ごゆるりとご覧くださいませ。
「…………ッッッゥゥウ…!!!!」
声にならない叫びが、己の喉から発せられる。
なんであんなに人と話してたんだ俺……しかも女子。
誰からも相手にされなくていい(キリッ) みたいなことを言ってた今までの俺はどこに行ったんだ。靴箱にでも置いてきたかな。
俺が女子と話すところなんて他人に見られたら、コミュ障が告白か何かをしている図だと勘違いされ、一瞬でクラスの(ある意味)人気者だ。それだけは避けて通ってきたというのに…。
まぁあいつもぼっちがどうこう言ってたから、今日の出来事を誰かに吹聴することはしなさそうだが。
それにしても、だ。
「明日、本当にあいつと話すのか…?」
あいつは、クラスではものすごく大人しい。一言も話さないのがむしろデフォルトまである。昨日見せたおしゃべりモード不思議ガールは、クラス内ではナリを潜めそうだが…。
もしこのまま地味眼鏡ぼっちモード不思議ガールを継続してくれるなら、俺はクラスで悪目立ちせずに済む。よし、それを切に願おう、そして話しかけられても頑張って無視をする。それしか俺が他人と関わる煩わしさから解放されるがない…。
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………そう思っていた時期が私にもありました。
翌日 10月16日、朝、8時10分。県立石崎高等学校2年1組教室。
「この作者の本、何冊か読んだことあるよ。タイトルは確か…」
嬉しそうにそんな話を俺にしているのは、地味黒髪黒縁眼鏡ポニーテール美人の不思議ガールモードこと吉田琴音…ではなく、昨日初登場だった、俺に曝け出したお喋り黒髪セミロング超絶美人の不思議ガールモードの吉田琴音だった。
こいつ、学校では昨日まで地味そうなキャラ出してたじゃねぇか。なんでここに来て大胆イメチェンしてるの?
そして昨日は気づかなかったが、なんと不思議ガール、俺の前の席だったのである。そりゃあの時、いつも本読んでるとか、イヤホン耳に刺して曲聴いてるとか、休み時間の過ごし方思い出せたんだな。
周りの目線がこちらに向いてるのは、きっと吉田と俺が話しているからだろう。そうに違いない。
俺の隣の席でいつも繰り広げられている、リア充グループによるウェイ行為は最早日常だし、そのグループの中心人物である足立祐樹の存在感の凄さは周知の事実だった。
となれば俺らがこうやって何やらワイワイと話をしているのが、本当に珍現象なのだろう。そりゃそうだ。何より俺が一番それを実感している。
「この作者の本だったら…『太陽』おすすめだよ。でもあの小説は、正直私としてはラストシーンがイマイチだったな。でもスピンオフ版で出た方はすごく面白かったよ。読んでみたら?」
昨日以上に喋るな。本当によく喋る。朝から疲れないのかねぇ。
そんな吉田の口撃に、俺は「ふーん」「そうなんだな」「すげぇな」としか返してない。だってマシンガンすぎて追いつかないんだよ。
「…ちゃんと聞いてるの?」
「いや、全然会話に追いつけないんだけど。」
「全く…これでも私のこの会話はゆっくりな方だと言われると言うのに…この先が思いやられる」
「普段から会話自体しないから、慣れてないんだよ」
「はぁ…対等に話ができるようになるまで、練習が必要みたいだね」
なんなんだよ。なんでそこまで言われなきゃなんないんだよ。
「うるせぇな…」
おっと、思わず心の声が漏れてしまった。
「ご、ごめん…」
泣きそうな顔をしてうつむき、俺の方を向くのをやめた吉田。
いや…そんな態度を取られると、俺が悪いみたいで…てか俺が悪いのか。
「いや、俺の方こそ…すまんかった…」
あぁ、めんどくせぇぇ!!!!
