沖田拓海・・・普通科2年3組。正弘のミリタリー好き友達。正弘の要請に応えて戦車道を履修した。
中村裕二・・・工業科2年15組。自動車部所属。正弘の要請に応え、戦車道を選択。
西村美佳・・・普通科2年1組。清水の友人。戦車道を選択。
長い間使われていなかったらしく、倉庫の中は鉄と油と錆びの匂いで充満していた。
「……にしても酷いな」
倉庫の中に1両だけ置いてあった《Ⅳ号戦車D型》は、覆帯が外れかなり汚れた状態だ。内部はかなりひどく、埃と錆び、さらにカビまで生えていて、大規模な整備が必要だ。
それにしても……
「1両しか、ないな」
隣で笹原が俺が思っていた事を口にする。
そうなのだ、戦車が1両しかないのだ。
ざっとみたところ、戦車道履修者は俺達を含めて30名以上。1両当たり4、5人乗るとしても7、8両は必要だろう。
「それじゃあ、今から戦車探そっか」
ふいに角谷会長がそんなことを言った。…はい?
「「「えええ?」」」
疑問、驚きの声が上がるのも無理はない。
「我が大洗学園は20年前まで戦車道が盛んに行われていた。その頃に使われていた戦車がまだどこかにあるはずだ。お前達には今からそれを探してきてもらう」
「それじゃあみんな、レッツゴー!」
おいおいマジかよ。
しかし、戦車がなければ戦車道は始まらない。みんなぶつぶつ文句を言いながらも、それぞればらばらになって歩きはじめた。
「えー、なんか思ってたのと違うよ~」
側では武部ががっくりと肩を落としていた。
「土曜日にカッコイイ教官来るよ」
そんな武部に対し会長が干し芋を食べながら言う。
「ほ、本当ですか!」
『カッコイイ』の言葉に反応したのか、武部は目を輝かせて会長の方へ向き直る。
「ほんとほんと。だから頑張ってね」
「はーい、いってきまーす♪」
会長に上手く乗せられた武部は、そのまま軽い足取りで倉庫から出ていった。
数分後……
「一体どこにあるってゆーのよー!」
駐車場に武部の大声が響く。
俺達は主に教職員の車が停められている大駐車場にいた。メンバーは、みほに武部に五十鈴、清水に篠原と同じ1組の西村美佳
「さすがに駐車場には停まってないと思いますが」
確かに駐車場に停めてあったら生徒会が既に見つけているだろう。
しかし、この人数でまとまって探すのは非効率的だ。いくつかに分かれて捜索しないと----ん?
駐車場の奥に気になる建物を見つけた。
「どうした?鈴木」
「いや、あの車庫みたいな建物なんだけど…」
大駐車場の一番奥に横長の車庫があった。かなり古そうで入口はシャッターで降ろされいる。
もしかしたら、1両くらいあるかもしれない。
「笹原、あの車庫の鍵ってどこにあるんだ?」
「職員室か事務室か……生徒会室にもあるかもしれないな。取ってくる」
数分後、笹原が車庫の鍵を持って戻ってきた。
「ふんぬぅぅぅ!!」
さびていたのか、隙間にごみが詰まっていたのか、シャッターがなかなか開かず、俺と笹原と中村の3人がかりでシャッターを持ち上げる。
「おおー」
なんとまあ当たるとは思わなかった。
俺達の目の前には戦車があった。
「こいつは……」
第二次大戦後期の独軍の主力戦車《Ⅴ号戦車パンター》にも見えるが、何か違う気がする。ええと、こいつは…
「M10パンターじゃないですか!」
「それだぁっ!!」
ってあれ?
誰だ?今の。
俺は声のした方を振り返る。
そこにいたのは、見知らぬくせっ毛の女子。ええと、誰?
「秋山さんじゃないか」
「沖田、知ってるのか?」
「知ってるもなにも、同じクラスだ」
「ってことは3組?」
「うん、そう」
なるほど。
「あと、ええと、私普通科2年3組の秋山優花里といいますっ!」
「あ、どうも1組の鈴木です」
互いに自己紹介する。
で、話を戻して、
「良く偽装パンターだったなんてわかったな」
偽装パンター、別名《M10パンター》は独軍が米軍部隊の潜入を図る『グライフ作戦』のために少数のみ作られた戦車だ。パンター戦車に薄い軟鉄製の偽装車体を被せて、米軍の《M10駆逐戦車》に、似せようとしたものだ。実際は英軍型M10の《アキリーズ》に似ていたといわれ、足回りはどうしようもならなかったが、そのリアルさは米軍の情報士官も評価したほどだ。しかし、作戦は諸事情で失敗したそうだ。
「かなりレアな戦車です!」
秋山は目を輝かせてM10パンターに見とれている。おそらく彼女は戦車が好きなのだろう。
とりあえず、これで戦車を見つけるという目的は達せられた。あとはのんびり探すと……
「ねえ、なんか奥にもあるよ」
なんだと!?
