姉は弟(の心)をオーバーキル   作:筆先文十郎

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第二話 だからお前は夢を叶えられないんだよ

夜。

男は酒を飲みながらソファーにどっかりと座ってドラマを見ていた。

ドラマでは若い男が大きな屋敷で優雅に珈琲(コーヒー)を飲み、お抱えの料理人が出した料理を(しょく)した後、たくさんの使用人に見送られながら車に乗り込む姿が映し出されていた。

「あぁ。いつかでっかい家に住んで誰もが(うらや)む女性を奥さんにして色んな人を(あご)で使うような生活をしてみたいなぁ」

「フッ」

弟の独り言をたまたま通りかかった姉が鼻で笑った。

「お前なんかがそんな大層(たいそう)な夢が出来るものか」

「……だったら姉さんは何か夢があるのかよ!」

バカにされた弟は姉を(にら)みつけながら尋ねる。

「私?私かぁ……」

そんな視線を気にする様子もなく、姉は腕を組んで考え込む。

そして。

「今より給与が1万円多くもらいたいなぁ」

「ブッ!」

その言葉に男は腹を抱えて笑った。

「はぁ?散々(さんざん)俺のことをバカにしておいて自分はそんなちゃっちい夢?バッカじゃないの!?」

「……バカはお前だよ。バカ」

弟の侮辱の言葉に激怒することなく、姉は一つ大きなため息をついてから口を開く。

「お前は所詮(しょせん)(かな)えられない夢を言っているに過ぎない。私の夢は頑張れば必ず実現できるものだ。その場限りの夢物語ではなく現実的でかつ夢に届く望みだ」

「うぅ……」

叶えられない夢。そう切り捨てられた男は何か言おうとするが適当な言葉が浮かばず、ただただ(うな)るばかり。そんな弟を尻目に姉は続ける。

「例え他人にバカにされるような小さな望みでも、その手に届く小さな夢を実現し続ければ、いずれ大きな夢に手が届く。積み重ねをせずに実現不可能な夢をほざく今のお前は運頼みで宝くじや油田で一発当てようとする奴と変わらん。仮に何かの拍子(ひょうし)に大金を得て大きな家と綺麗な嫁さん、多くの使用人を雇ったとしても……数年で無一文になるだけだろうがな」

「……」

姉の反論を許さない言葉に、男は歯をかみ締め、ただ黙るしか出来なかった。

「まあ、本当に『でっかい家に住んで誰もが(うらや)む女性を奥さんにして色んな人を顎で使うような生活をしてみたい』なら。まずは小さな目標を立ててそれを実現してからにするんだな」

そう言って姉は歯を磨くため洗面所に足を進めて男の前から姿を消した。

「……」

姉の言葉が心に重くのしかかった男は、ドラマが終わっても項垂(うなだ)れたままだった。

 

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