「ふぅ」
マルは人付き合いが苦手で、引っ込みがちな性格。だから、一人でいることが多くて、本がマルの拠り所。だから、図書室が学校の中だと大切なマルの居場所だった。
その日も、放課後まで図書室にいた。生徒は図書委員の子だけで、その子も本を読んでいるから静かな時間が図書室に流れていた。
そして、読み終わったことで一息つくと、後ろで本のページ同士が擦れる音がして振り向いた。いつの間にそこにいたのか、赤い髪をツインテールにした女の子が、棚の前にしゃがんで本を読んでいた。
その子をちょうど読み終わったのか本から目線を外し、マルと目が合う。
「ふふっ」
「にひっ」
笑みを浮かべると、その子も笑みを返してくれた。
その子は黒澤ルビィちゃん。マルの大切な友達で、初恋の子。
~~
「うーん。どうしたらいいんだろ?」
「さっさか告ればいいじゃない……」
ルビィちゃんと出会ってからもう三年の歳月が流れていた。その間に親友と呼べるくらい仲良くなったけど、告白には至れず三年間ずっと片想い。
そんなわけで呟くと、反対側に座って本を読んでいる善子ちゃんが呆れた調子でそう言う。
ここは部室で、今はマルと善子ちゃんの二人だけ。二、三年生はまだ来てなくて、ルビィちゃんはお手洗いに行っている。
「できたら苦労しないずら。でも、告白したせいで嫌われちゃって、今の関係が壊れたらって思ったら……」
今ある関係が壊れるかもと考えると、やっぱり無理。それに、これ以上望んじゃいけない。今の距離間のままいられればそれで。
「まぁ、わからなくもないけど。何が原因で壊れるかなんてわかんないし」
善子ちゃんも、マルの思っていることに対してわかってくれてるみたいでそう言う。
「でも、壊れるのが怖いからやらないって言うのはあなたにだけは言われたくないわ」
「え?」
でも、善子ちゃんはさっきの発言からそんなことを言う。さっきとガラッと意見が変わったことで、驚きとよくわからないからそんな声が漏れていた。
「私が学校に行けなくなってて、でもみんな気にしてないって言ったわよね?あの時内心は不安だった。学校に行ったらみんなに笑われるんじゃないか、馬鹿にされるんじゃないか、いじめられるんじゃないかって」
「そんなこと……」
「でも、結果から言えば、そんなことは無くてみんな優しく迎え入れてくれた。だから、今私はここに居る」
善子ちゃんの一人語りに相槌を打ちながら静かに聞く。たしかに、あの時マルは善子ちゃんに何の心配もいらないからって来るように話した。
「あんなことを言ったあんたが何?ルビィはあんたに告白されただけで距離を置く?無いわね。最初は戸惑うかもしれない。仮にフッたとしても、その上ですぐに二人は元の関係に戻れるに決まってる。あんなたちの関係はそんなやわなもんじゃないでしょ?」
「それは……」
「それに、なんでフラれる前提にしてる訳?両想いの可能性はずら丸にはない訳?」
「そうだったらって思ったけど、そんな都合良く思えないずら」
ルビィちゃんもマルのことが好きだったらどれだけいい事か。でも、そんなマルの都合良く行くなんて思えない。そんな都合良く思って、フラれたりしたら……。
「はぁー。仮にフラれたら、慰めるし。私がいる時は二人の仲くらい取り持つわよ。だから、当たって来なさい。いつまでもその気持ちをルビィに隠して想い続けたくないでしょ?」
「……うん」
「なら、行って来なさい。ちなみにルビィは今手洗いじゃなくて、中庭に呼び出されてるわ。ラブレターを貰っただとか」
「え?」
「さてさて、急がないとルビィが他の人のモノになっちゃうわね」
どういうこと?ルビィちゃんがラブレターを貰った?そんな……。
「どうして。善子ちゃんが知ってるの?」
「そんなのルビィに相談されたからね」
「誰?」
「プライバシーだから黙秘するわ。今から割り込めば間に合うかもね」
一体誰がルビィちゃんに?
