか、ナズーリン。」

「答えはいつもの通りさ、私は寺に住む気はないよ」

「そうですか・・・・」

 

 程よい温度で入れられたお茶を飲みながら、星は少し残念そうにする。しかし、答えは分かり切っていた。掘っ立て小屋時代ならまだしも、ここまで立派な家を建てたのである。ここを引き払って寺に移れとういうのも酷な気もするが、そこまでして自分たちと暮らしたくないのかと思うと悲しい気持ちがある。

 

「何度も言うがね、私は自由がいいのさ、ここにいる眷属たちは肉も好むこともあって、寺の生活は私たちにとっては少し息苦しい。それに、ここなら宝探しも簡単だし、何より苦労して建てたこの家があるのでね。」

「そうですか、わかってはいましたが・・・・」

「すまないね。」

「・・・・・ナズは、私たちのことが嫌いですか?」

「・・・・なぜそんなことを言うんだいご主人。」

「ナズが寺から離れて暮らすと聞いて、私は何か不満があるのかと思いました。立場の問題もあるのでしょうが、だったら尚のこと一緒に暮らせばいいじゃありませんか。でも、こんな立派な家を建てて、そうまでして・・・・私と居るのが嫌ですか?」

 

そう言うと星は少し寂しそうにナズーリンを見た。

ナズーリンは静かに微笑みながら答えた。

 

「それは違うよ。ご主人は優秀さ、それに少々抜けているが、そんなところがあるところがかえって好感が持てるよ。でもね、私だってオフの時間が欲しいのさ。それに、寺にいればどうしてもお目付け役の役目を果たさねばならないのさ。あと恥ずかしい話、あの黒白魔法使いに大見得を切った手前離れにくくなってしまっただけさ。決してご主人達を嫌ってるわけでも、避けてるわけでもないんだ。」

「すみません、変なことを言いました。」

「気にしないでくれご主人。言葉の足りない私も悪い。」

 

 そんないつものやり取りをして、二人はすっかり冷めてしまったお茶を飲みほした。

 するとナズーリンは鑓掛けに目をやった。何時もなら鉾だが、今日は錫杖である。

 

「しかし、ご主人、あの錫杖はどうしたんだい、いつもの鉾は?」

「ああ、森近殿に作っていただいたんです。鉾をもって出かけるのは人里を問うるときなんかは物騒でいけないと、自警団の方々に注意を受けてしまいましたし、鉾は・・・・正直なところ使いにくいですから、毘沙門天様に言わないでくださいよ。」

「ああ、心得ている。でも、錫杖ではここまで来るのには、少し不用心ではないかなご主人。」

「フフフフフ、そうでもないんですよナズ。私には宝塔もありますし何より、これを見てください。」

 

 そういうと、星は錫杖を取りに行った。そうして、ナズーリンによく見えるように錫杖の頭部の円環に手を掛けた。すると十手のような小さな鉤が飛び出し、鋭く研ぎあげられた穂先が現れた。所謂鉤槍と言われる形状に早変わりした。

 

「こ、これは驚いたね、こんな仕込み鑓は見たことないよ。高かったろうに」

「フフフフフ、すごいでしょうコレ。でも、試供品として作ったそうで、そんなに高くはありませんでした。ほとんど製作費だけでした。」

 

 さて、寅丸星と鉾、鑓について述べておこう。幻想郷縁起では寅丸星の持つ槍は飾りである旨が書かれている。この木辺に倉と書くこの字は、本来は鉾を意味する漢字であるし、仏像などが手にしている物は矛である。鉾自体は、世界各地で古代から使用され、日本でも使用されていた。そのため、正倉院宝物にも現存しているし、国家珍宝帳にも記録が残っている。古代には使用されてる武器の一つだった。一見すると鑓と鉾は同じに見えるが、その大きな違いは柄にある。鑓の柄の表面は滑らかで、自在に手繰ることができるのだが、鉾は握る部分が限定され、柄全体も滑り止めの紐などが巻かれていて、手繰ることは難しい。突撃する敵に対して突き出すか、投げるなどの使用方法が採られるため、変幻自在に柄を扱いて戦う鑓とは大きく異なるのである。また、平家物語では、すでに時代遅れの武器として登場している。鑓自体は、南北朝の頃に登場する鉾に比べれば最新の武器であるのだ。寺院と言えば長刀を持った僧兵のイメージが強いが、宝蔵院流などの寺院由来の槍術流派も存在する。そのため、星が鉾より鑓の方がいいというのも納得できる話である。本編に戻ろう。

