姉は弟(の心)をオーバーキル   作:筆先文十郎

4 / 4
この物語はフィクションです。実際の登場人物、団体、事件などは一切関係ありません。

たぶん。


AVとSM

 内野(うちの)家、リビング。

 俺は前々から気になっていたことを聞いてみることにした。

「なあ、姉貴。姉貴って風俗か何かで働いていた?」

「どうした、突然?」

 意外にも姉は怒らなかった。そのことに疑問を覚えつつも俺は話を続ける。

「いやぁ。この前生徒にAV男優について色々話していたじゃん(『弟よ、お前はAV男優になろうと思ったことはあるか』参照)。何で男の俺も知らないようなことを知ってるのか疑問を覚えてね」

「あぁ、それか」

 簡単なことだ、と言って姉は()れたばかりのコーヒーに牛乳を入れる。

「前に勤めていた会社の方に聞いた」

「え……」

 唖然とする俺を尻目に、姉はカフェオレを一気に飲み干す。

(……な、何でそんな話を?)

 そんな俺の心を見透かしたかのように姉は続ける。

「前にいた会社は中途採用など変わった職業(ところ)にいた人が多くてな。その中にAV男優もいた。私はAVに興味がないからうろ覚えの所があるが……その人は『AV(男優)は身体が資本!筋トレなどの肉体改造はもちろんどんなハードな撮影にも耐えられる&疲れを残さないように睡眠時間の確保、亜鉛などのサプリを飲むなど色々気を使ってましたね!』と言っていた」

「なんか……アスリートみたいだな。ただ『女性とセックスすればいいだけの楽な仕事』とは考えていなかったけど。やっぱり大変なんだな、AV男優って」

「あとAV男優はAV女優と比べて薄給だからよほどの売れっ子じゃないとキツイと言っていたな。そう言う意味では立派な○○を持ちかつハードな撮影にも耐えられる肉体と自分の体調を管理・維持できる自己管理能力、そして撮られることに物怖じしない度胸とセックスすることが何よりも好きという情熱がないとやっていけない選ばれた仕事だと言えるな」

「う~ん。AVも楽じゃないなぁ」

 知られざるAVの世界の苦労を知り、俺は腕を組んでうんうんと頷いた。そんな俺をよそに「おぉ、そうだ」と姉は飲み終えたカップを机に置く。

「AVで思い出したが。前の会社(そこ)にはSMの女王をやっていた人がいてなぁ。その人の苦労話は意外と頭に入ったな」

「へぇ~、どんなの?」

「SMの女王と言えば、Mの男に蝋燭(ろうそく)垂らして鞭で打てばいい楽な仕事。そう思っている人が大半だと思う。実際私もそんなものだと思っていた。だが元SM女王(その人)の話を聞いて『SMの女王も選ばれたものしかなれない狭き門だ』と実感したよ」

「例えば?」

「まず男は女より大きく、重い。男を縛るだけでも重労働。鞭を打つのもあれはあれで力が必要だと言っていたな。あと天井から吊り下げるプレイをする場合、力だけではなくテクニックも重要だ。男を落下させたりなどしたら命の危険性もある。『お客に怪我をさせないように細心の注意を払いながら進行させなければならないというのはかなりのプレッシャー』と言っていたな」

「……」

「あとSMをやっていると嘔吐物や糞尿が生じる場合もある。それらの処置に対応できる知識や技術も必要だと言っていたな」

「……大変なんだな、エロの世界も」

「大変じゃない仕事はないよ、どこの世界も」

 俺達二人はうんうんと頷いた。

 

 

 

「……」

 そんな二人をトイレからリビングに戻ろうとした二人の父親、内野(うちの)親二(しんじ)は偶然二人の会話を耳にして、固まっていた。

 真面目な顔でAV男優とSMの世界を語る娘と息子に、大矢は逃げるように静かに庭に向かい、現実逃避をするかのように草むしりを始めた。

 その日の夕食。大矢は気まずさから娘と息子の視線を逸らしていた。

 二人が「何かあったの?」、「どうした親父。元気ないけど」と尋ねても

「いや……何でもない」

 と口をつぐむしか出来なかった。

 

 

 




 自分で書いておいてアレですが。この姉弟、家の中とはいえ昼間から何話しているんだ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。