思わず叫びそうになるのをこらえる。彼女はこちらを見ずに無言で頷いた。その瞬間、始業を告げるチャイムが鳴った。
ふぅ…やっと開放された。もうイベントは何もないだろう…。
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昼休みを告げるチャイムが鳴り、俺はすぐさま教室を出る。向かう先は購買だ。
昼は焼きそばパンとソーセージパンと完全微糖コーヒー250ml。場所はいつもの特別棟の屋上。これに限る。
教室なんぞで食べてると、吉田にいつ絡まれるか分からない。ただでさえ朝の一件以来、俺に向く視線の数は明らかに増えているのだから。
食料を買い込み、屋上にたどり着く。屋上に続くドアを開けると、爽やかな風が吹いていた。この瞬間が好きだったりする。
いつもは誰もいない特別棟の屋上にあるベンチ。完全俺用になっていたそこに、今日は先客がいた。
「よっ…」
吉田だった。
「またお前か。クラスでもここでも会うとは、最早クラスで食べてても変わらんような気がしてきた」
「つれないこと言いなさんな。ここの場所が好きなんでしょ?」
「まぁそうだけど……てか、何してんの?」
「昼ごはんだけど?」
「教室で食べろよ…」
「便所飯も飽きたんだよ。だから外だ食べられる場所をいろいろ探してた。そしたらここが見つかった。本当に田宮くんは穴場を知ってるよね。普通こんなとこ来ないよ?」
便所飯なのかよ…こんな可愛いやつが便所飯してるなんて想像できんな。とりあえず中学時代だったらまずはごはん一緒に食べよう、と話しかけてドン引かれてそのまま片思いで終わるパターンだな。
「本当は私は教室でごはん食べたいけど、周りの目線が…」
と言ってうつむきモジモジする吉田。なんだこの小動物可愛いな。この感じだと、男が結構寄ってきそうな気もするな…。
ただ朝よりもテンションが大幅に低い。
「目線か…そもそも目線すら向かない俺にとったら、嬉しいイベントだな。周りの目線を浴びさせられるなんて」
「男子は気楽で…良いよね…こっちはこれでも女子してるから…その…」
「あー…」
ここで俺は大体の事情を察した。察してしまった。
彼女をよく見たら、制服のスカートが少し汚れていた。
女子という生き物は、ただただ面倒くさい生き物だと、よく姉が言っていたものだ。女の嫉妬ほど、醜いものはないのである。
おそらくだが、休み時間に何かをされたのだろう。音楽を爆音で聴きながら寝たふりをしている俺には全然分からなかったが、そこで悶着があったのだろう。
「女の嫉妬は怖いんだよ。イメチェンしたらすぐに嫉妬されて、捌け口にされる。下手打ったな…キャラ変なんてするんじゃなかった…」
そう言ってますますうつむくネガティヴ少女。
こんなに重苦しい空気だと、飯もまともに食えない。だから人付きあいは嫌いなんだ。
「だったら、キャラ戻せば良いんじゃねぇの?知らん。そこまで人間の心理に詳しくないんだ。知りたくもない」
飯を食えないイライラを、あろうことか彼女にぶつけてしまった。なんとも捻くれた最低な行為だろう。だが今はそれしかできない。
「んー…このままキャラ変わったままで行くよ。性格とか態度とかを、気をつければ大丈夫な気がするから。」
思ったより落ち込まなかった。どっちにしろ俺に害がないならそれで良い。
「あっ、そうだ!」
何かを思い出したかのように叫ぶ吉田。
「田宮くん、これから何か予定ある?」
「いつものベストプレイスでのささやかなぼっちティータイ…」
「放課後、掃除終わったら教室戻ってきてね。連れて行きたいところがあるんだ」
「人の話聞いてましたか奥さん?予定を今つらつらと述べさせていただいていたところでしたのよ?」
「行って…くれないんだ。守ってくれないんだな。まぁ地味不思議ガールだもんな…そうだよな…そりゃ無理だよな…せっかくぼっち回避の手を差し伸べようとしたのにな…」
あぁもうめんどくせぇぇ!!!!!!
「わーった。わーったから、これ以上ブツブツ言うな」
「ありがとう!」
そう言って今日一番の優しい笑顔を見せる吉田。その笑顔は正直とてもグッときます。そんなこと絶対主役本人には言わないけども。
とりあえず放課後もイベント続きか…sneg状態になりつつある現状に、ため息が出たが、5限目の始業を告げるチャイムの音にボロ負けした。
「結局昼飯食えなかったじゃねぇか」
いかがでしたでしょうか?
今回初めてここまでです。
3話は、鍵を握るのかどうなのか、二人以外の登場人物が出てきます。
もちろん一癖も二癖もあるようなキャラにします。
それではまた次で。