武部が奥の方を指差して言う。暗くてよく見えないが戦車らしき物が見える。
「こいつは《T-80》じゃないか!」
ソビエトが少数だけ量産した《T-80》軽戦車だ。
「なんだここは?レア戦車の宝庫か?」
まあ、この2両しかないようだが。
「まさかT-80に出会えるとは!感激です~!」
さっきまでM10パンターに見とれていた秋山さんは、今度はT-80に抱きついて肌をすり寄せていた。
捜索開始から30分とたたぬうちに、2両の戦車を見つけてしまった。あとはのんびり探そう。
その後、何となく入った山林でもう1両を見つけて、俺たちは集合場所だった倉庫前に戻った。
他のメンバーも戦車を見つけたようだ。聞いたところによると、池に沈んでいた車両や、ウサギ小屋にあったものもあったという。いったいどんな放棄のされ方をしたのか。
「ご苦労であった。戦車の回収は自動車部に今日中に行ってもらう。あしたの授業では洗車および整備をやってもらうから。必ず出席するように」
並ぶ俺たちの前で、河嶋先輩が諸連絡を言う。そうか、明日は木曜日。5・6限目に必修選択科目がある日だ。
俺の隣で中村ががっくりと肩を落としていた。彼にはこれから戦車の回収という、地獄の作業が待っているのだ。
「おつかれさん」
俺は中村の肩をたたいてやる。
「あんな重いの移動させるの大変なんだぞ」
「仕方ないだろ。戦車なんだから」
M10パンターは45トン、軽戦車であるT-80でも12トンある。移動させるためには自走させるか、重機を使用してトレーラーで運ぶかしなければならない。かなりの期間放置されていたから自走させるのは無理だろう。
「それに、整備したら戦車の運転ができるんだぞ」
俺が中村に戦車道をとるように頼んだとき「戦車の運転ができるのならやる」と彼は言った。だから俺は中村に戦車の操縦を任せようと思っている。ここは辛抱なのだ。
俺たちも明日、汚い戦車達を洗車するという重労働が待っているのだ。
「質問は無いな。それじゃあ解散!」
こうして戦車道の1回目の授業(?)は終わった。
翌日、戦車道の授業のために俺たちが倉庫前に行くと、発見された戦車達が並んでいた。
Ⅳ号戦車D型
M10パンター
T-80軽戦車
38t軽戦車C型
九七式中戦車チハ
Ⅲ号突撃砲F型
M3リー中戦車
センチネルACⅠ巡航戦車
合計8両。全員が戦車に乗るには十分な数だ。
さらにチーム分けも行われた。
俺は笹原と中村、沖田の4人でM10パンターに乗ることになった。
みほ達は武部、五十鈴、秋山さんとⅣ号戦車に、清水・篠原・西村はT-80に決定した。ほとんどは発見者がそれぞれ見つけた戦車に乗ることになった。
「さあて、始めるか!」
体操服に着替え戦車の洗車が始まった。
「中村、スポンジ取ってくれ・・・うおぉぉっ!」
車内を掃除していた俺は、ハッチから頭を出すといきなり水をぶっかけられた。
「ちょっ!てめぇ・・・・・・なんてことを」
ホースを持っていた中村が俺に水をぶっかけたのだ。
これは中村に限ったことではなく、他のグループでも水のかけ合いが始まっていた。
おいおい、体操服でそんな事をやってたら・・・・・・
「ちょっ!やめてよー!」
「透けちゃう~!」
ほらほら、下着が透けて見えちゃうじゃないか。
「おい、中村」
「・・・・・・なんだ?」
「いつまで見ているんだ」
中村は俺に水をぶっかけて以降、ずっと女子の方を見ている。
「そんなに見てたら・・・・・・ばれたら殺されるぞ」
「それなら問題ない」
なにが問題ないんだろうか。
俺だったら篠原か清水に殺されるだろうな。
そんなことを考えていると、隣でT-80を洗車していた清水と目があった。彼女も西村に水をぶっかけられびしょびしょになっていた。
「・・・・・・(キッ)」
鋭い目で睨まれた。
俺は知らないふりをして、視線を逸らす。見ていない、俺は見ていないぞ。なんかピンク色の物が見えたけど・・・・・・
「・・・・・・見たでしょ」
背中から、低い重い声が聞こえる。
「な、なんのことでしょうか・・・・・・」
俺はゆっくりと振り返る。目の前には殺気に満ちた目をした清水がいた。
「ど、どうしたのかな・・・・・・清水さん?」
「・・・・・・見たでしょ」
「見てない!見てないぞ!」
「絶対見た!」
「俺はそんなこと・・・・・・うおっ!」
胸ぐらを捕まれた。
「ちょっと・・・!清水さん!?」
「記憶が飛ぶまでどつき回す・・・・・・!」
「いや、下着が見えたぐらいで・・・・・・ってぎゃあああああぁぁぁぁっ!!」
「やっぱ見たやんかぁっ!」
この日は頭の痛みに耐えながら、洗車を終えた。
どうも鈴木大佐です。
ようやく、戦車が登場しました。M10パンターは強すぎたでしょうか?
ではまた次回~