たぶん。
俺は前々から気になっていたことを聞いてみることにした。
「なあ、姉貴。姉貴って風俗か何かで働いていた?」
「どうした、突然?」
意外にも姉は怒らなかった。そのことに疑問を覚えつつも俺は話を続ける。
「いやぁ。この前生徒にAV男優について色々話していたじゃん(『弟よ、お前はAV男優になろうと思ったことはあるか』参照)。何で男の俺も知らないようなことを知ってるのか疑問を覚えてね」
「あぁ、それか」
簡単なことだ、と言って姉は
「前に勤めていた会社の方に聞いた」
「え……」
唖然とする俺を尻目に、姉はカフェオレを一気に飲み干す。
(……な、何でそんな話を?)
そんな俺の心を見透かしたかのように姉は続ける。
「前にいた会社は中途採用など変わった
「なんか……アスリートみたいだな。ただ『女性とセックスすればいいだけの楽な仕事』とは考えていなかったけど。やっぱり大変なんだな、AV男優って」
「あとAV男優はAV女優と比べて薄給だからよほどの売れっ子じゃないとキツイと言っていたな。そう言う意味では立派な○○を持ちかつハードな撮影にも耐えられる肉体と自分の体調を管理・維持できる自己管理能力、そして撮られることに物怖じしない度胸とセックスすることが何よりも好きという情熱がないとやっていけない選ばれた仕事だと言えるな」
「う~ん。AVも楽じゃないなぁ」
知られざるAVの世界の苦労を知り、俺は腕を組んでうんうんと頷いた。そんな俺をよそに「おぉ、そうだ」と姉は飲み終えたカップを机に置く。
「AVで思い出したが。
「へぇ~、どんなの?」
「SMの女王と言えば、Mの男に
「例えば?」
「まず男は女より大きく、重い。男を縛るだけでも重労働。鞭を打つのもあれはあれで力が必要だと言っていたな。あと天井から吊り下げるプレイをする場合、力だけではなくテクニックも重要だ。男を落下させたりなどしたら命の危険性もある。『お客に怪我をさせないように細心の注意を払いながら進行させなければならないというのはかなりのプレッシャー』と言っていたな」
「……」
「あとSMをやっていると嘔吐物や糞尿が生じる場合もある。それらの処置に対応できる知識や技術も必要だと言っていたな」
「……大変なんだな、エロの世界も」
「大変じゃない仕事はないよ、どこの世界も」
俺達二人はうんうんと頷いた。
「……」
そんな二人をトイレからリビングに戻ろうとした二人の父親、
真面目な顔でAV男優とSMの世界を語る娘と息子に、大矢は逃げるように静かに庭に向かい、現実逃避をするかのように草むしりを始めた。
その日の夕食。大矢は気まずさから娘と息子の視線を逸らしていた。
二人が「何かあったの?」、「どうした親父。元気ないけど」と尋ねても
「いや……何でもない」
と口をつぐむしか出来なかった。
自分で書いておいてアレですが。この姉弟、家の中とはいえ昼間から何話しているんだ?