「どうして、止めてくれなかったの?マルの気持ち知ってたよね?」
「ええ。でも、進展する気は無かった。なら、止める理由は無いわ。大体どうやって止めろって言うの?ずら丸が好きだからって言えばよかったの?」
「……」
「さぁ、どうするの?今ならまだ間に合うかもよ?」
まだ間に合うかもしれない。ラブレターの相手が来る前に告白すれば……。
「マル行って来るね。やっぱり、マルはルビィちゃんの事が好き!」
「そう」
「このまま誰かと付き合うくらいなら、その前に……」
「なら行って来なさい。あと、これを渡しておくわ。ルビィに告白し終えたら開きなさい」
「これは?」
マルの意思を口にすると、善子ちゃんは一通の封筒をマルに渡した。これが何なのかはわからない。でも、今は聞いている時間も惜しくて、受け取る。
「行って来るね、善子ちゃん」
「ええ。行って来なさい。あと、ヨハネ!」
善子ちゃんのいつもの返しを聞きながら、マルは部室を飛び出して、中庭に向かって走る。
だから、その後の善子ちゃんの呟きをマルは知らない。
「ほんと、世話のかかるリトルデーモン達ね」
~~
「ルビィちゃん!」
「わっ!花丸ちゃん?」
中庭に着くと、木の前にルビィちゃん一人だけが立っていた。良かった。まだ、相手は来てないんだ。
マルの声にルビィちゃんは驚いた様子だけど、マルは気にしない。
「ルビィちゃん!マルはルビィちゃんの事が好きずら!」
「え?……えっ!?」
勢いでルビィちゃんに告白する。こうしないと多分ヘタレてしまう気がしたから。ルビィちゃんは驚いた様子だった。まぁ、マルもいきなりそう言われたら驚いちゃうと思うけど。
「初めて会った時から人目惚れ。そして、一緒にいる間もずっとその気持ちは変わらなくて……ううん。どんどん大きくなってた。だから、マルの気持ちを伝えるね。マルはルビィちゃんの事が好き。愛してる。マルと付き合ってください!」
「うぅ」
そう言ってマルはお辞儀をしながら右手を差し出す。ルビィちゃんから嗚咽のようなものが聞こえてくる。今どんな顔をしているのかわからない。この間が永遠のように感じられる。
手を握られても握られなくても、今までと関係は変わる。
そして、
「ルビィこそ、花丸ちゃんの事が好き!だからこちらこそ!」
ルビィちゃんの声と共に右手が握られる。
ルビィちゃんにフラれること無く、受け入れられた?
「え?え?」
「ふふっ。なんで、花丸ちゃんが驚いてるの?」
ルビィちゃんに受け入れられたことが現実とは思え無くなって、マルは驚きの声を漏らす。そんなマルに、ルビィちゃんは笑みを浮かべる。
夢なんじゃ?って思えたけど、マルの右手にある熱が現実だと実感させてくれる。
「ルビィもね。花丸ちゃんと一緒に居るうちに好きになってた。花丸ちゃんも同じ気持ちだって知ってうれしかったよ」
「マルも……ルビィちゃんがマルのことを好きでいてくれてうれしい」
こうして、今日長い長い片想いの日々が終わった。これからは両想いで一緒に過ごしていくんだ。
「あれ?そう言えば、ラブレターの相手は?」
「うーん。来ないんだよね。でも、花丸ちゃんの事が好きだから断るつもりだったけど」
未だに現れないラブレターの相手にマルたちは首を傾げる。ルビィちゃんがラブレターの相手の告白を元から断るつもりだったのだと知ってうれしい気持ちになる。
「あっ、そう言えば善子ちゃんがマルにこんなものを託してたずら。来るまでに見てみるね」
一向に来ない相手を待つ間に、善子ちゃんがマルに渡した封筒の存在を思い出して取り出す。一体何が書いてあるんだろ?
――ずら丸、ルビィ。これを見てるってことは、告白は済んだわよね?とりあえず、おめでとう。
半年近く相談に付き合わされてたわけだし、ようやくお役ごめんね。あっ、ルビィに出したラブレターだけど、あれは今の状況を作るためのモノだから、誰も来ないわ。じゃぁ、最後にいつまでもお幸せに。
堕天使ヨハネより――
封筒の中の手紙にはそう書かれていた。えーと、どういうこと?とりあえず、ラブレターの相手は善子ちゃんで、マルたちをこの場に集めるのが目的だったってこと?
「花丸ちゃんも善子ちゃんに相談してたの?」
「うん」
ルビィちゃんも手紙を見ると驚いていた。“も”てことはルビィちゃんも善子ちゃんに相談してたみたいだけど。
つまり、善子ちゃんはマルがルビィちゃんの事が、ルビィちゃんがマルのことが好きって知ってたってこと?はぁー。だから、さっさか告白するように勧めてたずらか。
まぁ、善子ちゃんが急かさなかったらずるずる引きずっていたんだろうけど。
「まぁ、善子ちゃんのおかげで気持ちを伝えられたし、許しておこうかな?」
「うゆ。じゃぁ、部室に戻ろっか。練習が今日もあるからみんなを待たせちゃうだろうし」
「そうだね」
マルとルビィちゃんはそう言って、中庭を後にする。手を繋いでこの幸せを感じながら。