角谷杏 生徒会会長。
河嶋桃 生徒会広報。
小山柚子 生徒会副会長。
翌日、俺は笹原と待ち合わせて学校に向かっていた。
「珍しいじゃないか。お前のほうから誘ってくるなんて」
家が近いせいもあり、俺と笹原は1年の頃からたまに一緒に学校に行くことがあった。たいていの場合、俺が誘っていた。
「今日はお前に相談があってな」
「相談?」
笹原が自ら俺に相談してくるとは珍しい。
もしや――――――
とうとう武部に告白でもするのか!?
「一緒に生徒会室に来てほしい」
「は…?」
これまた予想外の台詞だ。
「生徒会長がお前に会いたいと言っている」
「会長が?」
うちの生徒会長といえば、名を知らぬ者はいない、3年生の角谷杏先輩だ。
「なんで会長さんが俺に?」
「戦車道のことでいろいろ聞きたいことがあるらしい」
ふーん、なるほど。
てっきり俺に惚れているのかと思った。まあ、それはないか。
しかし、戦車道に関することといっても……
『うちには経験者が少ないから、指導とかよろしく』とか言われるんじゃないだろうか。 まあ、いい。
「わかった。行ってやろう。で、いつだ」
「今から」
「直行?」
「ああ」
だから待ち合わせたのか。
そう話している間にも学校に到着。昇降口で上履きに履き替え、普通科棟には向かわず、生徒会室のある第1特別棟4階へと向かう。特別棟は化学の実験や移動教室などで来ることはあるが、生徒会室のある4階は初めてだ。
階段を上りきるとすぐ左に生徒会室がある。
俺は生徒会室の前に立つ。しかし笹原は生徒会室を素通りしていった。
「おい、笹原?」
「こっち」
笹原が指差したのは、隣にある生徒会長室だ。
気を取り直して会長室の前に笹原と並んで立つ。
「失礼します」
笹原がノックをする。しばらくして「はーい」と返事があった。
「「失礼しまーす」」
会長室に足を踏み入れる。
生徒会長室には3人いた。全員女子だ。
俺たちの一番近くにいるはいつもおっとりとした様子の小山柚子先輩。生徒会副会長で全校の集まりなどでよく司会をしている人だ。
その奥に片メガネを光らせ鋭い視線を投げかけるのは河嶋桃先輩。広報の人で、生徒会関連の放送や掲示などは彼女が行っている。
そして一番奥の会長席でふんぞり返って干し芋(……?)を食べているのは、背が低くてツインテールが特徴の生徒会長、角谷先輩だ。
「やあ、鈴木君。よくきたね~」
会長さんが干し芋片手に言う。
「………」
「あ、干し芋食べる?」
会長さんが干し芋の入った袋を差し出してくる。
「いえ、結構です」
ここは断っておこう。
「あ、そ」
会長さんはそう言うと、再び干し芋を食べ始めた。
てか、なんで干し芋食ってんだ?校内はお菓子禁止じゃなかったのか?
「じゃあ、本題に入ろう。君には二つお願いがあってね~」
生徒会長直々のお願いとはなんだろう。
「今度の必修選択科目なんだけどさ~。戦車道とってね」
昨日笹原が言っていたやつか。本当に復活するんだな。
「えーと」
「君が戦車道経験者だと知ってのことだ。おねがい~」
どこで、そんなことを知ったのか……
「それなら全然かまいませんが、喜んで」
昨日笹原にも戦車道が復活するならやる、と言ったしな。
「おー、話がわかるねぇ」
うまく話が進んで、会長は満足そうだ。
「で、もう一つの話っていうのがね~」
なんだろうか。
「君のクラスに西住ちゃんいるよね?」
西住ちゃん?みほのことだろうか。
「西住…みほさんのことですか?」
「うん、そうそう」
会長は頷く。
「君のほうから西住ちゃんに戦車道やるように言ってくれないかな?」
……へ?
「いやぁ、さっき西住ちゃんのところ行ってお願いしてきたんだけど、なんか嫌な顔されちゃってさ」
そりゃあ、されるだろう。そもそもみほは戦車道がないからこの学校に来たというのに。
「で、君からも説得してくれないかな~?」
確かにみほが戦車道を履修してくれたほうが心強い。おそらく経験者はほとんどいないだろうから、つい最近までやっていたみほがいると大いに助かる。しかし―――――
「しかし、彼女は―――――」
「彼女の力が必要なんだ」
そういったのは広報の河嶋先輩だ。鋭い視線で威圧してくる。
「早急に戦力を整えて勝たないと、我々は……!」
?この人は何を言っているのだろう。
「……と、とにかくこれは生徒会の決定事項だ。逆らった場合は、分かっているだろうな?」
こほんとひとつ咳払いをして、河嶋先輩が再び鋭い視線を向けてくる。
さっきの台詞が気になったが、追及しても生徒会は教えてくれないだろう。生徒会に逆らった場合の制裁も怖いし。何をされるのかは知らないが、恐ろしい目に遭うという噂だけは聞いたことがある。俺は普通の高校生活を送りたい。しばし考えた後、出てきた回答は―――――
「とりあえず、頑張ってみます」
俺は教室に戻ると、真っ先にみほのところへ向かった。
「みほ……ちゃん…?」
みほは席に座った状態で、微動だにしていなかった。目は焦点があっておらず、何を見、何を考えているのか見当がつかない。
もしかして生徒会が来てから、ずっとこの状態なのか?