 

「実は以前、無縁塚で拾った珍しい仕込み杖にインスピレーションを受けて作ってみたそうです。なので、試供品として譲ってもらえたんですよ。」

「・・・・香霖堂に行ったときに、霖之助君がよくご主人が利用すると言っていたのは、強がりでないことがよく分かったよ。」

「この前の仕込み杖は、蜻蛉鍔の仕込み杖というようで、刀を抜いた時に鍔が飛び出す珍しいものでしてね、鍔の無い仕込み杖はどうしても、武器としての防御力が低いのでバネ仕掛けで鍔が飛び出るようにして、鍔を内蔵するとともに、バネの反発で鞘から抜け出るのを防ぐという合理的な・・・・」

「わかったよ、ご主人。ご主人が香霖堂をよく利用していて、霖之助君と仲が良いのも分かったよ。でも意外だね。どういう関係なんだい?」

 

 かの動かない古道具屋のように武器の説明をする星の姿を見て、ご主人にも遅めの春がようやく来たかと、ニマニマと笑いながら、温かいまなざしを向けた。

 そんなナズーリンを見て、星はあきれながら言葉を続けた。

 

「・・・・あなたが思っているようなものではありませんよ、ナズ。あなたが色々お世話になっていると聞いて、挨拶に行ったんです。・・・・宝塔のこともありますし。」

「ああ、宝塔の件でホントにお世話になったよ。本当にね・・・」

 

ナズーリンは遠い目をしながら言葉を繋げた。その様子を見て、大分苦労させてしまったと、心苦しくなった。

 

「すみません。」

「いいよもう、済んだことだからね。」

 

 星は手にした湯飲みをいじりながら、霖之助との関係について話し出した。

 

「まあ、宝塔のこともありましたが、無縁塚の無縁仏の供養に行った時とかにお会いしたり、ここに来る行き帰りに拾ったものを提供したりして、ご縁がありましてね・・・・立派な方だと思いますよ、あの店の経緯も聖の思いに通ずるものがあって好感が持てますし、あの方の話もなかなか面白いですしね。皆さんには不評のようですが。」

「まあね、純粋に話が長いしね。ご主人も影響されているようだね。仲がよろしいようで。」

「はぁ~、だからそうではありませんよ。私は僧侶ですよ・・・」

 

 この真面目の前にクソが付きそうな主人を見ながら、ナズーリンは少々あきれたように口を開いた。

 

「もう少し一輪達を見習ったらどうだい。少し肩の力を抜いてもいいんじゃないか?」

「そうもいきませんよ、御仏の教えに反します。少し長居してしまいましたね。そろそろお暇します。」

「おや、そうかい。もう少しゆっくりしていけばいいのに。」

「いえ、これからよるところもあるので。」

「・・・・香霖堂かい?」

「そうですが、問題がありますか。」

「いや別に。」

 

 そうして星はナズーリンの家を辞した。その後ろ姿を見ながらナズーリンは少々思い悩んでいた。

 

(これは重傷だね・・・・ホの字なのが丸わかりだが、ご主人は少々硬すぎる。どうした物か。これまた相手も難物だ・・・)

 

 かの森近霖之助は、控えめに言っても持てる方である。白黒と紅白も寺子屋の教師もご執心だと専らの噂である。おそらくそれらは氷山の一角であろう。かく言うナズーリンはその口だったが、それなりに勇気を出して挑んだ告白もあっさり振られ、枕を涙で濡らしたものである。そして今、表面上の主人であり、同じ毘沙門天の弟子であり、敬愛する寅丸星が恋をしている。応援してやりたいが、どうやってあの堅物の背を押して、恋愛に積極的にさせることができるのか。これはなかなかの難題である。

 しかし、そこはダウザーの小さな賢将である。たちどころに名案が思い付いた。自分が背を押すことができないなら、自分でないものに背を押させれば良い。自分の背後には恋愛成就のご利益を持つ軍神が居るではないか。

そう思いいたると、策士らしくほくそ笑むのだった。

 まさか、この名案が思いもよらぬ騒動を巻き起こすとは思いもよらず。




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