丸に成の字の入ったラベルを眺めながら、そういえば食べたことがなかったなと気づいた。物産展で見かけたから買ってきたというほむらに、存外に普通の人間みたいなことを言うのだなと妙な感想を抱いたものだった。
北海道の銘菓であるというバターサンドは、白い恋人と同じくらいには名の知れた北海道土産だと思う。とはいえあたしの家は北海道旅行なんてできるほど裕福じゃなかったし、今日という日になっても遠路はるばる北国まで旅行に出かけるような知り合いはいなかった。マミはきっとゲレンデでスキーをするのなんて似合うと思うが、見た目の派手さとは裏腹に恐ろしく義理堅い彼女が、魔獣を置いて旅行に出かける姿は想像できなかった。
買ってきたという十個入りのバターサンドの箱を開けて、ほむらは四つを取り出して六つを冷蔵庫にしまった。残りはマミたちの分かと思えば、冷やすとまた味わいが違うという。食ったことがあるのかと聞けば、むかし両親に食べさせてもらったことがあるという。
「あの頃は一日ひとつしか食べられなかったわ。それだって他の食事を調整した上で」
何でも好きに食べられるようになったのに、いざ食べようと思うとそんなに思いつかないものねと、インスタントコーヒーを入れながらほむらは呟いた。
なんだかレトロな包装を開いて取り出してみると、硬めのクリームをクッキーで挟んだようなおかしがまろび出る。バターサンドというくらいだから、これはバターなのだろうか。脂の塊なのか。
「ホワイトチョコレートと、バターと、生クリームだったかしら。母はバタークリームと言うと、バターと砂糖と卵で作った、硬いものを想像するらしいけれど」
淹れたての珈琲の香りの中で、あたしはさっそく一つかじってみた。食感は思いの外しっとりとしていて、ビスケットのようにさくりぱきりとした感じではない。ほろりと崩れるようだ。そして挟まれたクリームはと言うとなかなかに濃厚な甘さだった。それに何か混ぜ込んでいる。舌で転がしたそれは、レーズン、だろうか。かじった断面を見てみれば、干しブドウが顔をのぞかせている。
ホワイトチョコレートとバターと生クリームだったか。残りも口に放り込んでもむもむと頬張る。柔らかくとろけるクリームはなるほど甘ったるくて脂の塊だ。
安っぽいコーヒーで口の中を洗ってみるが、甘ったるいのにコーヒーの香りが上書きされた程度の様な気もする。
二つ目の包装をはいで、今度は一口に頬張ってみる。なにしろキュートでラブリーな魔法少女ちゃんのおちょぼ口にゃあちょっとばかり大きかったが、なかなか食いでがあっていい。こうして食べてみると、クリームを挟むクッキーだかビスケットだか、こいつがしっとりしているのがちょうどいいというのが分かる。そりゃあビスケットはさくっとパリッと歯応えがいいのが大事だろうが、この柔く甘いバタークリームと合わせたときのことを考えると、しっとりほろほろ崩れる生地がちょうどいい塩梅だ。もむもむと噛み崩して、むぎゅりと飲み込み、珈琲を流し込む。
うまい。
だがちょっと物足りないかも。
ちらとほむらを見れば、ほむらはほむらで二つを二つ、綺麗に平らげ包装を丁寧に畳んでいる所だった。
かすめ取るのは諦めて冷蔵庫からもう一つ二つ取ってくるかと立ち上がると、ぺしりと額を叩かれて窘められた。
「けちけちすんなよ」
「ご飯が入らなくなるわよ」
櫛通りのいい髪をするりとゴムでまとめる背中に、あたしは黙って座り直してコーヒーをすすった。