「おい……」
まったく反応がない。
体をゆすぶって目を覚ましてやろうかと思ったが、チャイムが鳴って先生が教室に入ってきたので、その機会を逃した。
その後も、みほの様子が変わることはなかった。
4限目の数学の授業。
「じゃあ、この問題を――――西住さん」
「……」
「西住さん……?」
「ふえっ?」
「体の調子でも悪いの?だったら保健室に行きなさい」
先生に言われてみほはふらふらと立ち上がる。
大丈夫なのか?
「先生、わたくし保健委員なので西住さんを保健室に連れて行きます」
そういって席を立ったのは五十鈴だ。
「先生!私もちょっとおなかの調子が…」
そういって俺の後ろに座る武部も立ち上がる。
みほは二人に連れられ、教室を出て行った。
その授業の間はみほはずっと帰って来なかった。
「鈴木さん」
昼休み、みほと武部を保健室に連れて行った五十鈴に声をかけられた。
「どうした?」
「鈴木さんって、みほさんと昔からのお知り合いなんですよね?」
おそらくみほから聞いたのだろう。
「ああ、そうだが」
「西住さんって、戦車道で何があったんですか?」
これは話すべきなのだろうか?
おそらく五十鈴は、みほから彼女が戦車道をやっていたが今はもうしたくない、のようなことを聞いたのだろう。
五十鈴は信頼できる。みほには悪いが彼女のことを理解してもらうためには話しておいたほうがいいだろう。
俺は五十鈴にみほが大洗に来ることになった経緯を話した。去年の試合の事も、全部だ。
「そのようなことが、あったんですね…」
知っていることは全部話した。果たして五十鈴はどのような反応をするか。
「わたくしは、西住さんがとった行動は間違っていないと思います」
「俺もそう思うよ」
間違ってはいない。しかし、決して正しかったとはいえないのではないだろうか。
昨年の黒森峰学園は十連覇がかかっていた。さらに、戦車道の中でも特に由緒ある流派(らしい)「西住流」の後継者であるみほと、彼女の姉で隊長を務めている西住まほが指揮をしているということで、大きな期待がかけられていた。
しかし、決勝戦でみほがとった行動によって、黒森峰は目の前にしていた優勝を逃した。多くの人の期待を裏切ってしまったわけだ。
また、みほにとって不運だったのは、彼女が1年生であったことだ。いくら西住流の娘であるとはいえ、1年生に副隊長を任せるというのは、上級生にはプライドなどの面で耐えがたいものがあっただろう。そして決勝戦での敗北。みほは上級生からの恨みをかったに違いない。
さらにみほは西住流の名を汚すことになった。
『何があろうと前へ進み、勝つことを尊ぶ』のが伝統である西住流。多少の犠牲を払ってでも勝利を手にするという教えにみほはついていけなかった。
だからみほは大洗に来た。戦車道にも西住流にも囚われない、普通の女子高生として生きるために。
「俺は彼女の意思を尊重したいと思うがね」
生徒会には説得しろと言われたが、まだトラウマが消えないみほに戦車道をやらすのは酷だ。
「わたくしもそう思います。生徒会の言うことなんか、無理して聞かなくていいと思います」
その後、どのような制裁が待ち受けているかは知らんが。
ぴんぽんぱんぽーん
『全校生徒に告ぐ!速やかに体育館に集合せよ!繰り返す――――――』
……なんだ?
突然の放送。この声は生徒会広報の河嶋先輩だ。
「なんでしょうか?」
「さあ……生徒会のやることやからな」
まったく、これから昼飯だというのに。
「わたくし、保健室の寄ってから向かいますわ」
「ああ」
教室前で五十鈴と別れ、俺は体育館へ向かった。
数分後、俺は体育館の床に座っていた。クラス別、二列縦隊、名簿順。
「何が始まるんやろ?」
前方に座る清水が関西弁で聞いてきた。
「さあ。てか、おまえ学校では関西弁控えとるんとちゃうんか?」
「べ、別にええやんか。自分かて関西弁でとるくせに……」
大阪人である清水であるが、学校では関西弁を控えている。周囲が標準語で話しているから、浮いていると思っているのかもしれない。
俺の場合、大阪出身ではあるが、大阪で過ごした期間が短い上、バリバリの大阪人である両親と2人いる兄貴は、仕事や学校の寮生活でいないことが多く、関西弁に触れることが少なかったため、関西弁が出ることは少ない。
清水はそれっきり前を向いてしまったので、俺は後ろに座っている武部のほうへ向く。
「なに?」
「みほは大丈夫か?」
みほは俺たちよりずいぶん前の方に座っているので、顔をうかがうことができない、さっき武部や五十鈴とともに体育館に入ってくるところを見たが、保健室に行く前よりは状態はよさそうだ。
「なんとか大丈夫そう。『生徒会なんか気にするな!』って言っておいたし」
「そうか。で、お前は大じょ……ああ、仮病だったな」
「なんで知ってんのよ」
「状況から見ればわかる」
「何よそれ」
『静かに!』
突然、鋭い声が体育館のスピーカーから流れた。体育館は一瞬にして静まり返る。
俺が前を向き顔を上げると、ステージ上に3人の女子が立っていた。朝会った生徒会の3人だ。
河嶋先輩がマイクを持っている。さっきの鋭い声は河嶋先輩だったようだ。
『これより、必修選択科目のオリエンテーションを行う。しっかりと聞くように』
河嶋先輩はそう言うと、ステージから降りて行った。会長の角谷先輩と副会長の小山先輩も後に続く。
3人の姿が見えなくなると、体育館の照明が落とされた。するとステージ上につるされたスクリーンが明るくなる。
映し出されたのは――――――戦車だ。
『―――戦車道ー。それは文化であり、伝統的な武道でもあります!』
どうも鈴木大佐です。
いかがでしたでしょうか?3話までいきましたが、まだ戦車が登場しない状況…。次話ではようやく戦車が登場する予定です。
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